【勝田班月報・7101】
《勝田報告》
§純系ラッテの飼育
マウスやハムスターの組織細胞は培養内で自然発癌しやすいが、ラッテのはしにくい。これが潜在性のウィルスによるものか否かは別として、この理由もあって、我々の班ではラッテ材料を実験に用いることが多かった。しかしマウスと異なり、ラッテは純系がきわめて少いので、我々の研究室では、吉田肉腫や肝癌もtakeされるような、日本系のラッテの純系種を作ることをかねてから心掛け、且1系を樹立し、次の系も作り上げかけている。この近況について報告する。
1)JAR-1系
春日部の動物屋より購入した雌雄各1匹のJapanese
Albino Ratsを研究室内で記録なしに2年間交配繁殖させ、それから初めてsystematicにbrother-sister
matingで交配し、今日に至った。指標としては、“AH-130、吉田肉腫をtakeしやすい"という点を採用した。これまでの接種試験の綜合的な結果を示すと次の通りである。AH-130は
182/201匹で平均take率は90%、吉田肉腫は 47/52匹で90%、武田肉腫は
99/101で99%。
F19のとき同腹児4匹について皮膚の交換移植をおこなったが20〜29ケ月の生存期間中、植皮は脱落しなかった。顔付はやや丸型で、血液型はヒトAB型に近い。
産児回数及び産児数の少ない事が難点であったが、F37〜F38に至ってどちらも増加しつつある。現在F38になっているが皮膚の交換移植を試みたところ、順調にtakeされている。
2)JAR-2系
JAR-1♀と春日部♂の雑系とを交配し、産児数の多いことを指標にして淘汰した。この系はJAR-1と同様にAH系肝癌の腹腔内継代に使用適である。なお、産児回数、産児数はJAR-1よりはるかに多い(表を呈示)。表でF14〜F17の平均産児数の減少しているのは、動物室の温度の条件が悪かったため、出産しても仔を育てなかった♀ラッテのあったことによると思われる。実際の胎児数はかぞえたところでは、10〜17匹であった。
これらのラッテがこれからの癌研究に大いに貢献してくれることを期待する。
《難波報告》
謹賀新年 本年もよろしくお願いいたします。
N-31:Wheat germ lipase(WGL)は4NQOで培養内で癌化したラット肝細胞の増殖を抑制するか否かの検討
培養内で癌化した細胞の指標を培養内で探す試みの一つとして、WGLが悪性化細胞の増殖を抑えるかどうかを検討した。
WGLが悪性変異細胞を特異的に凝集させ、正常細胞を凝集させないとの報告は、Aubらの報告以来多数あり、表にまとめてみた(表を呈示)。
また、これらの論文のあるものの中には、WGL中の細胞凝集物質についての同定、或いは細胞側のReceptorなどについて記載されている。
WGLの悪性化細胞の増殖に及ぼす影響を検討した仕事は、私の知る限りではAmbroseのものがあるのみである。その論文では培養されたKidney
tumorの増殖は抑制されるが、正常のKidney cellの増殖は抑制されないと述べられている。
そこで、現在私共の所で培養内で4NQOによって悪性化した細胞の増殖が、WGLによって抑制されるか否かを検討した。
実験方法:WGLは50mg/10ml of Eagle's MEMに溶きミリポアーフィルターにて滅菌し、細胞まき込み後2日目に、20%BS+Eagle's
MEMの培地中に終濃度500μg/mlに添加し続けて3日間培養し、その細胞数をWGLを含まぬ培地で培養した細胞数で除し、細胞増殖抑制とした。
その結果は、培養内で悪性化したラット肝細胞の増殖はWGLによって抑制されないことが判った。
一応ネガティブデータであるが、実験結果を表に示した(表を呈示)。
なお、細胞の凝集性についても検討したが、現在までのところ悪性化細胞に特異的な大きな細胞集塊は形成されなかった。
《佐藤報告》
DAB、3'-Me-DAB in vitro発癌に関しては、現在52日〜80日経過しています。形態学的なtransformationは起っていますが、動物復元の結果が未だでていません。現在の所B2系では6μg/ml程度で添加したものが、最も早くtransformationをおこす。transformationをおこすには細胞分裂がおこっている状況で添加する方がよいように思われる。データについては1月終りか2月の班会議の予定にしています。
《高木報告》
新年おめでとうがざいます。
1970年は長くて短い一年でした。紛争およびその後におこったいろいろな事態のため起伏が多かったせいでしょうか。昨年の年頭の言葉は全くどうしようもない心況で書いたものですが、今年は未だ問題は山積しているとは云え、とも角すべては一応運行されており、少しは落着いた気持で過ぎし年を振り返られるように思います。昨年、年頭に4つの計画を書きました。その中NGのdataはどうにかまとまったものの実験に関しては混合移植実験が可成りのところまで行っただけで、外はまだこれからです。先の班会議でも御話ししたようにWistar
rat originの腫瘍細胞にWKA rat originの正常細胞を混じてWKA
newborn ratの皮下に接種した場合、tumorigenicityが促進されるように思われた訳ですが、その理由の1つの可能性として、感作リンパ球が腫瘍細胞に近付くのを周囲の多くの正常細胞がさまたげることも考えられます。両細胞を別々のsiteに接種する実験を計画しています。また本来の目的からもisologousな実験系を用いねばならない訳で、この実験はすでにスタートしています。このdataは今年中に何とか早くまとめるところまでもって行きたいと考えています。
次にsoft agarの実験ですが、これは角永、黒木氏等のdataとは異なり私共でもtumori-genicityとCFEおよびcolonyの大きさの間に、相関関係はないという成績をえました。しかしこれにはagarの固さとか培地組成の問題とかいろいろな因子がからんでおり、もっとこう云った基礎的な面を検討してみなければならないと考えております。l-asparagineなどを培地に加えたりしてさらに実験を続けたいと思います。
NG発癌実験はこれまで細胞数とNG濃度の関係はあまり考えず、またtransformationまで可成りの時間を要した訳ですが、もう少しスマートな手を検討すべく、比較的少数の細胞に低濃度のNGを作用させ効率よく発癌させる系を作りたいと考えています。なお、target
cellとしてratの胃由来の細胞を用いるべく努力していますが、とも角primary
cultureにNGを作用させて様子をみるつもりです。今年は当班も一応periodを打つ年と聞いております。私共の仕事も何とか一きりつくところまで行きたいと念願しております。
今年もよろしく御願いしたします。
《山田報告》
昨年中は大変お世話になり有難う御座居ました。今年も宜敷く御指導の程お願い申しあげます。
さて暮も押しせまって来てから、ラット肝細胞RLC-10のクローン株について、写真記録式泳動法により分析しましたが、最後のフィルムの現像に失敗してデータになりませんでした。(図を呈示)また図に示します様にラット腎由来の細胞株R2K(細胞樹立当初一回4NQOを作用させています)と、それに3.3x10-6乗Mの4NQOを2回最近作用させてから約2ケ月目の株(R2KQ)について、その電気泳動的性質についてしらべてみました。R2Kは約半年前に検査してNo.7008号に報告しましたが、その成績と比較しますと、細胞泳動度のバラツキがやや増加していますが、シアリダーゼ感受性はかへって減少している様です。これに対して、RKQの平均泳動度はR2Kにくらべてかなり速く、シアリダーゼに対する感受性はかなりある様です。
この腎由来の細胞の電気泳動的性格については、まだあまり良くわかっていませんので、はっきりしたことは云へませんが、control株(と云っても4NQOを一回作用させてありますが)と思われるR2K株は6ケ月以前にくらべると、むしろ変異細胞の頻度が減っている可能性があり、また2回の4NQO処理により再び変異細胞が増加して来たのではないかと想像されます。復元成績とこの成績を比較しなければ、決定的な推定は出来ないと思って居ます。
《梅田報告》
新年おめでとうございます。本年も宜敷くお願いいたします。
(1)昨年を振り返ってみると、ハムスター細胞ににN-OH-AAF、トリプトファン代謝産物、Monocrotaline等を投与してなんとかin
vitro carcinogenesisを成功させようと努力したのですが、結果はtransformしたと思った時にはcontrolの細胞もおかしくなりつつあったわけで、あまりぱっとしませんでした。この面での仕事はやはりなるべく早く結果の出る方法を開発しなければ意味がないわけで、本年はその線で努力してみる積りです。又ラットの細胞も使ってはいるのですが、この方は全体に細胞の生長が遅く、結果を見守っているのが現状です。
一方安藤さんに教わって始めたDNA strand
breakの仕事は、始めてからのんびりしすぎてdataの蓄積も遅かったのですが、お陰様で、強力な発癌剤でもbreakが起らず、又発癌作用のあるmycotoxinでbreakが起ったものもrepairされない例があるという興味ある結果を得ました。今迄医科研のLab.でしかこの仕事は出来なかったのですが、やっと横浜のLab.でも超遠心分離機が動く様になったので、本年はもっとspeedyに仕事を進めたいと計画しています。年頭にあたりあれもこれもと考えるのですが、以上の2つを一番大きな目標にしたいと考えています。
(2)AflatoxinB1はActinomycinDに似た作用、即ちDNA-dependent
RNA polymerase活性をおさえると報告されているので、actinomycinD投与時のDNA
single-strand breakの有無をみてみました。先ず文献的にActinomycinでのDNA
strand breakの仕事があるかどうか、一応調べてみたのですが私の調べた範囲では見当りませんでした。御存知の方があれば是非お教え下さい。
方法はいつもの如くで細胞はHeLa細胞です。図に示す如く、確かにbreakは惹起される様です。次に3.2μg/ml1時間投与后のrepairをみましたが、殆んど完全にrepairされます。この結果からするとActinomycinDはAflatoxinとは似た作用があると云うだけで、作用機作は全く異るのでしょうか。(図を呈示)
《堀川報告》
新年おめでとうございます。
好調にすべり出した1970年でしたが、後半に入ってからは学寮委員会とか学生生活委員会(1日補導委員会)で苦しめられ、相当の時間をそちらにとられたため思うように仕事がはかどらなかったというのが実情である。
それでも新講座として始めての学生を迎え、さらに大学院進学者の決った1970年はある意味で当放射薬品化学教室にとって態勢作りの出来た一年であったともいえる。
そしてまた一講座のチーフとして、また一学部の教官として教育と研究と管理に力を等分して行かねばならないむづかしさをしみじみと味あわされた年でもあった。一つの事に力を集中している時には必ず別の何かが留守になる。
こういった意味からも今後の日本の大学教育は、研究と教育という2つの独立Unitのもとに進めるべきではなかろうか。
さて、1970年は放射線、発癌剤によるDNA障害の修復機構の研究を中心に、レプリカ培養法の確立、各種放射線感受性および耐性細胞の分離といった他方面から仕事を進めてきたが、1971年も引きつづき更にこれらを精力的に発展させたいと思っている。
こういった意味からも、今年も班員の皆様の暖かい御支援と御指導のほどを期待してやみません。
《安藤報告》
新年おめでとうございます。いつまでたっても新米班員で、班長に叱られ通しの一年でした。本年も相変らずの事と思いますが皆様よろしくお付合お導きの程お願いいたします。
一年の計は元旦にありと申します。そこで本年度の計の初めに当りまして一応考えてみました。先ず基本的には「細胞の癌化とは何か」を中心に考え実験を組んで行くという点においては異存はないのですが、もう一歩具体的には「癌細胞に対する正常細胞とは一体どんな細胞か」という問題をもう少し追究する必要があるのではないかと考えています。したがって、昨年私共が見つけました細胞DNAを連結する蛋白質の化学的な構造を明らかにする事、その生物学的な機能を明らかにする事を中心に進めたいと考えております。更にこれと平行して、この連結蛋白と細胞の癌化との関連も追求したいと思います。
§メルカプトエタノール(2ME)による切断はDNAの連結蛋白の切断である。
第1図:2MEはバクテリオファージλのDNAの二重鎖切断を起さない。
第2図:バクテリオファージλの捲れ環状DNAと解放環状DNA。
第3図:捲れ環状DNAに対するプロナーゼと2MEの作用。第1表:捲れ環状DNAに対するプロナーゼと2MEの作用。第4図:L・P3DNAの構造モデル。(以上の図表を呈示)
昨年暮に行いました実験を一つ御報告いたします。月報7012に続き更に、2MEによるL・P3DNAの二重鎖切断が蛋白部分の切断による事を、ファージDNAに対する2MEの作用がない事から推定した。第1図にあるように2MEは直鎖状DNAの二重鎖切断は全く起さなかった。一重鎖切断(ヌクレオチド結合)を効率よく検出するために捲れ環状二重鎖DNA(Form1)を分離した(第2図にあるようにアルカリ性で遠心する事によりForm1が捲れ環状二重鎖DNAである事がわかる)。これに対してプロナーゼと2MEを、L・P3DNAを処理すると同一条件で作用させた所、プロナーゼでは全くForm1がForm2(解放環状二重鎖DNA)に変らなかったのに反して、2MEの場合にはやや1→2の転換が起っていた。(第3図、第1表)
このように既に報告されているように、2MEはラジカル反応によりDNAのヌクレオチド結合を切断する事は明らかであるが、これだけの一重鎖切断はとうていL・P3DNAの二重鎖切断を説明する事は出来ない。
したがって、これ等の対照実験から、2MEの作用はL・P3DNAの蛋白部分に還元的に作用し、切断を起していた事は明らかであり、第4図構造モデルをますます強く支持している。
《安村報告》
§腫瘍細胞FRUKTOの薬剤耐性株
前回の月報の討論でもうしました8-Azaguanine耐性FRUKTO細胞を接種してできた腫瘍の再培養系について、耐性の保持についての実験結果をおしらせします。
細胞系は4つ。 1)FRUKTO-A 50μg/ml 8-Azaguanine耐性原株。2)FRUKTO-Aをマウスに脳内接種してできた腫瘍の再培養系(FRUKTO-A(M))・・・Eagle
MEM+2%ウシ血清、3)FRUKTO-A(MA)上記の腫瘍を8-Azaguanine
50μg/mlで再培養した系、4)FRUKTO原株。
各系を500コ/plateの接種、各4plates、観察期間2週間、その間液がえをしない。
(表を呈示)8-Aza.耐性株はいづれも8-Aza.を含んだ培地ではP.E.が悪い。これは一つには8-Aza.をNaOHで溶解してあるのでplating当初pHがnormal
mediumよりアルカリ性であることが影響している。plating後なるべく早くCO2
incubatorに格納するのだがpHが安定するまで1時間ほどかかることによろう。とにかく動物通過後も耐性を保持していることがこの実験によってしられる。FRUKTO原株は8-Aza.(50μg/ml)含有mediumではコロニー形成は今までのところ見られない。BUdR耐性株は前回の報告のごとく動物にtakeされないので、この種の実験はできなかった。
《藤井報告》
賀春、1971、御健闘祈り上げます。
私の方、化学発癌過程での抗原性の変化の研究が中途半端のまま、また年を越してしまいました。もう追放されることは覚悟の上ですが、かれこれ5年間、いろいろやってみましたが、私としては、がんの抗原をおいかけるむつかしさを痛感しています。
これまで異種抗血清を用いたmicro-double
diffusion,同種抗血清を用いたmixed hem-adsorptionおよびIsotope標識抗体を用いた吸収試験などで、培養ラット肝細胞が4NQOで変異し発癌する過程で、癌抗原と思われるある抗原(同種抗血清による実験なのでがん抗原とは云い切れない)があらわれること、そしてこの抗原が癌化細胞の再培養過程でなくなってしまったことを見てきました。このような成績が、RLC-10→RLT-2→Culb→CulbTCのばあいだけなのか、どうかが問題ですが、同種抗血清でこういう実験をいくら他の細胞系でやってみても所詮“ありそうな"ことしか云えないので止めました。
今年は、若い元気な協力者もできましたので、抗原刺戟によるリンパ球の幼若化現象を利用して、syngeneic
systemで変異過程を調べて行きたいと思っています。リンパ球の培養にかれこれ1年近く空費してしまい、やっと本番というところです。
ところで癌細胞に自分のリンパ球が反応するかどうかは、癌に抗原があって、それに宿主が反応するかどうかを反映するわけですが、そんなことが人間でもちゃんとあるだろうか、あるとすれば、どうして癌は治らないのだろうか、というわけです。癌に対して宿主はtoleranceの状態もあるだろうし、また宿主は反応しうる時期もあるし、反応しても液性抗体によるenhancement現象で癌が増殖してしまう。免疫学的には、こういうことが考えられる訳です。同種移植実験でやっているenhancementの研究を、今年は癌の領域に持って行きたいと思っています。