【勝田班月報・7309】
《勝田報告》
Spermineのラッテ肝細胞増殖阻害について
1)SpermineでRLC-10(2)(肝細胞)を、色々な時間に処理したあとの細胞増殖をみた結果を図に示す(図を呈示)。90分以上処理すると、著明な阻害がみられた。
2)以後の実験はspermineの細胞阻害作用を何かの薬剤で阻止できないか、という企てである。まずspermine
0.97及び1.95μg/mlを添加し同時にchondroitin
sulfate 500μg/ml、poly L glutamic acid 500μg/ml、lysozyme
1mg/ml、N-acetylglucosamine 1mg/ml、N-acetylglucosamine
1mg/mlの添加を試してみましたが、spermine
1.95μg/mlにlysozyme 1mg/mlの併合のときに増殖阻害がやや緩和された。これ以外の組合せでは全く阻止効果がなく、spermineの単独添加の場合と同程度の阻害がみられた。
3)Chondrotin sulfate、poly L glutamic
acid(soda)、lysozyme、N-acethyl-D-glucos-amineなどを各1mg/mlに別個に添加し、培養1日后にspermineを1.95μg/mlに添加してみたが、どの薬剤についても阻害の阻止効果は全く見られなかった。
4)Spermine 1.95μg/mlに添加した培地でRLC-10(2)(ラッテ肝)、JTC-16・P3(ラッテ肝癌AH-7974の完全合成培地内継代株)を1日間培養した後、その培地をRLC-10(2)の培養培地に添加してみた。結果として、JTC-16・P3を培養した培地では、阻害が相変らず起ったが、RLC-10(2)を培養した培地では阻害が若干緩和されていた。何を意味するのか、現在では全く判らない現象であるが、色々考えさせられる所見である。
《梅田報告》
(1)月報7307で、YS細胞での8-azaguanine(8AG)耐性実験について述べた。その後の実験では以下の表の如き結果を得た(表を呈示)。Group(A)の小さなcolonyを5つ程cloningし、正常培地で培養を続けた。増殖しなかったもの、又contaminationもあって結局たった1コのcloneしか残らなかった。このcloneが3週間培養後やっと増殖してきたので、細胞を2つの培養瓶にわけ、一方に10-5乗M
8AGを入れてみた。今迄の実験で、mass cultureでは10-5乗M
8AGでsensitiveな細胞はすべて死滅し、耐性細胞のみ残存増殖を続けることがわかっているが、本細胞は8AGを入れてなかった培養と同じ様な増殖を続け、明らかに胎生のあることがわかった。
(2)前回の報告では10-4.5乗Mのagar medium中より拾った細胞は、すべて耐性がない(10-5乗Mの培地で)ことを報告しているので今回の結果と合せると、YS細胞をsoft
agar培地中でcloningする我々の実験方法では10-5乗M
8AG耐性細胞を得るには、10-4乗Mと云った10倍も濃い8AGの入ったsoft
agar medium中で選択しなければならないとの結論になる。
(3)因みに文献をあたってみるとChuら(1968)では、generation
time 12時間と云う増殖の非常に早いChinese
hamster cell lineを使って、Selective agentである8AGを何回も投与している(表を呈示)。
即ち我々の場合、YS細胞が浮遊細胞故、soft
agar法でコロニーを作らせざるを得ず、その為、何回もselective
agentである8AGを投与出来ないのが、我々のdataの原因とも受けとれる。
更に気になるのは、8AG抵抗性にはpartialとtotalと度合いに差があるとの報告が見出された。Littlefild(1963、1964)。そうなると、我々のデータで10-4.5乗Mで生ずるコロニーはpartial
resistanceのものなのかどうか更に検索が必要になったと思われる。いずれにせよ、この種の実験では物事が非常に複雑にからんでいると云わざるを得ない。
《乾報告》
今月は専売公社へ参りまして、初めて扱った、タバコに関しての二、三の報告をします。 ◇シートタバコの毒性、癌原性についての予備実験
ここ二、三年国内産タバコ葉の不足から、タバコ葉の葉脈、裁断小片を再生し、これら原料を一旦粉末化した上、紙すきの工法でのり、香料を添加し、シートを作り、これを再裁断し、紙巻タバコを作る方法が考案され、実用化がめざされている。
今回は公社で試験的に加工したシートタバコ標本(B)タール毒性、突然変異誘導性を、標準タバコ(C)と、黄色種巣葉試験タバコ(A)のそれと比較した結果を報告します。
1)検定細胞にHeLa細胞、ハムスター胎児起原の繊維芽細胞(2代目)を使い、梅田らの考案したラブテックチェンバー法で、上記3種のタール100、31、10、3.1、1、0.3、0.1μg/mlを10万個/mlの細胞とMEM+10%C.S.下で72時間作用し、タールの細胞に対する作用を、増殖、形態変化を指標として検定した結果は表の如くであった(表を呈示)。以上の結果より細胞に対するGrowth
Inhibitionは、黄色タールが一番強く、標準タバコが弱く、検体であるシートタバコは二者の中間であった。
なおAryl-hydrocarbone hydroxdase(A.H.H.)を産生していると考えられるHamster
Cellでは、障害が強く表われ、A.H.H.マイナスのHeLa細胞では障害が弱く表われた事から、タール物質中、細胞毒性物質として働くものの大部分が、芳香族炭化水素の活性型であることが推察される。
タバコタールによっておこる細胞の形態異常は大部分が多核細胞、巨核細胞の出現、核のPiknosis、多極分裂で三者の間に差はなかった。
2)突然変異誘導テスト
検定細胞に前記同様ハムスター細胞を用いFeaderの細胞としてラット胎児源の繊維芽細胞を使用した。
実験はHeidelbergerやSachsらの方法と略々同様である。即ち、MEM+10%CSでラットの細胞をあらかじめ単層培養し、この細胞にX線5500γ照射後、同種メデュウム5mlに10万個の細胞を浮遊し、同時に未処理ハムスター細胞を300ケ加え、シャーレに播種した。12〜24時間後、細胞がシャーレ底に定着した時期に、10、5、2、1μg/mlのタールを添加した培地を加え48時間培養をつづけ、後、Hanks液で3回洗い、通常培地で2週間培養後、シャーレ中の細胞を固定、HE染色後、Colony数の算定、変異Colonyの算定を行った。
結果はTar A GroupのControlの失敗があった故、一部のみ上げると表の如くです。(表を呈示)。即ちControlのPEは9%、TarBは6.4%、TarCは5.6%。変異Colony出現RateはControlは0、RarBは0.33%、TarCは0.75%。
《山田報告》
今回は肝癌細胞から作られると思われる毒性物質の分析の一環として、Spermine、Spe-rmidine、Putrescineの細胞表面に与える直接影響について細胞電気泳動法により検索しました。(図を呈示)。結果は図に示すごとくで明らかです。
Spermineは興味あることに低濃度(0.1〜0.65μg/ml)を用いると、その表面荷電が高くなり、それ以上の濃度では急烈に減少して来ました。
これに対し、Spermidineは3.9μg/mlまでの濃度を用いた限りでは殆んど、影響がなく、Putrescineは125μg/mlの高濃度で、若干細胞の電気泳動度を低下させるのみです。用いた細胞はすべてRLC-10(2)です。
Spermineの反応態度をみると、丁度neuraminidase処理と似て居ります。恐らくは肝癌細胞に対しては低濃度を用いて荷電の上昇をきたすことになると思います。
いづれにしろSpermineは1μg以下の極めて低濃度に於いて、細胞膜に変化を与えることは事実の様です。
《佐藤報告》
(STI)Normal Adult Rat liver由来のEpithelial
Cell Lineの樹立:
P.T.Iype(1971)が、Normal adult rat liver
cellsのIn vitro cultureに成功し、それを用いて、CarcinogenとCell
surface antigenic changeの関係を、最近報告している。又Aromatic
amine carcinogensによりinduceされたPrimary
hepatoma、及びTransplantable hepatomaからEstablishされたLines、並びにそのCotrolとしてNormal
adult rat liver由来のEpithelial cell linesが報告されている。
我々もP.T.Iypeと同様にEpithelialのNormal
cell systemを確立し、Chemical carcino-genesis
in vitroの研究をする目的で、Normal adult
rat liver由来のEpithelial cell lineの樹立を試みてきたので現在までの結果を報告する。
§材料と方法§
Adult rat liverの細胞分散にはCollagenaseとHyaluronidaseを用いた報告が多いが、我々は従来用いてきた0.2%Trypsin
in PBS(-)による細胞分散により、得られた細胞よりcultureした。
(1)Rat age、Sex(表を呈示)。
(2)Ethyletherにてマスイし、以後asepticに行う。
(3)開腹後、V.portalにCatheterを挿入し、U.C.inf.を切断し、CatheterよりSyringeで50mlのPBS(-)を注入し、完全に脱血する。
Not perfusedはDecapitationにより脱血したものである。
(4)Liverを取出し、メスで細切、0.2%Trypsin消化し、TD40、TD15、Petridish(PI)等に表に示した細胞数でうえ込む。
Medium;Eagle's MEM80%+Pc100u/ml+SM50μg/ml。Passage;0.1%〜0.05%Trypsin
in PBS(-)。
§結果§
(1)5例中5例に増殖型のEpithelial cellが優勢のcell
lineが得られた。
(2)RAL2 lineより9代、63培養日数にてColonial
cloningを試み、Epithelial 6 sbulineを得た。
(3)Passage:1回/5〜10日、1:2分割。
RAL 3:5代、6代が1:1分割。
RAL 4:1代、4代が1:1分割。
(4)PAS染色:弱陽性。G6Pase染色:陽性の結果を得ていない。
(5)Chromosome、Serum Protein産生(特にAlbumin産生)etcを現在検索中である。
(T-3)dRLa-74分散実験(続き)
前報(No.7308)で示した如く、dRLa-74はTrypsinとEDTAの組合せにより、遊離細胞を得る事を知ったが、今回はこの組合せにより、更に高率に遊離細胞を得る事を目的として、二三の条件を検討してみた。
(1)濃度:Trypsin(0.2%〜0.05%)、EDTA(0.05%〜0.002%)の範囲ではTrypsin
0.2%、EDTA 0.05%の組合せが、最も高率に遊離細胞が得られたので、以下の実験は、この濃度で行った。
(2)時間:(表を呈示)20分間の処理で20%前後の遊離細胞が得られるが、時間を延長しても特に大きな増加はない様である。
(3)温度:(表を呈示)37℃(フラン器)、27℃(室温)、4℃(冷蔵庫)、処理は60分間。4℃、27℃では10%以下。37℃はほぼ30%。
(4)pH:(表を呈示)図から明らかな如く、pH8.2で高率に遊離細胞を得た。興味ある事は、このpHでTrypsin、EDTAの各々の単独でも遊離細胞が得られる事である。pHは、0.02MTris-HCl
buffer(0.1M sucroseを含む)により調整した。処理時間は60分。
この様にして得られた遊離細胞のクローン化を現在試みつつある。
《高木報告》
AAACNによるin vitro発癌の試み:
これまで行なって来たAAACN処理実験は、一回処理群で処理後6ケ月、8回処理群で各処理後2ケ月を経過していずれも形態の変化を認めず、実験を中止した。さらに検討するため、新たにMNNGをpositive
controlとしてAAACNの実験を再スタートした。3系に分けて実験を行なったが、用いた薬剤の濃度をまとめるとAAACNは3.3x10-4乗、2x10-4乗、1.6x10-4乗、10-4乗M、controlのMNNGは3.3x10-5乗、2x10-5乗、1.6x10-5乗、10-5Mである。細胞はRFLC-5を用い、20万個/bottleでMA-30にまいて2日後subconfluentの状態の時にcell
sheetをPBSで2回、MEMで1回洗ってMEMに溶かしたAAACN、MNNGを2時間作用させた。終って再びPBSで2回、MEMで1回洗って培地を交換し経過を観察した。初期の変化をのべると、AAACN
3.3x10-4乗、2x10-4乗、1.6x10-4乗Mでは作用直後より細胞の変性像が著明で、わずかに少数の円形化した細胞が、ガラス壁に付着しているだけであり、4週間の観察期間恢復の兆はみられない。10-4乗Mでは作用直後の細胞は細胞質に顆粒多く、周辺の不整がみられ、それらの変化は1〜3日後まで強まり、円形化した細胞の数も増加した。1週後より生き残った細胞(foci?)の増殖がみられ、以後この細胞は次第に増殖する傾向を示した。これらの初期の変化は再現性があったが、2度目に行なった実験の方が変化は強かった。これら薬剤の細胞毒作用は、細胞数のみならず母培養の状態その他のfactorによっても影響をうけるようである。
対照のMNNGは3.3x10-5乗Mでは作用直後より4〜5日後に変性が最も強く、そのままの変性した細胞がガラス壁に付着した状態が続いている。2.0x10-5乗M、1.6x1-5乗Mでも4〜5日後にもっとも変性像が強かったが疎につらなったspindle
shaped cellsが6日目にはpiling upの傾向を示し、10日をすぎて増殖を示すfociが認められ、細胞は次第に増加の傾向を示している。変性のおこり方はAAACNとMNNGでは明らかに異なる。次回の班会議に、これらのスライドを供覧する。
XP細胞についても報告する予定である。
《藤井報告》
Culb-TC細胞に対して、in vitroで感作されたリンパ系細胞の標的細胞破壊作用:
Culb-TCその他の培養ラット肝細胞の、in vitro悪性化細胞やいくつかの人癌について、mixed
lymphocyte-tumor cell culture reaction(MLTR)を実施してきました。MLTRで刺激され、H3-TdRのとり込みの昂まる、リンパ系細胞の反応が、in
vivoでおこるリンパ球の、immunoblastの形成に連る反応であるかどうかは、類推として正当にみえるが、とくに癌免疫のばあいの確証はないと思う。
そこで、Culb-TC細胞を用いて、この細胞に対して、反応した同系のJAR-1
ratリンパ系細胞が、標的細胞に対して細胞障害性に作用するか、否かを検討してみた。この種の実験は、マウスの腫瘍では、一応in
vitro感作リンパ球の細胞障害活性をin vitroおよびin
vivoで示し、報告してある。(以下、表1、2、3を呈示)
1.JAR-1ラット、脾および末梢白血球のin
vitro感作:
脱血后の脾の細胞浮遊液と末梢血中のリンパ系細胞はAngio
conray-Ficol法で集めてあり、リンパ系細胞は80〜90%に含まれる。刺激細胞、Culb-TCは予め4,000R照射した。反応細胞(リンパ系細胞)と刺激細胞を5:1の割で混合し、炭酸ガスフランキ中で培養した。容器はプラスチックプレート(FB54、Limbro)を使用した。培養のプロトコールは、表1のとおりで、5日間培養の后では、Culb-TCと混合培養した脾細胞のうち、その24%が生残り、その50%が大型のblastoid
cellsであった(blastoidという確証はないが)。同じく、末梢白血球では、35%が残り、その27%が大型細胞であった。これらの細胞を、rubber
policemanではづし、1回RPMI 1640液で遠心により洗った后、標的細胞破壊実験に供した。
2.標的細胞の標識:
Culb-TCおよび、対照の同系細胞として、JAR-1
rat由来の肺上皮細胞と思われる、RLG-1strainを、癌細胞研のDr.高岡より分与され試用した。RLG-1はJRA-1
ratに復元可能な悪性化株とのことである。
これら細胞株を、semi microplate(Limbro、FB48TC、1wellの容量、0.4ml)、および小ガラス試験管(径0.6mm)を、5,000cells/0.25ml/tube
or wellの割で分注した。1日間培養后、浮游細胞を吸引により除き、I-125-iododeoxyuridineを5μgCi/mlの濃度で、また5-FUDRを10-6乗Mの濃度になるように調整したMEM
0.4mlを加え、20時間のlabeling incubationをおこなった。標識の成績は表2に示した。
3.in vitro cytotoxicity test:表2に示したように、I-125-IDU(iododeoxyuridine)で標識后の各孔およびチューブ中の標識細胞数に対して、in
vitroで照射刺激細胞と5日間混合培養されてきたリンパ系細胞を100、10の割に加え、24時間培養した。このさいは、90%RPMI
1640、10%ラット血清の培養液で、5%炭酸ガスフランキ中で培養した。
24時間における標的細胞破壊は、表3のようになった。plate法では、障害〜溶解細胞を、Pasteur
pipettで吸引して(3回)、生残標的細胞の放射能をWellタイプ放射能測定機で測定したものであり、tube法では遠心(1000rpm、5分)3回で障害〜溶解細胞を上清と共に除いた。 Plate法、tube法とも、大体同じ傾向の成績を示した。in
vitro感作リンパ球は、標的細胞に対し、細胞障害性に作用しているようである。対照のRLG-1に対しては、ほとんど細胞障害活性がない。感作リンパのdose
responseや、免疫学的特異性は、incubation時間を長くすると、はっきりするかも知れない。ふつうリンパ球のin
vitro cytotoxic actionは24〜48時間で高くなる。末梢血中リンパ系細胞のcytotoxic
activityが脾細胞より低くなった。これは、脾細胞群にマクロファージなどが混入しているためか、リンパ球自身の活性の差か、検討する要がある。この実験やマウスの同様の実験から、MLTRでのリンパ球反応が、免疫学的であると云えよう。
《堀川報告》
今年の夏は暑かったためか、仕事の上でもそれほど大きな成果を得ることは出来なかった。従って今回も前回につづいて体細胞突然変異の研究結果を報告する。
例によって、Chinese hamster hai細胞からレプリカ培養法によって得た栄養要求性細胞(Ala+、Asn+、Pro+、Hyp+、Glu+)を各種線量のUVで照射した後、完全培地中で48時間fixation
and expressionの為培養したのち、BUdR−可視光線法によって栄養要求性細胞(Auxotrophs)のみを分離して、induced
mutation frequencyを調べた。
各種線量のUVで照射した際の線量−生存率曲線ならびに10万個生存細胞数あたりの誘発突然変異率をまとめて示したのが第1図である(図を呈示)。
この実験に関してはまだ実験例が少ないのではっきりしたことは云えないが、前回の月報で示したX線による誘発突然変異率の結果(参考のため第2図に再度示した)と大きく違っている。つまりUVの場合にはX線の場合と異ってlagがなく、25ergs/平方mmという低線量照射においてすでに多くのAuxotrophic
mutant cellが誘発される。しかし、高線量域にいてはX線の場合とほぼ同様な傾向を示すようである。変異誘発能がX線とUVで大幅に異なるのか、それともこれは本実験に使用しているChinese
hamster hai(CH-hai N12)細胞独特のものであるのかといった解析が今後に残されている。いづれにせよ、これらについての総合的な結果は次回の班会議で報告する予定である。
《野瀬報告》
Alkaline phosphatase活性誘導の機構(6)
dibutyryl cAMP(DBC)により、JTC-25・P5細胞のALKphosphatase(ALP)活性が上昇することは既に報告した。この活性上昇(誘導)がALP酵素蛋白そのものの増加によるのか、それとも既存の酵素の活性化によるのかは、まだ結論が出ていない。cycloheximide、actinomycinDにより誘導は阻害されたが、これらの薬物は毒性が強いためdataの信頼性が低い。そこで、他の蛋白合成阻害剤としてpactamycinを用いてみた。この物質は、mammalianの蛋白合成のinitiationを阻害することが知られている。
JTC-25・P5細胞にpactamycinを加え、37℃で1時間のH3-LeuのTCA-insoluble分劃へのとりこみを見たのが表1である(以下、図表を呈示)。1μg/mlの濃度で約93%の蛋白合成阻害が見られた。DBC
0.25mM、theophyllin 1mMでALP-Iの誘導を起こし、ここにこのpactamycinを添加して影響を見たのが表2である。cycloheximideは、確かに誘導を阻害しているが、pactamycinは阻害せず、むしろ若干の促進が見られた。細胞増殖に関してもpactamycinは図1に見られるように完全に抑制しているので、4日間の培養中に活性を失ったとは考えられない。
ALP-Iはplasma membraneに結合して存在すると考えられ、JTC-25・P5細胞でも誘導されたALP-I活性のsubcellular
distuributionは表3のようにsup.にはほとんどなくparticulate-boundであった。また、この酵素を精製する際も、Butanol抽出を行なった後でも非常に大きなcomplexとして活性が存在し、恐らくlipidと結合していると想像される。
以上の事から、DBCによるALP-Iの誘導の機構として
(1)de novo蛋白合成は必要なく、誘導は既存の酵素蛋白の活性化による。
(2)pactamycinはinitiationだけを抑えるので、ALP-I酵素蛋白の合成が開始していては、その合成の阻害はない。従って、誘導する以前から、細胞内にALP-I蛋白の“initiation
complex”ができていて、DBCによりその読み取りが開始される。
の2つの仮説が考えられる。現在、このどちらであるかは決定できないし、ALP-I蛋白が完全に精製されるまでは、これ以上進展できないように思われる。
《黒木挨拶》
9月3日、羽田発で出発します。行先はフランス・リヨン市にあるWHOの、International
Agency for Research on Cancer(IARC)Unit of
Chemical Carcinogenesis(Dr.L.Tomatis)のところです。
仕事の内容はおそらく肝細胞、腎細胞を用いたNitrosoamineによるtransformationと、mutagenesis関係の仕事になることと思います。前者の仕事はすでにTomatisのところで成功している実験系を用い、あるいは新たに、肝、腎細胞の分離からはじめるかも知れません。 第二の仕事であるmutagenesisは、3ケ月という短期間の間に、できるだけ成果を挙げるべく行うわけで、こちらで分離したFM3AのHGPRT-→←HGPRT+変異をみるつもりです。ただこれだけではoriginalityに乏しいので、Agar
plate Cultureと組合せて、新しい実験系の開発も試みるつもりです。
このほか、IARCの組織培養関係のconsultantとしての役割も、向うでは期待しているように思われます。
帰りに、ベルギーで行はれるWorkshop on Approaches
to assess the significance of experimental
chemical carcinogenesis data for manという会議に出席します(12月10〜12日)。これにはAmes
Conney、Gelboin、Grover、Huberman、Magee、Vasiliev、それに杉村さんなどの人達が出席するので、得るところが多いであろうと期待しています。12月末の研究室の大そうじまでには帰るつもりです。