【勝田班月報・7311】
《勝田報告》
培養ラッテ肝細胞へのSpermineの影響
これまでも肝癌の毒性代謝物質の研究の一環として、Spermineの培養細胞に対する作用をこれまでも報告してきたが、今回はその続報である。
1.細胞の接種量によるspermineの影響の相違:
細胞を継代し、同時にspermineを添加する場合、細胞のinoculum
sizeによってspermineから受ける傷害効果に差があるかどうかをしらべたのが、次図である(図を呈示)。
4種のinoculum sizeで、3日間に渉って培養してみた結果、図のようにinoculum
sizeの少ないほど傷害を受ける度合の大きいことが示された。最少数の8万個の群では細胞数が、きわめて著明に減少させられているが、50万個以上では極端な障害は見られなかった。
2.Spermineの細胞毒性に対するPoly-L-glutamic
acid、chondroitin sulfate、lysozyme、N-acetyl-D-glucosamineなどによる前処理の影響:
37℃で24時間前処理してから、1日培養后の培地に添加した。結果として、培地(含血清)と前処理した群が最も毒性を消したというのは不思議でもあり、皮肉なものである。
3.この所見から、血清蛋白が解毒作用を強く持っているのではないか、という疑がおこり、Bovin
serumのFractionV(Armour)とSpermineを24時間前処理したの結果が次図で、点線のようにspermineの阻害効果がきわめて大きく、抑制される結果となった(図を呈示)。他の血清分劃にも同様の作用があるかどうか、目下材料の入手を急いでいるところである。しかしAlbuminはかなり決定的な解毒要素であるだろう。
4.Spermineと同時に添加したときの血清蛋白分劃の影響:
上記の実験により、あらかじめspermineと血清或はFractionVを混在させて24時間37℃でincubateしておくと、spermineの毒性が低下されることが判った。それでは同時に添加したらどうなるか。血清のときは同時に添加すると、前処理の場合とは逆に、毒性を増強した。血清蛋白分劃ではどうであろうか。
これをしらべ結果、spermine単独ではあまり強い阻害効果が現われなかったが、そこにAlbuminが共存すると、細胞はすっかりやられてしまった(図を呈示)。
毒性の発揮を助けるという意味ではFraction があまり効果を見せなかったことは興味深い。上のAlbuminの行動は血清の場合と全く同じで、なぜ前処理するとspermineの毒効果を消し、同時に添加したときにはなぜ毒効果を助けるのか、これは今后の大きな問題と思われる。また図のように血清蛋白のfraction は毒性効果をほとんど助長しなかった。これもまた今后の問題である。どういう訳であろうか。
なお、上の実験では培地はDM-145で、血清蛋白を加えてない培地である。
《山田報告》
Spermineの影響について細胞電気泳動法を用いて検索していますが、今回はJTC-16を検索しました。意外なことに図に示すごとくその程度は若干少いですが(図を呈示)、3.9μg/mlのSpermineはJTC-16の泳動度を低下させました。
しかし、0.19μg/mlの薄いSpermineでもJTC-16の泳動度を低下させていますので、その理由は一回だけの実験でははっきりしません。RLC-10(2)の実験でも、その増殖の状態如何ではSpermineの影響がかなり異るので、くりかえし検索してみたいと思って居ます。このSpermineにLDメヂウム+10%BS及び10%FCSを加へて処理した所、図に示すごとくJTC-16の泳動度の低下が著しく阻害されました。即ち泳動度の低下は少いという結果です。
《高木報告》
AAACN、MNNGによるin vitro発癌の試み:
前報で、可成り詳しくこれら薬剤による培養細胞の形態学的変化につき述べた。次後、transformed
fociと思われる箇所の細胞を拾って継代培養を続けている。しかし、2代目以後形態は再び対照の細胞と区別出来なくなっている。MNNG処理群については形態が違ったと思われるものもあるが、selectionの可能性は勿論考えなければならない。ラットが夏バテ以後中々立ちなおらずやっと最近繁殖の兆をみせはじめた状態で、動物実験が出来ないため一部の細胞をのぞき凍結保存している。動物が生れ次第移植を試みるつもりである。
正常細胞及び腫瘍細胞に対するCytochalasinBの効果:
最近、Kelly、SambrookらはNature 1973で、CytochalasinBの3T3とSV3T3に対する効果の違いを発表している。すなわち、cytochalasinB
5μg/mlをこれらの細胞に作用させて、12時間から84時間後んで24時間間隔で調べているが、3T3細胞はこの観察期間を通して1〜2核の細胞で占められるのに対して、SV3T3細胞は時間の経過と共に3、4核および4核以上の細胞が増加することをみている。
化学発癌剤によるin vitroのtransformationをみる上にも、この様な相違が1つのindi-catorとして用いられるか否かをみるために、RFLC-5細胞、RRLC-12細胞(RRLC-11細胞の再培養株)、XP細胞およびWI-38細胞に対するCytochalasinB、1μg、2.5μg、5μg/mlの影響を観察した。正常細胞のつもりで用いたRFLC-5細胞は長く培養した株細胞であるためか、細胞あたりの核数の分布はRRLC-12細胞と殆ど変らない結果をえた。すなわち、培養日数と共に多核の細胞が増加した。XP細胞はなお観察中であるが、1、2核の細胞が殆んどを占めるようである。次に正常細胞としてWI-38、腫瘍細胞としてラット由来のRRLC-12細胞における結果を示す(図を呈示)。培養後日の浅い“正常"細胞を用いてさらに検討してみたい。
《佐藤報告》
ST3)RAL Cell LineのChromosome追加
ST2)にRAL-2、-3、-4、-5は報告した。RAL-1の染色体分布は図の通りである(図を呈示)。
次図はRAL-3の172C.D.の染色体分布図である。RAL-3は前月月報で報じたように、89C.C.D.では高いDiploidwo示していたが、3ケ月程度で著く変化したことになる(モードは48本)。
ST4)RAL Cell Linesの核型について
(図表を呈示)一般的にB1 trisomyが目立つ。
Diploidよりくずれた細胞では一見B1 trisomyと考えられるものが目立つ。
In vitroの細胞増殖に関係があるのだろうか?。
Morphologicな成因についてはBanding法にて検討予定。各Lineの代表的核型は次図の通りである(図を呈示)。
RAL-4はB1 trisomyが0/7であるが、培養日数が経過すると出現するかも知れない。
T−5)dRLa-74から分離された単個クローンの継代培養
dRLa-74から分離された単個クローンの継代は図の如くである(図を呈示)。Clone-1を除いて、いずれも上皮様である。Clone-1は上皮様とは言いがたい上、増殖性も悪く(未継代)、株細胞として使用し得るか否か、現在の所疑問である。上皮様クローンの位相差写真を示した(写真を呈示)。lone-2、-4、-5、-13はコロニー分析により、コロニーの大きさから2つのグループに大別され(表を呈示)、Clone-2、-5は大型のコロニー、Clone-4、-13は小型のコロニーの形成率が高い。この意味については現在模索中であるが、腫瘍性を確認する為に復元接種実験を試みている。原株のdRLa-74は腫瘍形成(3/3)を認めたが、腫瘍死は未だである(70日目)。
《梅田報告》
(1)今迄8AGを大量加えた軟寒天中で生存YS細胞のコロニーを作らせ、8AG耐性細胞を拾う実験を行ってきたが、今回は大量のYS細胞から出発し8AG処理を行った後、生存した細胞を軟寒天中で選択する方法をとった。1,000万個の細胞を、8AG
10-4.5乗M或は10-5.0乗M培地で隔日4回処理した後、軟寒天中(8AGは加えなかった)に播いた。10-4.5乗M培地処理したものに、小コロニーが多数出現し、PEはCa
0.01%であった。このコロニーを5ケ拾って培養を続けた。しかし充分の数の細胞が増生してから10-5.0乗M培地で培養すると、やはり死滅するようである。
(2)月報7309に10-4乗M 8AG加軟寒天中でとれた1クローンの細胞を8AG
10-5.0乗Mで培養を続けて耐性であるように記したが、これもその後あまり増生してこなくなった。この細胞をAGr-1と名づけ、以前から大量の培養細胞より8AG培地で選択した耐性細胞をAGr-2と名づけた。
(3)以上の各細胞についてHGPRTの直接の測定にはならないがC14-hyproxanthineの取り込みを調べた。各細胞の一定細胞数中にとりこまれたC14-hypoxanthineの放射能をコントロールYS細胞の取り込みの比として表に表した(表を呈示)。
表からAGr-1のみC14-Hypoxanthine取り込みが抑えられていることがわかる。しかし、コントロールYS細胞の35%も保持されており、完全な耐性ではないようである。その他の細胞は相当高濃度の8AG培地から選択されているのに非常によくhypoxanthineを取り込んでいる。以上どうもYS細胞では8AG耐性細胞が得られ難いようである。
《乾報告》
ニトロソグアニジン誘導体8種の癌原性
先月の月報でN-methyl-N'-nitrosoguanidineより順次側鎖をのばした一連の誘導体の毒性、突然変異誘導性を観察した結果、isobutyl-NNGを除いてCH3基の数の少ないもの程、これらの性質が弱いことがわかった。
Butyl NNGではnormal、isotypeの間で毒性、特に突然変異誘導性に大きな差が認められた。今月は、これら二つの誘導体について、変異コロニー発生率のDoses
depedencyを調べた。(表を呈示)表に示す如く、0.5μg/ml作用群を除いては、毒性について両異性体の間に大きな違いがなかった。変異誘導性については、normal-異性体に対してiso-異性体が明らかに大きかった。両異性体共変異コロニー誘導率にDoses
dependencyが明らかに認められる事から、これらの物質に発癌性のあることが考えられる。また以上の結果より発癌性(変異誘導性)がCH3基の数の絶対数より、むしろ側鎖の長さにより多くdependすることは注目すべきことと考える。残る四つの同異性体DMBAについて、Doses
dependencyについて、検索中であるが、現在の所変異コロニーの定義が形態学的にむずかしく、この点を併せて検討して行きたい。
《野瀬報告》
Alkaline phosphatase-Constitutine株の性質
前回の班会議で、CHO-K1からalkaline phosphatase活性の高い変異株が分離できたことを報告した。3株の独立な変異株は2回cloningを行ってもまだ一部ALP活性のないcolonyがでてきて、細胞集団が不均一又はこの性質が戻りやすいのかわからなかった。更にもう一回cloningを行ってみたら、(表1、2を呈示)表のようにほぼ100%のcoloniesがALP-陽性であった。カッコ内は20日後にそれぞれのcloneからre-cloningした結果であるが、わずかにALP-陰性のcoloniesがふえている。しかしほぼ安定な性質であると考えられる。
これらのclonesはALP-I活性はparentにくらべ高くなっているがALP- 、Acid
phosphataseに関してはあまり差が認められなかった。表2は更にLDH活性を測定した結果であるが、やはり互いに大きな差はなかった。
CHO-K1はcloneなのでここで、得られたALP-陽性株はparentのALP-Igeneのde-repressionを起こしたものと考えられる。しかし、cloningしてからかなり時間がたつので、popula-tional
heterogenesityがあって、単なるselectionによって分離された可能性は否定できない。CHO-K1のALP-I活性はnot
detectableだが、cellをhistochemicalにALP染色を行うと10-5乗のorderでALP-陽性細胞が存在する。従ってCHO-K1をrecloningし、それから同じようにALP-陽性細胞がとれるかどうか確認する必要があり、現在、その実験が進行中である。CHO-K1細胞の中にALP-I
geneが存在しmaskされているだけならばmutagen処理ではなく、何らかのinducerで活性をinduceする事が可能と考え、(1)1mM
But2cAMP+0.1M theophyllin(2)4mM n-butyrate
(3)23μg/ml hydrocortisone (4)4x10-5乗M BUdRなどの処理を行なってみたが、いずれも全く活性上昇は見られず、この細胞は今の所un-inducibleである。