【勝田班月報・7501】
《勝田報告》
今年もしっかり頑張りましょう。
去年後半にはラッテ肝の容易な培養法を開発し、株を沢山作りました。それらの酵素活性を城西歯大の久米川君のところで測ってもらっています。その一部を下に示します(図を呈示)。最右欄は培養してない肝の数値です。胎児由来の株の活性は、生体内の胎児肝の活性に似ているそうで、もう少し実験を続ければ何らかのpatternとしての特徴が掴めそうだとのことです。
《高木報告》
1974年は全く変動の多い年でしたが、仕事の方はまずの状況でこれも皆様の御指導、御協力のおかげと年頭にあたり厚く御礼申し上げます。本年もよろしく御願いいたします。いよいよ昭和50年代に入りましたが、これを契期に思いを新たに頑張らねばならないと考えております。
昨年の年頭に書いたprojectの中、CytochalasinBに関するものと、RRLC-11細胞より分離されたvirusについては一応のけりがつきましたので、まとめの段階に入っています。膵ラ氏島細胞の培養については現在6週令のラット膵ラ氏島の単離培養と、幼若ラットよりの細胞の分離培養につとめていますが、中々壁は厚いようです。本年度進行させたいprojectとして次の2つを考えています。
1.膵ラ氏島細胞の培養とその“がん"化の試み
正常膵ラ氏島に由来する細胞をとり発癌実験に供したい。成熟ラット膵では2〜3ケ月細胞の維持が可能であり、また幼若ラット膵ではラ氏島細胞を選択的に2代目までは継代出来るようになった。さらに培養条件を検討したい。またDMAE-4HAQOを注射したラットにおいて約20ケ月を経て剖見した4疋中3疋に腫瘍の発生をみた。その培養には成功していない。現在行なっている膵ラ氏島の培養系においてもDMAE-4NAQOを作用させて形態学的変化ならびに分泌されるinsulinの性状に差異がみられるか否か、in
vivoで生じた腺腫の比較において検討したい。
2.培養細胞の可移植性と免疫抗原性の解析
培養ないの発癌実験において、癌化過程の細胞を移植した際に移植が成立する細胞と成立しない細胞では、その細胞の宿主に対する抗原性が大きく影響していることが考えられる。まず種々の培養内発癌過程の細胞を移植したさい、宿主の免疫動態の変化をcheckしうるin
vitroの実験系を樹立すべく努力したい。
《堀川報告》
今年の正月は金沢でも久し振りに暖かく、本当にすごしよいお正月でした。雨こそ降っていましたが雪もなく、おそらく私が金沢に来て以来雪のなかった正月は今年がはじめてだったのではないかと思います。
さて、年頭にあたっての今年の抱負ですが、ここ数年来私共の研究室でやってきている培養哺乳類細胞における突然変異の研究を今年も中心に進めます。チャイニーズハムスター肺細胞から分離した栄養要求株、栄養非要求株、8-azaguanine抵抗株および8-azaguanine感受性株を使っての前進および復帰突然変異を各種物理化学的要因について十二分に検討したいと思います。
また、同調培養したHeLaS3細胞を使ってX線、UV、4NQOおよびその誘導体に対する細胞周期的感受性変更要因の解析を進めているが、これと並行してこれらの要因による変異誘発を細胞周期を通じて追ってみる予定である。さて、この仕事と関連して、是非欲しいのはマウスL細胞を使っての仕事です。UV傷害修復能としての除去修復をもつHeLaS3細胞と、対照的なこのマウスL細胞を使っての仕事は、各種要因に対する細胞周期の感受性変更要因の解析に、ひいては細胞周期を通じての変異誘発の機構解析のために、われわれに多大の知見を提供してくれるものと思っています。
さて、最後にもう一つの問題として、今年はマウスL細胞のもつ秘めたるUV傷害修復能の解析にも力をそそぐつもりです。ヒト由来の細胞と違い、何故マウスL細胞のような齧歯類由来の細胞には除去修復能がないのか。また、そのくせUV感受性においてはヒト由来の細胞と差がないか。これが私にとって大きな疑問となるからです。
年頭にあたり、適当なことを書きました。夢があうまで夢で終らないよう努力したいと思います。皆さん共に頑張りましょう。
《梅田報告》
年頭にあたり昨年を反省し、本年進むべき方向を展望してみたいと考えます。昨年前半はadenine
derivativeの作用機作の仕事、培養細胞DNA索の検索、その他AF2の作用機作の仕事等、試験管内発癌の仕事とは直接関係無いことを多く扱っていました。後半になってFM3A細胞を用いると、突然変異原投与により8AG耐性細胞が誘導される実験系がうまく働くようになったので、各種の物質についての突然変異誘導能を調べ始めました。同時に肝ホモジネート及び助酵素を加えてDMNのin
vitro metabolic activationの仕事が旨くいくことがわかりました。突然変異誘導と発癌の関係が云々されている折から、この突然変異誘導能と、更にin
vitro metabolic activationを加味した哺乳動物細胞を使うこの実験系は多いに活用し、発展させたいと願っています。
また継代数代目のマウスはハムスター胎児細胞を用いて、発癌剤処理後5〜6週間培養すると、形態的に悪性化した細胞増殖巣が検出されることを見出しました。さらにDDD、AKR、C3Hマウス胎児細胞の3T3継代を行って株化を試みています。この仕事も本年重点的に進めたいと思っています。
ところで本班の研究主題である上皮細胞の悪性化については、そろそろ定量化の実験を行う必要があるのではないでしょうか。しかし今迄上皮細胞については悪性化してもすぐわかるような特徴が無いので困っていたわけです。やはり発想の転換も必要で、癌だから盛り上って増殖しているだろうと考えること自体間違っているかも知れません。今迄当研究室ではラット肝由来上皮細胞、ラット唾液線由来上皮様細胞を培養してみましたので、之等を使って何かpilot
experimentをしてみたいと考えています。
《難波報告》
本年度の研究は次のように進めたいと思っています。
1)正常ヒト2倍体細胞の化学発癌による試験管内発癌;昨年までの仕事の追試とより確実な発癌の実験系の確立
2)ヒト肝細胞の培養とその発癌実験への利用;上の実験系では、主に繊維芽細胞を利用しているが、ヒト由来の正常な上皮系の細胞も発癌実験に用いたいので、まずヒトの肝から上皮性の細胞の培養を試みたい。
研究報告
8.ヒト肝細胞の培養
昨年秋以来、ヒトの肝細胞の培養を続け、その器官培養については簡単に7410、7411の月報に報告した。
今回は予備的な実験の報告であるが、26才の正常な男子の肝よりBiopsyで得た肝組織から上皮性の肝細胞と思われる細胞が増殖して来ているので写真に示す(写真を呈示)。培地は、MEM:RPMI
1640(1:1)+10%FBSである。写真は培養開始後、17日目。
《山田報告》
昨年は独協医大に転任し、いろいろと大学の建設と整備のために追われ、充分な研究の成果があがらず申譯なく思って居ります。しかし昨年末には、研究室の体勢も固り、培養室には、研究室も調子が出て来ましたので、今年からは、従来通り研究に力を入れたいと思って居ります。今年は、秋の培養学会を独協医大でやることになりましたので、宜敷く御指導の程お願い申しあげます。出来るだけ努力をいたし栃木の田舎に培養学会を持って行って良かったと云われる様に準備したいと思って居ます。
これまでin vitroにおける悪性化に伴う細胞の表面構造の変化についてのみ検索して来ました。今後も勿論この面での仕事を続けたいと思いますが、今年は年頭に一つの発癌実験をやってみたいと思っています。従来得られた成績のうちで、細胞膜の反応性の変化に最も興味を引かれています。細胞膜の分子が固定したものでなく生物学的反応に伴いその表面糖鎖が流動すると云う現象です。この現象を更に解析すると共に、発癌剤による膜の反応性変化をも解析し膜の流動性と発癌剤の作用との関係を明らかにしたいと思います。
その意味でPHAやConAの作用と発癌剤の作用が細胞膜上でどの様に反応するか、そして、その結果として癌化が促進されるか、或いは抑制されるかを知りたいために発癌実験を思いたちました。この実験によりin
vitro発癌の現象のうち、増殖と悪性化を分離して考える成績が得られるかもしれませんし、また、かえって(?)な成績により解析をさらにむづかしくするかもしれません。とにかくやってみたいと思っています。
《黒木報告》
昨年は思うように仕事がすすまず、その他の低レベルの問題でも精神的に悩まされた一年でした。今年はこのような問題に頭を使わず、楽しく仕事をしたいものです。
AF-2などの問題にみるように、この数年間、化学発癌の研究は好むと好まざるにかかわらず、社会的問題とかかわらざるを得ない状況になりました。ここで、組織培養の実験システムがこの問題にどのように貢献できるか改めて考える必要があるでしょう。発癌剤のscreening法としては、AmesらのS.typhymをはじめとする突然変異による検出法、組織培養細胞を用いたtransformationあるいはmutagenesis、さらに、従来の動物実験の三者に大別できそうです。このうち、細菌の変異検出法は簡便なこと、迅速な点で組織培養の優位に立ち、動物実験はその成績の動かしがたい発癌性の確証という点で、これまた、組織培養よりも優れています。結局、組織培養は両者の中間にあり、positiveにしても、negativeにしても、結果の評価はそれのみでは出来にくい欠点があります。他に例を求めるとすれば、A系マウスの肺腺腫の生成などに似ているように思えます。もし、組織培養が、この間にあって独自の立場を築くことができるとしたら、それはヒトの細胞を用いた実験系ではないでしょうか。その方針のことに、目下ideaをためているところです。徐々に手をつけたいと思っております。
《野瀬報告》
昨年一年間をふり返ってみると、あまりたいした進展がなく、お恥かしい次第と反省しております。今年はもう少しましな年になるよう以下の目標で努力したいと思います。
(1)Alkaline phosphataseと腫瘍性との相関について。
CHO-K1由来の高alkaline phosphatase活性亜株は、ハムスターチークポーチ内での腫瘍性が低下していた。この事から逆に腫瘍性の低下した細胞は、同酵素活性が上昇しているかどうか試してみたい。腫瘍性の低下した細胞を単離することは、むすかしいが、glutar-aldehyde固定したmouse
embryo cells上に腫瘍細胞をまいて、できたcolonyを拾うL.Saksらの方法で可能かも知れない。一回やってみたが、このようなfeeder上では細胞はcolonyを作らなかった。またAH-7974由来のJTC-16細胞は同酵素活性が高く、最近腫瘍性が低下しているらしいので、この細胞集団から同酵素活性に差のあるクローンを分離し、腫瘍性と相関があるかどうか見てみたい。
(2)培養肝細胞の特種機能発現について。
今まで細胞の機能としてalkaline phosphataseばかりに固執していたので、もっと別の機能も並行して調べてみたい。臓器特異性のはっきりしている細胞機能として、肝細胞のalbumin産生とarginase活性の2つを取り上げた。抗ラッテalbumin血清ができたので、各肝細胞株でのalbumin産生を定量的に測定し、産生しない細胞から産生するクローンを分離することなどを試み、この機能発現の機構を研究したいと思う。また、arginaseはほとんどの株細胞では活性が検出できず、RLC-10ではラッテ肝抽出液の1/10の活性が見られた。この酵素の誘導、変異株の分離などを試みてみたいと思っている。
《藤井報告》
癌の免疫療法をなんとか臨床にもってゆきたいと願って1昨年あたりから試みてきた線は、一つは、外科的療法(手術)の補助しての免疫療法をつくることであり、他の1つはin
vitro感作リンパ球の受身移入による特異的癌免疫療法であった。
前者は、我が国で既感作の患者が多い結核免疫の遅延型皮内反応を皮膚転移癌などに誘起して、集まってきたリンパ球、マクロファージなどによる制癌作用を期待したものであった。すでに外国でDNCBなどで試みられていたが、医科研の細胞化学で結晶化されたツベルクリン反応誘起抗原(KT抗原)をつかって、ある程度の効果、すなわち注射された局所の癌の縮小あるいは消失をみることができた。しかし全身的な抗癌効果はまだみられていない。この仕事では、研究室の関口助教授が大変努力をつづけているし、基礎実験では黒沢君や森君も加わった。世の癌研究者や、とうに癌免疫研究者は、局所の癌を縮小することの意義はあまり無いと仰言る。たとえ局所でも癌を切らずに小さくすることは大変なのである。とくに切ってとれないところにある癌を縮小させることは、外科医にとって大切なのであることが、先づわかってほしいのだが。
後者は、癌患者リンパ球をin vitroで自家癌抗原で刺激し、in
vivoであるよりは強く感作して、これを患者にもどすことを考えたわけである。ラットの実験腫瘍では、一応の抗癌効果はえられたが、臨床応用は、未だにふみ切れないでいる。in
vitro感作に用いる培養癌細胞の非働化(?)−が完全にできるかどうか。たとえ、少数でも生きた癌細胞を宿主にもち込む危険がないかどうか。in
vitro感作中に微生物の混入と増加を来し、それを患者にもちこむ危険はないか。この2つのために折角の一例は、臨床応用実行前に断念した。最近、米国で同じような試みが3例試みられている報告を読んだ。極めて簡単な、同種移植拒絶反応のin
vitroモデル実験をやっただけでである。
今年は、soluble antigenを使ってのin vitro感作を何とかできるようにしたい。臨床応用は、あまり急がないようにするつもりである。
《永井報告》
この班もこの3月が最后になりますが、振り返ってみますと、研究上の相互連絡がこんなに緊密でお互いに得るところの多い班はそうざらにはないのではないかと思っております。班友としての席を与えられたことを心より感謝いたします。勝田班長並びに高岡さんの陰での御努力も並み大抵でなかったことを想うと、深く脱帽する次第です。また、研究室の皆様方のお世話に対しても心から感謝いたします。
癌問題は前人未踏の巨峰として依然として聳え、人々の登攀を固く拒否しております。しかし、今年も少しでも上の方にキャンプを設営すべく幾多の労力が積み重ねなれようとしており、その一端でも担わしていただければと念じております。
毒性物質の化学的本態の解明が私に課せられた第一次目標点です。分劃法上の目途もたってきましたので、今年こそ何とかと思っております。日暮れて道遠しというところまでは持ち込みたくないと念じております。皆様の御援助を今年もお願いする次第です。
皆様の一層の御活躍をお祈りいたします。
《佐藤報告》
T-14)DAB発癌実験−タンパク結合色素量−
DAB処理過程においてDABのつめ跡を求めるべく、検討を進めているが、今回、DAB処理細胞と非処理細胞(コントロール)について、タンパク結合DAB量の測定を行ったので報告する。
実験方法:細胞は非処理細胞(I=control)とDAB処理細胞(V)で、TD40びん、それぞれ15本に植え込み、subconfluentの時点でDAB
1μg/mlを含む培地(MEM+10%BS)にて交新し2日間培養した。タンパク結合色素量の測定は寺山等の方法に従った。
(表を呈示)結果は表の通りであるが、(1)本細胞はDABを結合し得るタンパクを有していると推定される。(2)コントロールと処理細胞の間で、結合色素量に殆んど差が見られなかった。結合タンパクが同じであるかどうか、という問題に関しては今後の問題である。
月報7109で、佐藤らによって測定されたPC-2細胞の場合と、今回の実験結果は近似している。
《乾報告》
私にとりましては、苦難の49年が過ぎ去りこの1月6日で喪もあけ、文字通り新らしい再出発の年にこの新しい年を致すべく心に念じております。皆様方の相変らずの御指導、御鞭撻の程おねがい致します。
さて、本年の研究の計画ですが、私自身の研究の場が本年中に研究を主体とすることが出来るか、またはスクリーニングのかたわらで細々と基礎実験を続けていかなくてはならないかと云う不安定の要素が根幹にありますが、次にあげる実験を考えております。
1)Transplacental in vivo-in vitro chemical
carcinogenesis:
昨年にひきつづいて、上記の問題を主として純系ハムスターを使用して行ない問題点として、a)母体に化学物質投与後の胎児細胞の染色体切断と変異コロニーの出現率とその移植率、b)胎児発生の各段階における化学物質を投与された胎児細胞の変異コロニー形成率の差、c)同様、肝、腎、肺等の臓器細胞を標的として、臓器発生過程におけるこれら細胞の癌化率等、少々発生、分化、癌化の基本的な諸問題に挑戦したいと思います。
2)ニトロソグアニジン等、一連の誘導体の側鎖の長さと、発癌性の問題:
主としてニトロソグアニジン系化学物質で、化学構造式その物質の変異誘導性、発癌性の問題をもうしばらく追求していくつもりです。