【勝田班月報・7411】
《勝田報告》
 新しい合成培地DM-153について
 すでに報告したように合成培地の新処方DM-153を作った。この処方の特徴はDM-120、DM-145などに比べ、アミノ酸ではamido系のアミノ酸、特にグルタミンの量を3倍にふやしたこと(表1、3)(以下夫々図表を呈示)、ビタミン類の組成をがらりと変えたこと(表1)、bufferedsalt solutionとして、salineDの処方をやめ、phosphate bufferから重曹bufferにきりかえ、炭酸ガスフランキでも使えるようにしたことである。Vitaminでは、biotinの量をぐんと増やしてあり、その他のvitaminも測りやすい量に変えてある。
 第3表は各アミノ酸をグループ別に分けたもので、DM-120に比べ、DM-153がいかにAmido groupで多くなっているかが判るであろう。Totalのアミノ酸量にしても相当なものである。 培地の浸透圧はいつも気になるものであるが、試みにOsmometerを使って測ってみると、第4表のように、かなりの差があることが判った。
 このようなOsmotic pressureの差がgrowthにどの位影響するかという問題であるが、これはあまり関与していないようである。培養瓶の天井に霧が沢山たまっていることが、よく見られるが、これは液の浸透圧がかなり上昇していることを示している。それでも結構細胞はふえているのだから、強いものだと思わされる。
 第1図はラッテ肝細胞RLC-10(2)株について、色々な培地を比較したものである。これは継代には[10%FCS+LD]の培地を使っている。培地は、培養第2日にtest培地にかえ、第9日に培地交新をおこなっている。DM-153は継代用のLDよりはるかに高い増殖率を示した(P<0.01)。EagleのMEMが落ちているのは、non-essential amino acidsを含んでいない為と思われる。DN-145の劣っているのは、グルタミン量とビオチン量の少ない為であろう。
 第2図はラッテ肝由来、なぎさ変異株(JTC-25・P3)、何年間も完全合成培地内で継代してきた株である。やはり第2日にtest mediumにかえ、第9日に培地交新をした。この株はこのテストのためにDM-120ではなく、とくにDM-145で継代してきた亜株である。結果はDM-153とDM-145との間には全く有意の差がなく(P>0.05)MEMは2週間は細胞増殖を支えられなかった。 第3図はヒト末梢血のリンパ系細胞のprimary cultureで、初めからtest mediumで培養している。培地交新は第7日にだけ行なっている。比較した培地は、血液細胞の培養によく使われているRPMI-1640で、10%FCSを添加している。これはクエン酸処理による総核数と、エリスロシン染色でかぞえた死細胞の数を減じたものと、両方の数を示してあるが、明らかにRPMI-1640よりもDM-153の方が好成績を示している。
 以上のように、DM-153は普通の細胞株(血清を含んだ培地で継代している)にも、完全合成培地継代株にも、初代培養細胞にも好成績をしめしているので、非常に多目的的に使える良い処方であると自負している次第である。
 なおDM-153は極東製薬から混合粉剤を発売しはじめた。10l用(塩類なし)4,800円。1l用のもあり、Earleの塩類を混ぜたのもある。詳細は極東製薬・荻 良晴氏宛。

《高木報告》
 CytochalasinBに関する仕事はなお進行中で、現在、多核を形成するRFL-5細胞を30万個前後TD40に植込み、24時間後にCytochalasinBの各濃度を作用させて以後1、2、3日目に各々TD40 4本ずつからの細胞を集めてnetのDNA量を測定中であるが月報には間に合わなかった。従って、今回は本年度の計画の1つであった膵ラ氏島細胞の培養につき、suckling ratのpancreasを用いたmonolayer cultureに関する報告をする。
 膵ラ氏島細胞の培養:これまでに試みた方法を表示する(表を呈示)。
表で、EDTD treatmentは0.2mg/ml EDTAを室温で5分間作用させた。またDispase digestionはDispase 1000pu/mlを37℃20分間magnetic stirrer使用下に作用させた。
これらの方法を1、2、3、4とすると、4の方法はLanbertらによるもので、これではfibroblastの増殖が早期におこり、培養間もなくislet cellsがfibroblastに取囲まれてしまう。4mg/mlのcollagenaseでpancreasをdigestし、isolateしたisletをwire loopで掬い上げて培養したislet culture(1)でも多くの場合培養数日後よりfibroblastの増殖が目立つようになる。Isolateしたisletを多数掬集めて、これをEDTA、引続きDispaseで処理すると、純粋なislet cellsがえられるが、この方法(2)は手間がかかり収量の少ない欠点がある。これらに対して4mg/mlのCollagenaseでdigestしたあと、isolateしたislet cellsを掬い上げず、外分泌腺組織のまざったままEDTA、つづいてDispaseで処理して単離した細胞を植込み、14-17時間後に浮游細胞を集めて別のPetri dishに植込むと(3)、結局はislet cellsと思われるものが生残り、またfibroblastの増殖も比較的少ないことが判った。従って、幼若動物膵から増殖系の細胞をうるにはこの方法でもあり、2、3の方法で現在までFalcon Petri dishに少なくとも2週間はB細胞と思われるgranulated cellsを追求することが出来、また培地中にinsulinを証明することが出来た。Fibroblastの増殖を如何にして抑えるか、ということと目的とする細胞の継代法が今後に残された課題である。10年前渡米中にadult rabbitpancreasより4系統の形態の異った株細胞を分離し、その中の1株はglycogenをたえず合成しており、B細胞である可能性が強いと思われたが、この時に用いた方法は4のLambert法に似たものであった。さらに培養法を検討して、少しでも長くislet cellsを増殖させうる実験系を追求したい。培養細胞の写真は紙面の関係でまたの機会に供覧したい。

《梅田報告》
 FM3A細胞を用いて8AG耐性細胞出現率でみるfoward mutationの系を使った実験のその後のデータを報告する。
 (1)方法はFM3A細胞を各種濃度の試験物質で2日間処理後、耐性細胞を検出するためには20μg/mlの8AG、細胞の生存率をみる為には8AGの入っていないMEM+10%CS+0.5%agarose寒天培地平板上に前者は100万個細胞、後者は100〜200細胞数を接種し、10〜14日間培養後、平板寒天上に出来るコロニー数を算定した。
 (2)基礎実験として8AGを入れた寒天平板上に生じたコロニーが、本当に耐性があるかどうか調べた。培養12〜14日で直径5mmに及ぶコロニーが出現する。しかし、非常に小さいコロニーも出現する様でありどの大きさ迄算定すべきであるか迷う。大、中、小のコロニーに分け、その夫々から4つ宛コロニーを拾い、20μg/ml 8AGの入った液体培地で培養した。
 大(5〜4mm径)、中(3〜2mm径)のコロニーからの細胞は全部8AG培地中で増生し、継代可能であった。1.5mm以下のものは明らかに微小のものが多く、之等は拾った4クローン全部が8AG培地で継代不能であった。
 このことは8AG寒天平板上で耐性の細胞は増殖が可能である故、次第に大きなコロニーを形成するようになるが、8AG感受性細胞も一部は生存し、培養初期の8AGの活性のある間はそのまま、培養が進んで8AGが分解されるかして後、増生を始めるので、そのような細胞が微小コロニーを形成していることが示唆される。
 以上のようなわけで耐性コロニー数の算定には充分気をつけることが必要である。因みに細胞の生存をみる方はコントロール平板寒天上のすべてのコロニーを算定することにしている。
 (3)FM3A細胞population中にheterogeneityがあるかどうか調べる目的で、コントロールの無処理細胞が寒天平板上に造ったコロニーを3ケ拾って、之等についてsuviving及び、resistantのコロニー出現率を調べ、mutation frequencyを算出した。
 (表を呈示)表に示すごとく、かなりheterogeneityのあることがわかる。
 (4)各種myotoxicについて行っているデータは以下の如くである(表を呈示)。

《難波報告》
 5.ヒト正常2倍体細胞の発癌実験
 ヒト正常2倍体細胞を化学発癌剤(4NQO)の処理し、よって培養内で癌化させる実験に成功したが、しかし科学発癌剤によるヒト細胞の癌化については、我々以外の他の例はまだ報告されていない。
 そこで、我々は同じ実験を追試して、化学発癌剤によるヒト細胞の癌化を確認する必要がある。我々は新たに発癌実験を開始したので、この月報では、この実験に使用している細胞の性状について報告する。
 ◇細胞の性状
 細胞は正常な6ケ月目の男の胎児の肝臓及び脳から培養して得た。培養開始は1974-8-28である。この2系の細胞の形態は、繊維芽細胞様であるが、両者には少し違いがある(次回の班会議でスライドをおみせいたします)。
 肝由来の細胞のクロモゾームを、培養21日目、3rd PDLで調べると(表を呈示)、2n(46)にシャープなモードを有し、核型も(図を呈示)図に示したように正常である。
 Dexamethason処理(0.1mg/animal two times/w)の2匹のハムスターのCheek pouchに、5th〜7th PDLの細胞を集め600万個cells/animal移植し、2週間後の剖検で腫瘤の形成を認めなかった。
 脳由来の細胞のクロモゾーム、移植性などは現在調べている。
 また2系の細胞を4NQOで処理し、発癌実験を続けているが、まだ癌化した細胞を得るに至っていない。
6.ヒト肝臓の器官培養(月報7410に続く)
前回に報告したと同じ実験を繰り返した。その結果は、前回とほぼ同じで、器官培養された肝組織中に肝実質細胞は培養7〜9日目にもまだ生存しており、生存している細胞の核内には明確な核小体も認められる。以上のことから、器官培養された肝組織は1週間はだいたい大丈夫なようなので、近いうちに発癌剤を処理してみたいと考えている。
 また、器官培養した肝組織の所見で、glisson氏鞘部の結合組織が肝実質より早く変性に陥っているようで、面白い。

《野瀬報告》
 CHO-K1由来変異株のAlkaline Phosphataseの諸性質について
Alkaline Phosphatase(ALPと略)活性のないCHO-K1から、同活性の高いクローンを分離したところ、これらのクローンは原株と較べて腫瘍性が低下していることが示唆された(月報7410)。この定価の一つの原因として、繊維芽細胞が軟骨又は腎細胞へと分化したことが考えられた。mesenchymはin vivoにおいて、屡々同様の分化をすることが知られている。
 ALPは臓器特異性を持ち、各臓器によって酵素的性質が異なるので、分離されたクローンのALP活性の性質を比較することによりどの臓器のALPに類似するか推定できると考えた。
Chinese hamster(♂adult)から小腸、肝、腎臓、大腿骨をとり出し、蒸留水中でhomogenizeし、n-ブタノール抽出したものを、酵素標品としてこれらALPの熱安定性、およびL-homoarg-inineによる活性阻害を比較した。
 (夫々図を呈示)図1はassayの際、homoarginineを各種濃度加え、0mMの時の活性を100%として表わしたものである。腎臓、骨のALPは強く阻害されるのに対し、小腸、肝臓のALPはほとんど阻害されない。ALP陽性クローンのALPは、同条件下で強く阻害され、腎、骨のALPと似ている。
 次に酵素標品を50℃で加熱し、活性の低下を見たのが図2である。図1の阻害実験と丁度逆に、小腸、肝臓のALPは熱に対し不安定で急速に失活するのに対し、腎臓、骨のALPはほとんど失活しなかった。細胞のALPは熱安定性に関しても腎、骨の酵素と類似している。
 以上、2つの実験でendoderm由来の臓器のALPはhomoarginine耐性、熱不安定性であり、mesoderm由来ではその逆という傾向がありそうである。CHO-K1からのクローンはいずれもfibroblastなので骨と由来は共通と考えられ、これらの結果はreasonableである。培養細胞のALPが腎又は骨型なので、骨細胞に分化することは十分予想できることである。また、得られたクローンすべてが同一のALP活性を示したことから、CHO-K1からのALP-陽性細胞は一定の方向性を持っていて、変異のようなrandomな変化ではなさそうである。

《山田報告》
 漸くラット正常肝細胞培養株(RLC-20)が増え始めましたので、これを使い各種のプロテアーゼ処理後の表面荷電の変化を追ってみました。膜表面における糖蛋白が肝細胞増殖のinitiatorとしての機能があることは幾つかの論文報告により明らかになって居ますので、まずはプロテアーゼ処理後に膜表面の荷電がどの様に回復して来るかを知ろうと思ったわけです。トリプシンとディスパーゼ(0.001%〜0.25%)を用いた所意外な結果が出ました。トリプシンを用いた結果は多少乱れて居り、その結果の読みはむづかしいのですが、ディスパーゼ処理後10時間目に、明らかに表面荷電密度が増加することを発見しました(図を呈示)。これは表面の蛋白除去後に起った細胞増殖の開始に基くものか、或いは膜の修復過程における変化であるのかわかりません。これから処理後10時間以内における変化を、もう少し細かく追いかけてみたいと思って居ます。そして悪性化に伴うこの荷電の変化がどの様に違ってくるかも知りたいと思って居ります。細胞の増殖と表面荷電の変化を新しい角度から追求する一つの指標が得られさうな気がして居ます。

《乾報告》
 先月の班会議でin vivo-in vitro transplacental assayの結果を、4NQO、DAB、DMN、AF2を作用した細胞の2代目について報告しました。
 今月は、その続きでこれらの細胞が4代になりましたので、体内処理、培養後4代目の変異率と、対照としたDMSO注射個体より得た細胞について報告します。
 (表を呈示)表でわかる様に、4代目の細胞を播種した場合にも、2代目と同じようにDMN、DAB投与群でTransfomed Colonyが出現します。その出現率は、DAB投与群ではAF2の場合と同様、代を重ねるにしたがって増しましたが、DMNでは反対に低下しております。DMSO(0.5ml/Animal)投与群5代目の細胞で、10枚のシャーレ中2枚に変異コロニーを観察しました。7代目の細胞を播種したシャーレには、10日間の観察でコロニーが出現したことから、この方法にもまだまだ問題があります。
 癌原性物質投与群では、観察は終了しておりませんが、6代目の細胞でコロニー形成があります。

《黒木報告》
 10月21日〜26日にFlorence市で行われた第11回国際がん会議に出席し、一昨日(11月5日)帰国したところです。学会参加者は8,000、日本からは350人程出席したのではないかと思います。もっともヨーロッパ屈指の観光地のため、会議に出席した人は約1/3〜1/4位でしょうか。勝田班からは、乾さんと私が参加しましたが、二人とも、非常に真面目に会議に出席したことを、あえてここに記します。
 会議の構成は10月21、22日、Florence近くの都市で10に主題に関するconterenceが行われた。われわれに関係あるものとしては、Cell Biology(Pisa)、Chemical carcinogenesis(Perccgia)があります。私は後者で、化学発がん剤と核酸蛋白質との結合について報告した。(以下プログラムを呈示)

編集後記


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