【勝田班月報・7103】
《勝田報告》
 §培養内発癌実験
 A)JTC-21・P3株:
 各実験ともTD-40瓶1コを用い、4NQOで処理した。
 [実験1]1970-10-2;10-5乗M、30分間、1回のみ処理したが、細胞は障害が甚大で約3週后には全滅してしまった。
 [実験2]1970-10-28;3.3x10-6乗M、30分間、1回のみ処理。しかし上記と同様に、約1月后に全滅。
 [実験3]1970-12-10;3.3x10-6乗M、30分間、1回の処理。処理前の細胞形態は写真1のように、球状で軽く硝子面に附着している細胞と、細長く伸びている細胞、あるいは所々に見られるようにpile upしているものも見られる。(写真1、2、3、を呈示)
写真2、3は同年12-22に撮影した写真で、細胞は一層硝子面から剥れ易くなっており、やや大型の細胞も混っている。またpiling upの傾向も強く、その塊がぽろりと剥れ易い。
 1971-1-20;継代し、円形の回転管3本に移したが増殖はきわめて緩慢である。細胞数が増えたら、復元試験をおこなう予定である。
 B)R2K-1株:
 JAR-2系ラッテの腎由来で、1969-12-23に3.3x10-6乗Mの4NQOで30分1回処理され、増殖を誘導されてできた株である(腫瘍ではない)。これをTD-40瓶3コ用意し、1970-10-2;3.3x10-6乗Mの4NQOで30分間処理し、10-28;再処理、12-22;山田班員に細胞電気泳動を依頼、1971-1-25;継代と共に一部を復元;JAR-2、F17、生后5日♀ラットに、対照とも各2匹宛、500万個/ratにI.P.で接種。結果はまだ不明である。
 C)実験HQ系の株:
 JTC-25・P3(旧RLH-5・P3)株を用いた。これはラット肝実質細胞で、なぎさ変異後、純合成培地で継代中の亜株である。1969-9-11以来、計8回4NQO処理した系を、1970-10-20;JAR-1系F38、生后1日のラットに1500万個宛I.P.で接種し、さらに11-5;1500万個宛I.P.で接種した。1971-1-27;ラッテを殺して腫瘍形成をしらべたが、結果は処理群:0/2、対照群:0/2となり、この系での悪性化は非常に困難であることが示唆された。

《難波報告》
 N-33:培養内で4NQOによって癌化したラット肝細胞の悪性化の指標を探す試み−4NQO処理後の細胞の旋回培養法による細胞集塊形成能の経時的変化
 旋回培養法及びその実験結果については、月報7002、7004、7012に報告した。これらの以前の報告で結論されることは、発癌剤の処理を受けた細胞が動物に造腫瘍性を得るようになると、その細胞の細胞集塊能は発癌剤を処理していない対照細胞のそれに比べ、増加することであった。そこで、今回は4NQOの処理後の細胞集塊能が、経時的にどのように変わるかを検討したので報告する。
 実験方法:細胞はクローン化したラット肝細胞(LC-2)を使用し、4NQO処理は、Eagle's MEMに終濃度10-6乗Mにし、1hr処理、3日間の間隔で計2回処理した。その後経時的に約50日まで発癌剤の処理を受けた細胞の細胞集塊能を検討した。このLC-2細胞を癌化させるに必要な4NQO処理条件は、上記の条件で充分であることを、月報7009に報告した。まだ、同月報でLC-2細胞が動物に造腫瘍性を得る最短日数は4NQO処理後から復元まで28日であったことを報告した。
 実験は2回行った。最初の実験では4NQO処理後19日目に対照細胞と、処理細胞との細胞集塊は、4NQO処理細胞が対照細胞に比べ、わずかに大きくなっていた。しかし、それほど大きな差はなかった。46日目には4NQO処理では大きな細胞集塊が目立ち、その平均直径は対照細胞の約2倍に増大していた。
 そこで、これほど話がうまく行くかどうかもう一度検討した。その結果は表に示している(表を呈示)。この実験から判ることは、4NQO処理細胞の細胞集塊能は、4NQO処理後、20日ごろから対照細胞のそれに比べ、1.5倍ぐらいに増大し、以後、同程度の集塊能が4NQO処理後40日目まで、続いていることである。
 この20日目ぐらいから4NQO処理細胞と対照細胞との細胞集塊能に差が認められるようになることは、勝田先生が月報7101で述べられているごとく、(1)変異した細胞数の問題なのか、(2)悪性度の段階的進行(Progression)なのかに関連して、心に残る問題である。また、今後発癌剤の処理を受けた細胞の集塊能が未処理細胞のそれに比べ、どの程度増大したら、確実にその細胞が動物に可移植性を持つようになるのか、また4NQOの繰り返し処理は細胞の集塊能を上昇させるかといった問題を、検討したいと考えている(図を呈示)。

《山田報告》
 前回予報しましたごとく、正常ラット肝由来の培養株を、写真記録式細胞電気泳動法により分析した結果を表に示します(表を呈示)。RLT-1のコロニー株、及びRLC-10のコロニー#2は、いづれも均一な形態を示し形の上では良性株と考へられ(今の所宿主に腫瘍を形成して居ないさうです)後者はRLC-10の凍結後に生じた一コロニーださうです。RLC-10(frozen)株は、#2コロニーを除した後のRLC-10凍結後再増殖した細胞集団で、これも今の所宿主に腫瘤を作っていないさうです。
 いづれの株の泳動度分布も比較的均一ですが、RLC-10の原株程揃っていません。ノイラミニダーゼ処理を行っても、いづれの平均値の一割以上の平均泳動値の低下を認めません。しかしRLC-10(frozen)株は、検索するたびに若干泳動パターンが変化し、細胞構成が培養代数により、かなり変化する混成集団ではないかと考へられます。しかし今回も、検索した株のうちでは最もノイラミニダーゼに感受性があるのはこのRLC-10(frozen)です。
 従来の計算と同様に、各未処理細胞群のうちで、平均値より1割以上高値を示す細胞、及び各ノイラミニダーゼ処理後の細胞のうち、それぞれの対象細胞の平均値より1割以上低値を示す細胞の出現率を推定変異細胞率と仮定し、更に両出現率の積を100で割った値を最終的な綜合変異細胞出現率として計算した値を表に示しました(表を呈示)。この出現率はRLT-1Colonyに最も低く0.8、RLC-10Colony#2は2.9となりました。同じ方法による従来自然悪性化株であるRLC-10-A(最も悪性細胞の構成頻度が少いと推定される株)のこの最終出現率は3.0ですから、少くともRLT-1はまず良性株であり、RLC-10Colony#2はRLC-10-Aに近いか或いは全く良性株であるか、境界線にある株と考へられます。しかしRLC-10(frozen)は、この意味では悪性化の可能性が考へられます。結論としては、RLT-1Colony及びRLC-10Colony#2はまず良性株として、今後の4NQOによる発癌実験における母細胞に使用出来るものと考へます。

《高木報告》
 1.混合移植実験
 (1)前回の班会議で報告した如く、従来腫瘍細胞として使用していたRG-18株の腫瘍性が低下したように思われるため、古いdataと新しいdataとは比較しにくくなった。そこで現時点の細胞を用いて、この1,000、500、100、50、10ケ、および正常細胞(RL)の100万個、1,000、0の3群について実験を行っている。
 (2)以上の実験はすべて移植に関しhomologous(RG-18が)な系である。腫瘍細胞に正常細胞を混ずるとむしろtumorigenicityが促進される如き結果をえたのはこの様な実験系が影響しているのかも知れない。そこでisologousな系の混合移植実験を開始した。今回、その系の腫瘍細胞として用いるRRLC-11(従来No5Cとよんでいた細胞株、月報No7102参照)だけのtumorigenicityを示す(表を呈示)。表の如く細胞数により腫瘍発現までの日数に違いはみられるが、1,000までは100%のtumorigenicityを示した。RRLC-11細胞1,000、100、50、10とRL細胞100万個、1,000との混合移植実験を開始している。
2.Colony levelでの発癌実験について
RL細胞を用いたcolony levelの実験では14日目毎に500ケの細胞を継代しているが、現在までNG作用群と無処理群との間にplating efficiency、transformed colony数の間に、有意と思われる差はみられていない。細胞集団を用いて実験を行うべく、目下RL細胞のColonyを拾っている。

《安村報告》
 §8Azaguanine、BUdR耐性細胞株(つづき)
 第10回の班会議での報告と月報の報告が前後してしまいました。ひとつには班会議にお見せした耐性細胞の形態を示す写真があまりにもできがわるく、前回の月報のわたしの部分の討論の最後の部分に〜fibroblastと上皮細胞の違いについてワイワイガヤガヤ〜と記されているとおりだったからです。その後数回写真をとり直したのですが露出はよろしいがどういうわけか、focusのあまいものばかりです。標本をケンビ鏡でのぞいた段階では、focusはよろしいのですが、できあがった写真ではピンボケということでした。原因はいまのところ不明です。ただ今回から新しく購入(まだ金は払えない)したニコンの自動露出計つきのものを使ったことが関係していることです。現在カメラボックス部分におもわしくないところがありましたので、その部分の交換を頼んであります。いちおう標準に達している写真ができたらお見せすることにします。
 この2年あまりの耐性株としてとれたものは:
マウス滝沢肉腫細胞・8AG 50μg/ml耐性株
マウス滝沢肉腫細胞・BUdR 50μg/ml耐性株
ハムスター(SV40でinduceされたTumorから出発)HAVITO株・8AG 50μg/ml耐性株
ハクスター(SV40でinduceされたTumorから出発)HAVITO株・BUdR 50μg/ml耐性株
L細胞・BUdR 50μg/ml耐性株
等です。VERO細胞はBUdR 50μg/mlで継代は可能ですがはっきり耐性とはいえません。
8AG 5μg/mlのVERO細胞もはっきり耐性ではありません。こんご、班会議の討論にのべられた意見をふまえて実験を組立てていくつもりです。

《梅田報告》
 今迄ラット肝を酵素処理后最初から単層培養を行って、増生してくる細胞の種類夫々に対する発癌物質の作用の違い等を検討し報告してきた。一方発癌剤投与后、普通培地に戻して長期培養を行ってきたが、培養当初増生してくる肝実質細胞は次第に重なり合って束状になる傾向を示し(コントロールを含めて)間葉系細胞の方も旺盛には増加してこない。しかしそのまま培地交新を続けて培養していると、3〜6ケ月を経過して始めて敷石状の配列をした上皮性細胞が増生してくる。この細胞は既に培養当初に増殖している肝実質細胞とは形態的に又染色性において多少異っている様である。
 どうして培養当初増生している肝実質細胞が培養の途中でじり貧状態になるのか原因を知りたいと思っていたのが、この点で示唆をうけたので報告する次第です。
 培養開始后約10日、増生が止ってくる様な時期にPapの鍍銀染色を施した所、写真に示す如く、丁度肝実質細胞増生部と思われる所に茶褐色に染るプラック状のものと、黒色に染る繊細な繊維が見られる様になっている。間葉系細胞の上にはあったりなかったりで、疎に生えている所には証明されない。もっと早い培養5日目では、この様な繊細な繊維形成は全く認められない。Plaque状のものは見られても小さい。Azan染色を施してみると、之等のplaque繊維は青色に染り、膠原繊維と思って良い様である。
 我々の実験に関して問題は2つあり、1つはこの鍍銀染色で染る物質の同定で、本当に膠原繊維なのか、又は基底膜状のものなのか、知ることであろう。もう1つはこの繊維形成により肝実質細胞がまきこまれる様になって増生出来なくなる可能性が強いので、長期培養するためにはこの繊維形成を出来るだけ阻止して、肝実質細胞を増生させる方法を考えることであろう。
 後者の問題に関して先ずSodium lactateを使ってみたが、写真の如く1%の濃度で同じ培養10日目のcultureにも拘らず、繊維形成は殆んど認められない(写真を呈示)。中央部にplaqueと称したが、そのはしりの様なものが見られるに過ぎない。この濃度では増生は抑えられており、0.5%では繊維形成はコントロールと同じ位に認められる。さらに2%では既に細胞にtoxicなので使い難い様である。目下lathycogenic agentsと呼ばれている物質、Dr.LaightonのSuggesionでAscorbic acidを投与してどうなるか検討中である。

《安藤報告》
 4NQO処理L・P3細胞の増殖能の回復
 4NQO 1x10-5Mで処理されたL・P3細胞においては中性蔗糖密度勾配遠心法で見ると、そのDNAが分子量にして約10分の1に切断されていること、しかも、その場合の切断部位はDNA部分ではなく連結蛋白部分である事を報告して来た。しかもこの蛋白部分の切断は処理後の回復培養によって容易に再結合される事も報告した。今回は、このようなDNAの動きに対応して細胞の増殖能がどのように回復するかをmass culture法とcolony-formationで調べた(これは以前に報告した事の確認実験でもある)。
 L・P3のconfluent cultureを4NQO 3.3x10-6乗Mで処理し、処理後直ちに短試に分注しcellgrowthを観察したものが第1図実線の実験であり(図を呈示)、稀釋してFalcon dishにまいたものが第1表である(表を呈示)。又4NQO処理後24時間はそのままconfluentの状態で培養し、24時間後に同様に短試、シャーレ培養を行った。結果は第1図にあるように4NQO処理直後には直ちには増殖期に入らず、約1日のlagの後に対照と同じ増殖能を回復した。この事実は正に連結蛋白の再結合に約1日の培養が必要であった事とよく対応する。24時間回復培養後にまいた場合には全く対照と同じ増殖度を示した。これ等の事実は、4NQO処理によりDNA及び連結蛋白に受けた大きな障害は、増殖に関する限りは完全に回復した事を示している。コロニー形成能については、ややこの結果とは平行しない点があった。すなわち:(1)3.3x10-6乗Mにおいては、処理後0時間においても24時間においても対照とほぼ同じコロニー形成能を示した。:(2)4NQO 1x10-5乗M処理24時間においては、コロニー形成能は完全には回復してはいなかった。しかしながら、1x10-5乗Mの場合24時間で有意な回復があったと見なす事が出来るであろう(0.15%→3.9%)。
 L・P3細胞のコロニー形成を見る場合、播き込む細胞数によって形成率が変化するのでやや結果をあいまいにしている。

《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(30)
 X線と4-HAQOによって誘起された一本鎖切断が同じスピードで再結合されるとか、あるいはX線と4-HAQOによって誘起された一本鎖DNA切断の再結合が、同一代謝阻害剤で阻止されるというこれまでの実験結果が示唆するのは、両者の作用機構とその障害修復機構の類似性であったが、前報で報告したように4-HAQOとpronase、X線とpronase、あるいは4-HAQOとX線といった種々の組合せで行ったDNA切断量の変化でみた結果は、両者の作用機構はある未知の点で異なることが予想される。こういった意味から前回報告した結果の総てを包合し、またその結果を矛盾なく説明出来るように並べたのが図1である。勿論ここに示した2本のDNAstrand中に介在するpronase sensitive siteには、pronase(あるいはその他のX線や4-HAQOについても同様)処理に対して切断されやすい順位がある、という想定のもとに話を進めている。従って、例えば4-HAQO処理により、まず(1)のpronase sensitive siteが切断され、続いて処理されるpronaseによっても(1)がattackされ、余分のpronaseがあれば(2)のpronase sensitive siteを切断するというようにして説明される。このように説明してくれば、やはり問題となるのはX線処理を先行し、続いてpronaseあるいは4-HAQO処理を行う場合であって、この際には先行のX線照射によって切断されるsito(1)以外の、pronase sensitive siteも構造変化を起しているため、第二処理のpronaseあるいは4-HAQOの作用が無効になるということで説明される。いずれにしても、この辺りが4-HAQOとX線の作用の大きな違いであるように思われる。
 またX線照射によって切断されたsiteが4-HAQOによって再結合される可能性については、現在解析中である。

編集後記


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