【勝田班月報・7108】
《勝田報告》
A)初代培養による培養内癌化の実験:
JAR-1系F40、生后約1月♀を3匹使用し、その肝を部分切除した。ラッテはそのまま生かしておき、切除した肝組織をメスで細切し、10rpmの回転培養をおこなった。培地は[20%仔牛血清+0.4%ラクトアルブミン+D]で、発癌剤は初めの4日間だけ培地に入れておき、以後は全く添加しなかった。実験開始は1971-7-23。発癌剤は、DAB
1μg/ml、4NQO 10-7乗Mおよび10-6乗M、DEN 10μg/ml。結果は観察中である(表を呈示)。
B)RLC-10(2)株による発癌実験:
この細胞クローンは復元してもラッテにtakeされない。山田班員による細胞電気泳動像では、悪性型ではなく、なぎさ型か、正常型に近く、軟寒天内でも集落を形成しない。この系を4NQOで処理し、以後山田班員と協同で、逐次的その変化を追っている。
1971-6-29:4NQO、3.3x10-6乗M、30分間処理。以后、7-9、7-13、7-20、7-27に、細胞電気泳動度の検査を行った。
他に軟寒天培地内増殖能も併行してしらべている。7-5:シャーレ当り、50,000、25,000、12,500、6,250コ宛を各3個のシャーレにまいたが、3週后までコロニー形成は0。
7-26:120,000、60,000、30,000、15,000コと各3枚のシャーレにまいて観察中であるが、この時点では0となりそうである。
《梅田報告》
強力な肝発癌剤aflatoxinB1のDNA single strandに及ぼす影響について月報7012でふれた。HeLa細胞に大量の100μg/mlを投与して、1時間後の検索では、DNAはbottomに沈んでいた。10μg/mlの濃度(3日后には準致死的)で、24時間作用させた後、Alkaline
sucrose gradientにかけると、bottomから3本目迄countがあり、みだれた山を示した。この点を確かめるための実験及びneutral
sucrose gradientの実験結果を示す。
(1)図1に少し濃度を上げ32μg/ml 24時間作用させた結果を示す。検索方法は今迄と同じである。bottomのradioactivityはcontrolの70%より40%と下り、bottomより2本目にもradioactivityが認められた。更にtopの方にもcountが残った。
(2)Neutral sucrose gradientでAflatoxinB1作用の検索を行った。先ず、100μg/ml1時間作用ではcountはcontrolと同じbottomに沈んで現れた。図2は、32μg/mlで24時間作用させた結果である。図で明らかな様にcountの山が6本目にずれている。又、topの方にも軽い山が認められるが、これに意味があるかどうか不明である。recoveryについては、目下検討中。(図を呈示)
《佐藤・難波報告》
N-38:クローン化した3系のラット肝細胞の若干の細胞学的特徴と、それらのクローン細胞の癌化との関係
RLN-E7より、単個培養によってクローン化した3系、PC-2、PC-9、PC-10の細胞を使用し、それらの若干の細胞学的特徴と、4NQOによる各細胞の癌化とが如何なる関係にあるかまとめてみた。(表を呈示)
結果
1.各クローンの細胞間で同じ4NQOの処理条件によっても、癌化に差がある。
2.4NQOの細胞障害に対する感受性の高いものが、やや癌化しやすい傾向にある。
3.同一の系でも、4NQOの処理条件によって、癌化する場合としない場合がある。
4.ラット肝細胞での発癌実験では、4NQOの有効濃度は一定の範囲内にある。(10-6乗M〜3.3x10-6乗M)。
5.クロモゾームの数(モード)と4NQOの細胞障害に対する抵抗性との間には、相関はなさそうである。
6.問題点として、発癌性を比較する場合に、各系の培養細胞を同じ時点で、同じ4NQO処理を行い、同じ日に、同じ動物に、しかも大量の細胞を復元することが出来ないので、厳密に結果の1〜3を比較することが出来ない。しかしPC-10のように、非常に発癌しやすい系を利用して(勿論、自然発癌の危険性も高いと考えられるが)、発癌の過程を掘り下げるのも一方法だと考えられる。
N-39:DABで癌化した細胞の増殖に対するDABの影響
−DABの細胞障害作用に癌化した細胞は抵抗性があるか−
月報7106にDABによる発癌実験の結果を説明し、月報7107に癌化した細胞にはDAB未処理対照細胞に較べ、DABの細胞障害作用に対する抵抗性の差がそれほど認められないことを報告した。この事実を確認する為に、同型培養法でもう一度growth
curveで検討した。
実験方法
月報7107に同じ。PC-2はDAB未処理対照細胞。DT-2はDABによって癌化した腫瘍細胞の再培養。
実験結果
(1)Fig 25、26にはDAB処理時の細胞数を一定にして、DAB濃度を変えて、(2)Fig
27、28には、DABの濃度を一定にして、処理時の細胞数を変えて、対照細胞と、DAB癌化細胞の増殖に及ぼすDABの影響をみた。その結果、DABによって癌化した細胞は対照細胞に較べ、DABの細胞障害作用に、特別抵抗性があるとは考えられない(図を呈示)。
N-40:培養細胞に4NQO処理を行うことは、培養内で自然発癌した細胞を選択的に増殖させるか。
クローン化したラット肝細胞PC-2がクローン後295日(総培養日数837日)で、自然発癌したので、この再培養細胞を用いて、4NQOが培養内で自然発癌した細胞の選択的増殖に働き、癌細胞の数を増加させているかどうか検討した。
実験方法
細胞:4NQO未処理対照細胞、4NQO処理癌化細胞、4NQO処理癌化細胞の動物復元で生じた腫瘍の再培養細胞、4NQO未処理対照細胞の動物復元で生じた腫瘍の再培養細胞を、100コ宛まく。対照培地は20%BS+MEM、実験培地は上記培地内に3.3x10-8乗Mの4NQOを含む培地、いづれも1週間培養後は、20%BS+MEMで培地を更新し、更に1週間培養後コロニーを算え、対照培地中のコロニー数で4NQO培地中のコロニー数を除した。
実験結果(表を呈示)
表に示すように、この自然発癌した細胞には、特別に4NQOに対して耐性が認められなかった。従って4NQO処理は培養内で自然発癌した細胞を選択的に増殖したとは考えられない。
《高木報告》
1.混合移植実験
これまで腫瘍細胞と移植動物についてhomologousな実験系(RG-18細胞とWKAラット)、およびisologousな実験系(RRLC-11細胞とWKAラット)につき、移植動物とそのoriginが、iso-logousなuntransformed
cells(RL細胞)を混じた場合の可移植性について検討した。homo-logousな系については、先述の如くRG-18細胞の少数とRL細胞多数とを混じた場合tumori-genicityはむしろ促進の傾向がみられ、isologousな系ではRRLC-11細胞50の時はRL
100万個で抑制の傾向が、RRLC-11細胞10の時はRL
100万個で促進を思わせるdataがえられており、未だ結論が出せない。このはっきりしない理由の一つには、RRLC-11細胞を10接種する際の誤差も考慮にいれなければならないと思う。さらに観察中である。
今回は本実験をスタートした本来の趣旨からはやや外れるが、RRLC-11細胞と移植されるWKAラットに対し、全くheterologousなJTC-12(MK)細胞を混じた場合の可移植性の変化をみた。動物が死亡したりして疋数が少なくまた月も浅いが、dataはJTC-12細胞によるtumori-genicityの抑制を示すものかも知れない。heterologousなJTC-12細胞を混ずることによりRRLC-11細胞の移植動物内での増殖が抑制されることは想像される(表を呈示)。
2.Colony levelでの発癌実験
月報7102から7105まで少しずつ報告して来た本実験は、先の班会議でも述べたようにどの程度までをpiling-up
colonyと判定するか、と云う点に困難を感ずる。これは、colony
selectionでえられ、実験に供した細胞の種類によるのかも知れない。すなわち、(写真を呈示)次の写真に示すようなcolonyを形成する細胞を用いたのであるが、あるいは、もっとfibroblasticな細胞を用いたならば、はっきりしたpiling-upの像がえられたかも知れない。次に呈示した写真はisologousな系の混合移植実験に用いているRRLC-11細胞で、これだとほとんどすべてのcolonyは示すような疑もないpiling-up
colonyである。
NG 10-5乗M 2時間1回処理後3-4ケ月たっても処理細胞と対照細胞の間にcolony形成能、piling-up
colony(一応私なりに判定して)の数にちがいはみられない。1seriesの実験を示す(表を呈示)。200細胞をseedした時で括弧内はpiling-up
colony数を示す。
《山田報告》
久しぶりにヨーロッパに行き、大変楽しんで来ました。従って報告書を二カ月も書かず、申訳ありません。けれど五年に一度位は、古い国へStrangerとして訪れ、仕事のことは勿論、その他諸々の事柄をのんびりと顧みることは大変有意義であると考へました。少しヨーロッパぼけ気味ですが、改めて“ネジ"を巻きなほして仕事をやりたいと思って居ます。
再び4NQO一回処理後のラット肝細胞のin vitroにおける電気泳動的変化を検索すると共に、その抗原性の変化をStep
wiseに検索し始めました。用いた細胞は、前々回の報告に書きました様に、自然悪性化していないと考へられる株、RLC-10-Colony2で抗血清としてはこの細胞を宿主ラットJAR-2に移植後19日目に採取した抗血清を用い、その泳動測定には従来通り10mMのCaCl2を含むヴェロナール緩衝液を用いました。詳細は、次号に書くことにして今回はその結果のみを書きます。(図を呈示)図に示すごとく4NQO処理後14日目に既にその泳動パターンは著しく変化し、ノイラミニダーゼ感受性が増加して来て居ます。またその抗原性も処理後10日目には既に変化し、対照細胞に対する抗血清の反応にくらべて、4NQO処理した細胞への反応は約1/3程度に減少しています。詳細は次号に書きます。
《藤井報告》
培養内ラット肝変異細胞におけるMLTR
Culb-TC、RLC-10などの細胞に対して、同系JAR-1ラットの末梢リンパ球様細胞がin
vitroで幼若化をおこすことを報告したが、今回も同様の実験をくり返し、その再現性をたしかめた。MLTR(mixed
lymphocyte-tumor reaction)は、幾つかの報告があるが、腫瘍抗原の検出、宿主リンパ球の自家、同系腫瘍への免疫学的反応能を調べる方法としては未だ新しく、確立された方法とは云えないので、なお種々の検討が必要であろう。
今回用いた抗原刺戟細胞は、Culb-TC、Cula-TC、RLC-10-R-TC(培養ラット肝細胞が自然変異し、復元して腫瘍増殖したものの再培養株)、RLC-10-4(培養ラット肝細胞)などで、医科研癌細胞研より供与されたものである。3回、RPMI
1640で洗滌したのち、CO60で8,000γ照射した。これらの抗原刺戟細胞5万個に対し、JAR-1ラットの末梢白血球50万個を加え、4、6、8日におけるH3-TdRの幼若化リンパ球による摂取を測定した。
照射Culb-TC、Cula-TC、RLC-10-R-TC、RLC-10-4のいづれにおいても培養4日あたりまでH3-TdRの摂取がみとめられたが、6日、8日で急激に減少した。顕微鏡下の観察では、照射腫瘍細胞は6日、8日までかなり残っているが、多くはガラス面より離れており、変性、死の経過をとっていると思われた。
リンパ球様細胞との混合培養において、H3-TdRの摂取は6日をピークとして、8日で急激に減少する。各細胞のMLTRを図に示したが、幼若化刺戟の強さは、Culb-TC、RLC-10-R-TC、Cula-TCと次いで対照のRLC-10-4であった。
最近マウス脾細胞と同系腫瘍細胞間のMLTRもうまくゆくようになった。(図を呈示)
《安藤報告》
連結蛋白質切断の再結合に対するモノヨード醋酸の効果
4NQOにより細胞内で切断された連結蛋白質の再結合に対して、DNA合成阻害剤(cytosine
arabinoside、hydroxyurea)、蛋白合成阻害剤(cycloheximide)は全く阻害効果を示さなかった。
今回は更に生体反応のおおもとに帰って、細胞のエネルギー産生反応に効果を持つ薬剤を選んで調べてみた。先ずモノヨード醋酸(MIA)のFM3A細胞の生長に対する効果を調べた。Fig
1に見られるように10-6乗M迄はno effect、5x10-6乗Mから阻害が現れ、10-5乗Mでは完全に阻害が見られた。
月報No.7106に記したようにaraCの場合には薬剤そのものによって、DNAの切断が起こってしまった。その点をMIAについて調べてみた所、10-5乗Mでは6時間ですでに切れ始め、24時間では相当程度切れてしまう事がわかった(Fig
2)。5x10-6乗Mではそれが見られなかった。したがって今回は5x10-6乗M
MIA存在下、連結蛋白切断の再結合実験を行った。
Fig 3に見られるように4NQO 10-6乗M 30分処理後7時間回復培養を行った所、ほぼ完全に再結合が起っていた(Fig
3a)。MIAの無処理細胞に対する切断効果はなかった(Fig
3b)。
4NQO処理細胞をMIA 5x10-6乗M存在下に回復を行わせた場合、(a)の場合と全く同様な再結合が起っていた(Fig
3c)。すなわち、MIAは本条件下では連結蛋白切断の再結合には効果はない。但しFig
1(b)に見られるように5x10-6乗MというMIAの濃度は細胞の増殖を完全に抑制する濃度ではないので問題である。この点は更に検討し細胞増殖は抑制されるが、DNAの切断は起さないような条件をさがして再実験を行う予定である。
いずれもう少しdataがそろったところで、総括する予定であるが、現在迄の所を概括すると以下のようになる。(1)4NQOによって切断された連結蛋白はDNAの一重鎖切断よりも緩慢な速度で修復される。(2)(1)の反応にはDNA合成、蛋白合成は不要である。(3)(1)の反応には生体エネルギーの産生は不要であるようだ。このような事実から一体どのような反応機構を考えたらよいのであろうか。少くともエネルギー的出納のない可逆反応の一つである事が考えられる。次の班会議ではもう少し詳しく議論したい。
《堀川報告》
毎年7月には琵琶湖で放射線生物若手研究会なるものを開催し、今年は迎えて第4回の研究会にあたりましたが、毎年この研究会は私共金沢グループが中心になって御世話するので、その方に力を取られ今月号の月報に報告すべきデータも整理出来ないままになってしまいました。悪しからず御容赦下さい。
仕事は相変らず、DNA鎖中に存在する可能性のあるresidual
proteinを追っています。これは御存知の様に量的にも非常に微量なので、その存在を決定的に示すことは非常に困難です。あの手この手と方法をかえれば、その存在を示唆するデータは次から次と出て来ますが、そうかといって最後の決め手になるものは何一つ得られません。従ってデータが蓄積すればする程、自分でも滑稽に思えて仕方ありません。しかし何とかならぬものかと暑い中を頑張っているところです。
一方、HeLa原株細胞から5-BUdRとphotonを併用しての、photodynamic
actionによって、selectしたUV感受性細胞はいよいよ本物であることが分ってきました。
これらには紫外線照射によってDNA中に出来たthymine
dimerを切り出す機構が、完全に近い程度に無いことが分ってきました。
従って人間の遺伝病として知られるXeroderma
pigmentosumの如き細胞が、HeLa細胞のようなものの中にも存在すると考えられます。しかし、もともとの生体組織中にこのようなHeteroの状態でTT
dimer除去細胞と非除去細胞が存在していたかどうか、あるいは培養瓶の中で飼うようになってからこのような細胞が出現したかどうかについては現段階では解答は出せません。また今後の問題として、UV照射によって生成されたTT
dimerを除去し得る細胞と除去出来ない細胞で、どちらが化学発癌剤処理によって発癌が容易であるかを検討するため、現在はまったく腫瘍性を示さないmouse
L細胞を使って前記のHeLa細胞と同様に、UV感受性と耐性株の分離を行っていますので、近い将来にこれらについての解答も得られるものと思っています。今回は最初に述べたような都合で、実際の仕事の結果を報告出来ませんでしたので、現在私共がやっている仕事の進行状況を報告するにとどめさせていただきます。