【勝田班月報・7307】
《勝田報告》
培養細胞に対するSpermineの影響
肝癌細胞を培養すると培地中に正常肝細胞を阻害するような毒性代謝物質を放出することについてこれまで報告してきた。この物質の本態を追究している内に、その物質が分子量約200以下で、どうもpolyamineに似ていることが判ってきた。そこでpolyamineの代表としてspermineの各種細胞に対するeffectsをしらべてみた。今回は、spermineを0.97から、250μg/mlんで倍数稀釋して添加した。そして細胞が100%死んでしまう濃度を求めた。薬剤は継代時に添加し、培養後3日目の成績で判定した(結果表を呈示)。
結果は表の通りで、悪性の細胞の方が抵抗性がはっきり強く、まことに都合の良い結果が得られた。あまり具合が良すぎるので反って警戒しているところである。
《堀川報告》
X線照射に対する感受性支配要因の1つとして、radical
scavengerである細胞内、non-proteinSH量が関係するであろうことは、これまでに当教室でHeLaS3原株細胞から分離したX線対抗性のRM-1b細胞、あるいは東大医科研癌細胞研究部からいただいた(CO60γ線の反復照射によりL・P3細胞から分離された)γ線抵抗性(仮称L・P3γ)細胞を用いた実験から、示唆されていたが(月報No.7212参照)、今回はこれを更に発展させて細胞周期を通じてのX線に対する感受性曲線が、このSH含量の差異で説明出来るかどうかを検討した結果について報告する。
当教室で確立したColcemid and harvesting法を用いてHeLaS3細胞をM期で同調させ、その後各時期で400Rづつ照射し、その後に形成されるコロニー数から感受性曲線を描くと図で示すように(図を呈示)、M期とlate
G1〜early S期がX線に対して最も高感受性であることがわかる。一方各時期の細胞を集めてnon-proteinSH(NPSH)量およびapparent
total SH(APSH)量をEllman法で測定し、それぞれ細胞当りのSH量として図に示した。
この図からわかる様に、X線感受性曲線とNPSH量の増減はよく一致し、細胞内に含まれるfreeのSH量がX線感受性ときれいな関連性をもつことがわかる。つまり高感受性期のM期およびlate
G1〜early S期においてはradical scavegerとしてのfreeのSH量が少くなっている。しかしAPSH量とX線の周期的感受性曲線の間には、それ程きれいな関連性は認められない。こうした結果はOhara
and Terasimaの結果とよく一致している。
《梅田報告》
8AG耐性細胞を得るためにわれわれは以前、吉田肉腫細胞(YS)を低濃度の8AG処理をして培養を続け、段階的に濃度を上昇させる方法をとってみた。最初の接種細胞数が10万個のオーダーの細胞だと、どうしても10-5.0乗M迄耐性をあげることが出来なかった。そこで前回の班会議での堀川さんに対する質問になったわけであるが、あれだけ高い耐性コロニーの出現率があれば、われわれの以前の実験で8AG耐性細胞を得ても良い筈である。このことが使う細胞種の違いによる場合もあろうが、とにかくYS細胞で得つつあるわれわれの実験結果を御紹介する。
(1)YS細胞に対する8AGの増殖に及ぼす影響:使用しているYS細胞は、in
vitroで1年以上継代しているもので、培地はMEM+10%CS+polypeptoneを使用している。培養最初の日に8AGの各濃度を加え、以後4日間の増殖カーブを画くと図の如くなる(図を呈示)。10-5.0乗Mでも細胞は完全に死なない。10-5.5乗Mで増殖がやや抑えられる程度である。因みに最近使っている仔牛血清のlotが非常に悪く、コントロールの増殖もさほど良いと言えない。
(2)YS細胞の軟寒天内コロニー形成:軟寒天としてはbase
layerに0.5% seed layerに0.33%のagarose液を使用した。細胞の接種数は、8AG投与群は50万個細胞/シャーレと10万個細胞/シャーレの2つとし、コントロールは200ケ6cm径のシャーレを2枚宛用いた。結果は10-4.0乗M
8AGで、小コロニーがあっても変性した細胞が多く、一部にきれいな細胞がある様なものからなり、結局コロニーとして数えられるものはなかった。10-4.5乗M
8AGでは50万個 cells/dishのものでも多数のコロニーが出現しており、全部を数えきれなかった。全く概算として300〜500ケのコロニーがあったとすると約0.3〜0.5%のPEと云うことになる。コントロールは32%のPEを示した。
(3)10-4.5乗M軟寒天中に出来たコロニーの8AG耐性試験:上の実験の10-4.5乗Mでの、数えきれない程あったコロニーの中から完全にcloneを拾えない事は承知で5ケのコロニーを(出来るだけ単一のもの)培養に移した。夫々の増殖するのを待って液体培地で10-4.5乗M、10-5.0乗M
8AG培地に入れて培養した。コントロールのYS細胞も同様にした。4日間培養で10-4.5乗M投与例は全例変性に近い形態を示した。10-5.0乗M投与例はかなり元気そうな細胞から成っていた。しかしコントロールも同じようであった。そこで遠心後上清を捨て、又新しい10-5.0乗M
8AG培地を加えて培養を続けた。この操作の繰り返しのうちに、3回程でほとんどのso
called cubclonesは細胞は変性していった。今、4回目の交換で1cloneだけ元気そうな細胞が残っているが数は少ない。
(4)10-4.0乗M 8AGでinoculum数を多くした場合:(2)の実験で10-4.0乗M
8AGで、コロニーを作らなかったが、所謂spontaneous
mutation rateが10-6乗〜-7乗のオーダーとすれば、沢山のシャーレを使用し沢山の細胞をまけば、耐性クローンがとれて良い筈である。沢山のYS細胞を増殖させ、結局全細胞数930万個を10枚の9cmシャーレにまいて調べた所、コロニーは1つも現れなかった。コントロールは8AGを加えてないものは30%のPEで、実験培地その他にぬかりはなかった筈である。
以上まだ結論は出ないが、他のHeLa、L-5178Y細胞でも同様の耐性試験を行ってみる予定である。
《山田報告》
(But)2cAMPが細胞膜にも変化を与える、特にConAの細胞膜に対する反応性を変化させることを前回報告しましたが、今回はこの(But)2cAMPの反応機序を解析してみました。
用いた細胞はAH66Fで、いづれも37℃30分反応後1回生理食塩水洗滌後細胞電気泳動度を検索した結果です。但し、ConcanavalinAの反応のみ37℃10分保温した後に洗滌せずに測定することは従来通りです。
(But)2cAMPが膜に直接変化を与えるものか、或いは細胞内のcAMP濃度を高め、二次的に細胞内からの指令により変化するのかを検索した結果を報告します。
肝細胞内のcAMP濃度を高めると云われるGlucagon(10μM/ml)、そして逆に低下させると云われるInsulin(0.1units/ml)、そして(But)2cAMPの細胞形態に与える変化をブロックすると云われるColcemid(0.7μm)をin
vitroで作用させた後に、各種濃度のConcanavalinAを反応させた結果が図1です(図を呈示)。
(But)2cAMP及びGlucagonは、ConAの反応を完全に阻害しますが、Colcemidは全く変化を与えません。InsulinもかなりConAの反応を抑制します。即ち、この濃度では、GlucagonとInsulinもかなりConAの反応を抑制します。即ち、この濃度ではGlucagonとInsulinはanta-gonisticに働きません。しかし次の実験でInsulinの作用は濃度如何で逆の作用があることがわかりました。
次に各種濃度の(But)2cAMP、Glucagon、Insulinを反応させた後に、ConAを反応させたのが図2です(図を呈示)。
(But)2cAMP、Glucagonは濃度と共にConAの反応抑制が増加して来ますが、Insulinは0.05unitの濃度で、かえってConAの反応を増加させ、Glucagonとantagonisticな作用を示しました。この三者の反応はColcemidを付加的に反応させることにより消失して来ることもわかりました。
これらの結果は、(But)2cAMPの作用が細胞内cAMP濃度を高め、二次的に細胞膜が変化することを思わせるものと思われます。しかもColcemidによる反応性の消失は、(But)2cAMPが細胞内microfilamentを介して作用しているかの如き印象を与える成績です。
《佐藤報告》
◇培養内発癌実験:
アゾ色素による培養内発癌実験は、実質的には、RLD-10株について培養日数850日ないしは1086日の3'Me-DAB添加により悪性化を認めた実験に始まる。この時の復元腫瘍からの再培養株AHTC-86aは3'Me-DABの再添加により悪性化の増強を示した。最近、単個クローン株のPC-2でも同様の結果を得た。以上の結果から、アゾ色素が発癌因子となったか否かは、尚、明らかではないが、肝細胞の悪性化の増強作用を示したことは確実らしいと考える。この点を更に明確にすることを当面の研究目標としたい。
使用する細胞は、DAB飼育日数191日のラッテ肝由来細胞dRLa-74とする。本細胞は、復元腫瘍像、あるいは旋回培養法による凝集塊の組織像から、腺腫様とみなされ、悪性化の増強の検討には好材料と考える。本細胞の培養技術上の難点は、通常の0.25%トリプシン分散法では殆んど分散されない事で、クローンレベルの実験は殆んど不可能に近い。このため、現在、各種細胞分散剤(トリプシン、EDTA、コラゲナーゼ、ヒアルロニダーゼなど)を用い、単離細胞を得る条件を求めている所である。(文献を呈示)
《乾報告》
専売公社へ身柄を移しましてから、満3ケ月の日が過ぎました。予期せぬ出来事の連続と明けても暮れても金の計算ばかりで、仕事が出来ず、近頃の天候のようにゆううつな毎日です。この間ぼつぼつやっておりました仕事につきまして、二、三御報告致します。
1)チャイニーズハムスター細胞の培養
生後6日目の雄チャイニーズハムスターの肝、肺、皮膚を0.25%のトリプシン(pH7.2)で30分消化後MEM(日水)、Dulbecco's
Modifie Eagle液で培養し、現在6〜9代目の細胞を6系分離しました。(いずれも20%C.S.)染色体は5代目(35、37日)に調べた所5系は正常核型を示し、肺由来のMEMの細胞はNo2がMonosomyの21本です。細胞形態は、肺由来細胞が培養3代約半月後、表皮系の形を示しましたが、現在は残念ながらすべて繊維芽細胞様です。
私はこれらの細胞を使って染色体バンドの仕事をしていくつもりですが、この細胞が皆様のお役に立ったらと思っております。
2)杉村先生の所で、一連のニトロソグアニジンの誘導体(Methyl-、Ethyl-、Butil-、Isobutil-、Propil-、Hexyl-)を合成され、バクテリアの系で側鎖の長い程、Mutagenecityの低いことを見つけられました。やっとこれらの薬品を分けていただきましたので、この一連の物質で、DiPaolo、Takano法のTransformation
Test、染色体変異誘導性の実験を始めます。次々回には御報告出来ると思います。
《高木報告》
AAACNによるin vitro発癌の試み
月報7306に報じたようにAAACNは細胞に対する毒性が比較的に弱く、培養に3日間入れっぱなしでも細胞の増殖抑制は著明でなかった。今回はAAACN
10-1乗Mをethanolにとき、これをHanks液で10-3乗、10-4乗、10-5乗Mに稀釋してその各々を培養2日目の約9万個のRFLC-5細胞に1時間作用せしめ、直ちにこれを洗って培地と交換してさらに6日間培養した。結果は図に示すように10-4乗Mでごく僅かな細胞増殖の抑制がみられ、10-3乗Mでははじめの3日間は著明な細胞数の低下をみたが以後の3日間は生存した細胞の増殖を思わせる所見であった。従って10万個以上の細胞数に作用させる場合、10-3乗M程度の濃度が適当かと思われる(図を呈示)。
次に前報の実験の続きを報告する。約20万個の細胞に、AAACN
10-4乗、10-5乗、10-6乗M 2時間1回の処理では、処理後150日をへた現在も形態的変化を認めていない。処理後26、63、104日に100万個の細胞をsuckling
rat皮下に移植したが、各124日、87日、46日をへても腫瘍の発生は認められない。処理後103日目に0.45%のsoft
agarに200ケ細胞をまいて4週間観察したがcolony形成はみられなかった。AAACN
10-4乗M 2時間ずつ1週間隔で8回作用させた実験群でも、処理後45日をへて形態学的変化はみられず、4、6回処理後の復元でも腫瘍の発生をみない。
《黒木報告》
V79細胞からの紫外線感受性細胞分離の試み
前回までの実験でFM3A、L5178Y細胞から分離したUV感受性細胞が不安定であることがわかった。そこで動物の種をかえて、ふたたびUV-sensitive
cloneの分離を試みた。動物の種をかえて、安定なcloneを得たというPackらの例があるからである(順天堂大・野沢氏の話によると、Packのところでは最初HeLaからauxotrophの分離を試みたが、すべて不安定であったので、chinese
hamsterにきりかえたところ、CHOから安定な細胞を得た。)
§実験方法§
前回と同様にMNNG処理後Agar plateにコロニーを作らせ、replica法で分離した。レプリカの際には0.1%
pronase前処理を行った。MNNGは1.0μg/ml/h。expresionは2日間おいた。(表を呈示)。表1に示すようにレプリカで100erg照射でコロニーを作らないかあるいは増殖のおそいクローンは29ケ発見できた。その率は9.8%であった。このクローンを、100erg照射のsurvival
fractionで第一回screeningを行ったところ、表2のようにVS-3、-11、-13、-15に、明らかな感受性がみられた。このなかで、例えばVS-3、-15は100ergで1/50〜1/100の感受性を示した。またVS-19、-20は逆に紫外線に対して抵抗性のようにみえた。
これらのクローンを、25、50、100、150ergでdose
responseカーブを出したところ、すべてのクローンがもどってしまったことが明らかになった(表3)。どうして、このように不安定なのかはよく分らない。geneticというよりは、epigeneticの変化のためであろう。目下、VS-3、VS-15にもう一度MNNGを添加してsensitive
cloneをひろうべく準備中である。
《野瀬報告》
今月は3週間ほどアメリカ旅行をしたため、あまり実験の方は進展しませんでした。しかし向うの研究の現状を、いくつかの研究室を訪問して直接かいま見たことは大変有意義だったと思います。
私は培養細胞の表現形質(広い意味で癌化も含む)をできるだけ分子レベルで機構の解析をしたいと思い、そのマーカーの一つとしてalkaline
phosphataseを取り上げてきましたが、一つだけではなく、別のmarkerとしてsucraseを少しつついて見ようと考えました。その理由は(1)alk.p.aseより臓器特異性が強く、ほとんど小腸粘膜に局在すること、および(2)胃癌に伴なうintestinizationの際、胃にも検出され、癌化と密接に関連しているように思われることのためです。
そのため、まず初代培養からsucroseをglucoseの代わりに利用できるcell
lineをとることを試みました。その方法は以下の通りです。
rat embryo(約15日目、4匹)をtrypsinでバラして、炭酸ガスフランキで培養する。培地は、アミノ酸、ビタミンが2倍濃度の、Eagle's
MEM(Glucose-free)+5%FCS+0.1%sugarである。初代は3月16日に開始し、6日間glucoseの培地で培養した後、sucroseを糖源とした培地に移し、更に培養を続けた。glucoseからsucroseにかえて5日目に培地交換を行なったら、対照のglucose培地の細胞はconfluent
monolayerであるのに対しsucrose培地の細胞はsheetがはがれ、大部分の細胞が失われた。しかし、残った細胞が次第に増殖し、6月30日現在、共に5回のsubcultureを行なって、まだ細胞は健在である。
途中で、増殖曲線、染色体分析、など行なった。sucrose培地中で継代している細胞は、培養開始後、少なくとも5週目ではsucroseを利用しえたが、最近growthが次第に悪くなってきている。5週間たっても増殖したことから、glycogenのような貯蔵物質によって生存していたのではないと考える。この細胞がcell
lineになるかどうか今後に期待したい。
《山上報告》
この度、新らしく、班に所属させていただく事になりました。よろしくお願いいたします。昨年4月より高木良三郎教授のもとで、組織培養を習っています。それ以前は九大癌研(化学)及びTemple大癌研にて、もっぱらBacteriaとPhageを扱っていました。トンチンカンな事も多いと思いますので、色々御教示下さいますよう、お願いいたします。
当研究室では先にMNNGのin vitroでの発癌実験があり、現在もtransformed
cellの特性に関する研究がありますので、それらに関連して研究して行きたいと考えています。
Transformed cellの内、もどし移植出来て動物を癌死させる性質とin
vitroでの性質の相関を見つける為に培養の条件についての検索が色々されていますが、細胞がtakeされるに当っては細胞の悪性度と云う事以外に細胞の抗原性と云う因子も強いと考えられます。ある型の無制限増殖とある膜の抗原性の変化に一定の因果関係があるかどうか、化学発癌の場合は、はっきりしないと思いますが、無制限の増殖と云う増殖形態の為に、機能上あるgeneがopenとなる様な場合も含めて、この両者には直接の関係はない、つまり培養内でcontact
inhibitionのとれた細胞は全て癌であり、takeされるか、どうかは癌の本質には関係がない、と云う立場で進めてみたいと考えています。この場合は、免疫的に膜の変化の大きいものほどrejectされやすい事になります。そしてrejectionはhomograft
rejectionのtypeで中和抗体よりも細胞性免疫機構、つまり胸腺由来の感作リンパ球が主体となると思われますので、まず、株細胞より胸腺摘出動物と摘出しない動物にtakeされ方の差のあるstrainのisolationから始めたいと考えています。