【勝田班月報・7211】
《勝田報告:学会便り》
 いまNew YorkのRockefeller UniversityのGuest Houseにいます。すごく立派な部屋で、2.5室+トイレバスです。ホテルだと70$位だろうとのことです。昨日は一日中東大薬学卒の高野君の世話になってしまいましたが、実に色々の機械が揃っており、金工、木工などの専門家もいるので、器械はは買ったあとどんどん改造してしまい、超遠沈器のローターなどは自分のところで作ってしまうという始末です。構内は実にきれいで、木も茂っており感じの良い大学です。今朝(10月19日)起きてみたら、おどろいたことに雪が降っています。積もるかどうかは判りませんが。
 ManchesterのSymposiumは、とても愉快でした。30人だけのmeetingに2日半を使いましたので、Discussionもさかんで、マイクの奪い合いという感じで、ボヤボヤしているとマイクが廻ってこない状態でした。全体の総論としてはbiologistsとbiochemistsとの論争で、とにかくさかんな討論でした。一部は録音してありますから御希望の方にはおきかせしましょう。
 Heidelbergerは二題しゃべりましたが、epoxideが有効であることの主張で、[うちの黒木がハムスターembryonic cellsを4NQOで発癌させた]などと云ったのにはおどろきました。しかしepoxideん不安定性については、ずい分たたかれていました。
 ある人が、Histoneが癌細胞をやっつけるなどと云うことをしゃべったら、これも物凄くやっつけられていました。Lasnitskiは例によってorgan cultureでしたが、histological specimenの写真が抜群にきれいで感心しました。Dr.Iypeはratのadultからliver cellsを培養し(F-10)、色々の酵素活性ん維持を、各種にわたってしらべたもので、形態的にはうちのliver cellsとよく似ていました。ただし、発癌実験にはまだ全然成功していません。色々な人が、carcinogenesisという言葉を使うことに遠慮して、sarcomagenesisとかonco-genesisとか云っていたのは、少くとも一歩の進歩だと思いました。Paulは癌とは何か、などと私が去年云ったようなことを別の面から云っていました。

《堀川報告》
 10月は金沢での放射線影響学会、名古屋での癌学会、千葉での組織培養学会と学会がつづいたため、これといったまとまりのある仕事は出来なかったので、今回は現在私どもが体細胞遺伝学の研究の一環として突然変異の機構解析に使用している、Chinese hamster hai細胞についてUV照射によりinduceされたTTの除去能を検索したので、その結果について報告する。
 これまで度々報告してきたように、HeLaS3細胞では200ergs/平方mmのUV照射によりDNA中にinduceされたTTの約50%を切除する能力をもつが、マウスL細胞にはこのような除去機構はUV照射後まったく認められない。これに対し、Chinese hamster hai細胞はどのようであるかを図に示した(図を呈示)。この図から分かるように200ergs/平方mm照射後12時間以内に約20%のTTを切り出す能力をもつことがわかる。つまりマウスL細胞と、HeLaS3細胞の丁度中間型であるといえよう。こうした結果は5〜20%sucrose gradient centrifugation法によっても確認された。従って以上の実験から今後私共が体細胞突然変異の研究に各種細胞を使用する際にはUV照射による修復一つを取ってみても、このように違った性質をもつものであることを考慮しなければならないことを示していると思われる。

《野瀬報告》
 Alkaline phosphatase活性の調節(5)
 先月の月報ではdibutyryl cAMPとtheophyllinでALP Iを誘導したJTC-25・P5 cl-1細胞からdibut.cAMPを除去すると、直ちにALP-I活性が減少することを報告した。ALP-Iそのものは37℃でも安定で4日間までは失活がほとんど見られないので、dibut.cAMP除去による活性低下は細胞の代謝と関連した現象と考えられる。
 次に、同様に誘導した細胞に、dibut.cAMP、theophyllin存在下に、蛋白、RNA合成の阻害剤を加えて、活性の変化を見た(図を呈示)。誘導物質の作用がALP-Iの合成を促進する点にあるのなら、蛋白合成阻害剤により誘導物質除去と同様のALP-I活性低下が見られるはずである。しかし結果は、cycloheximide添加群でも活性の低下がほとんどないことを示している。このことは誘導物質(dibut.cAMP+theophyllin)が、正常細胞では起きているALP-Iの分解を抑制している可能性を示唆している。
 酵素活性の変動の機構として、いろいろの可能性が考えられるが、合成過程の調節だけでなく酵素の分解反応の調節も重要であろう。細胞の悪性変異などの場合のような持続的変化も、細胞内物質のあるものが分解されず蓄積しているため生じるという可能性も考えられるからである。
 ALP-Iのturnoverのうち、分解系が抑えられ、これが永続的になれば、細胞の形質として、ALP-I constitutiveとなるであろう。JTC-21・P3細胞は何ら誘導処理を行わなくてもALP-Iの比活性が非常に高く、いわゆるconstitutiveな株である。(図を呈示)次の図では、この細胞にcycloheximide、actinomycinDを加えた時のALP-I活性の変化を見た。cycloheximide5μg/mlで蛋白合成をほぼ完全に抑制しても、ALP-I活性は対照群と変わらない。従って、Constitutiveな株ではALP-Iの分解がほとんどないことが示された。
 JTC-25・P5とJTC-21・P3とは共にrat liver由来のなぎさ変異株であるが、ALP-Iのような酵素活性の調節については並列的に比較できないかも知れない。図1と2の結果は、まだ予備的レベルであり、活性だけでなく酵素蛋白の変化として見ないと断定することはできないと思われる。
 (図を呈示)図3は、ALP-I constitutiveであるJTC-21・P3のALP-I活性を変化させる条件を検討した例である。ここでは5-bromodeoxyuridine存在下で培養を続けると、次第にALP-Iの比活性が低下した。JTC-21・P3のALP-I活性も、ある条件下では変動することもある。5-bromodeoxyuridineは、ALP活性を増加させることが知られているが、細胞株がちがうと全く逆の減少を起こすこともある事を示している。この例は脱分化と言われる現象に属すのかも知れない。

《山田報告》
 20μg/ml濃度のConAを腹水肝癌AH62Fの各増殖時期の細胞と接触させた後の、それぞれの電気泳動度の増加率を検索しました。(図を呈示)図に示すごとく、どうやら、ConAの作用は増殖の盛んな状態(シアル酸依存荷電の増加する状態)により著明に作用することがわかりました。その後ConAの作用に対する(But)2CiAMPの抑制作用を調べていますが、まだはっきりとした結論を得て居ません。20μg/mlのConAの作用に対する(But)2CiAMP、CiAMP及びAMPの影響を表に示します(表を呈示)。少くともAMPそのものは全く効果がないと思われます。
《高木報告》
 1.培養内悪性化の示標について
 1)血清因子除去血清の作製
 これまで血清を硫安塩析後水で透析し、セロファン膜を用いて濃縮し、塩類液で原量にもどしたものを使用したが、この方法では正常血清をセロファン膜で濃縮する操作のみで正常、腫瘍細胞ともPEが著明に低下することが判った。今回は血清を塩析、透析後凍結乾燥し、Hanks液で原量にもどしたものを用いて実験を行っている。
 2)Soft agar法にかわり黒木氏の平板寒天法を使用してみた。未だ1回の実験であるが、MEM+0.1%Bactopeptone+10%FCS培地0.5%agarの条件下で、RFLC-5細胞はコロニーを形成せず、RRLC-11細胞は13%程度のPEを示した。この際、細胞数は100/petri dishであった。無処理のFCSを用いてRFL細胞はコロニーを作らなかったが、血清因子除去血清では如何になるか検討中である。なお平板寒天法は操作が容易であるので、今後本法を用いて実験してみたい。
 2.RRLC-11細胞の放出する毒性物質
 その後の検索の結果、ウィルスであることが明らかになった。これまでのデータをまとめてみると、以下の通りであり、さらに検討中である。
 限外濾過:毒性物質は濾過されない。はじめ外液に活性があったのは、恐らくtechniqueの問題があったのではないかと思う。
 超遠心:40,000rpm 2時間で上清は完全に毒性を失う。30,000rpm1時間では上清に残る。 -20℃凍結保存:4週間は活性を失わない。
 温度:75℃ 30分で失活、65℃ 30分で部分的失活、60分ではいずれも失活。
 pH:酸性側で活性ややよわまる。
 column cromatography:Sephadex G200でeluteしOD280でみた時、一番最初のピークに活性がある。
RFLC-5細胞にpassageするとtiterが上る。RRLC-11細胞の電顕像ではC粒子と思われるものをわずかに散見するが、RFLC-5細胞に作用させ変性しかかった時期の培地を集めて超遠心後、negative stainingすると、ウィルスと思われるものを認める。

《黒木報告》
 §化学発癌剤でトランスホームした細胞の糖輸送能§
 ウィルスでトランスホームした細胞の糖輸送能の変化は、かなりよく調べられていて、大凡次のような結論が得られている。すなわち腫瘍ウィルスDNA型ではKmは一定、Vmaxは上昇、メカニズムは量的変化。RNA型ではKmは低下、Vmaxは不定、メカニズムは質的変化である。Kawai、Hanafusaによると、この変化(RNA型ウィルスの)はvirus genomeに直接dependentしている。すなわち、ts変異株を用いて、permissive→←non-permissiveにかえると、それに伴い糖輸送能も変化する。
化学物質でトランスホームした細胞の糖輸送能をとりあげた理由は、(1)膜の変化の一つの指標として、(2)もしRNA型ウィルスが存在すれば、Km、Vmax値から推測できるかもしれない、の2点である。
 (表を呈示)方法は表に記した。2-deoxy D-glucoseは膜を通ったのち、hexokinaseでリン酸化されるステップで反応がとまる。したがってとりこみの変化は膜輸送能とhexokinaseの2つの因子に支配されている。(図を呈示)図はとりこみ値(n moles/mg protein/min)と、糖の濃度(mmoles)を、Lineweaver-Burkの方法でプロットした図である。1つはハムスター胎児細胞とその4NQO、4HAQOによるトランスホーム細胞、次はBALB 3T3とそのDMBAによるトランスホーム細胞である。図から明らかのようにKm値(X軸へのそう入値)は一定であるが、Vmax(Y軸と交わる点)はトランスホームによって上昇している。次の表はKm、Vmaxをまとめたものである(表を呈示)。
 今後の問題として、(1)この成績を一般化するために、さらに多くの細胞を用いる。前立腺細胞とそのchemical transformantsを用いるべく、Dr.Heidelbergerと交渉中である。(2)dibutyryl cyclic AMPのとりこみに及ぼす変化。これらの実験が終り次第、BBRCにでも送ろうと考えている。
 

編集後記


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