【勝田班月報・7205】
《勝田報告》
A)培養内発癌実験:
1)月報No.7202に報告したExp.C57の実験であるが、これはラッテ腹膜細胞の株RPL-1(2倍体range)をニトロソグアニジンで1μg/ml
30分1回処理したもので、処理約1.5月后にラッテにI.P.で復元接種したところ、約2ケ月で1/2匹に接種部位の皮下に小豆大の腫瘤形成が認められた。対照群には腫瘤は見られていない。
このRPL-1:NGの実験系はさらに新しくまた開始し、これは初めから顕微鏡映画で追っている。
2)4NQO実験(Exp.CQ#68)
これはラッテ肝由来のRLC-10(2)(腫瘍を作らぬcoloinal
clone)を用いての実験で、これまでにも屡々報告したものであるが、4NQO処理群では、第1回の復元をしてから約1カ月より、腹水中に腫瘍細胞が見られるようになり、約7ケ月后に1/2が腫瘍死した。残りの1匹も腹部皮下径約3cmの腫瘤を作り、日増しに大きくなりつつある。
ところが、対照群は7ケ月迄は腹水中に腫瘍細胞もなく、腫瘤も認められなかったが、7.5ケ月頃より1/2匹に突然腹水が貯まりはじめ、8ケ月后には腫瘍死してしまった。
第2回の復元実験はやはりI.P.で、1/2匹は約5ケ月で腫瘍死し、残りの1匹も皮下に腫瘤を形成している。処理后の培養期間の長い方が生存日数が短いということになるが、これだけの実験では結論を早急に引き出すわけには行かない。他の実験でも意識的にこの点を追究してみる必要があると思われる。殊に今年度は、Cell
populationの内での腫瘍細胞の%が与える影響を一つのテーマとしているので、果して癌化の過程に段階的な悪性化があるのか、それとも細胞数の問題だけなのか、充分に検討してみる必要があると思う。殊に後者の場合には、そこに宿主の免疫学的反応を考慮に入れなくてはならないことになる。
この実験では、対照群は2匹とも現在までのとこと異常は認められない。
B)肝癌細胞の毒性代謝物質:
これまで永井班友と共同で[血清蛋白+DM-145]の培地で増殖しているラッテ腹水肝癌AH-7974(JTC-16株)についてその毒性代謝物質の本態を追究してきたが、今回は佐藤茂秋班員とも共同研究をはじめ、この方は合成培地内(DM-145)で増殖するようになったJTC-16・P3を用い、培養した培地から毒性物質を精製する試みをおこなっている。
1)Diafilter500を使って、まず培地の濃縮を図っているが、血清培地内で増殖しているJTC-16よりも毒性が弱いので、分劃して行く上に若干の苦労はある。しかし増殖阻害をおこす傾向は認められた。定量的なデータは次回に発表できる予定である。
2)JTC-16・P3について、
染色体数−
JTC-16の原株(血清培地にて継代)は染色体数最頻値が80〜90本となって居り、しかも幅の広い染色体数分布を示している。これを復元して再培養した系から、軟寒天培地で5種類のclonesを拾ったが、これらの染色体最頻値は85、80、76、73、44と夫々相異なっていた。合成培地内継代のJTC-16・P3については目下分析中であるが、どうも44本近辺に集まっている模様である。
復元接種試験−
300〜500万個のJTC-16・P3を生后約1ケ月のJAR-2系ラッテに復元接種し、7〜20日后に屠殺したところ、腫瘍細胞の一杯につまった白色の腹水の充分な貯溜を認めた。またこの細胞は合成培地に入れるとすぐ増殖をはじめた。JTC-16原株を復元した場合には出血性の腹水が貯まるが、JTC-16・P3では非出血性である点が興味深い。
継代−
同じく純合成培地内継代株で、L・P3やJTC-25・P3に比べると、JTC-16・P3はさらに極端に細胞膜が弱いので、Rubber
cleanerでこすったりすると、それだけで50%位の細胞が死んでしまう。そこで継代には、旧培地に等量の新培地を加えた上、瓶を振り、その液を次の瓶に移す方法を採っているが、これだと4日に1回はsubcultureが可能である。なお、この細胞は、顕微鏡映画撮影によると、かなりの歩行性を示し、一杯のFull
sheetになっても、川の澱みのような流動的な動きを示す。
《梅田報告》
(1)前回の月報(7204)でaflatoxin存在下で、4NQOにより切断されたDNAの回復が遅れる可能性を示した。非常に興味ある所見と思われるので更に時間をかけた時の回復の模様を調べた。3回実験を行ってみたが、あまりきれいな結果の得られないもの(2回)もあったが、どれも同じ様な傾向は示していた。一番奇麗と思われるデータを報告する。
実験はHeLa細胞を用い予めH3-TdRで前処置しておいた。4NQO処理する時の細胞数は13万個cells/mlで予定よりやや少な目になって了った。4NQO
10-6乗M 1時間処理して、細胞を洗って無処置培地に戻したものは3日后、46万個cells/ml(コントロール58万個cells/ml)となり良く回復していることを示している。これに反し、回復培養の時10μg/mlaflatoxinB1を入れておいたものは、3日后に5.5万個cells/mlを示し、極端な細胞数の減少を示している。この場合、aflatoxinB1は3日間入れ放してある。このaflatoxinB1だけの処理では9.1万個cells/mlであった。(夫々図を呈示)。
この回復の模様を4時間目、8時間目に超遠心機でまわした。いつものalkaline
sucrose gradientで遠心は30,000rpm 90'行った。4NQO1時間処理(A)で切断されたDNAは回復培養4時間后(B)では明らかな回復の徴候を示しているのに、aflaoxinB1
10μg/ml存在下では(A)より回復が進んでいると思われるものの(B)と較べると明らかな回復の遅れが認められる。回復培養8時間目のものは、底より4、7本目にピークがあって、この解釈は私にはわからないが、aflatoxinB1存在下でDNA鎖はまだより短鎖のまま残っていることがわかる。aflatoxinB1だけの処理で8時間目では(F)、やや小さなDNA断端が増している様であるが、底に40%のcountが集りまだ著明な断裂は進んでいない時期と解釈される。
目下この考え方を布延して、諸々のDNA鎖を切りそうにない発癌剤によるこの様な効果の有無を調べること、又4NQOとaflatoxinB1併用による発癌実験を組むことを考えている。
(2)以上の実験を含め、超遠心の実験を行うにあたって、どうも切断の程度が強すぎている様な結果があった。特に今、種々の細胞株による4NQOによる切断及びその回復能の違いを検討しているが、かなりのデータが失敗して了った。良くデータを検討した所、原因はH3-TdR処理が強すぎた様である。即ち、少数細胞の時にH3-TdRのかなりの量を投与したため、H3による細胞障害の弊害が出てきて了ったと考えられる。あわててH3-TdR処理をもっとmildな方法に、即ち分割投与にするべく計画変更した所である。
《乾報告》
1)試験管内Transformed細胞の指標としての染色体Banding
Patternに関する基礎研究:
試験管内癌細胞の染色体は一般に起原細胞のそれと比較して変異を示すが、その変異の方向に一定性がなく、又長期間培養による自然転換細胞の染色体変異に比して何らの特色を示さない。一方、Caspersson、Evans、Hsu等によって、キナクリンマスタード蛍光染色法、核蛋白変性法等の手技を用い人間の染色体上のBanding
Patternが明らかにされ、染色体上のHeterochromatin分布を定めることにより、一本一本の染色体の識別が可能になった。培養細胞の染色体のBanding
Patternを観察することにより、染色体の数、形態変化の起る前に、変異細胞を識別する目的で、Hsu(Chromosome
34,243)、Evans(Nature N.B.232,31)等、人間の染色体染色の方法を様々に変法し、正常ハムスター雄細胞で染色体のBanding
Patternを得た。(核型図を呈示。ハムスター細胞では、Hsuの変法、Rapid
Trypsin法が、Banding Pattern染色に適当と思われる)。Hsuの変法によると、従来識別困難であったNo.3と4、No.6〜9、No.16〜19の染色体が容易に識別出来る上、染色体各々に特色あるBandが表われた。今後これらの方法を用い癌細胞、発癌過程の培養細胞の染色体の解析を試みて行きたい。
2)黄色種タバコタール各分劃の発癌性の検定:
昨年黄色種タバコの粗タールを授乳期ハムスターに投与し、細胞の悪性化を報告した。現在、呈示した図の方法で粗タールの分劃を試み、中性、酸性、アルカリ性分劃を同様にハムスター細胞に投与しタバコタール中の癌原性物質の分析を試みている。タール各分劃の培養細胞に対する急性毒性は、アルカリ、酸、中性分劃の順で、中性分劃の細胞毒性は非常に弱く、250μg/ml作用群においても著明な毒性は認められない。現在、これら分劃を100μg/ml、50μg/ml、3時間細胞に作用し、観察中(約60日)である。作用後28日で酸性分劃投与群、36日で中性分劃投与群に細胞の形態転換がみられた。
《黒木報告》
Replica Cultureについて(1)
FM3A細胞を用いて、バイ菌の場合と全く同じようにreplica
cultureを試みた。
replica cultureを行うと思った動機はRosenkranzの制ガン剤及び発ガン剤screening法をmammalian
cellに応用したかったからである。すなわちRosenkranzの方法はDNA
damageに対するrepair(-)の菌に制ガン剤のdiscをのせ、その阻止輪の大きさからDNAに対する傷害をみる方法である。そのためには、従来の経験からFM3Aが最適のように思われた。FM3Aからrepair(-)またはUVsensitiveの細胞をとるためには、BUdR→光照射よりもreplica法の方がより容易であるし、replica
cultureとしての面白味もある。またFM3Aが寒天表面で増殖可能であることは、すでに仙台にいたとき確めてある。
1.寒天の濃度と種類
(表を呈示)表に示すように、Noble-agarの方がBacto-agarよりもはるかによいコロニー形成率を示す。特にagarの濃度をあげたとき、両者の差は著明であった。(*P.E.:60mm
dishni指示した濃度の寒天を5ml加え、ふらん室でやや表面を乾かせたのち、FM3A細胞100ケを含む培地0.1mlを添加表面に撒布した。培地は10%CSを含むMEM、寒天には0.1%Bacto-peptoneが含まれている。**100mmシャーレに12mlの寒天、その上に200ケの細胞を含む培地0.2mlを撒布した。(細胞のコロニーと位相差像の写真を呈示)。
2.Replica cultureの試み
以上のように、非常にはっきりした丁度バイ菌と同じようなコロニーを作ることができたので、バイ菌と同じ方法でReplica
cultureを試みた。
(図を呈示)図のようなアルミの台の上にビロードの布地をのせ、リングで固定する。このビロードの上にコロニーの生えた寒天を軽くのせ、コロニーをビロードの毛の間にうつしとる。次に細胞の生えていないシャーレ(0.75%寒天培地)を軽くのせて、コロニーをうつしとる。表は4種類の布地によるreplicaの率である(表を呈示)。(A)は、医科研細菌感染部で細菌replicaに用いている布地。(B)は、化せんベルベット。ベルベットは本来絹製であるが、非常に高価であり、夏場には余りおいてない。ほとんどが化センである。(C)は、木綿別珍。(D)は化せんベルベット、この布地は水を吸いとらないため、3回目以降はコロニーがspreadして、colony数のcountができなかった。
表にみるように、replica率は布地によって著しく異る。(D)がもっともよいが、この布地は水分を全く吸わないため、三枚目頃より布地上に水が残り、そのためコロニーが、spread
outしてしまう。(A)(B)(C)は何枚replicaをとっても布地はdryであり、増殖してきたコロニーもきれいであるが、何としてもreplica率が悪い。目下(D)で寒天濃度を1%にすること、(A)(B)(C)では0.5%の寒天を用いることを考えている。
このほか、FM3Aがもしserum-free mediaでgrowthできれば、amino
acidのrequirementのmutantもひろえるので、MEM
only、DM-120、F12で培養を試みた。その結果MEM、F12では最初の1代の継代のみ可能、DM120では3代まで継代したが、その後だめになった。しかし、培地をかえることにより今後serum
freeでも増殖可能の細胞のとれる可能性はある。
《山田報告》
今月は種々雑用が重なり、加えて技術員の交代があり、実験が思う様に進みませんでした。培養学会の、“細胞の変異と表層膜の関連性について”の特定演題に応募した都合上、ConcanavalinAの作用について、培養細胞を用いて検索してみました。(反応条件はNo.7207に記載したものと、同一です)。
(表を呈示)表に示すごとく、ラット培養肝癌細胞であるJTC-16(AH7974)は、5μg/mlの低濃度のConA.を加へると、著しくその電気泳動度は上昇し、20μg/ml以上の濃度のConA.により低下し、biphasicな反応を示しました。凝集は20μg/mlの濃度のConA.でやや起こり、100μg/mlの濃度で完全に起こりました。
これに対し、なぎさ培養株JTC-25は100μg/mlのConA.でも著明な凝集は起こりませんでしたが、その電気泳動度をしらべると、やはりbiphasicな変化を示しました。しかし、その泳動度の上昇する濃度は20μg/mlであり、その上昇率は低い様です。
これらの変化は腹水肝癌細胞について検索した結果(No.7207)と同一です。更に良性、悪性細胞に対比して検索してみたいと思います。
《高木報告》
RRLC-11細胞の放出する毒性物質:
この2月以来RRLC-11細胞の放出する毒性物質の毒性が低下し、実験の進捗に支障を来している。いろいろな原因が考えられるが、最近の実験に用いた牛胎児血清は培地(MEM)に加えた場合pHの可成りの低下がみられ(酸性に傾く)、この血清を用い始めたのと期を一にして毒性が低下したので、血清が主たる原因ではないかと考えている。但pHが酸性に傾くことの因果関係は分らない。一方細胞側の感受性の変化も因子として考えられるので、現在手持ちの細胞につき(RFLC-1、C-3、C-5)弱い毒性ながらも細胞増殖に対する抑制効果を調べてみた。RRLC-11細胞を培養した培地を20%の割合に、これら“正常"細胞の培地に培養開始と同時に加え、2日目に同じ培地でrefeedして4日目に細胞数を算定し、対照の細胞の4日目の細胞数に対する百分率を示す(図を呈示)。現時点ではRFLC-1細胞に最も強い毒作用がみられるようで、RFLC-3細胞は全く影響をうけず、RFLC-5細胞はその継代の系(1、3、4)により感受性が違うようである。RFLC-5細胞の中系1と系3、4を分けて継代しはじめたのが昨年8月24日、また系3と系4を分けて継代はじめたのが本年1月9日である。少くとも位相差顕微鏡による観察ではこれら細胞間に形態の相異は気ずかない。染色標本は目下作製中である。ここに用いた細胞はcolonial
cloneで単一細胞から増殖したか否かについて疑義があるが、何等かの原因で細胞集団として継代の期間中に感受性が変化したことを認めざるをえない。RRLC-11細胞の培地中の血清を変えて目下毒性の恢復を待っているが、RFLC-1細胞は増殖がおそいので、RFLC-5細胞の系1または系4を用い、また出来るだけ同じlotの血清を用いて実験を進める予定である。
RRLC-11細胞とRFLC-3細胞との混合培養:
両細胞の混合培養で混ぜる時期と細胞毒作用との関係を観察した。すなわち
1)両細胞を200ケずつ同時に植込んだ群(14日間培養)
2)RFLC-3細胞を200ケ植込み、5日後にRRLC-11細胞200ケ植込んでさらに10日間培養した群(計15日間培養)。
3)RRLC-11細胞を200ケ植込み、5日後にRFLC-3細胞200ケ植込んでさらに10日間培養した群(計15日間培養)。
4)RFLC-3細胞を200ケ植込み、10日後にRRLC-11細胞200ケ植込んでさらに10日間(計20日間)培養した群。
以上の4実験を行った。1回行っただけなので参考dataとしか云えないが、次の様な結果をえた(表を呈示)。
RRLC-11細胞とRFLC-3細胞とを同時に植込んだ場合、それぞれのコロニー数は72と82であり、RRLC-11細胞を先に植込みRFLC-3細胞を5日後に植込んだ場合のコロニー数はそれぞれ76と79で、以上1)、2)の実験では似通った結果をえた。しかし、RFLC-3細胞200ケを先に植込み5日後にRRLC-11細胞を同数植込んだ3)の実験では、RRLC-11細胞の小さいコロニー数は98でRFLC-3細胞のコロニーは27であり、それらは多少とも変性の像を示し、完全に変性をおこし脱落したと思われるコロニーの跡もみられた。予想としては、RFLC-3細胞を先に植込み、次いでRRLC-11細胞を植込んだ方がその逆の場合よりRFLC-3細胞のコロニーのうけるdamageは少いのではないかと考えたが結果はこれに反し、いささかparadoxicalな感がしないでもない。さらに検討したいと思う。実験4)は培養日数が長いためか細胞のovergrowthと培地の栄養が不足したためと思われる変性像があり、コロニー数は算定出来なかった。
培養内悪性化の示標について:
Serum factor freeの血清を用いた培地でRRLC-11細胞、RFLC-5細胞の増殖に及ぼす影響をみているが、今回は硫安1/2飽和でserum
factorを除いてみた。作製法が悪かったためか、この方法でえたserum
factor free血清を用いた培地は両細胞共に増殖を強く抑制した。さしあたり、硫安1/3飽和でえたserum
factor free血清(月報7203)を用いてsoft agarの実験を行っている。
《野瀬報告》
(1)培養細胞の形質発現の調節:
細胞の持つ形質を問題として取り上げる場合、形質そのものの量的、質的研究をする立場と、遺伝子から形質発現までの過程を調べる立場の2つが考えられる。癌研究においても、癌細胞のいろいろな形質をしらみつぶしに調べ、正常細胞との違いを見出すことにより癌を理解する方法論があるが、莫大なdataにくらべ本質はあまりわかってこなかったような気がする。これに対し、癌化を形質そのものの変化ではなく、それの背後にある調節機構の面から解析しようという方向もあり、この方向は比較的未知な事柄が多く、細胞の代謝調節も含めて癌化の研究にとって有効であると思われる。
実験系としては、細胞の形質が少量の細胞で、容易に検出できることが望ましいが、この条件を満足させる酵素の一つとしてalkaline
phosphataseがある。この酵素はHeLaで、hydrocortisone処理によって活性誘導が見られることが既に知られており、その他にも誘導する条件が見つかっていることから、酵素誘導の研究材料として適していると思われる。
alkaline phosphataseの若干の性質は月報No.7107に述べてあるが、活性の測定は表に示したincubation
mixtureを用いて行っている(表を呈示)。最初に、各種の条件下で、各種の細胞株について酵素の活性誘導が起こるかどうか検討したが、ラット肝由来のJTC-25・P3(RLH-5・P3)細胞は、dibutyryl
cAMPにより著しい活性上昇を起こすことが判った。Controlの未処理細胞は、alkaline
phosphataseI活性が比活性(mμmole p-nitrophenol/hr/mg
protein)にして100以下であるのに対し、dibutyryl
cAMP 0.25mM、Theophyllin 1mM加え、37℃で4日間培養した細胞は、約3000程度に上昇する。この活性誘導は、Actinomycin
D、cycloheximideによって阻害され、cytosine
arabinosideでは阻害されない。一方alkalinephosphatase は誘導されなかった。dibutyryl
cAMPを加えて培養するとJTC-25・P3細胞は偽足を長くのばし、紡錘型になったが、alkaline
phosphataseが誘導されないL・P3では形態的にも変化は認められなかった。JTC-25・P3はタンパク、脂質を含まない完全合成培地で増殖するため、誘導機構を細かく調べるのに有利な株を考えられる。
(2)培地中への細胞内酵素の分泌:
癌患者の血清中には正常時と較べ、ある種の酵素活性が増加したり、減少したりすることが一般に知られている。この現象は癌の診断に使われるのと同時に癌細胞の一つの特性として細胞内酵素の流出に変化が生じていることを示唆する。血清を含まない培地で培養している細胞は血清中酵素、酵素阻害剤の影響なしに細胞分泌された酵素を測定するのに有利である。
酵素としては、DNase、RNase、Alkaline phosphataseIの3種類を調べた。DNase、RNaseは、JTC-21・P3、JTC-25・P3、JTC-16・P3、L・P3などで細胞内活性とほぼ同量、培地中に検出された。この活性は単に細胞がlysisして放出されたのではないことは、acid
phosphatase、β-glucronidaseは培地中にほとんど検出されなかったことから示唆される。
現在、この分泌機構、特に細胞膜の変化との関連で研究を進行させている。
《藤井報告》
Mixed lymphocyte-tumor reaction(MLTR)の仕事が不充分であるということと、班の仕事で癌化細胞の可移植性について手伝え、ということでふたたび呼び戻されました。
それから本年から外科研究部を改め癌病態研究部となりました。診療科の方は外科診療科のままで、病院で外科をやることには変りないのですが、研究所附属病院の研究部として、研究の方向なり内容を表わす名称にしようということでこうなったのだと思います。英文名はDepartment
of clinical oncologyです。出戻りの御挨拶と共によろしくねがいます。
Culb-TC、RLT-2、RLC-10の癌化細胞から正常培養肝細胞にいたる一連の株細胞の同系JAR-1ラットリンパ球に対する幼若化刺激能に差があり、癌化(Culb-TC)、変異(RLT-2)、正常(RLC-10)の順であったが、この実験では変異株に癌抗原がないとは云えず、むしろ癌化細胞のpopulationが低いからではないかという提言が勝田教授からありました。抗原刺激細胞数を5万個としたときの成績が上のようになったわけで、変異RLT-2株細胞がRLC-10より高いことは、RLT-2にもRLC-10にない何かがあることを示唆しています。それが、Culb-TCと同じ抗原かどうかはわかりませんが、この辺りの解析を今やり始めています。Culb-TC
irradiated、Friend's virus infected Culb-TCに対するisoantibodiesができた所です。
研究部で協力して乳癌、胃癌、Wilm's腫瘍、神経芽細胞腫などについて、細胞培養、MLTRをやっています。現在まで19例ですが、MLTRが陽性と出たもの5例です。刺激細胞としては生の腫瘍細胞が主で、壊れた細胞が多く問題です。Wilm's腫瘍と、pleural
mesotheliomaでは培養細胞の方が、とり立ての細胞よりMLTRが高く出ましたが、これはラット、マウス腫瘍のばあいと同じ成績です。
《堀川報告》
HeLaS3原株細胞とこの原株細胞から分離したUV感受性株S-2M細胞を、4-NQOまたは4-HAQOで処理した後に出てくるコロニー数及び極度にpiled
upしていると思われるコロニー数を算定した結果はいづれもS-2M細胞から多くのコロニーが出てくることを前報で報告したが、今回はこうした結果を更に確かめるため次のような実験を行った。
まずHeLaS3細胞とS-2M細胞を、各種濃度の4-NQOまたは4-HAQOを含むmedium内で12〜14日間培養した後に出現するそれぞれのコロニー数から計算した濃度−生存率関係は、確かに4-NQOまたは4-HAQOに対してS-2M細胞はsensitiveであることが再確認された(図を呈示)。ついて100万個づつHeLaS3細胞およびS-2M細胞を4-NQOまたは4-HAQOで処理する段階において、(前回はTD-40瓶に細胞を植え込んでから24時間incubateした後にcarcinogensで処理をするという方法をとったが、この際もし24時間のうちにS-2M細胞の倍加がHeLaS3原株細胞よりも常に早く起きるためS-2M細胞の方から常に生存コロニー及びpiled
upコロニーが多く出現するという“ありそうもない"危険性を考慮して)今回は100万個づつの細胞をそれぞれTD-40瓶に植え込む際に2x10-6乗M
4NQOまたは7.5x10-6乗M 4-HAQOを加え、4-NQOの場合はそれぞれ1、2、3日間処理した後正常培地と交換し、また4-HAQOの場合は同様に2、4、5日間処理した後正常培地にかえて、それぞれ15日後に瓶当りに出現する総コロニー数及びpiledupコロニー数を算定した。前報を同様の方法で結果を示す(表を呈示)。
これらの結果からわかるように、carcinogens処理後に出現するコロニー及びpiled
upコロニーの数は前回の結果と同様にいづれもS-2M細胞の方から圧倒的に多く出ることがわかる。何故carcinogensにsensitiveなS-2M細胞の方から多くのコロニーが出現するか、またこのように出現するコロニーは一体何物なのかといった問題の解析が今後に残されている。