【勝田班月報・7405】
《勝田報告》
§合成培地の新処方(DM-151〜154):
 我々の研究室では、かねてよりDM-120、DM-145などという完全合成培地を考案し、血清或は蛋白脂質を全く添加せずに、完全合成培地内で各種の細胞を継代培養してきた。今般のDM-151〜154という新処方は、株の継代やprimary cultureに適しており、しかしこれに血清を10%添加することにより、従来の混合培地、例えば20%CS+LD、10%FCS+HamF12、10%FCS+MEMなどで継代されている細胞株のほとんどすべての系をほぼ同率の増殖率で容易に継代培養できる。また、塩類溶液をEarleの処方にしたので、開放系の培養にも使用できる利点がある。
 初代培養では、10%FCS+90%DM-153を用いると、chick embryo fibroblasts、newborn rat由来の肝上皮細胞などは、10日以上生存させる事ができる。
 DM-151〜DM-154間の組成上の相異点は、そのglutamine量で、DM-151は100mg/l、DM-152は200mg/l、DM-153は300mg/l、DM-154は400mg/lである。(組成表を呈示)表でわかるように、合成培地DM-120のアミノ酸総量は他のどの合成培地よりも多いが、酸アミドだけを取り上げてみると、glutamineの100mg/lしかない。血清を添加した場合、増殖の盛な細胞では酸アミドの要求も大きくなる事を考慮してglutamine量を増した。またこれら4処方とDM-120及びDM-145との大きな組成上の差異はビタミン組成である(組成表を呈示)。

《梅田報告》
 今回は今迄報告してきた血清の問題と、adenine derivativeによる細胞の障害の2つのその後のデータを記します。
(1)各種の細胞をFBS、CS、BSで培養してみると、夫々に適したものがあるらしいことを月報7310、7312で述べた。これが例えばHeLa細胞の場合CSで良くFBSで悪く、逆に同じ血清のlotを使っていながらハムスターの繊維芽細胞の増殖ではFBSで良くCSで悪い結果に興味がひかれた。そこでこれらの血清の細胞増生の維持能力が血清中に欠乏因子がある可能性を考え、先ず一番ポピュラーなEagleのnon-essential amino acidsとfetuinを添加してみる実験を行った。(表を呈示)結果は表の如くで、non-essential amino acidsを加えるとPEの上昇どころか、却って低下する傾向もあり、又fetuin添加はほとんど影響を及ぼしていないと結論される。故にCS、FBSの増殖維持能力は、之等2つの因子以外の影響であることがわかる。
 (2)Adenine誘導体によりHeLa細胞の核小体が小さくなり、核質がfine reticularになりhomogeneous distributionを示すことを月報7312で報告した。この現象がNADP投与の場合はURの同時投与で回復することも月報7403で述べたが、その後各種adenine誘導体で調べた所、意外にも回復の程度が物質により異ることが判明した。
 (表を呈示)表にその結果を示すが、障害はadenine、adenosineはUR同時投与により回復しない。しかし、形態的に核小体の大きさはUR同時投与で正常大に回復している。dBcAMPでは確かに核小体の変化もあるが、形態的に大型で核質もよりhomogeneousで、他のadenine derivativeっと異っていたが、URの同時投与では障害は全く回復されず、形態的にも核小体の大きさは回復の傾向が認められたが、核質の変異等はそのまま残されていた。
 ATP、NADP、cAMP投与では、その典型的な障害が、UR同時投与で殆完全に回復されていることが示されている。

《佐藤報告》
 T- )発癌実験
DABによる発癌実験(厳密には癌性の増強実験)をdRLa-74由来の単一細胞クローンCL-2について試みつつある。
今回の報告は、(1)DAB短時間処理後の変化。(2)DAB間歇的処理による変化を累積曲線、形態、腫瘍性(検索中)などについて調べた。結果、(2)の間歇処理による場合において、コロニーの形態上から、DABによる変化と思われる傾向を認めた。しかしながら、増殖率やDABに対する耐性などに関しては、非処理群(コントロール)との間に差違は見い出されなかった。
 現在、第3の実験系として、DABをできるだけ頻回に、かつ長時間処理する実験を行いつつある。(累積増殖曲線の図、感受性試験の表を呈示)
 表1は実験(2)の場合の、DAB処理群とコントロールとの間のDABに対する感受性の比較を検討したものである。実験は発癌実験をスタートして40日目に、100細胞/ml、3mlをシャーレに接種し、24時間培養後、DAB(10μgor40μg)を含む培地で交換し、以後9日間培養した結果、処理群とコントロールの間には、著明な感受性の差はないが、40μgに対しては処理群にやや耐性があるように見える。
 表2、3はDAB処理群と秘書李郡についてコロニー分析を試みた結果である。表2ではpiled-up colonyが増加し、又、表3では、同様に処理群に多形性、異型性が増大傾向である(表3は、主として多核巨細胞、巨核細胞に注目した)。
 発癌実験スタート75日目に処理群(10μg、40μg)、非処理群の増殖率を比較した。差異は全く見られない。三者のDoubling timeにも差は見られない。
 

《堀川報告》
 今月号には特にまとめて報告するほどのデータがないので現在の仕事の進展状況を報告する。まず
 (1)放射線および化学発癌剤に対するHeLaS3細胞の周期的感受性変更要因の解析。
 紫外線(UV)照射に対するHeLaS3細胞の周期的感受性曲線は、各期の細胞のDNA中に誘起されるTTの量的違いにある程度説明出来るようであるが、一方、これらTTの除去能には各期の細胞間で大きな違いのないことがわかった。これらについての結果は近々BBRCに掲載される予定である。他方、4-NQO、4-HAQOに対する周期的感受性曲線もUVの場合と同様、各期の細胞のDNAと結合する4-NQOまたは4-HAQOの量的違いと関係がありそうである。しかしこれらの除去能に関しては各期の細胞間で差違のないことがわかってきたが、これらの実験はすべて同調細胞集団と云う限られた細胞を使っての仕事であり、従ってDNAの抽出法も、phenol法によってきた。この方法では抽出の過程でDNAと結合した4-NQOあるいは4-HAQOもきりはなされる可能性があるので、現在はよりmildなDNA抽出法としてMarmurの方法(1961)にきりかえ、これまでの結果を再検討中である。しかしこの方法でDNAを抽出する限り1点、1点の実験に多量の同調細胞集団が必要であり、思うように仕事がはかどらないのが現状である。
 (2)培養哺乳動物細胞における突然変異の研究。
 レプリカ培養法によって、Chinese hamster hai細胞から分離したTdR-株および栄養非要求株を使ってX線、UV、MNNG、4-NQO等による前進および復帰突然変異率の算定を進めている。一方、Chinese hamster hai細胞から分離したHGPRTの8-azaguanine抵抗性株を使ってX線による復帰突然変異率の算定も進められているが、これらの実験には時間がかかり、現在報告出来るようなhotなデータはまだもち合わせていない。

《高木報告》
 CytochalasinB(CCB)の培養細胞に対する効果:
 前報にひきつづき多核細胞の出現がDNA合成を伴ったものか否かを検討するため、次の実験を行なった。
 径3cmのplastic Petri dish(Lux製)にRFL-5細胞を植込み、1日後に細胞数を算定し、次いでCCB 5、2.5および1μg/mlを含む培地でrefeedすると同時に、H3-TdR 1μg/mlを加えて、1、2および3日とcontinuous labelingを行ないH3-TdRの取込みをみた。なお、growth curveをみる意味でH3-TdRを加えないCCBだけの実験群とCCBを加えない対照群とをおいた。結果は表の通りであった。(表1、2を呈示)
 表1は培養日数によるH3-TdRの取込みの経過を示す。表2はこの間の細胞のgrowth curveでこの実験ではH3-TdRは加えていない。対照では明らかな増殖が認められ、以下CCBの濃度に比例した増殖の抑制がみられたが、増殖は認められた。一方H3-TdRの取込みは、各濃度で1日をすぎるとplateauに達し、対照でも同様な傾向がみられた。これは1μc/mlのH3-TdRにより細胞の増殖の抑制があったとみるべきか、培地中のTdRを1日で細胞が使い果したとみるべきであろうかと思うが、いずれの可能性ともいいがたく今回の結果の判定は困難である。ひとまずH3-TdRと共にcoldのTdRを加えて再検の予定である。

《山田報告》
 新しい教室作りに意外と手間どって居ります。培養室がいまだ使へず医科研のお世話になりなんとかつないでいる状態です。
 前回にも一部は書きましたが、こちらに来てあらためて試験管内発癌の仕事をふりだしにもどって考へなほし実験を始めたいと思って居ります。
 それにはまず正常の肝細胞の株を作ることですが、昨年より医科研でお世話になりました教室助手の角屋君に四系のラット肝細胞株を樹立し、これを持参してもらいました。今回新たにもう一株RLC-16が出来ましたが、この染色体の形態及びパターンは正常の様ですので(図を呈示)、これを中心にRLC-18、RLC-21の三系を用いて行きたいと思って居ます。残りの1系RLC-15は繊維芽細胞が混在して居り核型パターンも正常肝のそれとは異なります。
《乾報告》
 ニトロソグアニジン誘導体8種の発癌性(4)
 ニトロソグアニジン誘導体の染色体切断(2): n-、iso-butyl NNG 10μg/mlを細胞に3時間作用し、染色体異常をもつ細胞の出現頻度がそれぞれ29.28%、42.65%であることを前号月報で報告した。今回は、propil-NNG 5μg/ml(10μg/ml投与では細胞増殖が著明に抑制され染色体観察が困難である。)投与後の染色体異常について報告する。投与条件は前号とまったく同じである。(表を呈示)
 表1に異常染色体をもつ細胞の出現頻度を示した。異常染色体をもつ細胞の出現頻度は、i-butyl-NNG 5μg/ml作用と略々同様で、染色体切断能はbutyl-NNGに比してpropil-NNGがはるかに強いと考えられる。
 表2に観察した全染色体について、異常染色体の出現頻度を示した。Propil-NNG 5μg/ml投与群では、前号で報告したn-、i-butyl NNG 10μg/ml投与に比して、染色糸切断が明らかに高く、特に両染色糸(染色体レベル)切断が著明に増加した。この事実は、すでに報告した一連の誘導体の毒性、突然変異誘導性の結果と一致する。

《野瀬報告》
 Alkaline phosphatase変異株の細胞融合。
 CHO-K1から分離したALP-活性の高い細胞で、活性を発現するようになった機構が、posi-tive controlなのか、negative controlなのかを調べるため、細胞融合による解析を試みている。変異株は8-azaguanine(AG)感受性なので、ALP-活性を持たないFM3A・8AG耐性株(黒木先生より分与)との間で融合を行なった。選択培地は、MEM+5%FCS+non-essential amino acidに8AG 20μg/ml加えたものを用い、変異株は8AGで殺され、FM3Aは浮いているので、シャーレをPBSで洗って除き8AG存在下で増殖し、しかもシャーレに附着するものをcell hybridとして単離しようとした。
 融合を起こすには、UV不活化のHVJを300HAU/ml〜3000HAU/mlで加えた。この際、培地のpHが非常に大きく融合率に影響し、Croceらの言うようにpH 8.0付近が能率が良いようである。また、serumを含まない培地に細胞をsuspendしてHVJを加えた方が融合が起きやすい。融合させた後、細胞を選択培地にまいて、一晩たってから位相差顕微鏡で観察すると、二核以上を持つ多核細胞は、19〜26%で、HVJ未処理群(数%)にくらべてはるかに高かった。
 何回かくり返して実験を行なったが、spontaneous 8AG-耐性株の出現率が高く、hybridらしい細胞はなかなか拾えなかったが、形態的にCHO-K1(fibrobrast)とFM3A(round)との中間の形をもったcloneがいくつか拾えてきた(写真を呈示)。写真の示すように、これらは中心が丸く、spindle状に長い突起を出して、特徴的な形をしている。染色体分析ではまだはっきりhybridであるという証拠は得られていない。現在まで独立に5つの同じようなcloneを分離し、ALP・I活性を測定してみたが、いずれも全くこの活性を持っていなかった。この様な細胞は染色体構成はほとんどFM3A型と同じで、CHO-K1からの染色体は存在するかしないか、はっきりしない。しかし、HVJ処理をやってはいるが、完全に丸い形のFM3A細胞が、このような突起を出すということは興味あることと思われる。この細胞はBut2cAMP処理をしてもALP-の誘導はおこさなかった。

《黒木報告》
 10T1/2細胞のトランスホーメーションについて
 McArdle LabのHeidelbergerらによって樹立された10T1/2細胞を、DMBA 1μg/mlで処理した(48時間)ところ、写真のようなdenseなfocusが、処理後3〜4週間後にみられた(写真を呈示)。今後C3Hマウスへの移植、寒天培地、細胞密度などからtransformationのcharacter-izationなどの基本的なdataを得るようにしたい。

編集後記


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