【勝田班月報・7404】
《勝田報告》
 §純系ラッテの腹腔内接種で継代できる腹水肉腫を作る試み:
 我々は腹水肝癌の出す毒性物質について、ながらく仕事を続けて来たが、同時に腹水肉腫についても同様の実験を進めたいと考え、培養の容易な腹水肉腫を作る努力を重ねて来た(表を呈示)。表1に示すようにメチルコラントレンを大腿部に接種して、動物にtumorを作る所までは簡単であったが、tumorは容易に培養に移すことが出来なかった。又細かく刻んで、或いはトリプシン処理をして、新しいラッテの腹腔内へ接種すると、浮游状の腹水癌として増殖せずに、うずらの卵位の大きなかたまりを作ってしまって、動物継代も失敗してしまった。
そこで今度は長期間培養して自然悪性化した細胞を動物に復元し継代する事を試みた。使った細胞はJTC-19で、JAR-1系ラッテのF20生後13日♀の肺由来のものである。培養開始は1964-2-13なので現在まで約10年間培養されている。この細胞は、培養内で好銀センイを形成する。(表を呈示)表2はJTC-19の復元実験の結果である。500〜700万個の接種で119〜222日で100%腫瘍死した。Exp.2の腹水をJAR-1生後1.5ケ月のラッテ2匹の腹腔内へ植えついだ所、それぞれ40日、42日で腫瘍死し、現在3代目にはいっている。この腹水は大変出血性で、腫瘍細胞は小さな島を作って増殖している。今后、動物継代を重ねて腹水肉腫として実験に使う予定である。(JTC-19のギムザ染色像、センイ染色像の写真を呈示)

《堀川報告》
 8-azaguanine抵抗性細胞から感受性細胞へのreverse mutationを調べるため、Chinese hamster hai(CH-hai Cl 23)細胞より分離した8-azg 70γ-Aと8-azg 70γ-Bの2つの細胞株はそれぞれ70μg/ml 8-azaguanineに抵抗性であるが、一方これらの細胞株はGHAT培地中では生存し得ないことも前報で報告した。
今回は此らの細胞株についてHGPRT(hypoxanthine-guanine phosphoribasyl transferase)活性がどのようであるかを、Cell free extractを用いて、またオートラジオグラフ法によって調べた結果について報告する。まづ関口ら(1973)が用いた方法に準じて、各細胞株から得たCell free extractに、50mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)、5mM MgCl2、1mM sodium 5-phos-phoribasyl-1-pyrophosphate、0.24mM[C14]-8-hypoxanthineを含む反応液30μlを加えて、30℃で60分間反応させた際の各細胞株のenzyme activityを表1に示す。(夫々表を呈示)これらの表からわかる様に2つの8-azaguanine抵抗性株は、CH-hai Cl23親株に比べてHGPRT活性が極度に低下した細胞株であることがわかる。
つぎに、対数増殖期にあるCH-hai Cl23親細胞、又は2つの8-azaguanine抵抗性株を5μCi/ml[H3]-hypoxanthineを含くむ培養液中でそれぞれ24時間培養した後(それぞれ小スライドグラスで短冊培養してある)cold PBSで3回、Cold 1%PCAで10分間づつ3回洗い、absolute methanolで固定後、Sakura NR-M2 emulsionを塗布してオートラジオグラフにかけてHGPRT enzyme活性を定性的に調べた結果が写真1および2である。
写真1は、HGPRT positiveなCH-hai Cl23親細胞のオートラジオグラムであり、H3-hypo-xanthineをactiveに取り込んでいることがわかる。一方、写真2はHGPRT negativeな8-azg 70γ-B細胞株のオートラジオグラムであって、HGPRTを欠くためhypoxanthineを利用することが出来ず、放射能はまったく認められない(同様の結果は8-azg 70γ-A細胞株についても得られたが、ここでは省略する)。
 以上、2種の実験結果よりわれわれの分離した8-azaguanine抵抗性細胞株はHGPRT enzyme活性が極度に低下した細胞株であることが完全に実証された訳であり、これらの細胞株を用いてreverse mutationの実験が現在進められている。

《梅田報告》
 In vitro carcinogenesisの実験の際に、物理的因子特に培地のpHの影響がどれ程あるか調べる実験を計画していたが、旨い実験系が組めなかったので、FM3A細胞を使って8AG耐性の出現率でみる実験系でのpHの影響を調べる事にした。その基礎データについて述べる。
 (1)FM3A細胞はMEMに10%FCSで培養している。我々の所のMEMは重曹1g/lとしているので炭酸ガス圧は通常3.5%流している。それでpHは7.2前後を保っている。(以下図表を呈示) 図1に3.5%炭酸ガスと、0.35%炭酸ガスと、特に炭酸ガスを流さないでairだけを送る培養チャンバー内で培養した増殖カーブを示す。3.5%炭酸ガス中と比較して、0.35%炭酸ガス圧中でもFM3A細胞は非常に良く増生している。0.35%炭酸ガス圧中では、初めpH7.7と高いが次第にpHが下り、本細胞が酸産生の高いことを物語っている。air中では増殖がおさえられ、2日迄はpHは8.0近くを保っていた。
 (2)Hepesを基礎としたGoodのbuffer系を使ってpH7.2、7.6、8.0の培地を作り、気相は空気として培養してみた(図2)。図1のcontrolに較べ増殖はすべての条件で非常に悪く、本細胞が、之等のbuffer薬剤に弱いことが示された。
 以上の(1)(2)の実験より気相を変えてpHの違った培地を得る実験系を使用することに決めた。
 (3)表1は、3.5%炭酸ガスとairの気相中で細胞を培養し、24、48、72時間後と、H3-thymidine(T)finalで0.1μCi/ml、H3-uridine(U)0.2μCi/ml、H3-leucine(L)1.0μCi/ml、を投与し、正確に1時間後Acid insoluble分劃にとりこんだcpmをその時の細胞数で割った値である。わかり難いので()内に3.5%炭酸ガス中24時間培養した時のT、U、Lの夫々のとりこみを100%としてその他全部のとりこみの%を計算した値を示す。それを図3にグラフにしてみた。
 3.5%炭酸ガスflowの48時間後ではDNA合成が、次いで蛋白合成が減少している。RNA合成は比較的良く保たれている。72時間後では細胞がmaximumに増生し、栄養物減少の故か、又overgrowthの故か、DNA合成は0に近く、RNA、蛋白合成も非常におちている。これに対しair中で培養したものは、24時間の時の比較でDNA合成は22%と強くおさえられ、蛋白合成は71%と軽く阻害をうけている。RNA合成は、非常によく保たれていることがわかる。この傾向は48時間、72時間后のとりこみでも変らないと結論される。因みにこの時の細胞数は、ここには示さないが、図1とそっくりの増殖カーブを画いていた。
 (4)まだpreliminaryの実験であるが、細胞をagar plate上に播種し、1群は1日間静置の3.5%炭酸ガスflow中で、他群はair内で培養後全体で20μg/ml finalになるように8AGを入れたagar medium或はcontrol agar mediumを上からそっとoverlayした。20日間、培養後(3.5%炭酸ガスflow中)コロニー数をみると(表を呈示)表の通りで、agar plateにまいたFM3AのPEは(200ケまいて115ケ故)約50%であることがわかる。空気中に1日おくだけでPEは1/10に下る。
 8AG耐性コロニーは3.5%炭酸ガスflow中で平均3.5ケと少なく、又、air中のも1ケと非常に少ないが、とにかく数字のマジックかも知れないが、生き残ったcolony形成細胞数から計算すると、表で示す如く3.5%炭酸ガスflow中では3.5万個に1ケの耐性細胞が、air flow中では10万個に1ケの耐性細胞が生じたことになる。

《乾報告》
 ニトロソグアニジン誘導体8種の癌原性(3)
 ニトロソグアニジン誘導体の染色体切断(1):先にニトロソグアニジン誘導体8種のハムスター繊維芽細胞に対する細胞毒性変異コロニーの誘導性につき報告した。その結果、毒性、変異誘導性は、ニトロソグアニジンのCH3-基の数に比例して減少するが、N-butyl-N'-nitrosoguanidine(butyl-NNG)の二種の変異体で、n-型に比してiso-型が明らかに毒性変異誘導性が高かった。
 一方、細胞遺伝学的に、Mutagen、Carcinogenは染色体に切断、転座等の異常を誘起することがしられている。
 今回は、ハムスター繊維芽細胞に、i-,n-butyl-NNGを投与し、染色体異常を観察したので報告する。材料にハムスター胎児起原の繊維芽細胞(4代目)を使用し、細胞が単層培養に達する前に、i-,n-butyl-NNG 10μg/mlをMEM+10%CS中で、3時間作用後、正常培地にもどし、24時間目にAir drying法で標本を作製し、検鏡した。
 染色体数分布は図に示した如く、butyl-NNG 3時間投与で、正常2倍体細胞の出現が明らかに減少したが、iso-,n-型での差は現われなかった。
 観察した全細胞中染色体異常をもつ細胞の出現頻度を表に示した(図表を呈示)。表で明らかな様に、ニトロソグアニジン投与で染色体に異常をもつ細胞の出現の頻度が増加した。又異常細胞の出現は明らかに、iso-butyl-NNGが高かった。
表に観察した全染色体についての異常染色体の出現頻度を表わした。表の如く、未処理細胞に比して、butyl-NNG投与群の異常染色体出現率は明らかに高かった。特に対照群では、Translocation、Dicentric、Acentric chromosome、Fragmentation等の異常は見られなかった。n-,i-型投与群相互間では、染色体分体を母数とした異常、又は両染色体分体に同時におこされた異常、即ち、染色体レベルの異常共に明らかな差は認められない。
 以上の結果を総合すると、butyl-NNGを投与すると、1)投与後24時間で明らかに、染色体異常、異数染色体の出現率が増加した。2)iso-型投与の場合、n-型投与に比して異常染色体をもつ細胞が増加する。3)染色体、染色体分体当りの異常はn-型、iso-又投与の間に差はなかった。
本実験のみで、n-,iso-型の細胞毒性、変異誘導性の差は、説明しにくいが、異常の強弱に関係なく異常染色体をもつ細胞の出現率のみが、細胞変異に関与するのかも知れない。今後一連の誘導体について同様の観察を行ない、この点を追求したい。

《高木報告》
 CytochalasinBの培養細胞に対する効果:
 先の月報でCytochalasinB(CCB)の1、2.5、5μg/mlに対して種々の培養細胞でどのような核数の細胞が出現するかを観察し、正常細胞と腫瘍細胞との間には一応の差異があることを認めた。これら多核細胞の出現がDNA合成を伴ったものか否かをみるため、予備的に次の実験を行った。すなわち正常細胞RFL-N2、変異細胞RFL-5および腫瘍細胞CulbTC似つき、培養1日目に2.5μg/mlのCCBと1μCi/mlのH3-TdRを加え、3日間培養後に細胞数、H3-TdRのとり込みを調べた。核数に関しては同時に標本を作らなかったが、先の実験でRFL-N2は2核どまり、RFL-5は2核以上の多核が多く、またCulbTCもRFL-5と同様の傾向であった。以下細胞数およびH3-TdRのとり込みを表に示す(表を呈示)。
 CCB処理後3日目の細胞数は処理前に比し、RFL-N2では減少他の2株ではやや増加を示した。各細胞株について細胞あたりのH3-TdRの取込みを対照、処理細胞で比較すると、RFL-5細胞では処理細胞は対照の0.91倍、RFL-5、CulbTCで略々3.76、3.75倍であった。RFL-N2細胞では処理群は2核細胞が多かったが、CCBのCytotoxic effectにより可成りのdamageをうけていることが関係して取込みは対照より低値を示していると思われる。RFL-5、CulbTC細胞では細胞の増殖は処理群で処理前をわずかに上廻る程度であるにかかわらず、H3-TdRの取込みは対照の3.75倍程度であり、これは多核細胞の出現がDNA合成を伴ったものであることを示唆するものと思う。

《山田報告》
 漸く国立がんセンター研究所を辞職して独協医科大学病理学教室に移ることになりました。3月に入ってから数回の引越しやら、住宅の世話やらでろくに仕事が出来ず、細々と残りの実験を整理して居ます。
 全くのゴフル場から医科大学が出来たのですから、ピペット一本から揃えねばならず、加えて田舎の業者を相手では能率もあがりません。
 夏までには、またなんとか軌道にのせた仕事をやりたいと思って居ります。
 試験管内発癌の仕事は再び出発点にもどり、これまで得た知見をもとに抜かりなく、また始めたいと思います。その意味で、昨年末、教室の角屋君が勝田、高岡先生のお世話になり培養の技術と、肝細胞のprimary cultureの株を樹立すべく努力して来ました。今回引越すにあたり下記の三株を持参することが出来ました。この株細胞を使って発癌の仕事をすすめたいと思って居ります。(いろいろ有難う御座居ました)。
(RLC-18、RLC-20、RLC-21の初代培養開始日、ラット年齢、分散法、染色体の表を呈示)。

《野瀬報告》
 8-azaguanine耐性株分離の諸条件について:
 8-azaguanine(8AG)耐性というmarkerは、somatic geneticsの研究に広く用いられて居る。私も、ALK phosphatase constitutive株のcell fusionに利用するため、8AG耐性株をいくつか分離したが、その途中で、この分離にはいくつか注意すべき点があることに気がついた。それはCHO-K1細胞をtrypsinizeし、8AG 20μg/ml含む培地でspontaneous 8AG耐性株の出現率を見ると、1図に見られるようにcell densityが10万個cells/90mm dish以上になると減少することである。(図を呈示)対照として、Proline prototrophへのreversionの頻度を見ると、30万個cells/dishまではまき込んだ細胞数とrevertant出現率との間にはほぼ直線的関係がある。
 一定の細胞数以上になると、8AG耐性株の出現率が減少する原因として、(1)medium中のgrowth factorが消費され尽す、(2)8AG耐性細胞が、周囲の感受性細胞とのinteractionによってHGPRT+となる、の2つが考えられる。図2は8AG耐性株を一定数シャーレにまき、感受性細胞数を変えて8AG耐性株のP.E.をみたものだが、1万個cells/平方cm以上でP.E.が0となった。従ってmutation frequencyを出す場合にはシャーレ当りの細胞数を厳密に一定にしないといけないと思われる。

《黒木報告》
 §紫外線感受性細胞の分離について§
 フランス行で一時中断していたUV感受性細胞の分離を再開した。そのpointは、大凡次の二つである。1)UV感受性細胞が培養数ケ月で次第に感受性を失うことはすでに報告したが、そのような細胞からMNNG処理あるいは未処理によってよい安定な感受性細胞を得る。2)今までのexp.はマウス由来の細胞を用いていたが、他のspesiesからも試みる。replicaの容易さ、なども考慮に加え、CHO-K1細胞で試みている。
 1)FMS-1細胞からのUV感受性細胞分離の試み:
 FMS-1は以前に報告したようにFM3Aから分離したUV感受性細胞である。この細胞にMNNG 0.1μg/ml/100万個cells/h処理し、あるいはcontrolとしてDMSO 0.5%処理し、→2日間培養→平板寒天上コロニー形成(2週間)→replica培養(50erg・1週間培養後判定)→UV感受性candidate分離→生存率曲線(2週間)という方法で調べた。(表を呈示)
 これらの5株の分離クローンについて生存率曲線で検討したところ、次のような成績を得た。すなわち、D0値でこれらのsubcloneのうち、クローン分離後30日以前にテストした2、5、6は10〜13ergで感受性であったが、30日以降にテストした1、3、4は18・20ergでもとのFMS-1と同じであった。(図表を呈示)紫外線量は吉倉広氏の紹介により、新たにLatarjetのLabより購入した。この機械と従来用いていた吉倉氏のdosimeter(Latarjet)と比較した結果、従来のメーターは約1/3低いdoseを示すことが明らかになった。これは、Standard curveに用いたsystemの差と思われる。吉倉氏に問合わせた結果、新しい器械の方が正しいとのこと(図を呈示して装置を説明)。
 2)CHOよりの紫外線感受性細胞分離のための予備実験
 CHO-K1のMNNG感受性を調べたところ、FM3Aと同様、非常に感受性であることがわかった。(表を呈示)。今后0.1μg/mlを用いる予定。MNNGで処理しないCHO-K1からreplicaでUV感受性細胞の分布を試みた。0/220であった。


 

編集後記


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