【勝田班月報・7401】
《勝田報告》
 新年を迎えて
 初頁にもかきましたが、今年の新春は本当に目出たくないですね。東京ではもう2月以上雨が降らず、重油の輸入難と相まって、節電、節水・・・の御命令で、暖房も禄にこず、いまに動物室やフラン室、低温室などの電源をきられたら、我々はお手上げです。また戦后の苦難時代に帰らなくてはならないかも知れません。そうなっても、しかし、我々は研究を続ける義務があります。非常事態を一応考えておきましょう。
 当研究部では、昨年はラッテの肝細胞の培養を、なるべく早く、且なるべう純粋に作ることを努力しました。色々な方法で試み、何株かを作りましたが、それについては、いずれ月報なり班会議なりで報告いたします。今年はそれらを使って(自然発癌しない内に!)化学発癌の実験をすすめる予定です。
 また昨年入室した許君はラッテ腸管の上皮細胞の株を作りかけています。これも発癌実験に用いることになるでしょう。
 今年はしかし、私は肝癌の放出する毒性物質の本態の追究に主力を注ぐつもりです。どうもそれがpolyamineらしいということは昨年つきとめた訳ですが、本当にそのもの自体かどうかを今年ははっきりさせたいと思っています。これは許君も手伝ってくれています。 Polyaminesの内で、spermineがいちばん疑わしいのですが、少し変なところもあります。この辺もはっきりさせたいと思っています。生物学的細胞毒性作用では、各種の細胞についてしらべた結果、肝癌毒性物質の作用と非常に近い特性を示していますので、spermineがいちばん怪しいということは推定されます。
 若しspermineが本番ということになれば、今年はその動物実験にかかり、対応策を考えて行きます。

《山田報告》
 おめでとうございます。今年も宜敷く御指導の程お願い申しあげます。
 小生今年四月から独協医科大学第一病理学教室にまいります。(スケッチを呈示)スケッチに描きました様に、栃木県宇都宮の在ですので大変のどかな所です。春には雲雀の急降下もみられますし、秋には紅葉も美しい所です。
 今年は教室作りに追われると思いますが、これに負けないで、研究の方も休みなく続けたいと思って居ります。
 ラット肝細胞培養初期におけるConAの反応性;新たに樹立された正常ラット肝培養株RLC-20、及びRLC-21のConAに対する反応性を調べてみましたが、in vivoにおける再生肝と多少異なる結果を得ました。低濃度のConAにより僅かではありますが、その表面荷電密度は増加する点です。しかしAH-7974の培養株であるJTC-16の反応性とは明らかに異なります。
《高木報告》
 今年のprojectとして次のことを考えています。
 1.培養内癌化の指標の検討
 昨年はsoft agarにおける培養条件を検討してみましたが、ついに結論らしき処まで到達せず中断してしまいました。暮から、CytochalasinBの種々細胞に対する効果を検討していますが、或程度のdataは出つつあり、本年はこの問題をもう少しつっ込んでみたいと考えています。すなわち細胞種によるCytochalasinBに対する反応性の違いが、その細胞のin vitroの所謂non-viralなtransformationとどの程度の相関があるかと言うことを追求したいと考えています。
2.膵ラ氏島細胞の培養について
発癌実験系をつくるにあたって、如何なる細胞を用いるかと言うことは最も大切な問題で、適当なmarkerをもった正常細胞の分離は誰しも考えていることだと思います。私共は以前より膵の培養を試みて、特にラ氏島に由来する細胞の分離培養を心掛けて来ましたが、本年は発癌実験にも用いうる正常膵ラ氏島に由来するfunctioning cell lineを、とる努力を一歩一歩重ねたいと考えています。これと比較する意味で、islet tumor cellsの培養を考えて、昨年6DEAM-4HAQOの注射をラットに行いましたが、現在7〜8ケ月を経過したところであり、まだ少なくとも6ケ月は経過を追わなければなりません。先日、注射したラットの血糖値を測定してみましたが、異常値を示したものはありませんでした。最近成熟ラット膵ラ氏島の培養をmicroplateを用いて行ない、約2ケ月半insulinを分泌しつづけさせることに成功しました。しかしgrowthは示さないようです。さらに培養条件を検討したいと考えています。
 3.RRLC-11細胞より分離されたvirusについて
 このvirusの生物学的性状は可成りのところまで追求できました。さらにこのvirusの存在意義について検討したいと考えています。まずは、ラットのこのvirusに対する抗体保有性状を広く調べたいと思います。

《梅田報告》
 (1)昨年度は試験管内発癌の本来の仕事が思うようにはかどらず、又YS細胞を使っての8AG耐性細胞を得る実験ではさんざんな目に会わされました。やっと培養細胞のDNA索検索の仕事が面白く展開してくれたこと、又横道と知りながら培養細胞により血清要求が異ることとか、adenine誘導体投与がRNA、DNA代謝に強く影響していること等でお茶をにごさせていただきました。
 (2)本年はどうしても本業の試験管内発癌の仕事に精出さざるを得ないと思うのですが、社会の要請もあり、繊維芽細胞のしかも株化したものの悪性化であっても化学物質投与後、試験管内でなるべく容易に悪性化を測定出来る手技のルーチン化に心がけることを目標にしたいと思っています。そのために3T3細胞、C3H2K細胞を候補にして、目下培養を続けているのですが、その両細胞共になかなか培養のむずかしい細胞で、特に前者はすぐ悪性化してしまうような感じを与えます。C3H2Kの細胞も、一部の細胞は既に悪性化しているようで、DMBA投与により形態転換はするものの、定量化にはこのままでは使えそうにない段階です。目下これら細胞をcloningして使い易い細胞を自分で選ぶことにして培養中です。
(3)YS細胞の8AG耐性細胞を得る仕事は全くお手上げだったので、暮になってからFM3A細胞を貰ってきて、黒木さん方式の寒天の上にcolonyを作らせる方法で8AG耐性の細胞を拾う実験を行ってみました。この方は全く簡単で、10万個orderできれいな耐性colonyの出現を見ました。あまりきれいなので、これとそっくりの方式でもう一回YS細胞で実験した所、この方はやはり全くcolonyを作ってくれませんでした。こうなるとYS細胞は、8AG耐性になり難い細胞なのであって、今迄我々がYS細胞にだけ固執して耐性細胞を得ようとしていたことが、真違いのもとであったと思うようになりました。逆にYS細胞で8AG耐性になり難い理由を探ることも、重要で興味ある仕事と考えています。
 本年はこんな所を先ず解明しながら進みたいと念じています。

《堀川報告》
 1973年もあわただしいうちに過ぎてしまいましたが、とりわけ暮からは石油不足に端を発して紙不足、薬品不足など研究生活においても、また家庭生活においてもあらゆる面で困らされました。この分だと今年は更に物価の値上りは必須とみられ、節約々々という言葉はあらゆる面で呼ばれるだろうと思いますが、もともと貧乏国に育った我々日本人がここ10年ばかりのうちに異常な程の贅沢を身につけていた事にも大きな間違いがあった訳で、現在の政府のやり口にも大いに疑問を感じますが、同時に我々自身反省すべき時期にあると思います。さてこうした中で当班での仕事として何とか本年中にはある程度決着をつけたい思っている課題、次の2つについて抱負を述べます。
 (1)培養哺乳動物細胞における突然変異の研究。
 レプリカ培養法によりChinese hamster hai細胞から分離した、栄養要求株(TdR-)および栄養非要求株(Ala+、Asn+、Pro+、Asp+、Hyp+)を用いてX線、UV、4-NQO、NGにより誘発される、前進突然変異率、復帰突然変異率を算定する。
一方、各種細胞株について8-azg抵抗性および感受性を指標にして前進および復帰突然変異率を算定する。
こうした2系の実験から得た結果をもとにして培養動物細胞における従来の多くの人々により発表された前進および復帰突然変異率の妥当性を検討する。
 (2)放射線および化学発癌剤に対する細胞の周期的感受性変更要因の解析。
 HeLaS3細胞を0.025μg/ml colcemidで6時間前処理後、harvesting法によって大量かつ高純度のM期細胞を得ることに成功したが、こうして得た細胞集団についてX線、UV、4-NQOに対する周期的感受性変更要因の解析を更に進める。そして、最終的にはマウス3T3細胞のようにContact inhibitionがきれいにかかり、一応の癌化の指標を上手にもつ細胞を用いることにより細胞−癌化・変異−DNA障害とその修復能の関係を明らかにしたい。
 以上が本年度の私のねらいであるが、さて、これが夢として終らないよう頑張らなければならない。

《乾報告》
 年の始めに当り本年こそは“癌という病気”の原因を解明するため、ほんの半歩でも前進したいと考えております。
 私は昨年10月当研究所へ移りまして以来、発癌剤は使えない、Mutagen、重金属化合物の使用は出来ず、実験手技として、RI、生化学的分析を用いることの出来ない状態で細胞を培養しております。この様な状態で新しい年を迎えたわけですが、発癌のメカニズムを解析するべき基礎研究の最低の極限において、我々が何が出来るかと云う事に挑戦して見たいと思います。
 出来うる限りに早く本来の基礎研究の場に復帰するべき努力を致しておりますが、それ迄の間、当地においても一日一日を大切に一歩一歩前進したいと存じます。
諸先生方の御援助をおねがい致し、年頭の言葉にかえさせて頂きます。

《永井報告》
 旧年中は大変御世話になりました。石油ショックの為世の中は暗いものがありますが、研究の方はそれに負けずに進めたいものと思っております。皆様の御仕事の発展を御祈りいたします。本年が諸先生におかれましても終り善しという年となります様に。
 私共の毒性代謝物質の研究も、旧年中にpolyaminesとの関係へと一歩足を踏み入れましたが、今年は是非ともこの関係をより明らかにするとともに、可及的に速やかに毒性物質の化学構造を明らかにしたいものと念じております。思わぬ角度からpolyaminsとtumorという問題が浮上して参りましたが、気がついてみると世の中の方は細胞の分裂、あるいは、増殖度とpolyaminesとか、リンパ球のブラスト化とpolyaminesといった点に次第に関心が集りつつあるようで、論文とかconferenceの数とかもpolyaminesについてのものが増加しつつあるような気配がうかがわれます。また、これも流行するテーマとなるのでしょうか。それはさておき、私共は自分たちの中から自ずと生れてきた問題を大事に育てあげ、所期の目的に向って進みたいものと思っておる次第です。
 石油問題から、硫酸や苛性ソーダ、アセトン、クロロフォルム、ブタノールといった薬品溶剤類が入手不能になり、私共物質屋にとっては大変な年明けとなりました。苛性ソーダが無くて苛性カリが入手可能というのですから、どうなっているのかと云いたい所です。おそらくどっかに貯蔵されて眠っているのでしょう。敗戦時のあの時のように。どうも芳しくない年明けですが、雨にも負けず風にも負けずでやってゆきたいと思っております。本年もよろしく御指導下さいます様、お願い申し上げます。

《黒木報告》
 12月24日にLyonより戻ってきました。3ケ月間のフランス滞在は、色々な意味で有意義でした。Lyonで行った仕事は肝細胞の培養と、6OH・BPの突然変異性などが主なものです。
 1.肝細胞の培養:
 目的はヒトの肝細胞を培養し、環境中に見出される発癌剤、例えばnitrosamineのヒトにおける発癌性を調べること。また、発癌剤の代謝能を調べることなどです。
 ヒト材料が手に入らなかったため、ラットから肝細胞を得た。生後10日及び8週間のBD ラットの肝を細切し、トリプシン消化後、Williamsの方法で上皮細胞を得た。混在する繊維芽細胞は、エーゼで殺した。4つの株細胞(安定した増殖を示すという意味で)と、3つのpure cloneを得た。pure cloneはmicroplate法で得た。これらの細胞は形態的に上皮様でその生化学的特徴はこれから調べるところである。染色体はdiploidに70%がある。
 2.肝細胞のtransformation
 nitrosoguanidine、dimethylnitrosamine、aflatoxin B1、K-region epoxide of BAで、transformationを試みた。目下移植テスト中。
 3.6・OH・BPの突然変異性
 種々の事故が重り、experimentはスタートできなかったが、protocolは作った。Amesの系で6・OH・BP、4・OH・BP、3・OH・BP、5.6epoxide of BP等の変異性をテストするつもりである。

《野瀬報告》
 一年をふり返ってみて、一年たってもこれだけだったかという自らの非力に絶望的になりますが、今年はもう少しましな一年にしたいと努力するつもりです。年頭にあたり、今年の目標をたててみました。
 (1)癌研究の一環として、酵素を細胞形質の発現機構の研究材料とするのは一応意味あることと思います。今迄Alk.phosphataseをやってきましたので、もうしばらくこの酵素を続けたいと思っています。一過性の誘導ではなく、長期間見かけ上はgeneticalに性質が変化し、高い活性を保持している細胞株がとれましたので、この株のcharacterizationを行ない、なぜ活性が上ったかを明らかにしてゆきたいと思います。このような酵素活性の持続的変化は本当に遺伝的な変異なのか、単なる調節機構の変化なのか興味ある問題です。最近HGPRT-欠損株がcell fusionにより発現するという報告がいくつかありますので、活性がなくても遺伝子がmaskされているだけという例は多いのかも知れません。これらの現象は形質発現に関するtransformationと言っても良いと思われます。
 (2)化学発癌剤の作用を、酵素以外の広い生物現象について調べてみたいと思っています。細胞の癌化も何らかの遺伝子発現が持続的に変化させられたものなら、単純な系でこの変化を見られれば、発癌剤の作用機作がはっきりするのではないかと思います。HGPRT、栄養要求性などの細胞の性質をmarkerとして発癌剤の効果を見てゆく予定です。
 (3)Alk.phosphataseは、rat kidneyを材料として精製が進んできました。I型と酵素活性から呼んでいるものが、DEAE-celluloseでは単一だったのが、電気泳動によって2つに分れてきました。I-A、I-Bと仮に呼んでいて、等電点がそれぞれ5.1、5.6にあります。それぞれに抗体を作り、inductionによってどちらが上るのか、また、de novoの合成によるのかどうかを見る予定です。

《藤井報告》
 今年はラットのin vitro癌化細胞と同系リンパ様細胞の混合培養反応に、ある程度の区切りを打ちたい。そのために、関与するリンパ系細胞の種類と、それら細胞に関連する免疫反応の型−細胞性か、活性かなどを明らかにしてゆきたい。
 つぎに、腫瘍による自家リンパ系細胞のin vitro感作を利用した癌免疫療法の基礎実験。癌手術の補助療法として領域リンパ球刺激能。その他物質のリンパ球刺激能をたしかめて癌患者のリンパ球の増加と活性化をはかるなどを進めてゆくつもりです。
 癌の手術を的確に遂行することは極めてむつかしいことですが、少しでも癌の外科医として進歩したいこと、癌の外科医として考え、応用できる免疫療法をつくってゆきたいというのが年頭の希いです。

《山上報告》
 昨年中は班会議や月報で色々と皆様に勉強させて頂き、有難うございました。本年も、よろしくお願いいたします。昨年より、培養細胞を処理して戻し移植する時、動物の免疫の有無により、着いたり着かなかったりを、control出来る系を作ろうと努力しています。in bredの動物とセットですぐ使えると云う事で、研究室に長くmaintainされている肺由来のfibroblastを使って始めたのですが、その後色々と問題が出て来て、この細胞は目的に向かない事がわかって来ました。今年は細胞の分離からはじめて、なんとか目的の系を作れるよう努力するつもりです。

編集後記


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