【勝田班月報・7301】
《勝田報告》
“培養肝細胞の遺伝子表現と発癌”についてのシンポジウムについて
 表記の件について、ロスアンゼルスのカリフォルニア大学のDr.Gerschensonから新年早々に手紙が届きました。内容の概略は次の通りです。(来年3月の予定)
 (手紙のコピーを呈示)

《山田報告》
 今年から当研究室でも本格的(?)に細胞培養をしようかと計画して居りますが、うまく行きますか・・・。
 暮に久しぶりで正常ラット培養肝細胞を梅田さんの研究室より貰ひ検査してみました。引続き数回もらへる予定でおりましたが、その後増え方が遅い様で、一回切りの実験になってしまいました。
 RLC-10のごとく均一な細胞を期待したのですが、どうもうまくゆかず、“なぎさ細胞型”の電気泳動パターンを示しました。どうもその割に均一なpopulationではない様に思われます。しかし平均泳動値はかなり遅い様です。
 ついでにConcanavalinAを作用させてみましたが、これは正常細胞型の反応で、肝癌細胞にみられる様な著明な泳動度の増加が10μgの薄い濃度のConAにより起こりませんでした。この株からクローン化すれば、典型的正常肝細胞株がとれるかもしれません。今後に期待したいと思います。(図表を呈示)

《堀川報告》
 1972年はアメリカ放射線影響学会に出席したり、秋には金沢で日本放射線影響学会の世話をしたりして多忙な一年でしたが、今年はどのようになりますか。昨年暮には講師の二階堂君をマンチェスターのパターソン研究所に送り出したため、その分だけ仕事が多くなり、この分では今年もまた多忙な一年になりそうです。
 さて今年の抱負ですが、本年こそはMutagenesisとCarcinogenesisの関係をはっきりさせたいと思っています。培養されたChinese hamster細胞を使って、cell levelでのmutationの機構を解析することは、将来発癌機構の本体を知る上に非常に重要なことだと思うからです。ただこの仕事の泣きどころは細胞のgrowthが早いのと、実験回数が多いのとで多量の子牛血清を入手しなければならない点です。どこかに安く入手出来る子牛血清はないものでしょうか。
 またこれ以外の仕事として今年こそある程度目安をつけたいものとして、cell cycleを通じての放射線及び化学発癌剤に対する感受性支配要因の解析と、HeLaS3細胞及びマウスL細胞から分離したUV感受性細胞の、あと始末をやってしまいたいと思います。これらの仕事はいづれも最終的には発癌機構の解析と関連があるだけに何とかそこまで仕事を発展させたいと思っているところです。
 毎年のことながら年頭にあたっては、今年こそはあの仕事もこの仕事もどこどこまでやってしまおうなどと大きな希望を抱くのですが、一年が終ってみると、常にその1/3位しか進んでいないでがっかりさせられます。どうか班員の皆さんの変らぬ叱咤激励を希望しております。

《高木報告》
 昨年の年頭のprojectとしてRRLC-11細胞の放出する毒性物質の追求と、培養内癌化の指標としてのsoft agarの再検討の2つをあげました。本年度は次の様に計画しています。
 1.培養内癌化の指標としてのsoft agarの検討
 昨年は血清を硫安で処理してserum factor freeとし、これを用いた培地によりRRLC-11、RFLC-5細胞のgrowth curveとcolony形成能を観察したが、作製法に問題があるのかgrowth curveでは差異がみられたがcolony levelでは対照の培養でも充分なCFEがえられず判然とせぬままに終った。今年度は技術的な面も検討し、また細胞種も上記2種以外のものも用いて結果の如何を問わずはっきりしたdataを早く出したいと考えている。
 2.RRLC-11細胞より分離された毒性物質(virus)の追求
 毒性物質はvirusであることが判明し、はじめの予想とやや違った方向に展開して来た。しかし未だ本態はつかめていない。電顕写真にあらわれたいくつかの粒子の中どれが目指すvirusか検討しなければならない。そのためまずvirusの精製、物理化学的性質の究明、抗血清を用いた所謂血清学的検索などを行なわねばならない。又このvirusによりcytotoxicな効果がみられる細胞のspectrumも観察している。細胞の由来する動物の種類あるいは正常、腫瘍細胞の間に一定の傾向がみられれば、まことに興味深いと考えている。
 これまでの成績ではKilhamのrat virusによく似ているように思うが、マウス由来のL細胞も変性をおこす点などは相違している。こう云ったvirusは、細胞の腫瘍化と如何に関連しているのであろうか・・・。
 3.膵島細胞の悪性化実験
 6-diethylaminomethyl-4-hydroaminoquinoline-1-oxide(6DEAM-4HAQO)は、ラットの尾静脈より注射すると高率に膵島に腫瘍を生じ、一方4HAQOを同様に注射すると外分泌腺に高率に腫瘍を生ずることが林により報告されている。またStreptozotocinとNicotinamideの投与でも膵島に腫瘍を生ずることがSaheinらにより観察されている。膵を手がけて来た私共もこれら薬剤を用いて膵島細胞の腫瘍化をin vivo、in vitroで試みその生物学的性状の違いを検討したい。但し6-DEAM-4HAQOは合成がむつかしく入手がきわめて困難であり、さしあたりStreptozotocinを入手したいと考えている。

《藤井報告》
 外科学研究部を癌病態研究部に改稱して、はじめての正月を迎えたところです。私共の研究部は、一方に附属病院外科診療科の要員ともなっているわけで、この点は相変らず二足のわらじをはいており、研究面でも、従来の移植免疫の仕事が残っていたりして、まだ癌ひとすじの体勢になり切れずにおります。
 私共臨床家が、癌の研究を志向する以上、癌の治療を最も直接的にまた人癌を対象とした実験をやるべきであるという反省から、昨年末、癌の手術の徹底化と、その資料の整理といった臨床的研究の体勢を固めることにつとめました。充分とはいきませんが、癌を扱う外科診療科としては、何とかやっていける基礎ができてきたと思っています。一方、実験面では、癌の手術材料から人癌細胞の培養、その培養細胞を用いての自家リンパ系細胞−腫瘍細胞混合培養反応から、癌免疫発現の確認をおこない、次いで本年からはin vitroにおける宿主リンパ球の癌による感作を、何とか治療レベルにもって行く基礎実験にかかっています。
 このほか、化学発癌や自然発生乳癌の発癌過程で、宿主リンパ球の癌認識能がどう変っていくかをリンパ系細胞−腫瘍細胞混合培養反応でおっかけています。癌では、免疫反応とくに、遅延型反応が低下すると、私共も発表し、一般にもうけ容れられているのですが、それでは癌に対しての反応はどう変ってきたのか、ほとんどその報告(実験的)がないように思いますので、興味をもって進めている実験の一つです。
 勝田班での仕事の命題から、ずれてきましたが、培養癌細胞(ラットの)ができてきたら、再びやるつもりです。JAR-1ラット由来の4NQO誘導培養癌細胞が、生みの親に見放され、養子先がしっかりせず飢え死にとなって、今頓挫しているところで、申し訳ない次第です。data不足で以上で新年の御挨拶にかえさせていただきます。

《乾報告》
 私、昨年8月15日に離日致しまして、米国で、Pasadena Institute for Medical Research,N.I.H.、Roswell Memorial Instituteを訪問した後に、英国での第13回国際細胞生物学会に出席し、Karolinska InstituteにProf.Casperssonを尋ねまして、9月中旬より11月下旬迄、約2ケ月半をSwiss Institute for Experimental Cancer Researchに滞在して、Prof Leuchtenbergerの所で、人間の肺培養細胞に、タバコ煙及びマリハナ・タバコ煙を作用し、初期に誘起される染色体変異の観察並びにMicroflozometryの手法を使用して、核DNAの定量を行ない、昨年暮帰国致しました。
 斯様な次第で昨年は秋、一番仕事の出来ます4ケ月弱を海外で過し、研究成果を上げることが出来ずに申し訳けなく思っております。
 本年は癌原性物質投与後の細胞について“Chromosome Banding Pattern"を指標にし試験管内化学発癌の機構を少しでも解明して行くと共に、Functional Cellの培養を心掛けて行きたいと思います。
 なお、御報告が増々遅れますが、英国の学会の組織培養関係の話題、スイスで行ない、“Nature"に投稿致しました仕事の内容等は次号で書かせていただきます。

《永井報告》
 新しい年がまたへめぐってきましたが、年々歳々物同じからずで、今年もまた何等かの+αをこれまで積み上げて来たものに附け加えて、眼界を広めたいものと念じております。
 癌研究は、しかし、シジフォスの神話のように、折角大石を汗水たらして上の方まで押し上げても、また、ガラガラと麓まで石がころげ落ちてくるものなのでしょうか。それがわかっていながら、なおかつ山の上まで問題の解決という希望のもとに石を押し上げてゆく。「癌とは何か」が依然として謎に包まれている現在、癌研究の現状についてこうした感を深くしますが、然し、“にも拘わらず"一歩でも前へ進まねばならないという意気込みで、癌研究の皆さんが居られることと思います。私も微力ながら少しでもお役に立ちたいものと感を新たにしている次第ですので、今年もどうぞ宜敷くお附き合いの程をお願いいたします。私の新年における願いは、何とかして、癌のtoxic metaboliteの化学的な本態を明らかにしたい、今年こそ、と思っているところです。toxic metaboliteが、熱耐性、酸−アルカリ−耐性、塩基性の低分子で、分子量も1000以下と予想され、化学的性質についてかなりのところまで煮つまってきました。この段階までくれば、あと大きなstepは「如何にして出発物質を多量に得るか」というところにあるかに思います。このmetabolite(s)の、生物学的profileを明らかにする為にも、このことが一つのneckとなりそうです。
 いま一つの私の願いは、細胞膜屋として、何とかして細胞膜の機能と脂質との関係を明らかにしたいというところにあります。どうぞ、この点でも、今年もまたお力添えをお願いいたします。啓白。

《梅田報告》
 すっかり御無沙汰して了いました。予定より少し遅れ、更にロンドンの霧にたたられて、正月に入ってから帰ってきました。短期でも数年振りに国外に留学出来たことは多くの新しい知見を得ることが出来て、有意義だったと感じています。特にアメリカの留学の時と比較して、イギリスの研究生活、研究態度、その他いろいろの面で異る点が多かったので、いろいろと考えさせられました。伝統の上にあぐらをかいて勤務時間だけ仕事をする研究者が大半なのですが、それでもtop levelの仕事が出来ているとすると、日本人の勤勉さも、少し方向を変えてしかるべき様な気がしました。
 ともかく約4ケ月in vitro carcinogenesisの仕事をするには、あまりにも短期間、仲間のDr.Thomas Iypeとがちがち東洋人的仕事をしましたが、結局ぱっとしたデータは出ませんでした。しかしSacks、DiPaolo等の仕事の限界を知ったことは事実です。
 帰り、ロンドンの霧の中ですっかり風邪をひき、いまだに完全に恢復しないこともあって、イギリスでの仕事をまとめるのが苦労になっていました。早速イギリス的怠惰で申しわけないと思いながら、その報告は来月にのばさせていただくことにしました。いろいろの問題がありますので、皆様の御批判を受けたいと思っています。

《黒木報告》
 年頭らしく今年の実験計画をたててみました。基本的な方針は昨年までと同じで、次の三つを目標にしています。
 1.化学発癌剤による定量的トランスホーメーション
 2.動物志望の変異について
 3.cAMP、発がん剤の結合蛋白
これらを併行してすすめながら、そのときの状態に応じて重点を1、2、3、のどれかにうつし、研究を発展させるつもりです。
 1.化学発癌剤による定量的トランスホーメーション
現在分離しつつあるハムスター胎児由来の細胞、BALB3T3、骨髄細胞などを扱うつもりです。BALB3T3は、BUdRなどでC粒子がでるのが明らかなのでウィルスとの関連も含めて実験をすすめるつもりです。
 2.動物細胞の変異について
平板寒天を用いたレプリカ培養を用いて、UV、ts、auxotrophsなどの分離を行いつつあります。3つのprojectsのなかでは、これが目下もっとも順調なので、暫くの間はこのprojectに重点をしぼります。
 3.結合蛋白の分離
cAMPの結合蛋白は非常に複雑で手こずっています。MCA、NQOの結合蛋白と、cAMPの結合蛋白の異同について、できるだけ早く検討し、今後の方針を得るつもりです。
 どこまでできるか分りませんが、頑張ってやるつもりです。よろしく。

《野瀬報告》
今年も今迄の続きの仕事を続けてゆきたいと思っていますが、計画として下のようにまとめてみました。
 (1)Alkaline phosphataseの誘導機構
 この酵素はdibutyryl cAMPによって著しく活性上昇が誘起されることがわかったが、その機構はまだ全くわかっていない。機構を調べる手段としては酵素タンパクの増減、遺伝子の活性化の有無、dibutyryl cAMPによる細胞内諸代謝の変化などの検討など多くの事が考えられる。しかしすべて網羅することはできないので、当面次のことを計画している。
 (a)alkalin phosphataseを精製し、それに対する抗体を作り、活性誘導に伴なって酵素タンパクの増加があるかどうか。精製は現在rat kidneyを材料とし、Butanol抽出など行なっているが、活性が高分子の粒子状として存在し、可溶化に成功していない。
 (b)培養株により、活性の高いもの、低いものがあるので、それぞれの細胞を融合し、どちらの性質が優性かを調べる。活性の調節が核によるのか、又は細胞質に起因するかを決定したい。
 (c)dibutyryl cAMP処理細胞は単に増殖が抑制されているだけでなく、タンパクのリン酸化、DNA含量、Cell cycleなどが正常細胞にくらべ、変化していることが考えられる。これらの点を検討してみたい。
 (2)細胞形質の持続的変動
 (1)の活性誘導の問題は、現象として一過性のもので、誘導物質を除くと、すぐに元のレベルに戻ってしまう。この現象を永続的な性質に固定することを検討してみたい。一般に癌化は不可逆的変化だからである。現実に、rat liver由来の細胞株の中にも、alkaline phosphatase活性が常に高いものがあり、またL・P3のγ-線耐性株でやはり高い活性を示すものがある。このような性質を再現性よく、しかも永続的に変化させる手段は興味あるテーマと思われる。
 

編集後記


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