【勝田班月報・7009】
《勝田報告》
§ラッテ肝癌AH-7974細胞の毒性代謝物質についての研究続報:
前号月報に分劃2-1が顕著な阻害効果を示すと報告したが、その分劃を各種の培養培地に添加し、増殖に対する影響をしらべてみた(表を呈示)。
以上の実験においては、いずれも平型回転管を用い、静置培養によった。培地は、CS-LD培地80%に2-1分劃を20%に加えた。添加2日後に細胞を固定染色して検鏡して判定した。 RLC-10(凍)というのは、ラッテ正常肝由来の株であるが、継代の途中で凍結保存(1969-7-2)し、それから戻した株である。継代をつずけた系では、RLC-10(B)のように自然発癌をおこしてしまったが、凍結系を1970-5-6に融解し、TD-40瓶で培養していたところ、7-22に至り、瓶内にコロニーが3コ発見され、これらは別個に釣って、目下その性状を検索中であるが、コロニー以外の細胞をあつめて実験に供したのが上記の結果である。
なおなお上記3コのコロニーの染色体数については、#を附して記載すると、#1は未検索、#2は43本、#3は42本にモードを有していた。
これらの結果によると、癌化した細胞(RLC-10(B)、RLT-1、RLT-6、CuleTC、AH-66TC、AH-7974TC、RLG-1に対しては、2-1は阻害を示さないが、正常ラッテ肝由来RLC-10(凍)の培養に対しては、阻害を示すことが明らかにされた。
《難波報告》
N-25:ラット肝に由来するクローン化した上皮性細胞の4NQOによる発癌
月報7008のN-23に4NQO処理によって動物に“take"するようになったクローン化したラット肝細胞(LC-2、LC-10)の実験成績を示した。それ以後、更にLC-2系の細胞が発癌したので、その成績を追加する。(表を呈示) この成績から、LC-2系の細胞を試験管内で4NQOで癌化させる場合次のことが結論される。
1)細胞の癌化には、10-6乗M 4NQO 1hr処理2回で十分であった。しかし、この場合動物に移植した場合生じる腫瘍の増殖は遅かった。
2)10-6乗M 4NQO処理のくり返しを増すことによって、動物の生存日数は短くなる。この4NQOのくり返し処理は、(1)癌化した細胞の数を増したのか(この悪性細胞数の増加の原因は目下不明であるが、4NQOのくり返し処理がより多くの悪性変異した細胞をつくったのか、4NQOのくり返し処理がすでに4NQOで悪性化した細胞の選択的増殖に有利に働いたのか、又は自然発癌した細胞の選択的増殖に有利に働いたのか、などの理由が考えられる)。(2)癌化した細胞の悪性度(動物の生存日数を一応癌細胞の示す悪性度と仮定して)を増大させたのか。(3)或は、4NQOのくり返し処理が効いたのではなくて、それだけの培養日数が効いたのか。などの問題点が残る。現在(3)点については、4NQOの処理の少いもの(5、10、15回)を更に培養を続け少なくとも20回処理した細胞の培養日数を経過した時点で、細胞を動物に復元し、その動物の生存日数を観察中である。
3)株化したラット肝細胞をクローン化し、4NQO処理を行い細胞を動物に復元するい要する日数は、だいたい3ケ月(LC-2では82日、LC-10では93日)であった。この事実から考えられることは、上記の実験計画に従えば、試験管内発癌の仕事がかなり定量的に行える可能性があるように思われる。
N-26:発癌した2系(LC-2、LC-10)発癌に至るまでの細胞の累積増殖曲線
1)LC-2の累積増殖曲線(図を呈示)
実験を単個細胞から開始しているので、累積増殖曲線から復元時に細胞が何回分裂したか推測可能である。図に示しているように、LC-2の対照細胞は復元時までにだいたい33〜34回分裂した計算になる。4NQO処理を行った2系(10-6乗M、1hr、2回のものと、3.3x10-6乗M、1hr、2回のもの)では、薬剤処理による死亡細胞数が正確に把握できないので、分裂回数を計算できない。しかし、月報7005のN-19、7008のN-24などの事実、即ち(1)4NQO処理時の細胞障害は、細胞数が多い場合には軽度である。(2)4NQO処理は細胞の増殖を誘導しない、などの点より4NQO処理を行った2系の分裂回数も対照細胞のそれに近いと考えられる。又、10-6乗M、1hr、2回処理後から復元までの分裂回数は6〜7回程度と計算される。
この図の中の3.3x10-6M、1hr、2回処理のものは発癌しなかった。なお移植動物の観察は、細胞復元接種後6ケ月間行なった。
2)LC-10の累積増殖曲線(図を呈示)
LC-10の場合もLC-2とほぼ同じ計算になる。即ち、対照細胞と4NQO処理細胞との分裂回数はほぼ等しく33〜34回で、4NQO処理後の細胞分裂はだいたい8回になった。
《山田報告》
今年の春に、4NQO処理したRLH-5・P3株の抗原性の変化について検索して、No,7003号にその結果を報告しましたが、今回は更にこの検索を進めてみました。即ちJAR-2ラットにRLH-5・P3の変異株HQ1Bを1,500万個移植した後、19日目に採血し、その血清中に含まれるhomo-antibodyを用いて、HQ1Bの抗原性と、その原株の(RLH-5・P3)抗原性との差を追求してみました。方法としては、抗血清或いは正常血清0.5ml、補体0.1ml、細胞200万個/0.5ml、Tris-HCl緩衝液(pH7.0)1ml+CaCl2を→37℃、30分静置→2回生食にて洗滌したものを、1.0mMCaCl2を含むヴェロナール緩衝液内にて泳動させ、その細胞電気泳動度を測定しました。
まず抗HQ1B血清のtarget cell(HQ1B)に対する反応、及びこの抗血清に、同量のRLH-5・P3株を加えて吸収した後に細胞を捨て、上澄の吸収抗血清を用いました。補体比活性化は56℃
30分熱処理により行い、対象としてはJAR-2の正常血清を用いて、それぞれのHQ1B細胞の電気泳動度に対する影響を検索しました。(表を呈示)
target cellに対して抗血清はよく反応し、その泳動度を低下させますが、RLH-5・P3細胞で吸収した血清との反応は、前者の約1/2弱にまで、少くなりました。即ち、HQ1B株とそのoriginal株であるRLH-5・P3株には共通抗原があることがわかります。同一条件で正常血清と反応させると、HQ1Bの泳動度の低下は全くみられず、むしろ増加しました。
次に抗HQ1B血清を原株RLH-5・P3に反応させた所以下の結果を得ました(表を呈示)。
抗HQ1B血清はRLH-5・P3の泳動度も低下させますが、target
cellとの反応にくらべて、かなり弱く、正常血清と抗血清との反応を比較した成績からみると、前の実験と同様に抗HQ血清のRLH-5・P3に対する反応は、HQ1Bに対する反応の約半分であることがわかりました。
即ち大まかにみると、この成績は、『HQ1Bの抗原性の約半分或いはそれ以上が原株RLH-5・P3と共通抗原であり、その残りに原株にはない抗原性が変異により出現しているのではないか』と云う推定を可能にさせます。
細胞電気泳動法による抗原性の分析は今回が初めてですので、細かい検討が更に必要と思います。
《安藤報告》
(1)Pronase処理のL・P3DNAの分子量の測定
これまでの月報で報告して来たL・P3DNAのプロナーゼ処理後の単位DNAの大きさを今回厳密に測定したので報告する。
プロナーゼ存在下にL・P3細胞とP32-λDNAを蔗糖密度勾配遠心にかけた。第1図(a)は10℃、30,000rpm、2時間の遠心、(b)は1.5時間遠心を行ったものである。(a)の場合λDNAは半分くらいhalf
moleculeになっていた。図からλDNAのS20W=33Sとすると、L・P3DNAのS20W=110S(aより)、130S(bより)となる。(a)の場合は殆どL・P3DNAは底に沈んでいるので、(b)よりのデータ130Sを取る。次に同じくプロナーゼ存在下に種々の細胞数、すなわちDNA量のサンプルを遠心する。第2図に見られるように細胞数が多い程沈降速度は遅くなる。この際、第1図において用いた細胞数は第2図の黒丸のそれに相当する。したがって第2図の黒丸のピークを130Sとして白丸、三角ピークのS値を計算する。D1を1.0、130Sとすると、D2=163S、D3=187Sとなる。これ等のS値を与えた時のDNA濃度を横軸にS値を縦軸にプロットすると第3図のようになる。第3図、でDNA濃度を0にまで外插した時のS値を求めると195Sとなる。したがって、プロナーゼ処理後のDNAの沈降定数は195Sと決定された。次にこの沈降定数から式に従って分子量を計算する。M=4.26x10の9乗ダルトンとなった。
(2)プロナーゼ処理前のL・P3DNAの分子量の測定
プロナーゼ処理前の自然のL・P3DNAの沈降定数をP32-λファージを指標として求めた。
第4図に見られるようにファージの位置よりもやや遅い程度で、ファージのS20W=410SとするとL・P3DNAのそれは340Sであった。次に第5図で再びSの濃度依存性を調べた所、図のように明らかであった。第4図で使用した細胞数は第5図での白丸ピークに相当する。したがって、その沈降位置から他の二つのピークの沈降定数も求める。それぞれ272S(黒丸)、370S(三角)であった。これ等の値を第6図のようにプロット、外插してS20W=410Sが得られた。再びこれから式に当てはめ分子量を出した。M=3.98x10の10乗ダルトンであった。
前記のプロナーゼL・P3DNAの分子量と比較すると、ほぼ1/10となっている事がわかる。
《安村報告》
☆ラット肝細胞の初代培養からのクローン化の試み(つづき):
月報No.7007に記載したHepro4-1が、増殖のきざしが見えはじめました。細胞形態からは実質細胞であろうと確信しているのですが、実質細胞である確証はありません。
実質細胞としてなんらかの分化機能が維持されているとすれば、それが発癌(癌化といった方がよいかも知れない)とco-variationがあるか?
そのようなことを将来計画として頭に画きながら、まずこのHepro4-1細胞が肝実質細胞であろうかとの証明の一端にとりくんでみた。
Coonが述べているところでは、実質細胞の証明として、1)radio-immuno-electrophore-sisによって、肝細胞の産生するnormal
Serum antigensの検出、2)肝細胞に特有なenzymeactivitiesの証明、3)胆汁の産生、4)グリコーゲンの代謝等の項目をあげている。これらのなかでCoonは彼の初代分離クローン(ラット肝細胞クローン)は、数種のSerum
antigenを産生し、なお2つの肝酵素GPT(glutamic
pyruvic transaminase)、GOT(glutamic oxalacetictransaminase)のactivityを示していると報告している。
1.以上のことをふまえて、Hepro4-1クローンについて、まずGPT、GOPのassayを行なった。対照は滝沢肉腫細胞株FRUKTO、実験は2回おこなわれたが、Hepro4-1はGPT−、GOP+。FRUKTOは何れも−であった。わずかにGOTの活性が、Hepro4-1にみとめられたが、GOTはGPTにくらべて肝特異の活性は低いので、このかぎりではHepro4-1の肝特異性の有無は確証とはほど遠い。
2.ついで肝特異性酵素としてこれまで知られているうち、もっとも信頼されている(G.Sato)きわめつきの酵素のOTC(Ornithine
transcarbamylase)のassayを小口、丹羽両博士の協力によって行なった。(Archibaldの方法による)。Hapro4-1の継代を追って3回の実験がそれぞれ行なわれたが、代表例として最高値を示した結果は(もちろん対照のFRUKTOはOTC(-)であった。)
OTC specific activity(μmoles of citrulline)/mg
protein/10min.は、<0.005であった。このかぎりではラッテ肝そのもののactivityと約10-3乗のひらきがあって、Hepro4-1が肝実質細胞でないということはできないが、であるとの積極的に主張するには根拠が弱い。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(25)
前回の班会議の際一部報告し、その後月報では紹介する機会がないままになっていたX線と4-NQO又はその誘導体処理による細胞内DNA障害とその修復機構の類似性および差異を検討する為に行った実験結果をここで紹介する。
種々の線量のX線あるいは各種濃度の4-NQOとその誘導体で処理(30分間)した直後の細胞を、alkaline
sucrose gradientにかけて遠心し、得られたsedimentation
profileをもとにBurzi and Hersheyの式に基いて分子量(MW)を計算し、秤量または濃度に対するSingle
strand DNAのMWあるいはDNA分子あたりのsinglestrand
breaksno数をプロットしたものが図1と図2である(図を呈示)。これらの図から分かる様にX線の場合は照射線量に依存してMWは減少し、DNA分子当りのbreak数は増加する。一方4-NQO又は4-HAQO処理の場合には、或る濃度まで変化は認められず、それ以上の濃度になって始めてMWの減少とDNA分子当たりのbreak数の増加が見られる。こう言った点は、両者のsingle
strand breaks誘発に関しての大きな違いであると共に、両図から分かるようにDNA分子量の減少はDNA分子当りのbreak数の増加に依存していることがわかる。
同様の方法でX線照射直後または4-NQOあるいは4-HAQO処理(30分間)直後のDNAをneutralsucrose
gradientで解析し、線量又は濃度に対するdouble
strand DNAの分子量の減少と、DNA分子あたりのdoubule
strand breaksの数の増加をプロットしたのが図3と図4である。
これらの図から分かるように、X線の場合は線量に依存してdouble
strand breaksは誘発され、しかもこれらのdouble
strand breaksはsingle strand breaksを誘発出来る線量の約10倍の線量を必要とすることが分かる。還元すれば、同一線量を照射した時にはsingle
strand breaksはdouble strand breaksの10倍も多く誘発されることになる。(ちなみに、single
strand break数の線量に対する増加をSSBで示した。)
一方、4-NQO又は4-HAQOで誘発されるdouble
strand DNAのMWの減少とbreak数の増加は図2で示したsingle
strand DNAの場合と殆ど同様の傾向を示すが、興味あることは、single
strand greaksに比べて、double strand breaksの方が低濃度領域においてinduceされると言うことであり、このことはX線inducedの場合とは全く異なった現象であり、同時に安藤さん達が考えておられる4-NQOのアタックするDNAモデル等と合わせて考察する時、非常に重要な問題を提起していると思われる。(参考のために図4中には図2から得たsingle
strandbreaksの誘発を示す直線をSSBで示した。)
(尚、図2中の丸印で示したものはmain peak以外に現われたsub-peakの1/MW又はbreak数を同時に記入したものである。)