【勝田班月報・7201】
《勝田報告》
§ラッテ肝、同細胞株RLC-10(2)、悪性変異株RLT-1(a)、その復元後の再培養株CulaTC、CulbTCについての、LDH及びG6PDHのアイソザイムの分析:
前報において各種細胞のLDH及びG6PDHのアイソザイムの分析結果を報告したが、今回は上記の細胞について検討した。
RLC-10(2)はラッテに可移植性を示さぬ系である。RLT-1(a)は、RLC-10原株より4NQO処理で悪性化した系RLT-1を軟寒天培地に移し、残生した細胞を増殖させた系である。CulaTCはRLT-1を復元して生じた腫瘍の再培養株、CulbTCはRLT-2の復元後の再培養株である。
分析法は前月号の報告と同じである。
結果は結論をさきに簡単に云えば、LDHもG6PDHもともに、細胞が悪性化しても、そのアイソザイム像に差が出ないということである。
動物の肝組織の分離の悪いのは、色々な細胞が混在しているためと思われる。またRLC-10(2)のLDHの像が前月号のRLC-10-Bの像と異なるように見えるが後者はくりかえしてみると、前者と同様な像も示し、泳動時間の影響と判った。RLC-10-Bは自然発癌した亜株である。(図を呈示)
《高木報告》
1972の新春を御慶び申し上げます。
本年度、私共は2つの実験計画をたてております。すなわち
1.RRLC-11細胞の培地中に放出する細胞毒性物質を或程度まで化学的に分析し、又この細胞と他の様々な正常細胞とのinteractionについて主としてcolony
levelで検討する。
2.培養内癌化の指標としてのsoft agarの検討、つまりsoft
agarの培地成分を検討して、せめて私共の実験系についてだけでも、悪性化した細胞をselectiveにとり出すような培養系を追求したい。
いろいろと御指導を仰ぎ、また御願いをすることもあるかと思いますが、何卒よろしく御願いします。
RRLC-11細胞と非腫瘍細胞との培養内における相互作用:
毒性物質の性状に関して現在化学的なapproachを行うべく予備実験にかかっているが、この毒性物質の放出される度合は培養条件により可成り動揺するようである。たとえば最初の報告(7110)では、RRLC-11細胞はRFLC-3細胞を変性せしめるが、RFLC-5細胞とは共存すると述べたが、この後RFLC-5細胞も変性することが分った。これが培養条件のちがいによるものか、細胞側に問題があるのか判断に困難を感ずるが、細胞のpopulationが差程動くことは考えられず、培養条件、たとえば血清のちがいと云ったことに問題のweightはあるのではないかと考えている。これまでに行った実験の中RFLC-1、C-3、C-5などの、WKA
rat肺由来細胞についてRRLC-11細胞との混合培養の結果、C-1細胞はよく共存してcolonyを作るが、時々一部変性を示すこともある。C-3細胞は最も毒性にsensitiveであり、C-5細胞は一部生残るようなこともあるが、大体変性をおこす。つぎに、岡大難波氏から分与をうけたLC-14(Donryu
rat肝由来、上皮性)については、大体共存してcolonyを作るように思われる。但、上述の如くC-3、C-5は、再現性に問題がある。写真がよくとれていることを確かめた上で、Falcon
petri dishのcolony countingを行う予定であるので正確なdataは今回は報告出来ないが、以下に写真を供覧する。
写真1〜4:混合培養のコロニー(シャーレ)と、細胞形態。
《佐藤報告》
RadioautographyによるH3-DABの細胞内とりこみについて(表を呈示)
細胞はPC-2:RLN-E7→543日single→1079日実験
PCC-2:RLN-E7→543日single→692日colonial→1027日実験
PC-14:RLN-E7→543日single→692日colonial→713日single→999日実験
RPDT-2:RLN-E7→543日single→DAB処理53日→rat
ascites→再培養919日実験
方法は前回に示したとうりで、投与後1hr、24hr、48hr、72hrの処理を行った。各100コの細胞内銀粒子数を数えた。銀粒子は核と細胞質にdiffuseにあり、局在性は認められなかった。(図を呈示)すべてピークのある分布を示し、数の多いのは細部質が大きい傾向にある。これはcell
cycle、single cellからのmutation、subculture後の日数等による影響などが考えられ今後の検討を要する。
細胞当りの銀粒子の平均値、peakの点をとってみると、DAB添加1hr.で急速に銀粒子の数を増し、24hr.以後では銀粒子数は略一定となる。一定値に達する時間、タンパク結合DABの分解時間、DAB蓄積等の問題については今後検討の予定である。
表の0hr.でBackの銀粒子が多い。今後技術的な問題として改良したい。しかし、1hr.以後の細胞外銀粒子数と0hr.でのBackと同程度であること、及び図2からTCA2回の洗滌でfreeのDABはとりのぞかれること、細胞外銀粒子の中には細胞質崩壊によるタンパク結合DABはほとんどないと解釈される。
《藤井報告》
“がん"と同種移植免疫の仕事をいくつかやってきて、この班でのがん抗原の仕事ほどうまく行かず、御役に立たなかったことはありません。移植免疫とかけ持ちでこちらの仕事に集中しなかったことは勿論、非力でありながら、うかうかとむつかしい仕事を受けて、5年もすぎてしまったことを、申訳なく思っています。あと3ケ月、何とか折角緒についたmixed
lymphocyte-tumor reactionを少しでものばしたいと思っています。宜しく。
(図を呈示)図は、Culbがんの組織培養したものCulb-TCと、それをJAR-1
rat(adult)の腹腔内に接種して、腹水型腫瘍となったもので、接種后13日と24日の腫瘍細胞を刺戟細胞とし、反応細胞として、A)Culb接種(皮下)后24日、B)Culb皮下接種后13日、C)Culb腹腔内接種后24日、D)Culb腹腔内接種后13日、E)正常JAR-1ラット、のそれぞれの末梢白血球とを、混合培養したときの、リンパ球幼若化にともなうH3-TdRの摂取です。抗原刺戟細胞には、CO60で4,000R照射したもの5万個、反応細胞には、リンパ様細胞50万個を各チューブに入れて混合培養しています。詳細は既報のとおり。
(図を呈示)図で見られるように、培養Culb(Culb-TC)を刺戟細胞としたときが、リンパ球の反応が高いが、その中でも正常ラットのリンパ球の反応が最も高く、担癌ラットのはいづれも正常ラットより低い。その順はC、D、B、Aで、Culb接種后の日数とは必ずしも関係しないようである。
腹腔内で増殖したCulb細胞を刺戟細胞とすると、リンパ球刺戟効果はCulb-TC(培養細胞)より低く、しかも接種后日数が多い24日の方が13日より低い。
担癌ラットのリンパ球のMLTR(mixed lymphocyte-tumor
reaction)が低いのは、担癌体の免疫反応性の低いことと関係づけられるようですが、担癌体の末梢血中のリンパ球が少なくなったからか、あるいはリンパ球自身の反応能が低くなったのか依然としてわかりません。最近流行のT-cell(thymus-dependent
lymphocyte)、B-cell(bonn marrow-dependent
lymphocyte)の区別がMLTRの反応系でしらべられたら、その辺もわかってくるかも知れませんので、目下思案中です。
もう一つ、in vivo tumor cellsの方がcultured
tumor cellsより、リンパ球刺戟能において劣る成績は、Culb-TCと、C57BLマウスのFriend's
virus発癌腫瘍、erythroblastoma(FA/C/2、医科研、制癌、小高助教授)でのMLTRでも以前に得ていることですが、おそらくin
vivoで、腫瘍細胞の表面に特異的に抗体が、あるいは非特異的にγ-グロブリンその他、何かが附着して、リンパ球への刺戟をブロックしているのでないかと考えられます。いわゆるimmunological
enhancement現象の立場を支持する考えで、その方から検討を進めています。(写真を呈示)写真は上記のMLTR実験のうちの、Culb-TCと正常JAR-1ラット・リンパ球の混合培養6日の細胞のオートラヂオグラムです。このtubeのH3-TdRとり込みによるcpmは、4,682で、Culb-TCのみの対照は128、リンパ球のみの対照は141です。培養6日では、残っているリンパ球は非常に減少していますが、大型の細胞と小数ながら小型の円形核の細胞にH3-TdRのグレーンがみられます。
最近、外科研究部のグループで人癌の培養と、それを使ってMLTRその他を試みています。第1例のWilms'tumorで患者の末梢リンパ球が、かなり反応した成績がえられています。紙面の都合、次回まわしにします。
《難波報告》
N-58:4NQO誘導体(4HAQO、2-Me-4NQO、6-Carboxy-4NQO)による培養ラット肝細胞の培養内癌化(月報7107に一部報告)
培養内の発癌の仕事を更に発展させる為には、培養ラット肝細胞を4NQOより効率よく癌化させる薬剤を探すことも一方法である。従って、表題に述べた3種の薬剤を用い、クローン化したラット肝細胞の癌化を検討した。
[実験方法]
1.細胞:PC-14系・RLN-E7(生後5日目のラット肝より培養)培養543日目のクローン・PC-2、途中凍結299日、713日目再クローン・PC-14→746日目に実験開始。
2.薬剤処理:4HAQO、2-Me-4NQO、6-Caroxy-4NQOをエタノールに10-3乗Mに溶き、PBSで終濃度3.3x10-6乗Mに稀釋し、TD40に細胞がほぼ一杯に生えた時期に、30分37℃処理して、その後、20%BS+MEM培地にもどし、3日後同条件で薬剤処理をもう一度行なった。
[結果]
1.各薬剤のCytocidal activity(位相差顕微鏡による形態的観察):薬剤処理直後の細胞障害は4HAQO・2-Me-4NQO>6-Carboxy-4NQO・4NQOであった。3日後の観察では、2-Me-4NQOに一番強く細胞障害が残っていた。
2.復元成績:(表を呈示)以上の実験からまだ決定的なことは云えないが、培養ラット肝細胞の発癌実験には、6-Carboxy-4NQOが有効と考えられる。この組合せは更に追求すべきと考えられる。2-Me-4NQO、4HAQO処理群のものは、処理後培養日数が長くたつと造腫瘍性の低下がみられる。
N-59:DABで培養内で癌化した細胞の増殖及び細胞凝集に及ぼすPHAの影響
月報7111にConA、WGA、RRの、DAB悪性化細胞、その他対照肝細胞の細胞凝集に及ぼす影響を報告した。今回はそれにPHAのデータを追加する。
1.細胞凝集能:実験条件は月報7111に同じ。(表を呈示)表に示したごとく細胞凝集をおこすPHAの最終稀釋濃度は、対照細胞、DAB悪性化細胞の両者に於て差がなかった。
N-60:ConA、WGA、PHAによる生後1ケ月のラット肝細胞の細胞凝集能
ConA、WGA、PHAの細胞凝集能を、生後1ケ月のラット肝細胞で検討し、培養肝細胞の成績と比較した。
肝実質遊離細胞は上西法により得た。得られた細胞をギムザ染色して検討した結果、99%以上の純度で肝実質細胞が得られた。この遊離肝細胞のConA、WGA、PHAによる凝集性は、ConA、PHAで250μg/mlで凝集した(表を呈示)。まだ、胎児、新生児、乳児ラットの肝細胞などでこの実験を行っていないが、次のことが考えられる。
ConAなどによる細胞凝集能の上昇が、細胞がより未分化な方向(状態)にあることを示すとすれば、培養された肝細胞はすでに未分化な状態になっており、この状態のもとに発癌剤を処理し細胞を癌化させても、この造腫瘍性を獲得するまでの変化は、生体内から生体外へ肝細胞が移され培養株化する迄の変化に比べ小さいと推定される。
N-61:培養内でDABで癌化したラット肝細胞の旋回培養による細胞凝集能の検討
癌化の指標を探す試みとして、従来4NQO系の実験で報告してきた方法に準じ、DABで癌化した細胞の凝集能を検討し、その結果をDAB未処理細胞肝細胞の結果と比較した。実験を2回行なった結果、いづれの場合にも細胞凝集塊の大きさは、DABで癌化した細胞>DAB未処理培養肝細胞の関係が成立した。第一回の実験で、両系のそれぞれの100コの細胞集塊の平均直径は、0.047mm(DAB悪性化)>0.041mm(DAB未処理)であった。
(第二回の実験データは現在計算中)
《黒木報告》
帰国してから早くも4ケ月たち、いくつかのprojectsをたてて実験していますが、まだ何の成果もあがっていません。研究projectsの主なものは、次の四つです。
1.in vitroにおけるNitrosobutylureaにより白血病を作ろうとしています。しかし、骨髄細胞の培養がうまくいかず、PHA、conditioned
medium、feeder cells、bacto-peptoneなど、いずれも増殖を誘導できないことが分りました。MEM+10%FCSを主として用いていますが、今後は高濃度のaspartic
acidを加えてみる積りです。
2.3T3細胞のchemical carcinogenesis in
vitro
現在Meloy Lab.におられる高野先生が、Balb3T3でDMBAによるきれいなtransformationを得ておられるので、この細胞を用いて、発ガンの細胞環との関連におけるanalysisを考えてます。Dr.AaronsonからBalb3T3をとり寄せたのですが、血清の問題で3ケ月ももたついてます。というのは、日本の血清(医科研、千葉血清のCS)ではcontact
inhibitedの3T3を維持できず、どうしてもFCSまたはColorado
Serum Co.のCSを使はねばならないことが分りました。Colorado
Serumをやっととり寄せたら、動物検疫の問題で羽田税関で差しおさえられたままの現状です。このほかNCIの井川君(癌研)を通じて、3T3FL、3T3NIH、Balb3T3も入手したので目下テスト中です。
ラット、ハムスターから3T3細胞の樹立をattemptしましたが、contaminationにより失ってしまった。
3.4NQOの高分子への結合の問題
目下H3-4NQOの合成依頼をしているところ、64万円の見積(第一化学)を三カ月ねばって、合成法をかえ21万円までに値下げしてもらいました。合成できたら、必要の方にお分けします。主にh.proteinの分離精製を行うつもりです。
4.cAMP-receptor proteinの分離
いくつかの実験事実から、癌とcAMPの関係についての新しい分野が今後開かれるであろうことが、想像されます。その実験事実とは
(1)PuckらによってcAMPにより可逆的にcotactinhibit.の回復がみられること。
(2)contact inhibitedの細胞の細胞内のcAMP量が増加すること。
(3)E.coliなどのexp.で、transcriptionにcAMPとcAMP-receptor
proteinの関与が明らかにされたこと。
(4)E.coliから分離されたcAMP-receptor proteinは分子量、Ipなどから、h-proteinに酷似していること。などです。
このため、cAMPの次のstepとしてのreceptor
proteinを考え、分離に着手しました。目下assay条件の検討中ですが、Sephadex
G25の小さいカラムを用いることになりそうです。この問題は至急、3.の4NQOのh-proteinとからみ合せながら、発展させるつもりです。
§無蛋白無脂質培地におけるコロニー形成について§
当研究室には、無蛋白、無脂質の完全合成培地で増殖できる細胞がたくさん培養されています。しかし、それらに共通しているのは、うえこみ細胞数が少くなると(約1万個/ml)まったく増殖できなくなることです。しかし、これらの細胞もfeeder
layerを用いると、10%以上のコロニー形成率を示すことがわかりました。すなはち、4,000r照射(CO60)L・P3を20万個/60mmdishにまき、翌日L・P3を500ケplateすると8%のコロニーが得られた。3%以下の血清添加は増殖を促進するようである(コロニーの大きさから)
《梅田報告》
昨年を振り返ってみるとあまり思わしい仕事をせず、おおいに反省しています。暮れになってやっと超遠心の仕事が又軌道にのってきたので、ここらで今迄の遅れを一気にとり戻そうと勢こんでいます。
昨年月報7112に、DABのproximate carcinogenと考えられているbenzoyloxy-monomethyl
aminoazobenzen(B-MAB)投与によるラット肝、肺の形態的変化について報告しました。今回はB-MABを投与した場合の核酸合成能に及ぼす影響、更にalkaline
sucrose gradient上にのせ振った場合についての結果を報告します。
(1)Flying cover glass法による摂り込み実験、即ちこの場合はハムスター胎児細胞を円形カバーグラス上に定量的に植えこみ、2日后B-MABを各種濃度で投与し、1時間後にH3-TdR、H3-Leuを夫々投与して更に1時間培養し、細胞に摂り込まれた放射能をgas
flow counterで測定する方法をとりました。
(図を呈示)図に示す様に、10-3.5乗M投与で、H3-Leuの摂り込みがやや残っている程度の差で、特異的に合成阻害を示す様な結果は得られませんでした。
(2)このB-MABを培養当初に投与后、長期培養継代したラット肝培養で、非常に奇麗な上皮性の細胞が生えている細胞系があるので、この細胞を使って超遠心の仕事をしてみました。予めH3-TdRでprelabelし、B-MABを投与1時間后にalkaline
sucrose(5〜20%)の上にのせ、30,000rpm90分で遠心してみました。
(図を呈示)図に示すごとく、10-3.0乗M投与明らかなbreakが認められませんでした。10-3.5乗Mの所は4本目にピークがあり、テクニカルにやや自信がないのですが、コントロールと較べてSingle
strand breakを起すことには違いない様です。
ハムスター胎児細胞を用いて同じ超遠心実験を行ったのですが、この方は更にテクニカルの失敗で、ここに示せる様なdataではないのですが、breakを起したと解釈して良い様なdataです。
B-MABはDABよりproximateな形になっているわけですから、当然ハムスターの繊維芽細胞でもbreakを起しておかしくないので、今后再検するかたわら、DAB投与での結果と比較してみたいと計画しています。
《山田報告》
今年は改めてin vitro発癌に伴うphenotypicalな変化を免疫学的な方面より検索して行きたいと考えて居ります。
培養細胞の抗原性の比較:培養細胞のtumorigenicityが、そのoriginal
animalに対して抗原性が異なるゆえに、宿主へのtransplantabilityによって証明出来ない可能性があることは、昨年来、この班会議上問題になって居ます。そこで12月中に種々の培養細胞の抗原性を各種培養細胞について、細胞電気泳動的に検索しました。これまでの結果を表にまとめます(表を呈示)。即ち宿主としてはJAR-2ラット(AH62F-TCのみはドンリュウラット)で、抗血清は0.5ml、細胞は200万個(水分量2ml)で、37℃、10分(抗血清)、30分(感作ラット脾リンパ球様細胞1,000万個)作用後、食塩で2回洗い10mMのカルシウムを含むMichaelis等張ヴェロナール緩衝液(pH7.0)内にて泳動速度を測定。対照としては、aliquotのSampleを測定した(56℃30分あらかじめ非活性化したもの)結果と比較。抗血清及び感作リンパ球は宿主へ移植後、18〜23日までに採取したもの。
検索した細胞のうち最も強く抗血清に反応したものは、JTC-25・P3で、次にAH62FTCです。後者は最近自分で培養したDAB腹水肝癌の培養株で、同種ラットであるドンリューへ復元していますので、反応が強いのは当然ですが、こうやって比較すると改めて「なぎさ培養株であるJTC-25・P3」は元来その抗原性がoriginalラットと著しく異なることが理解されます。次に反応の強い細胞はJTC-15(AH66)です。これは腹水肝癌の一系であるながら、一時宿主へのtransplantabilityが消失したというエピソードのある系ですので、宿主の血清と反応するであらうと云うことは理解出来ます。この三系以外は反応は若干弱くなりますが、それでもRLT系中では、CulbTC(RLT-2TC)が若干他と比較すると反応が強い様です。またその表面構造が他とかなり異ると思われるJTC-24・P3も、かなり抗血清と反応しています。これに対して興味あることは、JTC-16(AH7974)が全く反応して居ないことで、これは二回検索しましたが、略々同じ結果を得ました。
感作リンパ球との反応はすべての系について検索してありませんが、最も強く反応したのが、やはりJTC-15(AH66)であり、次にAH62FTCです。次に案外に抗血清の反応と比較してこの感作リンパ球が反応したのがCulbTCです。AH7974(JTC-16)は感作リンパ球にも反応しません。なほ、更にこの検索を続けて、抗原性と移植性、そして腫瘍性の証明にぶいて分析してみたいと思っております。
ConcanavalinAの反応機序;
前報に若干書きましたごとく、細胞電気泳動法によりConcanavalinAの細胞凝集機序を解析して居ります。ラット腹水肝癌AH62F、AH66F
200万個に対し5〜250μg/mlの濃度のCon.Aを反応させ(10分、37℃、水分量2ml、mediumは生食)、これをヴェロナール緩衝液内で測定。AH62Fはシアリダーゼに対する感受性が一般に弱く、悪性度の少い細胞であり、AH66Fはシアリダーゼによく反応し悪性度の強い(宿主ラットは平均5日〜6日で死亡)細胞ですが、両者へのCon.Aの反応度はかなり異り、AH-66Fはより微量のCon.Aに反応します。しかしいづれも図に示します様に、微量の5〜20μg/ml濃度でその泳動度が上昇し、それより高濃度のCon.Aではかへって泳動度が低下し、そこで始めて凝集が起こる様です。この反応の様式は明らかに陽イオンポリマーなどによるイオン結合による凝集とは異ります。面白いことは、予めシアリダーゼ処理を行っておくと、更に微量のCon.Aと反応し、しかも微量のCon.Aとの反応による泳動度の増加が促進されました。このことはCon.Aが反応するd-Mannoseとその末梢にあるノイラミン酸との相互の関係に一つの解析を行へる可能性が生まれました。
《堀川報告》
多忙だった1971年もあっという間に過ぎてしまい早くも1972年の新春を迎えました。毎年のことながら年頭にあたっては、いつも今年こそはあれもこれもやってみたいと思いをめぐらせていますが、その実一年をふり返ってみると常にその半分も出来ていないという結果になって、がっかりさせられます。どうせ半分しか出来ないならば、最初に思いきり計画をぐっと大きくしておけばよいではないかとも思いますが、それにも限度があって仲々できません。
さてそうもボソボソ年頭から云っている訳にもいかず、とにかく今年も大いに皆様と一緒に頑張りたいと思います。どうかよろしくお願い致します。
ところでDNA鎖中にタンパク様物質(residual
protein)の存在を思わせるデータが、このところあちこちの研究室からも出されるようになったが、今回はLettら(1970)が行った実験を追試してみた結果について報告する。つまり0.1M
NaOH、0.9M NaCl、0.01M EDTAを含む5−20%alkaline
sucrose gradient上に0.5M NaOHと0.1M EDTAから成るlysis溶液をのせ、そこにあらかじめH3-TdRでlabelしたマウスL細胞を2000〜3000個加えて、種々の時間lysisさせたのち超遠心にかけてsedimentation
profileの動きを調べた結果を図に示す。
図1と図2では僅かに異ったspeedで遠心した後のsedimentation
profileの変化示したものであるが、これからわかるように、alkaline
sucrose gradient上のlysis溶液中で細胞をlysisする時間が長ければ長い程、一本鎖DNAは低分子化することがわかる。つまりこうした結果はLettら(1970)の暗示した高等動物細胞のDNA鎖中には、アルカリに対して非常に不安定な部分、恐らく、タンパク様物質が存在するのではないかという考えを明らかに支持するものである。一方neutral
sucrose gradient上のlysis溶液中で細胞をlysisさせる時間を長くした場合にはどの様になるかを現在検討中であるので追って報告する。しかし現在までに得られた予備実験では2%SIS
lysis溶液中での細胞のlysis時間には二本鎖DNAのsizeはほとんど影響を受けないという結果が得られている。いづれにしても本年度はこのDNA鎖中に含まれるアルカリあるいは各種タンパク分解酵素に不安定な部位の本体解明を、まずおし進めなければならない。特にElkindら、あるいはLettらさえも、このような物質の存在をspeculateしている現在、その本体を適確に把握することが急がれよう。
《永井報告》
昨年はこの班でいろいろなことを学び、研究の上でもまた、それを離れた場においても、よい刺戟を受け、何かと想い出の多い一年でしたが、今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
私共の受け持っています培養癌細胞に毒性代謝物質の研究も、一つの歴史をつくりつつあるようで、昨年は勝田先生がこのテーマで内藤奨学金を授与されるなど、本研究に対して大きなバックアップが与えられていますが、今年はこれに何とか応えてゆきたいものと考えております。遅々とした歩みではありますが、化学的研究の面で毒性物質の正体に一日も早くお目にかかりたいものと張り切っているところです。毒性物質を含む培養液を多量に集められないのが、一つの問題ですが、これも何とか解決したい問題です。現在までのところ、毒性物質は数個のアミノ酸残基から成るペプチドか異常アミノ酸のようなものではないかと予想していますが、果してそのような結果になりますか。
また、昨年から始めましたイノシトール要求性株を使っての研究もあります。現在までにイノシトールに生物界における存在意義が全くわかっていないことを考えると、このイノシトール研究がどにょうな途を拓いてくれるかが楽しみです。現在までに要求性株に外から与えられたミオイノシトールが、急速にイノシトール燐脂質へと転換されること、要求性株は多量のミオイノゾーズを与えることによってミオイノシトール無しで培養を続けることができるが、シロイノシトールによっては保持できないことなどがわかってきていますが、この問題も一歩一歩攻めたててゆきたいものと思っています。
このような具合で、今年も皆様の御助言、御指導をお願いいたします。
《佐藤茂秋報告》
(1)吉田腹水肝癌AH7974細胞の組織培養系(JTC-16)はin
vitroでは、I、 型ヘキソキナーゼしか持たないが、これをラット腹腔に戻し移植すると、I、 型ヘキソキナーゼに加え 型が出現する事、及びこの培養細胞をdiffusion
Chamberに入れてラット腹腔に挿入すると24時間後に 型ヘキソキナーゼが出現する事は前回報告した。今回は、diffusion
chamberを12時間後からとり出してそのヘキソキナーゼを調べたところ、すでに12時間目で 型ヘキソキナーゼが出現していた。但し今回の実験ではdiffusion
chamber内の細胞のviabilityが低く、ヘキソキナーゼの比活性も低かったので、再度、同様の実験をくり返えしている。又in
vitroで 型を誘導する事が出来るかを、培養中にラットの腹水、血清を入れてみる事、又、培養液中のグルコーズ濃度を変化させる事等により試みる予定である。
(2)マウス脳腫瘍細胞の組織培養は一時in vitroでの増殖が悪く、継代もむずかしい事があったが、培養200日をすぎる頃から、又増殖が盛んになって来た。これについてはアルドラーゼのアイソザイムパターン、S-100蛋白質をマーカーにその表現形質を調べて行く予定であるが、同時にcyclic
AMP、BUdR等の効果も調べたい。
(3)ラット肝細胞の培養系(RLC-10)について、肝実質細胞のマーカーとされている酵素、Glucose-6-phosphataseの活性を調べたところ、正常肝の約1/2の比活性を持っていた。この酵素活性がほとんどないと報告されている吉田腹水肝癌細胞の培養系についても調べ、この酵素がin
vitroでも真に、肝細胞のマーカーとなり得るか否かを検討中である。
《安藤報告》
細胞DNAのAggregationの可能性の検討
これ迄、皆様方に指摘されて来た問題ですが、細胞DNAが中性蔗糖密度勾配遠心の際に、aggregateとして沈降しているために、DNAピークはsharpになり、4NQO作用を受けた時も、heteroなピークにならない可能性がある。この点に関する既知の知見としてはファージT4のDNAが遠心条件によってaggregateを形成する事が知られている。すなわち、DNA濃度が高い程、又遠心力が強い程、DNAはaggregateし易くなる(Rosenbloomら)。これは、10の7乗ダルトン以下のDNAには見られない。
この点を確める事と沈降式のkを求めるために、T4DNA(H3)とλDNAをrpmを変えた三つの条件下に遠心した。(図を呈示)図に見られるようにλDNAはaggregateの傾向はないが、T4DNAの場合には30,000rpm以上になると、aggregateを生じ底に沈降する分劃が現れてくる。したがって1.3x10の8乗ダルトンというT4のDNAについては、10,000rpm以下で遠心を行えば問題はないという事になる。それでは、培養細胞のDNAはどうであろうか。この問題に入る前にもう一つ解決しておかなくてはならない点は、沈降式のKを求める事である。すなわち沈降常数(s)、沈降距離(d)、遠心回転数(w)、遠心時間(t)式を立てる(式を呈示)
さて、この式からS値の未知のDNAを同条件で遠心し、w、t、dを測定すれば、S値が計算される事になる。
したがってL・P3 DNAについて次の二点を調べた。(1)我々の用いている条件で、L・P3
DNAがaggregateしているとすればrpmを下げた場合S値がより小さいmonomerの出現が観察されるか、(2)S値がrpmに依存してどのように変化するか。
結果は図に見られるように、5段階の遠心条件下のS値の変化を見ると相当なばらつきはあるが、平均値を見るとrpmが低下する程逆にS値は大きくなる。したがって、上記の第1点は満されなかった。少くも5,000rpm迄はS値は大きくなる一方で、monomerの出現はなかった。又遂にはじめからL・P3
DNAはaggregateではなくmonomerである可能性も若干残されているものと思われる。いずれにしても5,000rpm以下の遠心条件で更に検討しなければならないが、実際的には連続100時間以上の遠心は不可能である。
以上の実験から結論される事は、(1)この方法によって分析しているDNAは、著しいS値のrmp依存性を示す。この点は繊維状の高分子物質の通性である。(2)monomerかaggregateかの問題に関しては結論はえられなかった(図表を呈示)。