【勝田班月報・7112】
《勝田報告》
§各種細胞のLDH及びG6PDH酵素活性について
細胞が培養内で癌化したことを、少しでも早く知り得る指標があればという願いの下に、これまで様々の努力が重ねられてきたが、その一環として細胞の酵素活性、とくにisozymeの変化をしらべてきた。これは主として野瀬君と加藤嬢の労力によるものである。
分析法(表)と結果(図)を呈示する。
RLC-10Bという系は培養内でspontaneous transformationoを起した系で、originはラッテ肝細胞。JTC-16はAH-7974由来であるが、長期継代後も珍らしくも動物への復元能を維持している。JTC-21・P3とJTC-25・P3とは、ラッテ肝由来で、“なぎさ"培養で変異し、その後無蛋白・無脂質の完全合成培地内で、継代している亜株である。同じくラッテ由来でありながらも、夫々の間にきわめて相違がみられ、一貫した特性などは見出されない。
L-929と合成培地継代のL・P3とは、LDHでもG6PDHでも、いずれも似たprofileを示している。なお、JTC-25・P3とL・P3とは形態がきわめて似て居り、G6PDHでは区別がつかなかったが、LDHのisozymeではJTC-25・P3が明らかに1本多いbandを持っていた。
HeLa・P3は、当研究室でもはや原株のHeLaを維持していないので、原株との比較はできなかったが、かなり数多いbandを見せているのが面白い。
Rt muscle以下の欄は、培養細胞ではなく、動物から取出した組織の像である。従ってそこには何種類かの細胞が混在していることを承知していなくてはならない。
悪性化との関連については、目下検討を進めているが、この調子ではあまり希望がもてそうにもない。せいぜい株間の同定に使える位ではないかと考えている。
《難波報告》
N-57:癌化の指標を探す試み −DAB未処理対照肝細胞(PCC-2)とDAB処理悪性化肝細胞(PCDT-2)とに於けるH3-DABの細胞内へのとり込みの比較−
化学発癌剤によって、培養内の発癌実験を試みる場合、その発癌剤の「ツメ跡」を感化した細部に見い出すことができれば細胞の癌化の機構を解明する手掛を掴めるかも知れない。
今回は、PCC-2細胞とPCDT-2細胞とに於けるH3-DABの細胞内へのとり込みを検討した。
PCC-2:単個培養したラット肝細胞PC-2系よりのColonial
clone。
1027 total culture days。
PCDT-2:培養内で5μg/mlDABを計53日処理して、悪性化した細胞PC-2系を復元して生じた腹水腫瘍の再培養。
1)RadioautographyによるH3-DABのとり込みの比較
PCC-2及びPCDT-2細胞をカバーグラスを入れた小角ビンにまき、2日後H3-DAB(50μCi/ml、1.1x10の4乗dpm/ml、10μgDAB/ml)を含む培地にかえ、更に2日培養を行なった。(予備実験で、H3-DAB投与後の1hr、24hr、48hr、72hr後のRadioautographyを行ない、その結果実験は48hr後に終ることにした)。その後カバーグラスを37℃PBSで3回洗い、5%TCA(4℃、1hr)で固定、アセトンで3回洗い(細胞中の遊離DABを洗い出す)、Dipping、18日間Expose、現像、ギムザ染色して、200コの細胞内の銀粒子数を数えた。
その結果(図表を呈示)、DABで悪性化した細胞の方が、対照細胞に比べ、H3-DABをよくとり込んでいることが判る。
2)液体シンチレーションカウンターによる、H3-DABのPCC-2及びPCDT-2細胞へのとり込みの検討
細胞のH3-DAB処理法は1)の場合と同じである。H3-DABを48hr細胞に与えた後、37℃PBSで3回細胞を洗い、5%TCAで2回洗滌(4℃、1hr)、その後アセトンで3回細胞を洗った後、Toluen100で細胞を溶解し、トルエンシンチレーターに入れ、液シンで測定した。
その結果は、細胞1コあたりにとり込まれるH3-DABは、DAB処理悪性化細胞の方が、対照細胞に比し多かった(表を呈示)。
以上の、1)、2)の実験結果をまとめると、PCC-2、PCDT-2両系の細胞のDABとり込みには差がなかった。
一般に動物のDAB肝癌には、DAB結合蛋白が欠損していると云われているが、今回の培養肝細胞を使っての実験結果からは、細胞内のDAB結合蛋白の有無について何も云えない。その理由は、(1)PCDT-2は5μgDAB/ml
53日処理しているが、このDABの処理ではDAB結合蛋白を欠損させるのに不十分である。(2)PCC-2、PCDT-2両系の細胞中にみられるDABが実際に細胞内のDAB結合蛋白に結合したものか否か。(3)細胞中の銀粒子数及びTCApptのカウントは、DABそのものか、又は、DABの分解産物なのか。(4)培養細胞であるので、貪喰能が昂進しており、その結果、癌化の機構とは関係なく、細胞内にDABが入る。(培地中の牛血清アルブミンが、培養肝細胞に入っている別の実験データより、培地中のアルブミンに結合したDABが細胞に入っている可能性がある)。
《高木報告》
腫瘍細胞(RRLC-11)と非腫瘍細胞との培養内における相互作用:
RRLC-11細胞が培地中に放出する毒性物質に関し、これまでに判ったことをまとめてみると次のようになる。
1.virusによる可能性
培養9日を経た細胞でわずかにC粒子を認めた。培地を30000rpm1時間遠沈してその上清につき検討すると、毒性はほとんど上清中に残っている。virusなら上清に活性は残らないはずである。またC型virusでcytolyticな効果をおこすことは考えにくい。従ってvirusによる細胞毒作用と云うことは考えられないと思う。
2.培養日数による毒性のちがい
RRLC-11細胞培養のどの時期の培地をとっても毒作用に大きな差は認められなかった。
3.RRLC-11培地添加濃度による毒性のちがい
50%、20%、10%および5%について検討したが、10%までに有意の差は認められず、5%にするとやや毒性がおちるようであった。
4.RRLC-11培地限外濾過の影響
visking tube(pore size 24Å)を使用して限外濾過を行ったところ、毒性は外液において濾過しない培地と同等に認められた。すなわちこの毒性物質は低分子であることが想像される。
5.温度の影響
1)RRLC-11培地、56℃30分および56℃2時間加熱しても毒性効果の低下は認められない。
2)RRLC-11培地を4℃に保つと8日目頃迄は可成りの毒性を示すが12日目以後は低下する。
ついでRRLC-11細胞と種々細胞との混合培養を行っているが、現在までのところ、RFLC-3細胞は完全に変性、RFLC-1細胞は全く影響を蒙らず、また、LC-14細胞(ラット肝由来)は部分的に変性をうけているようである。RFLC-5細胞についてはさらに検討中である。
《堀川報告》
MNNG-UVlight-BUdR-visible light法という一連の処理を繰り返すことにより、われわれはHeLaS3細胞からS-1M細胞(一回処理群)、あるいはS-2M細胞(二回処理群)と名づけるUV-感受性細胞を分離したが、これらのUV-感受性細胞においては、UV照射によりDNA中に形成されるTTの除去能力が極度に低下していて、その原因としてTT除去の第1stepであるnicking
enzyme(endonuclease)が欠損した細胞株であることはこれまでの実験で証明してきた。
さて、こうしたUV-感受性細胞(S-1MまたはS-2M細胞)の出現機構に関してであるが、(表を呈示)第1表に示した結果からみると、S-1M細胞はMNNGで処理したHeLaS3細胞からのみ出現し(4個のコロニーとして)、MNNG未処理群からは出てこない。またS-1M細胞を繰り返し処理した場合にも、出て来るコロニー数はMNNG再処理群で有意に多いことが分かる。こうした事からわれわれの分離したXeroderma
pigmentosum likeのUV感受性細胞は、MNNG-induced
mutant、つまりsomatic cell mutationで説明出来るように思われたが、これを更に確認すべく、第2表(表を呈示)に示すように2000万個細胞をそれぞれ100万個ずつ20本の培養瓶に入れて培養し、1群(10本)は前回と同様に0.5μg/ml
MNNGで24時間処理し、以後前回とまったく同様にUV
light-BUdR-visible light法で処理すると、第2表に示すようなコロニー数が各培養瓶から得られ、平均して2.3コロニー/培養瓶という結果になった。一方残る一群(10本)は対照群としてMNNGでは処理せず、以後UV
light-BUdR-visible light法で処理することにより平均して1.6コロニー/培養瓶という結果が得られた。
この結果からみるとMNNG処理群と未処理群から出て来たコロニー数には、それ程大きな有意差は認められないで、第1回目の実験結果から示唆しようとしたMNNG-induced
muta-tionの考え方を是正せねばならないようになった。然しここで問題なのはMNNG処理群または未処理群から得られたそれぞれ23と16個のコロニーが、すべてUV-感受性であるかどうかを検討する必要性がある訳で、23個と16個のコロニーのうちには必ずしもUV-感受性細胞でないものが、isolation
procedureのどこかの過程で抜け道をみつけて出て来ている可能性もあるであろう。
こうして真にUV-感受性でないものをeliminateした上でないとHeLaS3親細胞からUV-感受性細胞の出現機構について、結論を下すことは出来ない。その為の解析が現在、replica
plating培養法で進められているので今しばらく結果をおまちいただきたい。
《佐藤茂秋報告》
吉田腹水肝癌AH-7974細胞の培養系JTC-16は、in
vitroではI、 型ヘキソキナーゼ活性しか認められないが、ラット腹腔に戻し移植するとI、 型に加え 型のヘキソキナーゼが現われ、動物で継代移植されている細胞と同じ表現形質となる。JTC-16細胞をラットに戻し移植し再び培養系に移すと時間の経過と共に 型活性が消失していく。又この再培養系をクローニングすると、 型を持つものと持たないクローンが出来た事は前回報告した。in
vivoで 型が出現する機序を調べる為JTC-16の細胞1,000万個を血清を含まないMEM培地にsuspendし、diffusion
chamberに入れてrat腹腔に挿入し、経時的に細胞をとり出し、そのヘキソキナーゼパターンを調べた。2日目では細胞数は約2倍となっており、I、 型に加え 型ヘキソキナーゼが著明に認められる様になった。4日目では細胞数は約1.3倍となっており、viabilityも低下していた。ヘキソキナーゼ活性も非常に弱かったが、 型が認められた。diffusion
chamberはintactでありdiffusion chamber内へのhost側の細胞の侵入は考えられない。以上の事実はJTC-16の細胞をin
vivoへ戻す事により、 型ヘキソキナーゼがinduceされる事を示唆するが、より確実なものとする為、クローニングした細胞を使って、観察期間をより細かくした時の実験を計画している。
《梅田報告》
月報7110に次いでラット肝及び肺培養細胞に各種物質を投与した時の核小体の形態的変化について述べる。
(1)ActinomycinD(0.0032μg/ml)を肝培養に投与すると、肝実質細胞の方がやや強くおかされる。しかし肝実質細胞は核が暗く染り、核小体はかえって大き目である。間葉系細胞の方は核は大き目で核質はややdottyになるが核小体は丸く小さい。
ラット肺培養に投与した時は肝培養の時の間葉系細胞と同じ様な反応で核は大き目で明るく核小体は小さい。
(2)Methylcholanthreneを、肝及び肺培養細胞に投与してみた。肝培養に10μg/mlの濃度で投与しても障害は強くなく、細胞の増生は対照よりやや減じている程度である。肝実質細胞も間葉系細胞も同じ程度に減じている。肝実質細胞は核質がやや濃縮ぎみの感じを与えるが核小体はそれ程小さくなっていない。丸味は帯びている。間葉系細胞の方は核はやや大き目のものが多く核質は明るく、核小体が小さくなっていた。
肺培養に投与した時も10μg/mlで肝培養の間葉系細胞と同じ反応を示している。
(3)Benzoyloxy-MABを肝培養に投与すると、10-3.5乗Mで肝実質細胞は完全に脂肪変性→壊死におちいる。間葉系細胞も4日間培養した場合は壊死におちいるが、2日目の所見では核の大小不整は著しくなり、核質は明るくぬけた様になり、核小体はやや小さい程度でそれ程小さくならない。10-4.0乗Mで殆対照と同じ位の肝実質細胞、間葉系細胞の増生が見られるが、核分裂像をみると、染色体が散ったものがあり、異常を思わせる。
ラット肺培養に投与した所、10-3.5乗Mで細胞は残っているが、異常分裂像らしきものが認められた。
(4)月報7110では、HeLa細胞の核小体を縮小化させるP.roquefortiカビの代謝産物についての結果をのべたが、同じ様にHeLa細胞の核小体を縮小させるA.Candidusの代謝産物についても試してみた。HeLa細胞の場合、A.Candidus菌体のCHCl3抽出物の100μg/ml投与で核小体は縮小化したのに、肝及び肺培養細胞では320μg/mlの投与で増殖阻害もあまりうけず、しかも核小体はそれ程小さくなっていなかった。
(5)結果をまとめてみると、肝実質細胞と肝培養での間葉系細胞と肺培養細胞では、各種物質に対する反応性が異る。HeLa細胞と比較しても反応が異る様である。ActinomycinD、Methylcholanthren投与で前者は核小体が縮小化されなかったのに、肝での間葉系細胞、肺培養細胞、HeLaでは核小体が縮小化される。強力なproximate
carcinogenであるbenzoyl-loxy MAB投与では核小体縮小現象は観察されなかった。上に反し、Aspergillus
candidusの代謝産物では、HeLa細胞の核小体は縮小化されるのに反し、ラット肝及び肺のprimary
culture細胞の核小体は縮小化されなかった。以上よりHeLa細胞の様な株細胞と、primary
culture cellの様な細胞とでは核小体の機能が大部異ることが予想される。
以上の結果を月報7110にならって表にしておく(表を呈示)。
《山田報告》
4NQO処理したRLC-10#2細胞のその後の変化(CQ68):
(図を呈示)図に示すごとく、その電気泳動的性格は122日目と殆んど変りません。前回、CQ60実験に於いては、前報にも示しました様に、この時点で更に泳動的に構成のばらつきが出現したのですが、今回はその様な変化が出現しません。なほ引続きfollow
upすると共にその抗原性の変化もしらべて行きたいと思っています。
はぎさ培養株RLH-4の無蛋白培養亜系の電気泳動的性格:
この株とそれに4NQO処理した株の泳動的性格について、従来通りの条件でしらべた所、非常に特殊な成績を得ました(表を呈示)。即ち、Cont.株はノイラミニダーゼ処理後の数値は-0.297で、4NQO処理後の株では-0.346でした。対照未処理株が既に著明なノイラミニダーゼ感受性があり、4NQO処理した株は更にこの感受性が増加し、又平均泳動度も増加するという所見です。この様な著しいノイラミニダーゼに対する感受性は、正常或いは変異株には全くなく、また悪性変異株でもJTC-16(AH7974TC)のみです。これはどうもノイラミニダーゼ感受性の増加と云うよりは膜の性質が著しく変化し、非特異的に破壊されやすいのではないかと思われます。いづれにしろこれまで調べた培養ラット肝細胞のなかには全くみられない様な表面構造ではないか?、と考へています。
Culb株の宿主血清との反応:
血清が若干少く、200万個Cellに対し宿主JAR-2の血清(接種後18日目)0.5mlを反応させたのですが、その電気泳動度は、活性血清で0.559±0.001、非活性血清で0.578±0.009となり、全く宿主ラットと反応しない様です。しかし、この成績は若干全体に泳動度が低く、そのために反応が弱いせいもあるかと思います。この成績にくらべて既に報告した如くこの株のoriginal細胞の亜系であるRLC-10#2は、宿主JAR-2の血清に反応して、-16.5%も泳動度が低下する知見とはかなり差があり、しかも藤井班員の成績とも一致します。或いは、宿主が免疫学的に拒絶反応を起さない細胞が選択的に増加しているのかもしれません。
ConcanavalinA反応機序についての細胞電気泳動的解析:
最近ConcanavalinAの悪性細胞特異的凝集作用が話題になり、またこの班会議でも若干の成績が報告されていますが、いまだこのConAの反応機序についての明解な検索がなされていない様です。ただ現象的にその特異作用が注目されているにすぎません。
このConAの作用についての研究成績で問題なことは、macroのレベルでの凝集現象と、分子レベルでのd-マンノースとの特異的結合性が、あまりにも直結して関係づけられている点だと思います。
そこでモデル実験として、ラット腹水肝癌AH62Fを用いて、若干の実験を行ってみました。次号に詳細に報告することにして、現在までの知見を書きますと、
1)25μg−50μg濃度の微量のConAを作用させると、反応した細胞の電気泳動度は明らかに上昇し、この時点では凝集が起らない。
2)100μg前後のConAを作用させると、次第に泳動度が現象し、初めて肉眼的に凝集反応が起って来る。
3)ConAの反応は細胞の増殖状態と関係があるらしく、増殖の盛んな状態で強く反応する。このAH62F細胞は増殖期にシアル酸依存荷電が増加して来るので、シアル酸の表面における変化と関係がある様に思われる。
いづれにしてもConAが仲介となって凝集が起るものではないらしい様です。
《安藤報告》
4NQO誘導体の発癌性とDNA鎖切断能との関係
先月号月報に報告した標記の問題に更にいくつかのdataがつけ加わったのでまとめて報告する。今回、新たに加えた所は2Me4NQO以下の薬剤を使ってのdouble-strand
scissionである。通覧していえる事は、発癌性と鎖切断、修復能とはだいたい平行関係にある。但し先月報にも書いたように、4NQO6Cの場合には1x10-4乗Mでは一重鎖切断を起さないのに二重鎖切断は起しているようだ。この点は更に濃度を上げて検討しなければならないと思う。又4NQO誘導体の数をもっと増やし現在検討中である。
今後更に4NQO関連化合物だけではなしに、化学的にtypeの異った発癌剤を種々集め検討の準備中である。(表を呈示)