【勝田班月報・7008】
《勝田報告》
 肝癌AH-7974細胞の毒性代謝物質(続報)
 ラッテ肝癌細胞が正常ラッテ肝細胞の生残乃至増殖を阻害するような毒性代謝物質を放出することをさきにparabiotic cultureで見出し、その毒性代謝物質の本態を追究してきたが、今回さらに同じ方法で培地を分劃したところ、図のようにピークが二つになってしまった。そこでこれらを(図を呈示)2及び3と命名し、肝細胞の培養培地に添加した結果、(図を呈示)2も3も両方とも増殖阻害を示したが、これは両方のピークが相接しているため、阻害物質がどちらかに混在したということも考えられる。
 そこで分劃2及び3をさらに再分劃して行った(図を呈示)。図に示すように2及び3について夫々(1)、(2)、(3)、(4)の分劃を得たので、まずその内の2の(1)、(2)、(4)について阻害効果をしらべてみることにした。
 それらの生物活性については、まず2についてしらべた結果(図を呈示)、Dowex50(H+)のカラムで吸着されない分劃では、(3)、(4)ともに阻害効果が現れず(2)分劃はまだしらべていないが(微量のため)、(1)の分劃では図のようにはっきり阻害効果が示された。
 これらはさらに分劃検討されなければならないので、今后の研究成果をお待ち頂くことになる。(分劃方法の図を呈示)

《難波報告》
 N-23:ラット肝に由来するクローン化した上皮性細胞の4NQOによる発癌
 以前に、RLN-E7系の培養ラット肝細胞の4NQOによる試験管内発癌を報告した。しかし、この発癌実験に使用した細胞はクローン化したものではなかったので、試験管内発癌の現象を解釈する上に、いろいろの問題を残した。その問題の第一は[発癌の淘汰説]である。 そこで、この問題を解決するために、3系のクローン化したラット肝に由来する上皮性の形態を示す培養細胞を4NQOによって悪性変化させることを試み、現在まで2系が癌化したので報告する。使用した細胞はRLN-E7から、月報6909に記した方法でクローン化したものである。クローニングの成績は月報7001に報告した。そして、その動物復元実験の中間報告は月報7004に記した。現在までに動物に腫瘍をつくるようになったものは、LC-2とLC-10との2系である。細胞の復元は生後48時間以内のラット腹腔に行ない6ケ月観察した。現在までに“take"された動物の4NQO処理条件、培養経過などをまとめた(表を呈示)。LC-2、LC-10系の4NQO処理を行った細胞を復元した動物は死にそうになった時期に剖検した。そして血清腹水中に浮游する癌細胞を再培養した。剖検の成績は表にまとめた(表を呈示)。
 N-24:ラット肝に由来するクローン化した上皮性細胞に対する4NQOの影響
    −4NQOは細胞の増殖を促進するか−(月報7007続き)
 現在、4NQOの発癌実験に使用している3系(LC-2、LC-9、LC-10)の細胞を使用し、これらの4NQO処理を受けた細胞と、4NQO非処理細胞との間に増殖率の違いがあるかどうかを検討した(同型培養による)。使用した細胞は表にまとめた(表を呈示)。その結果、対照細胞の増殖に比べ、4NQOの処理を受けた細胞の増殖はいづれに於ても特別に促進されなかった。
《佐藤報告》
 ◇DABによる発癌実験:
 長い間御無沙汰しました。7月1日学生部長を辞任し目下研究の整備に全力をあげています。発癌実験に関しては差当り46年4月医学会総会シンポジウム[細胞のTransformatinと癌化]の中で“DABによるTransformation"を受持っていますので、此に焦点をあわせて実験を行います。実験材料としては以下の肝細胞を利用する。
 1)B2 line:Donryu系、生後7日♂2匹よりtrypsinizationにより、CO2中でコロニーを造らせ、上皮性のコロニーを分離培養、現在総培養日数719日になっていますが、diploid 26%を含むnear diploid系です。実験には9代で凍結したものを恢復させています。凍結期間540日、現在培養日数179日。
 2)C-1-E line:Donryu系、生後7日♂1匹よりtrypsinizationによりCO2中でコロニーを造らせ、上皮性のコロニーを撰んだもの。5代培養日数73日より閉鎖系培養、11代、140日でdiploid 82%、現在培養日数207日。
 3)7057 line:Donryu系、生後5日♂より回転培養。現在3代、培養日数83日。
 4)E-7 line:Donryu系、生後5日♂3匹より回転培養。ナンバ君が、4NQOで発癌させた系ですが、現在、11代で凍結させてあったものから恢復させました。凍結期間909日、現在12代、培養日数245日。
 以上は培養日数が比較的短く且controlとして取扱い易いことを目標としました。
 生体における発癌実験で、発癌剤と溶剤の関係が論ぜられています。従来のDAB発癌実験ではTween20を使用しましたが、今回はethylalcohol、dimethylsulfoxide、propyrenglycolも用意しました。DAB(Merk)の各溶剤への最大溶解量、各溶剤の変性等目下検索中です。

《高木報告》
 腫瘍細胞と対照(正常)細胞との混合移植実験
 混合移植実験を繰返し行って居る。用いた細胞は腫瘍細胞としてはこれまで同様RG-18、対照の正常細胞としては本年3月16日に培養を開始したWKA rat肺由来の繊維芽様細胞株である。この正常細胞(RL細胞)についても、今日まで培養開始後約5ケ月を経ているので腫瘍形成能を調べているが、これは今回のdataには記載しない。出来る丈同腹のratを用いるように努力したが必ずしも思うにまかせなかった。
 成績は表に示す通りである(表を呈示)。この結果から、やはり正常細胞は腫瘍細胞の腫瘍形成を促進している印象をうける。即ちRG-18・10ケの場合RG-18・10ケとRL・100万個の場合のみ2/3に腫瘍を生じている。また、RG-18だけの移植では100個で2/8に48日目に腫瘍を生じているのに対し、RG-18・100個にRLを100,000個、10,000個、1,000個とまぜると、すべて28〜33日目に腫瘍を生じている。

《山田報告》
 新しく医科研で樹立されたラット腎細胞の電気泳動度を測定しました(図を呈示)。
電気泳動的な性質からみると、この株は比較的均一です。やや大型なこの細胞の平均泳動度は遅く、ふんわりと動く感じです。シアリダーゼ処理(濃度の条件は従来通り)をすると、-0.175μ/sec/v/cm泳動度が低下し、10mMカルシウム添加メヂウム内で泳動度を測定すると、-0.394μ/sec/v/cmも低下していました。上皮性細胞の性質をよく示して居ます。
 腎細胞の電気泳動度についての測定は、これが始めてですので、この成績の意味づけはまだ出来ません。(この株は1回だけ4NQOで処理してあるそうです。) これから種々の発癌剤を作用させた後の変化を追ってみたいと思って居ります。この株の良い所は比較的細胞が均一であることです。しかし曾てのラット肝細胞RLC-10程の均一性はありません。
 最近これまでの培養ラット肝細胞の電気泳動的な性質についての成績をまとめてみようと思い整理しています。従来の成績でたりないものを追加実験してゐます。その成績を一部報告します。
 CulbTC株:以前RLT-2(CQ40)について調べましたが、この株のラット復元再培養株(CulbTC)についてみますと、Culaと同様悪性腫瘍型の流動パターンを示してゐます。(特に新しい知見ではありません。Cula株の成績から当然推定出来るわけです)
 CQ60株:その後のCQ60株を調べましたが、昨年癌学会発表当時の状態と大きな差がありません。幾分細胞構成が揃って来てゐる様子があります。この株のpopulation analysisを現在行って居ます。(図を呈示)

《安藤報告》
 L・P3 DNAの蛋白分解作用に対する感受性について
 (1)Trypsinによる分解
 月報7004以来報告して来たように蔗糖密度勾配法によりL・P3 DNAは、プロナーゼ処理により低分子化を受けた。今回は塩基性アミノ酸に特異性を持つトリプシンによる低分子化を調べた。実験法はPronaseの場合と同様に、密度勾配層とSDS層に共にTrypsinを加えておき、細胞を破壊し遠心を行った。(図を呈示)結果は図に見られるようにPronaseの場合と同様に、Trypsin濃度を上げて行くにつれて低分子化が起っていた。しかも低分子化は50μg/mlの濃度で最大となり、それ以上の低分子化は起らなかった。
(2)2-Mercaptoethanol(ME)による分解
Pronase、Trypsinにより明らかとなったDNAの結合蛋白に、もしもS-S結合を含んでいるとしたら、MEにより低分子化その他の影響を受ける筈である。この点を次に調べてみた。 MEをSDS、蔗糖の両層に20mM、100mMを加えて、細胞を処理し、遠心をしてみた所、同様なDNAの低分子化が観察された。低分子化は20mMで充分であり、ME濃度を上げても変らなかった。この事からDNAの結合蛋白はS-S結合を含み、そのDNAとの関係は次の構造モデルで表されるようなものではないだろうか(図を呈示)。
現在迄に得られたデータを綜合すると上のような二つのモデルが考えられる。すなわち、L・P3のクロマチンの中でca 5x10の8乗〜10x10の8乗ダルトンの大きさのDNAが10の6乗〜10の7乗ダルトンの蛋白分子によりS-S結合を以って連結されている。これ等の分子間結合はcovalentであると思われる。何故ならばイオン結合をしているヒストンは完全に解離してしまっている。このDNA蛋白複合体の分子量が2x10の10乗-3x10の10乗ダルトンの巨大分子である。なお4NQO処理を受けた場合DNAの一重鎖と同時にこの蛋白に作用し、見かけ上の一重鎖切断を起していた事になる。

《梅田報告》
 (1)前回の班会議でのべたN#34J(月報7007)について、その后cloningして培養を続けているので報告する。4つのcloneをとってJ1、J2、J3、J4とcodeした。J1、J4はgrowthが良く、J2、J3はややslow-growingであった(図を呈示)。形態的にはJ1、J3は細胞質がやや広がった紡錘形を示していた。染色体数の分布を調べると、J1のcloning后6代目で42本に、J2は7代目で43本、J3は6代目で既に広い分布を、J4は5代目で43本にmodeがあった(表を呈示)。その后J1、J3をrapid-and slow-growingの代表として継代を続け、J2、J4はfreezing stockした。ところがJ3がやや増殖が早くなり、形態的にもJ1と似てきた。
 (2)今迄之等の系では、長期継代可能になったと思われるのに、soft agar中でcolony形成なく、hamsterの頬袋に移植しても“take"されなかった。そこでJ1の細胞に4NQOを投与してみた。controlとして月報7007で報告した系のcontrol細胞に同じく4NQOを投与した。4NQO 10-5.5乗M培地を2日間入れ放しにしてその后、control培地に戻してnon-treatedのものと対比したが、処理後40〜50日迄は処理群無処理群共に増殖に差はなく、形態的にも変化なかった。その后やや4NQO処理群の方が、J1細胞、N#29 cotrol細胞共に増殖が早くなった様であるが、著しい変化はない。(表を呈示)
 (3)之等の細胞についてsoft agar中でのcolony formationをcheckしてみた。相変らずcolony形成は認められずと云った方が良いのかも知れないが、J3の細胞が培養2週間后倒立顕微鏡でcheckした所、少くとも4〜5ケの細胞からなる小colony?を作っている様な感じであった。今后のJ3の細胞のKineticsを調べたらと思っている(表を呈示)。
 
《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(24)
 4-HAQO処理によって誘発される細胞内DNA一本鎖切断の再結合機構を検索する目的から、これまでに熱処理から始まって種々の化学薬剤で前処理、または後処理した時の切断DNAの再結合の動態を検討してきた。又、これらはこれまでの月報で順次説明してきた。
 今回はActinomycinS3の影響も含めて、一応のデータが出そろったので、これまでの結果を総括して考察してみたい。
これらの結果を要約して表に示す。4-HAQOのみで処理した後、24時間におけるEhrlich細胞の正常DNA合成能を1、又、その時の細胞の有する切断DNAの再結合能を100として、熱又は各種化学薬剤で処理した場合の影響をまとめてある。これまで機会あるごとに説明してきたように、これらの表から総括して言えることは、熱処理、またはhydroxyurea処理は4-HAQO処理細胞の正常DNA合成を特異的に抑えるにもかかわらず、こうした条件下でも切断一本鎖DNAの再結合は可能である。
一方Puromycin処理では正常DNA合成能はそれ程までに抑えないいもかかわらず、切断DNAの再結合を殆んど不可能にしている。また、ActinomycinS3処理はこれらの中間的なeffectを示していることが分かる。
 こうした結果はとりも直さず、正常DNA合成に関与する酵素系と、修復DNA合成に関与する酵素系はまったく異なったものであることを強く示唆するものと思われる。
 又、こうした実験結果はいづれも結論を導くのに間接的な証明としてしか存在意義がないため、現在こうした結論を導き得るための直接的な実験systemを検討中である。


編集後記


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