【勝田班月報・7407】
《勝田報告》
 A.HeLa株について:
 HeLaの最初のreportと思われるpaperは、学会報告の抄録にしかなく、このときは、しかしまだHeLaとは文中に云っていないが、とにかく参考のため、ここに引用しておく。Dr.Geyは余りpaperを書かない人だった。(Scientific Proceedings,American Association for Cancer Research,April 11-13,1952,New Yorkの全文を呈示)。HeLaという語をいつから用い初めたか、これは目下調査中です。
 B.亜株HeLa・P3について:
 HeLaはLについで世界で第二の古い株であるが、その合成培地内で継代できる亜株はまだ無かった。我々ははじめ、長い期間[0.1%PVP+0.4%Lh+0.08%Ye+salineD]の培地でHeLaを継代してきた。培養開始は1959-9-23で、これは亜株HeLa・P1とよばれる。
1968-1-6から純合成培地DM-145に移し、これが遂に高い増殖を示すようになって、継代できている。HeLa・P3と呼ぶ亜株がこれである。
血液型は、原HeLaはO型だったと云われているが、日本に入っているのはO型とB型である。予研のはB型であるが、当研究室のHeLaは予研から分与されたから、HeLa・P3はB型である。細胞形態は、一時、球状のが多くなっていたが、いまはしだいに上皮様形態を取戻してきている。

《高木報告》
 CytochalasinBの培養細胞に対する効果:
 CCBによる多核形成がDNA合成を伴ったものか否かを調べる目的で、細胞数の算定、多核細胞の数、H3-TdRのとり込みを比較するのが主眼であるが、H3-TdRのとり込み実験で難渋している。RFL-5およびRFL-N2細胞をLux petridish(35mm)に5万個植込み、24時間後、CCB 1、2.5、5μg/ml加えて3日間作用させた。24、48、72時間後にpulse labeling(2時間、0.5μc/ml H3-TdR)を行なった。(図を呈示)図の如く、いずれの細胞でも増殖に比し、H3-TdRのとり込みが日数と共に急に減ずることは予期せぬ結果で、technicalな問題が、さらに検討を要する。

《高木報告》
 培養哺乳動物細胞を用いての体細胞突然変異の研究の一環として、当教室ではChinese hamster hai細胞から分離した栄養要求株あるいは栄養非要求株を用いてX線、UV照射による前進および復帰突然変異の算定を行ってきたが、それらの結果本月報No.7309とNo.7310に報告した様に、一般に栄養非要求株(Ala+、Asn+、Pro+、Hyp+、Gln+)を用いた場合の方が、栄養要求株(TdR-)を用いた場合よりもX線、UV照射による突然変異率ははるかに高いことがわかっている。こういった結果を生じさせる原因として、(1)使用するgene marker数の違い、(2)前進および復帰突然変異の機構の本質的違い、等が考えられる。これにもまして前進突然変異率を高くする原因として、前進突然変異体を選別するために使用するBUdR-可視光線法に欠陥のある可能性が考えられる。
 つまり、X線およびUV照射により、栄養非要求株中に生じた栄養要求株を選別するには、BUdR処理により非要求株にのみBUdRをとり込ませ、これを可視光線照射によって焼殺する。そして残った栄養要求株をsufficient培地中でコロニーを形成させ、それを算定するという方法をとっている訳であるが、ここで問題になるのは、種々の放射線を照射した場合、mitotic delayなどが生じる。従って、24時間のBUdR処理時間は高線量照射されたどの栄養非要求株にもBUdRをとり込ませるのに充分だっただろうかという疑問が生じてくる。
 こういった問題を根本的に解決するには完全なBUdR−可視光線系を確立する以外に方法はないが、これは或る程度不可能にも近いので、とりあえず以下の方法で再検討することにした。つまり前述の栄養非要求株を各種線量のXおよびUVで照射後48時間のexpression timeを置いたのちBUdRをとりこませ、つづいて可視光線を照射してやる。その後細胞を2群に分け、一方はsufficient培地の入ったシャーレで培養し(A)、他方はdeficient培地の入ったシャーレで培養してやり(B)、(A)に出来たコロニー数から、(B)で出来たコロニー数を差し引いたものを誘発された前進突然変異細胞(Auxotrophic cells)数として、10万個生存細胞当りの突然変異率を求めた結果が図1および図2である(図を呈示)。
 これらの図からわかるように、以前にこの栄養非要求株を用いておこなった実験結果に比べて、X線およびUV照射による前進突然変異率ははるかに低いことがわかる。ただしこのようにして得られた前進突然変異率がはたして本物であるかどうかの検討はいづれにしても今後に残されている。またこうした結果から考察されるのは、あるPrototrophic cells集団からAuxotrophic cellsを選択分離するためのBUdR-可視光線法には問題があり、これに代るすぐれた系を確立する必要性のあることであろう。

《乾報告》
染色体−Rapidly labeled RNA hybridization(in Situ hybridization) 2:
 先月、班会議でMNNGでtransformした細胞、正常ハムスター細胞よりRapidly labeled RNAを抽出して、各々の染色体とhybridizationを行なった結果を報告した。その時の、染色体(hybridizeされた)の核蛋白の問題、染色体上でのDNAの存在状態について質問をうけた。
 今月はhybridizeされる染色体の条件を再検討する目的で、染色体のdenatureを色々の方法で行ない、染色体中のDNAの状態をしらべた。
 前号発表と同条件で染色体標本を作製し、
1)0.07M NaOH、25℃、3分作用
2)0.2N HCl、20℃、30分作用後、10μg/ml RNase 37℃、60分作用
3)x2 SSC、65℃ over night作用後RNase作用
4)0.025%トリプシン、室温、50秒作用後RNaseの作用
 の4種の前処理した細胞について、アクリジン・オレンジ染色、ギムザによる染色を行ない、アクリジン・オレンジ染色標本を蛍光顕微鏡発色を行ない、DNAが一重鎖が二重鎖かを検討した。
 染色体Bandは、4群トリプシン処理群でG-bandが著明に現われ、次いで3群に現われた。
第2群ではG-bandは現れず、C-Bandがわずかに現われ、NaOHではC-Bandのみ現われた。
 アクリジン・オレンジ蛍光染色では、トリプシン処理では、DNAは二重鎖特有の黄緑色蛍光を強く発した。x2 SSC作用群の蛍光は前者に比して、やや長波長(赤色がかって)に見られ、HCl、NaOH処理でアクリジン・オレンジはRNA、DNA一重鎖特有の橙赤色の蛍光を発した。以上の結果より染色体上のDNAは、in Situ hybri-dizationに使用したNaOH処理の条件で大部分が一重鎖になっていると推察される。
 現在のアクリジン・オレンジの蛍光染色では、励起後、一重鎖、二重鎖特有の蛍光は、30〜35秒しかもたず、すみやかに退色し、1分後にはいずれも一様に白光となるので、写真を撮ることが出来ず、又蛍光定量MSPがない現在、以上の結果を写真あるいは表に示すことが出来ない。
 染色体上での蛋白の存在状態が問題として残るが、ミロン化反応、First greenF染色等で、染色体染色を行い、これらの色素で染色体が染らないことを次の段階で証明したい。
 染色体Bandの染色体条件とアクリジン・オレンジ染色の結果より、推察すると、トリプシン+NaOH denatureがin Situ hybridizationに適していると考えるが、併用した時、染色体が原形をとどめない程、変形するので、これら二者の併用処理の検討を行いたい。

《黒木報告》
 §ヒト肝細胞の培養§
 Lyonにいたとき、ヒト肝細胞の培養を試みようとしたが、カソリックの国のため、胎児材料を得ることができなかった。ヒトの肝細胞培養を試みた理由は
 (1)現在まで信用できるヒト肝由来上皮細胞株がないこと
 (2)transformation、metabolic activationなど化学発癌研究の材料となること
 (3)isozymeなど、分化の研究材料となること
 (4)HB抗原、αFGなどの研究材料となること。などである。
 最近2例の胎児(7ケ月)を入手したので、実質細胞の培養を試みた。
 方法は、メスで細切→0.25%trypsin in PBS or 1,000u crude dispase in MEM+10%FCS室温10分かくはん、後上清をすて、次いで室温20分間かくはん(magnetic stirrer)→等量の10%FCS添加Williams med加え、2mlコマゴメで15回ピペッティング→#150 mesh→遠心後→Williams培地にsuspend→Williamsの方法で15分、60分、とFalconシャーレにSerial trans-ferした。
 培養後1週間で(写真を呈示)写真のような上皮細胞のfociを見出した。分裂像も多く、周囲の繊維芽細胞とは明らかに区別された。
 fociの数は(表を呈示)表のように、dispase処理群に非常に多く、平均2.55foce/d、それに対してtrypsin処理群では1..0foci/dであった。dispase処理群では第2回transfer dish(15-75分)がもっとも多く平均6.33/dであった。さらに1週間培養後、0.1%Pronase/ロ紙で3つのfociをpick upしたが、すべてfibroblastsのcontamiがみられた。そこで、micro-plateを用いて同様の方法でpick upした10ケのfociを20分-20分-2時間のserial transferをしたがすべての例がfibroblastsでおきかわってしまった。

《梅田報告》
 今問題になっているAF2のFM3A細胞におよぼす影響を調べた。FM3A細胞を使った理由は、本細胞で8AG耐性の突然変異率を比較的簡単に調べられるからである。
 (1)(夫々図表を呈示)図1はFM3Aの増殖におよぼす影響で、AF2 10-5.0乗Mで増殖が抑えられ、10-4.5乗Mで、増殖は横這いから致死的になることがわかる。図2は10-4.5乗M投与1時間後、6時間後に細胞を洗ってcontrol培地に戻した場合の細胞の回復能をみたもので、両者共に回復することがわかる。ここには示してないが、別の実験で24時間を経たものは回復しなかった。
 図3は細胞接種数を増し20万個/mlとしたので、前2者とはやや異なるが、AF2 10-3乗M投与では致死的であるが、1時間洗ってcontrol培地に戻すと一部の細胞と思われるが、回復してくることが示されている。6時間では全く回復しない。
 (2)FM3AのH3-TdR、H3-UR、H3-Leuの取り込みにおよぼすAF2の影響をみると、図4の如くなる。10-4.5乗MでH3-TdRの取り込みが特に抑えられている。濃度を明けると、H3-UR、H3-Leuの取り込みも抑えられるが、H3-TdR取り込み阻害にはおよばない。
 (3)染色体標本を作製すると、10-4乗M 6時間、24時間処理後のものはややgapの出現が増していること、時にpulverization像が認められるが数は少ない。48時間処理のものは、breakage、fusion等の著しい変化がmetaphaseの1/3に認められ、一見して非常に著明な変化である。10-5.0乗Mでは48時間処理後の標本でも著変は認められなかった。
 この実験は染色体が散ったこともあり、定量的につかめなかったので、目下繰り返し実験を計画している。
 (4)AF2 10-4.5乗M、10-5.0乗M、10-5.5乗Mで2日間FM3A細胞を処理した後、8AG 20μg/mlを入れた寒天平板上に100万個細胞を接種し、又control培地の寒天平板上に2000又は200細胞数をまいて生ずるcolony数を調べた。
 実験は2回行っており、夫々でやや違った値を示しているが、10-4.5乗M処理でmutation rateの著しい増加が認められる。

《山田報告》
 ConcanavalinAと抗体の細胞膜に対する反応性の類似について、ラット胸腺リンパ球を用いて検討して来ましたが、今回は癌細胞に対する反応性をAH-66Fラット腹水肝癌細胞について検索してみました。あらかじめConA(5μg/ml)に10分37℃飯能された後に、各種濃度の抗血清(同種抗血清、熱による非働化したもの)を反応させて、その表面荷電の変化をしらべた結果が図です(図を呈示)。
 対照として測定した抗血清のみによる変化が、2回の実験でかなり異りますが、いづれの場合でもConA前処理により、低濃度のConAによる表面荷電の上昇が増加する結果を得ました。2回の実験の抗血清の抗体価が異るために、著しく対照細胞のE.P.M.の変化が異って居るものと思いますが、これからその点について確かめた後に最終結論を出したいと思って居ます。

《野瀬報告》
 Alkaline Phosphatase変異株の諸性質について
 Sela & Sacksの報告によると、Hamster embryonic cellsはALP-陽性であるが、virus又はchemicalで“transform"した細胞は、ALP-陰性になるという。ALP-活性と腫瘍性との間に相関性があることになり興味のある事実である。そこで、前に単離したALP活性の高い亜株と原株CHO-K1との間の生物的性質をいくつか比較してみた。(図表を呈示)
 表に各株のALP-活性、doubling time、液体培地とsoft agar中のP.E.をそれぞれ示した。この表からは、活性の高い細胞が増殖が遅いとか、soft agar中のPEが低いとか、一般的に言えないようである。また図にALP-I活性とsaturation densityとの相関を示したが、やはり両者の間に単純な相関は認められない。
 以上の結果と平行して、hamster cheek pouchに細胞を移植してtumorをつくるかどうか、現在検討中である。


編集後記


 Click [X] after reading.