【勝田班月報・7006】
《難波報告》
 N-20:クローン化したラット肝細胞に及ぼす4NQOの影響(月報7005、N-19の続き)
    クローン化したラット肝細胞の各系の間に4NQOに対する感受性の差があるか?
 現在、発癌実験に使用している3系のクローン化した株を使用し、4NQOの感受性の差を検討した。実験1では、4NQOを終濃度10-8乗M含むEagle's MEM+20%BS培地に1週間培養後、4NQOを含まぬ培地に更新市、更に1週間培養を続けて、コロニーを数えた。対照実験には、4NQOを含まぬ培地で2週間培養したものをとり、この対照実験で形成されたコロニー数で、4NQO含有培地で形成されたコロニー数を割って、4NQOの感受性を有無を検討した。その結果は(表を呈示)表に示すごとく、LC-9系がやや4NQOに対して耐性を示すように思えた。しかし、他の3系の間でははっきりした4NQOに対する感受性の差がみられないので、第2の実験として、4NQOの終濃度を3.3x10-8乗Mに上げ、その他の条件は実験1と同じにして実験をおこなった。
(表を呈示)その結果は、LC-2、LC-10では4NQOを含む培地中では殆んどコロニー形成がみられないのに対して、LC-9の場合はコロニー形成が認められた。この実験はもう一度繰り返す予定であるが現在までの結果ではLC-9は他の二系に比べ、4NQOに対して、耐性がある様に思える。なお、3系のクローン化された細胞の形態、コロニーの形態は、LC-2、LC-10は類似するが、LC-9はやや異なり、小さい細胞で、コロニーも小さい。また核/細胞質比は、LC-2、LC-10では小さい細胞よりなるコロニーが多いが(即ち、細胞質が豊富)、LC-9では核/細胞質比が大きい細胞よりなるコロニーが多い。この細胞及びコロニーの形態は次回の班会議でお見せいたします。
 実験1、2に使用した細胞の総培養日数は、それぞれ721、742日のものを使用した。また、クローン後の培養日数は、LC-2のものは178、199日目のもの、LC-9、LC-10のものは150、171日目のものである。

《高木報告》
 腫瘍細胞とNG無処理対照細胞(正常細胞)との混合移植実験の途中で、対照細胞のみを移植したratの中1疋に腫瘍を生ずる事態がおこったため、正常細胞としての意味をなさなくなり、再び実験をくり返す必要を生じた。
 今回は月報7002につづきorgan cultureの培養条件につき報告する。
 月報7002ではsuckling ratの膵、腎、肺を高ガス圧下30℃で16日間器官培養して37℃のそれと比較しよい成績を得たことを述べた。その後さらに期間を延長して膵の培養を試みた。すなわち、前報と同様の方法で用意された組織を5%CO2+95%空気の下、30℃および37℃にincubateして3週間以上培養し、3、6、9、12、15、18、21、24日間に培地交換を行うと共にそれぞれ組織標本を作って鏡検し、また同時にその時点での培地中のinsulin量を二抗体法により測定した。
組織学的には前報と同様の傾向が引続きみられ、21日目のものまでは30℃群には内外分泌腺の構造がよく残っているものが多数みられる(写真を呈示)のに対して、37℃群では腺構造の破壊や繊維芽細胞の増殖した像(写真を呈示)が多くみられた。さらに、21日目から3日間培地中におけるglucoseの濃度をそれまでの1mg/mlから5mg/mlに増量したところ、24日目の培地中のinsulin量は30℃群では21日目にくらべて2倍以上に上昇したが、37℃群では殆んど上昇はみられなかった。以上の結果は30℃で培養した群が37℃に較べて長期間、組織の機能を維持していることを示すものと考える。

《梅田報告》
 医科研の研究室が、4階から2階に引越すことになり、持っている細胞系を一時的にもなるべく少なくしておきたいと考え、一部の細胞をバーチスのdeep freezerで凍結した。その直后、事故があり、結局今迄報告してきた樹立しかけのラット肝、肺由来の細胞の殆んどを切って了った。全く申しわけないことをして了って、がっかりしている。しかしハムスター由来でN-OH-AAF投与后の細胞はこの事故をまぬがれた。
 (1)T#211D細胞系(月報7005)はその后も順調な増殖を示し、現在N-OH-AAF投与后200日に近くなる。1週間に約10倍近い増殖率を示す。培養148日の時にusual plateでコロニー形成能をみた所、PEは63%、そのうち密でpile upしたコロニーが5%に認められた。しかしsoft agarではコロニー形成は認められず、又、180日目にハムスター頬袋に150万個cells移植したものも、腫瘤形成は認められていない。
 (2)横浜の研究室で継代しているN#34J細胞(月報7004、3HOA投与例)はその后、cloningを行い4細胞系を得、J1、J2、J3、J4と名付けた。J1、J4の増殖率は早く1週間に5〜7x、J2、J3はやや遅く3〜4xの増殖率を示す。この各クローンについて、usual plateとsoft agar法とでコロニー形成能をみた所(除J3)、usual plateでは(表を呈示)表の如く30%を上まわり、月報7005で報告した原株の13.4%から大分上昇した。しかし、依然soft agarではcolony形成を認めなかった。どうもsoft agarでコロニー形成が認められず、移植しても“take"しない系ばかし得ているが、どういう理由からか、検討する予定です。

《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(22)
 X線照射あるいは化学発癌剤(4-NQOまたは4-HAQO)処理によりDNA中に誘発されたsingle strand breaks再結合の機序検索の一環として、今回は4-HAQO処理により誘発されたsinglestrand breaksに及ぼす熱またはhydroxyurea処理の影響について報告する。
 既に報告してきたように、1x10-4乗M 4-HAQOで30分間熱処理することによって起きた、Ehrlich細胞のsingle strand breaksは24時間のincubationで殆ど完全に正常分子量のDNAにまで修復される。従って、この際細胞をどの様な条件におけば切断DNAの再結合が阻止されるかが問題になっている訳で、最初に手がけたのが前回報告したような熱処理法である。つまり細胞をあらかじめ45℃で30分間処理し、しかる後に1x10-4乗M 4-HAQOで30分間処理して誘発されたsingle strand breaksの再結合はどうであろうかを見たものであった。
これは明らかなように24時間のincubationでやはり殆ど完全と言っている位までに再結合される。ではこのような熱処理に加えて4-HAQO処理を受けた細胞内へのH3-thymidineの取り込み能、つまり残存DNA合成能を調べた結果が図1であって(図を呈示)、この図は便宜上H3-thymidineを含む培地中で24時間培養された時の正常細胞(Unheated cells)の放射活性を100とした時のそれぞれの活性(つまりH3-thymidineの取り込み能)を示したものである。この図から分かるように、熱処理さらに4-HAQO処理を受けた細胞ではDNA合成能が正常細胞のそれの1/555にまで低下している。しかるにこのような条件でさえ切断DNA鎖の再結合は可能なのである。続いてhydroxyureaは正常DNA合成をspecificに阻害することが知られているので、図2に示すごとく2.48mM hydroxyureaを含む培地中であらかじめ48時間培養したEhrlich細胞を、4-HAQOで処理することによってsingle strand breaksを誘起させる。次いでこの細胞を2.48mM hydroxyureaを含む培地中でincubateすることによって、切断DNAの再結合を調べた。この図から分かるように結果はあきらかに再結合可能であることが示された。又このようなhydroxyurea+4-HAQO+hydroxyurea処理と連続的な処理を受けた細胞内のDNA合成能は、正常細胞のそれに比べて1/770にまで低下していることが図3の実験から示された。このように熱処理あるいはhydroxyurea処理と言った細胞内DNA合成能を極度に低下させた条件下(勿論これらの処理に加えて4-HAQO処理が加わるのでDNA合成能は一層低下させられる)でさえ、切断されたsingle strand breaksの再結合は可能であることが、こうした実験から示唆された。この事は換言すれば極く微量のDNA合成酵素系(修復酵素系)が、障害を受けた細胞中に残存しておりさえすれば、切断されたDNAの再結合は可能であることを意味しているのかも知れない。

《山田報告》
 先月より細胞電気泳動法による細胞表面の抗原抗体反応の定量的測定法についての基礎固めに全力を注いで居ます。漸く、その結果がまとまりさうですので、書いてみたいと思います。これで漸くin vitroでの発癌過程における細胞の抗原性の変化について自信をもって検索出来さうです。
 1.血中抗体の検索(同種移植)
 同種抗血清を細胞に接触させると、抗原抗体反応が起こり、細胞表面に変化を生じます。特に燐酸基の露出状態の変化により、表面へのカルシウム吸着性が変わります。この吸着性の変化を細胞電気泳動法により定量的に測定すると云うのが本法の原理です。
 この基礎実験にはすべて、ラット腹水肝癌AH62Fを用い、これをドンリュウラットの腹腔内へ1,000万個移植し、18日目の血清を採取して、この血清中に含まれる同種抗体を種々の条件で検索しました。この結果カルシウムの吸着性の変化は(増加)、
 (1)抗体のみ作用させても、僅か起こりますが、これにラットの補体を追加すると、その変化は拡大される。所謂immune-lysisの初期の状態、或いはその極めて軽度の変化が、この細胞電気泳動法により検出される。
 (2)このカルシウムの吸着量増加は加へた抗体量に比例する。
 (3)写真記録式細胞電気泳動度で検索すると、この抗原抗体反応は特定の細胞のみに起こることはなく、細胞群全体に作用する。
 (4)抗血清を分劃して反応させると、抗原抗体反応を起こす分劃は19Sの部分に主としてあり7S分劃との反応は、ごく僅かである。即ち従来の同種移植における免疫反応を含めて、所謂遅延反応と同じく、この泳動法で検出して居るのは、IgMグロブリン抗体である。
(5)免疫粘着反応(immune adherence reaction)による検索結果は、この細胞電気泳動法の結果とよく一致する。その反応感度を比較すると、細胞数当りの反応血清濃度は二者共に略々同程度まで検索出来るが、細胞電気泳動法の測定には少くとも細胞が100万個必要とするので、実際に必要な抗血清量は後者(泳動法)により多く要する。この基礎実験の条件では最低0.1ml(最終濃度20倍)である。
 トリパンブルーを用いる従来の所謂intoxication testよりははるかに、この本法は感度がよい。(但しこれは19S抗体の場合のみかもしれない。)
 (6)この泳動法による検索可能な血中抗体は、AH62F一回移植後約7週間になって始めて検出される。反応するAH62Fのageと、反応との関係を調べると、増殖期の細胞が最も良く反応し、末期の細胞では反応が弱い。(生体内で同種抗体が反応して居る可能性がある。) この抗血清(0.3ml)からtarget cellであるAH62Fにより抗体を吸収するためには、約1ml(packed cell volume)の細胞が必要である。等々、その他幾つかの基礎データが得られました。
 2.細胞結合性抗体の直接検索
 次ぎに流血抗体の基礎データをもとに、リンパ球の表面に存在する抗体と、target cellである癌細胞とを直接接触させて癌細胞に起こる変化を細胞電気泳動法により検索しました。即ち前項と同様にラット腹水肝癌AH62Fを皮下に移植した後、その脾臓をとり、鋏で細かく分割、脾リンパ球浮游液を製作。これとtarget cellであるAH62Fと混合し、血清を加へて37℃30分、slow agitationを行った後、遠沈法により可及的にAH62Fのみを採取した後に細胞電気泳動法により検索。対照としては正常ラットの脾リンパ球を同一条件で接触させたAH62Fを用いた。その結果種々の成績が得られつつありますが、その幾つかを書きますと、1)感作脾リンパ球は24時間接触させると、明らかに対照にくらべて、細胞表面の荷電を低下させる。2)補体を加へると30分接触後に直ちに感作リンパ球によりカルシウム吸着性が増加し、その吸着量(AH62F表面の)の増加は、リンパ球がAH62Fの5倍以上必要である。それ以上リンパ球があると、加へたリンパ球の数に比例してAH62Fのカルシウム吸着量は増加する。またAH62F1,000万個移植後3日目の脾リンパ球は既にこの反応を起こす、等の成績が得られました。これらの成績をもとに今後in vitroでの発癌過程における抗原性の変化を追求してゆきたいと思っています。

《藤井報告》
 前前号月報で培養ラット肝細胞が4NQO処理をうけてtransformationを来し(RLT-2 cells)1旦あらわれた特異抗原−癌抗原である証しはないが−が復元-再培養を経るうちに(Culb-TC)消えてしまったことをMixed hemadsorption法で示した。
 今回は、抗Culb抗体(WKAラットに凍結保存したCulb細胞を注射してつくった同種抗血清)をI131で標識し、この標識抗体が培養ラット肝細胞(RLC-10)、変異株(RLT-2)、その復元再培養株(Culb-TC)によって吸収される程度などを検討した。
 1.同種抗Culb抗体の精製:抗血清はWKA rat抗Culb血清(Fr16,pool,021370)。予めCulb細胞、1.5x10の8乗個を凍結融解、テフロンホモジナイザー処理で破壊し、超遠心(40,000rpm,60分間)で6回洗滌し、Culb細胞stromaをつくった。3.5mlの抗血清をCulb細胞stromaに加え室温60分間で反応させたのち、冷生食水で3回、超遠心してCulb抗原-抗体complexとした。
 このcomplexに9mlの15%食塩水を加え、37℃、1時間振盪し、超遠心して上清を分離、沈澱をさらに10mlの15%食塩水で同様に処理し、上清をpoolした。
 得た上清をPBS、pH7.0に透析して等張とし、濃縮して1.5mlの試料を得た。試料は、O.D.280mμ=1.00で、Culb-TCに対してmixed hemadsorption testは1/160で2+であった。すなわち、この試料は特異抗Culb γ-グロブリンである。
 2.抗Culb γ-グロブリンのI131Naによる標識: 約1.5mgの特異抗Culb γ-グロブリンに、抗体1分子当り2〜3ケのIが結合するように計算した量のcarrier I3(KI 0.2M+I2 0.1N)−500μCiのI131Naを加え、pH9.2で室温、10分の反応後、Sephadex G-50のカラムにかけて、freeのI2を除いた。得たI131-標識抗体7mlは623.420cpm/mlであった。この標識操作は、医科研生物物理研究部の加藤巌博士の協力を得ておこなった。
 3.I131-標識抗体のCulb-TC細胞による吸収: 一定数のCulb-TC細胞が吸収する最大量の標識抗体を知る目的で次の実験をおこなった。
 LD液に浮游したCulb-TC細胞、20万個cells(0.2ml、100万個/ml)にI131-Culb γ-グロブリンの変量(1.0〜0.04ml)を加え、37℃、60分間反応させたのち、冷LD液で3回洗滌し、得た沈澱細胞について、その放射能をwell型測定機にかけ、吸着された抗体のcpmを求めた。図は、その結果である(図を呈示)。この図よりCulb-TC細胞20万個はI131-Culb γ-グロブリン試料0.6mlでsaturateされることが示された。(cpmは約30,000)
 4.Culb-TC、RLT-2、RLC-10の抗Culb抗体吸収度の比較: これら株細胞のそれぞれが、あらかじめ抗Culb抗体あるいは抗正常ラット肝抗体を吸収したのち、さらにI131-抗Culb γ-グロブリンを吸収するかどうかをしらべ、それぞれの株細胞のもつ抗原の特異性を見た。
培養細胞のLD液浮游液1.0ml(50万個cells)に、0.4mlの抗Culb抗血清(5120 mixed hemad-sorption単位をふくむ)、あるいは3mlの抗正常ラット肝抗血清(4800 mixed headsorption単位)を加え、室温、60分で吸収させた。いづれの抗体も10万個cellsが吸収しうる最大量以上である。この反応のあと、I131-抗Culb γ-グロブリン、0.2mlを加え室温、60分間おき、LD液で3回洗滌し、吸収された標識抗体の量をcpmで求めた(表を呈示)。
 表にみられるようにCulb-TC、RLT-2、RLC-10の細胞のうち、RLT-2のみが抗正常ラット肝抗体(Anti-NRL)に反応せず、Anti-Culb抗体に反応する抗原をもつことが示された。この成績は前前号で示したMixed hemadsorptionでの成績と一致し、その考察は同月報で述べてある。同系抗体による解析は目下進行中。

《安藤報告》
 4NQOはL・P3DNAに二重鎖切断を起さないのではないか?
 月報No.7004に報告したように、いわゆる寺島法で分析しているDNAには、プロナーゼ感受性な結合があり、プロナーゼ作用を受けると分子量は小さくなる。このプロナーゼの分解作用はcontaminateしているDNase活性によるのではない事は、故意に加えたすい臓のDNaseIが全く働かない事(No.7004)によっても、次に述べる二つの証拠によっても明らかである。第(1)にプロナーゼの作用時間を長くしても一定限度以上にはDNAは小さくならない。(図を呈示)図にあるようにプロナーゼが存在しない時には底に沈んでしまうような条件でプロナーゼ5分、20分、30分と作用させ分析した所、5分ですでに大部分こわれ、20分では完全に限界迄行き、それ以上作用させても、もうそれ以上低分子化はなかった。第(2)にプロナーゼ量は一定にしておき、基質としてのDNA量(すなわち細胞数)を変えた場合、図にみられるように細胞数が少い方がより高分子として沈降している。したがって、DNaseによる分解ではない事が確実に云えると同時に、粘性高分子としての物性をも示している事も判った。 次にこのような設定条件のもとに細胞を4NQO処理を行い、そのDNA切断を見た所(図を呈示)図の如くなった。すなわち、4NQO 10-5乗M迄は無処理の場合と同じになってしまった。プロナーゼ存在下には4NQOの作用は全くマスクされてしまった事になる。いいかえるならば、4NQOはプロナーゼ感受性を切断していただけであり、DNAのphosphodiester結合を切っていたのではない事を示している。この点更に確かめるべくプロナーゼの代りにトリプシンを使って確認したいと実験中である。

編集後記


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