【勝田班月報・7305】
《勝田報告》
各種培養細胞株の増殖に対するSpermineの影響について:
これはまだ実験を継続中のデータである。
(図を呈示)縦軸は3日間のTC中におけるControlの増殖率に対する、Spermineを添加した実験群の増殖率の比である。培地は3日間交新しなかった。
横軸はSpermineの各種濃度である。
1図のRLG-1は正常ラテ肺由来のセンイ芽細胞であるが、自然発癌し、かなりの悪性を示すようになった。その下の2種はsecondary
cultureである。
2図はラッテの肝細胞由来の各種の株であるが、悪性度の高い株ほど阻害のされ方の少い傾向がある。
この所見から考えて、確定的には云えないが、1)同じ濃度で比較すると、上皮系よりもセンイ芽細胞の方が抵抗力が強いらしい。2)腫瘍性の強い細胞ほど抵抗性も強い、という傾向がうかがえる。
《山田報告》
その後引続き(But)2 cAMPの表面荷電に与へる影響について、検索して居りますが、漸くその作用の条件がわかって来ましたので、その幾つかをまとめてみます。
1)(But)2 cAMPは一見調節的に作用するごとく思われる。すなわち図に示すごとく(図を呈示)、AH-66Fに対し、増殖の盛んな状態(表面荷電密度の増加の状態)では抑制的に働き、その荷電を低下させるが、増殖の衰へた状態(表面荷電密度の低下の状態)では促進的に働き荷電密度を増加させる。あらかじめNeuraminidase処理しておくと、この傾向は助長されるが、荷電を低下させることはない。なほこの作用はButylic
acidそのものにはないことを確認。
2)この(But)2 cAMPの作用はConAの作用とuntagonisticである。
3)Nueraminidase処理後(But)2 cAMP作用をうけた細胞の膜は、対照無処理細胞に比較してニグロシン色素の透過性が減少する。(But)2
cAMPのみを作用させても、同様なことが云へる。即ち単なるCytolyticな反応ではない。
4)更に興味あることは、phospholipaseCに対する感受性をしらべた所、このNeuramini-dase処理後(But)2
cAMP作用をうけた細胞は、phospholipaseCに対する感受性が減弱して居る。即ち対照細胞がcytolysisを起こす濃度のphospholipaseCでも、依然として細胞は破壊されず、しかもその泳動度の減少がより少い。
5)Neuraminidaseに対する感受性も、カルシウムイオンの吸着性もあまり差がない。またPhospholipase-A及び-Dに対する感受性には差がない。
6)陽イオン、カルシウム、プロタミン-Sの存在下でも、(But)2
cAMPは反応する。ホルマリン固定細胞でも反応する。
この様な結果から、更に荷電の分布の変化についてしらべてみようと思って居り、準備中です。
《高木報告》
Nitrosated arginine derivativeによる培養内発癌実験:
今月から本実験についても少し触れてみたいと思う。この実験は、九大癌研の遠藤教授が合成したnitrosated
arginine derivativeの中の1つにつきin vitroの発癌性を検討しているものである。このderivativeにつき遠藤教授の諒解の下に簡単に紹介すると、次の通りである。Benzoyl-L-arginine(BAA)やAcetyl-L-arginine
amide(AAA)は、突然変異誘起性があることが知られている。この中nitrosated
BAAについては、近日中にpaperになる由であるが、このもののactive
principleは、4-benzoylamido-4-carboxamide-n(N-nitroso)Butylcyanamideで、E
coli、Salmonella typhi muriumに対してMNNGの約30倍のmutagenic
activityがあることが判った。現在実験に用いているものは後者すなわちnitrosated
AAAであるが、そのactive principleは、4-acetylamido-4-carboxamide-n(N-nitroso)Butyl-cyanamide(AAACN)である。このものは図の如き構造式を有することが判り(図を呈示)、融点113〜115℃、pale
yellowの針状の結晶で、水、アルコールによくとける。RFLC-5細胞に対する毒性は図の通りで(図を呈示)MNNGと比較すると、MNNGは10-4乗MでRFL細胞の増殖を明らかに抑制したのに対して、AAACNでは同一濃度で可成りの増殖を示している。毒性は、MNNGより弱いことが明らかである。mutagenic
activityの強いこのAAACNがCarcinogenic activityもあるか、否か、RFLC-5細胞を用いて検討している。10-4乗Mを作用させて、観察中である。
《梅田報告》
(1)先月の月報についでK2B細胞に何回もDMBAを投与する実験を行った。500ケの細胞をシャーレにまいた1日後よりDMBAの0.4、0.2、0.1、0.05μg/mlを5日間続けて投与し、6日後に正常培地に換え、更に7日間培養してコロニーを観察した。
(表を呈示)表に示すごとく、投与量が多いと毒性も現われてくるが、形態的に観察すると、criss-cross等、悪性化を思わせるような形態の変化を示すコロニーは見出せなかった。
(2)我々の研究室のある場所では、X-線照射を行うのが非常に不便なので、薬剤による処理でfeeder
cellを得ることを考えて、今回はβ-propiolactoneを使用してみた。β-propiolactoneを0.001%培地中に加えると、細胞はコントロールと同じ程度に増生する。0.003%で細胞は障害をうけ、シャーレ面にfeeder
cellのように附着しているが、殆んどの細胞は増していない。ところが、細胞20ケ位からなる小コロニーの形成も10数ケ見出され、前回に報告したMitomycinC処理と同じように、すべての細胞をattackするわけではないようである。0.01%では細胞は強く障害され、シャーレ底面に細胞はついていない。
(3)以上なるべく将来使うために簡単であることを目標に、試験管内発癌実験のための細胞さがし、feeder
cellの作り方を検討してきたが、すべて失敗したことになる。やはり、もとのハムスター胎児のprimary
culture、X線によるfeeder cellの系にかえらざるを得ない結果となった。
(4)昨年の癌学会に発表した、細胞種の違いによるアルカリ液中でのtime-dependent
DNA degradationの違いについて最近のデータを報告します。
あの時の結論は、若い細胞はdegradationがあまりなく、Hayflikのいう老化の進んだ細胞はdegradationが速く進むという結果を得ていました。又、腫瘍細胞は丁度その中間位のdegradationを示していたことにも興味がありました。
(5)ところが、その後このtime-dependent
DNA degradationは温度による影響が強いことに気付きました。このことは班会議のとき、一度堀川さんに指摘されていたのですが、つい室温で実験を続けてきた私の手落ちなわけです。
HeLa細胞をアルカリ性蔗糖密度勾配上の上にのせ、以後室温(この時は13℃)と、25℃に保った時(24時間目しか行っていませんが)のデータを図で示します(図を呈示)。13℃で、lysisを行わせた場合、24時間後もDNAのピークはbottomより13本目のフラクションにあり、1時間lysisの時よりdegradationが進んでいないのに、25℃でlysisを行わせた場合は24時間後には24本目のフラクションにDNAのピークが移り、degradationが進んだことを示しています。
同じような実験を人の2倍体細胞で、24代目の、以前のデータでは24時間lysis後には、bottomより26〜27本目にDNAのピークのきていた細胞、TTG-4d細胞で行ってみました。因みに、以前の実験は気象台で調べた所、最高気温が31.8℃、最低気温が24.9℃、平均27.5℃の時に行った実験でした。図の示すごとく13℃でのlysisでは1時間から24時間のlysisでピークに移動はなく、25℃のlysisでは24時間後に23本目にピークがきています。そこでいろいろと以前のデータを調べた所、確かに夏に行った実験ではdegradationが強く、冬になるにつれdegradationが少くなっていました。
(6)そこでこの細胞種によるアルカリ液中でのtime-dependent
DNA degradationが本当にあるのかないのか、もう一度始めから洗い直す必要にせまられました。37℃と19℃を選び、1時間、2時間、4時間、24時間とlysisさせた後、遠心にかけていますが、幸なことに、やはり細胞種による違いはあるようです。この結果を次の班会議で報告する予定ですが、結論的に云えそうなことは、正常細胞と悪性細胞ではdegradationのパターンに違いがあり、しかし、若い細胞と老化の細胞とでははっきりした差として出てきていないと云うことです。
《堀川報告》
今回は当教室においてUV障害修復機構を調べようとしている蚊の細胞についてその基本的性質を報告する。この蚊の細胞は、♀のCulex
molestus mosquitoesの卵巣から三重県立医大・医動物学教室の北村四郎教授により、数年前にCell
line化された日本での代表的な昆虫細胞株である。この細胞は1図に示すように染色体は6本であり、しかもcell
lineのmodal chromosome numberも6本を維持していることがわかった。したがって今後のUV障害に対する分子レベルの修復機構の解析と、染色体レベルの解析を関連させて進めるのに容易であると思われるが、問題な点は、この細胞の増殖率は非常に低いということにある。 (それぞれの図を呈示)2図に示すように、種々のcell
numberを短試にinoculateした後の細胞の増殖から計算したdubling
timeは46〜65時間位で、平均して約55時間位になる。従ってこの細胞についてコロニー形成能でUVに対する感受性を調べるには、少くとも炭酸ガスインキュベーター内に最低3週間は保置せねば、カウント可能なコロニーを得ることは困難な状態にある。
こうした困難を克服して、種々のUV線量に対する生存率曲線を予備的に描いた結果が3図である。この図からわかるように従来の哺乳動物細胞のD0値に比べて、それはそれほど大きな違いを示してはいないが、少しばかりD0が大きく、UVに対して抵抗性の傾向を示しているということが出来るかも知れない。さてこうした特種な細胞株を使用してUV照射によるDNA障害に対して暗回復、光回復などのうちどのような修復機構を有しているだろうか。そして微生物と哺乳動物細胞に比較して、進化学的にどのような位置におさまるだるかを調べようとするのが、本実験のこれからの問題である。
《乾報告》
一昨年来、我々はNewboon Hamster Lung CellをMacCoy's
5A+20%C.S.の系で培養し、この系にMNNG 10μg/mlを24時間作用し、処理後約1カ月でMorphological
Transformation、約200日で動物に腫瘍を作る系を確立した。In
vitro Carcinogenesisの過程での、染色体Banding
Patternの解析を行なうことが本年の課題の一つである故、出来る限りにおいて単純な系の開発を行なう為、MNNGの作用時間の短縮及び作用dosesの減少を試みてMorpholog-ical
Transformation迄の経過を観察して2、3の結果を得た。
培養系はGolden HamsterのEmbryoをMEM(日水)+10%C.S.で培養し、培養2代目の細胞(30〜50万個cells/ml播種)の対数増殖期の細胞にMNNGを作用した。
(表を呈示)MEM+10%C.S.の系ではMacCoy's
5A+20%C.S.の系に比して細胞毒性が強く表われる。現時点ではMNNG1μg/ml、3hrs処理が適当と思われるが、更に時間、Dosesの短縮によりMNNGでのTransformationの系が出来ると考えられる。
《黒木報告》
§紫外線感受性細胞の感受性そう失について§
前回の班会議において、レプリカ培養法を用い、L5178Y、FM3Aの細胞より紫外線感受性細胞の分離を報告した。しかし、その後、さらに約3ケ月間培養したのち、感受性を再テストしたところ、すべての細胞がもとにもどっていることが明らかになった。
例えばFM3Aより得たUV感受性細胞S-1は次のようである。11/15/72:MNNG
0.1μg/ml/100万個cells/h→11/17/72:plating→11/30/72:replica
plating→12/9/72:S-1colony(50ergUV-sensitive)ひろう。(結果表を呈示)。以上のように、予想及び期待に反して感受性は不安定であった。目下V79を用いてふたたび感受性細胞の分離をchallengeしている。そのためのreplica培養の基本的な技術の検討もほぼ終了した。詳細は班会議で。
《野瀬報告》
Alkaline phosphatase-positve cellを単離する試み
これまでALPの活性誘導の解析を行なってきたが、単なる一時的な活性の上昇でなく、活性が安定に維持できる細胞株をとり、その細胞の性質を調べることが重要であると思われる。そのような性質の変化は広い意味でのsomatic
geneticsにもつながり、また、形質を一つの示標としたtransformationとも考えられるからである。
まず、実験として、JTC-25・P5細胞をmutagen処理し、適当な時間のincubateした後、ALPの組織化学的染色を行なう。低倍率の顕微鏡下で、染色された細胞の数を数え、ALP-positive細胞の出現頻度を推測してみた。(表を呈示)表1に見られるようにnitrosoguanidine濃度により、ALP-positive細胞の数が増加することがわかる。表2は同じ実験をMNNG処理後の培養時間を変えて行なったものである。処理後のincubationが長い程、ALP-positive
cellが多くなる傾向が見られた。
次に、同様な実験をCHO細胞を用いて行なった結果が図1である(図を呈示)。MNNG処理後の培養時間が1〜3週間までの間はcontrolと処理群の間に、ALP-positive細胞の頻度に関して10〜50倍の差があるが、5週間目にはほとんど差がなくなった。この点では約5x10-4乗の頻度でALP-positive細胞が集団の中にあるはずであるが、この細胞をtrypsinizeして、まきなおしてからALPの染色を行なうと、positive細胞は10-6乗の頻度になってしまった。従ってここで見られたALP-活性は安定な性質ではないと考えられる。しかし、初期にはMNNG処理群との間に、はっきりした差があるので何らかの変化が細胞におきていると思われる。ALP-positiveの性質が安定した“constitutive"細胞をとることを現在試みているが、まだ成功していない。その様な細胞に特異的な選択法がないので、むずかしいと思われる。