【勝田班月報・7503】
《勝田報告》
A)培養内発癌実験
最近開発した新しい方法でラッテ肝の株がどんどん出来ているので、これらを使っての発癌実験をはじめている。発癌剤としては4NQOを用い1回処理で以後顕微鏡映画撮影で細胞の動態の変化を追うのと共に、その時期の生化学的変化をしらべることを目的としている。観察は処理後初期の2カ月間で、現在RLC-16株を用いて実験中であるが、RLC-18、-19、-20、-21も順次に使用する予定である。
B)肝細胞株の道程
上記のように続出してきた肝細胞株を肝細胞として同定する一端として、酵素活性及び形態の上から久米川君に、復元試験については東大病理の榊原君に協力してもらっている。後者はハムスターに抗リンパ球血清を接種して、細胞をポーチに入れるのであるが、その形成塊の組織像を3週間で見られるというのが利点である。
C)ヒト末梢血の単球の培養
ヒト末梢血から単球を主体とする分劃をとり出し、自家血清10%+DM-153の培地で培養しながら顕微鏡映画で追ってみると、1週間後頃より単球がしだいに肥大しはじめ、2週以後には巨大多核細胞となることが判った。単球は増殖しないが、少くとも3カ月間は生存していることも認められた。この巨大化、多核化がCell
fusionによるものか分裂異常によるものかはまだ確認できないが、Cell
fusionによるのではないかと想像される。それは、特殊な場合を除いてはH3-TdRのとり込みが見られないことと、多核でも核の大きさが皆揃っていて大小不同の無いことからである。特殊な場合というのは微生物感染ではないかと思われるが、大量にH3-TdRとり込みを見出したのである。この点については、いわゆるblast-formationとの関係について、今後さらに研究を続けるつもりである。
《高木報告》
CytochalasinBの培養細胞に対する効果
これまでCCBの培養細胞に及ぼす効果を観察していたが、多核の形成がDNA合成を伴ったものか否かをみるため、CCBを作用させると同時にH3-thymidineの取り込み、およびnetのDNA量の測定を試みた。H3-thymidineの取り込みは実験ではCCBが細胞膜に作用してthymi-dineの透過性を抑制する可能性が考えられるので、netのDNA測定実験を行ったが、2回の実験で成績の不一致をみたので、再度RFL-5細胞を用いて実験をくり返し、表の如き結果を得た(表を呈示)。この実験では対照の細胞の増殖はきわめて良好で、3日間に約32倍の増殖を示し、CCB処理細胞は1.8倍の増殖であった。対照の細胞あたりのDNA量が、培養日数とともにやや低下しているのは、培養初期ではexponentialな増殖を示すためS期の細胞が培養中に多く含まれているためと考えられる。表に示す如くCCB処理細胞では明らかにDNA量は多く、このことは多核の形成過程のどこかの段階までは、DNAの合成が行われていることを示唆するものと考える。
《堀川報告》
UV照射されたマウス細胞の生存率は、Lcaffeineによって特異的に抑えられることを前報で報告した。こうしたcaffeineの作用が、DNAレベルではどの様な作用としてみられるかを検討するため、マウスL細胞およびHeLaS3細胞を1x10-6乗M
FUdRと5x10-5乗M Uridineを含む培地中で16時間培養することによりpartiallyに同調した細胞を、200ergs/平方mmのUVを照射し、ついで45分間5μCi
H3-TdR/mlを含む培地中で培養することによって、新しく合成された小新生DNAをラベルしてやる、(この場合、対照群の未照射細胞は15分間だけラベルしてやると同じ大きさの小新生DNAがつくられる)。ついでこれらの細胞を正常培養液に移して培養した場合、これら細胞内DNAの伸長がcaffeineの存在によってどのように影響をうけるかを、5〜20%アルカリ性蔗糖勾配遠心法で調べた結果が、図1および図2である(以下夫々図を呈示)。
これらの図からわかるように、マウスL細胞、HeLaS3細胞ともに未照射細胞は勿論のこと照射された細胞でも正常培地中での培養によって新生DNAは伸長し、約6時間の培養で正常DNAの大きさに達する。正常細胞のDNAは2mM
caffeineの存在中でも殆ど影響をうけることなくincubation
timeとともに伸長するが、200ergs/平方mmUVで照射されたDNAの伸長は、caffeineの存在によって抑制される。これはマウスL細胞において特に顕著である。また、HeLaS3細胞のDNAの沈降像からわかるように、H3-TdR処理直後においてすでにbulk
DNAの方に放射活性が認められるが、これは除去修復能をもつHeLaS3細胞ではrepair
replicationによってH3-TdRをbulk DNA中にもとり込んだものと思われる。
以上の結果、つまり図1、図2に描かれた沈降像をもとにしてWeight-average
molecular weithtを計算してまとめたものが図3および図4である。これからわかるように照射されたマウスL細胞において新生された小DNA鎖の伸長はcaffeineの存在によって特異的に抑えられることがわかる。
では、このようにUV照射されたマウスL細胞において作られた小新生DNA鎖の伸長が何故caffeineによってblockされるのかといった問題の解析が今後に残されている。
《山田報告》
引続いて電顕的に培養ラット肝細胞の形態を検索した結果を報告します。
今回はまずグリコーゲン顆粒の正常像を分析する意味でラット正常肝を検索した所、そのグリコーゲン顆粒は従来の文献にみられる様に、図1のごとき、きれいな星状の凝集像がみられました。(夫々電顕像を呈示)
培養したラット肝正常細胞には、この様な典型的なグリコーゲン凝集像が殆んど消失して、微細な粒状になってしまう様です。従って光学顕微鏡下のグリコーゲン染色では陰性になるわけです。
RLC-18(Embryo由来のラット正常肝細胞):
グリコーゲン顆粒は極めて微細で、また細胞により、その出現の度合が極めてバラバラです。図2に示す様にある細胞では極めて密集してグリコーゲンがあるにかかわらず、他の細胞では極めて平等に分布する細胞があったりして、或いはmixed
populationの度合いが著しいのかもしれません。通常の暗調なライソゾームが殆んどなく、その代りに大型な明調なライソゾームらしき物質が散在している。全体に相互の結合性が弱く、microvilliのある辺縁が多く、平滑なデスモゾームのある接触は極めて少いと思われます。
RLC-21(Embryo由来ラット正常肝細胞)
グリコーゲン顆粒が微細で極めて平等に分布し、RLC-18にみる様な密集はない。通常の暗調のライソゾームが若干みられる。平滑な接触面がRLC-18より多くみられるが、RLC-20(Newborn)程にはない。
Embryoの二系の間には若干差があり、超微形態はどうもCase
by Caseに異る様です。
《乾報告》
経胎盤in vivo-in vitro chemical Carcinogenesis:
先月の月報で、Transplacental in vivo-in
vitro Chemical Carcinogenesisの総括的な結果を報告致しました。本号では使用した7種の癌原性物質投与によるColony
Formation Rate、染色体分析のやや詳細なデータを報告します。
1)経胎盤投与によるTransformal Colony形成率
経胎盤的に癌原性物質を投与した胎児繊維芽細胞を培養後のColony形成率、TransphomedColony出現率及び、Transformed
Colonyの細胞のハムスターへの移植実験の結果を表1〜3に示した。(表を呈示)
経胎盤癌原性物質投与後の胎児細胞をシャーレ当り、1万個播種後のPlating
Efficencyは、培養2代〜6代目で各代共略々1%内外であった。しかし、対照に使用したDMSO投与群では、培養7代目に0.02%と、著しく減少した。Bp投与群では実験に使用した2系列共Plating
Efficiencyは他の物質投与群に比して明らかに低く0.3〜0.9%であった。
Morphological Transformed Colonyの出現率は、対照のDMSO投与群では、1系列では0%、他の1系列で0.08、0.15%であった。Bp投与群の1系列では、培養2、4代で、Transformed
Colonyは出現しなかったが、他の1系列では1%以上のTransformed
Colonyが出現した。表1〜3であきらかな様に、経胎盤で胎児に癌原性物質を投与後の培養胎児繊維芽細胞におけるTransformed
Colonyの出現はNMU、4NQO投与群に高くBp、AF-2投与群で低かった。Trans-formed
Colonyの細胞を200万個ハムスターを使用したDMN、3'm-DAB投与群では移植後2週間迄DMN投与群で1系、3'm-DAB投与群で1系で、移植細胞が残存したが、その後消出した。各群の他の1系では細胞の増殖はみられなかった。純系ハムスターAPG使用群では、Bp投与群で移植マイナス、NMU、DEN投与群で血管造成をともなう小豆大の腫瘤が残存している。
2)染色体分布
培養細胞に直接最大量癌原性物質を投与した場合と経胎盤的に物質を投与した時、出現する染色体異常を表4、5に示した。表4で明らかな如く、使用した物質中、NMU、4NQO、AF-2投与群で染色体異常に高頻度に表われ、Bpでは中等度、3'm-DAB、DMN、DEN投与群では低かった。NMU、4NQO、AF-2投与では直接投与群の染色体異常が経胎盤投与に比して高く、Bp投与群では略々同定度、DMN、DEN、3'm-DAB等体内代謝を受け始めて活性化される物質では、経胎盤投与群で、直接投与に比して、著明な染色体切断が観察された。表5にこれら癌原性物質投与で出現した染色体異常の型の解析の結果を示した。NMU、4NQO、AF-2投与群では直接投与では、染色体型異常が多く、経胎盤投与では、染色体型異常が著明に出現した。
他方、3'-DAB投与では、直接、経胎盤投与共、染色体型異常が多く、DMN、DEN投与では、経胎盤投与で、染色体分体型異常が高頻度出現した。
今後Non-Carcinogenic hydrocarbone、アミン類の経胎盤試験管内発癌実験を加えたい。
《難波報告》
10.ヒト正常2倍体細胞の癌化:変異コロニーの検討
昨年以来、ヒト細胞の化学発癌剤を使用して発癌実験を続けているが、しかしまだ発癌に成功していない。
今回は4NQOを処理したヒト胎児肝由来の繊維芽細胞で10-6M
4NQOを間歇的に25回処理し、133日培養、15th PDLのものを20万個/60mmシャーレ6枚にまき、以後、週2回培地更新し、3枚のシャーレは40日後、残り3枚は47日後、ギムザ染色して調べたが変異コロニーは見い出せなかった。また、この段階でクロモゾームの変化もなかった。
このことは、以上の4NQO処理では120万個cellの中1コの癌化細胞も、まだ出現していないようでヒト細胞の癌化のむつかしさを痛感する。
11.ヒト細胞の癌化に有効な化学発癌剤の検討
癌化が細胞のDNAレベルでおこると仮定すれば、化学発癌剤はDNAに何んらかの障害を与えているであろうし、その結果、DNAの修復がおこっているであろう。従って、修復の大きいほど化学発癌剤はDNAによく効いていることになる。
いま、Autoradiographyで修復を調べた結果は図1の通りで4NQO処理の細胞が最も高い修復を示している。この実験条件は細胞はWI-38を使用し、2.6mM
Hydroxyurea(HU)、4.8hr→10-5乗M Chemicals1hr→5μCi/ml
H3-TdR 1/2hr処理で標本を作製した。(実験方法は月報7412に参照)(図表を夫々呈示)
Killing effectをだいたい同じにした薬剤濃度、即ち10-5乗M
BP、10-6乗M NG、10-6乗M 10-7乗M 4NQOで、Autoradiographyを行ったところ、ラベルされた細胞/数えた細胞は、BP
1/1000、NG 2/500、10-6M 4NQO 1/500、10-7M 4NQO
0/500であった。この実験では実験の何処かにミスがあるようで、ラベルされた細胞が少ないのでもう一度繰り返す予定である。
上のAutoradiographyの結果を液シンで検討した。
実験1.細胞は培養された単球性白血病細胞(ヒト由来)。2.6mM
HU1hr→10-5乗M Che-micals 1/2hr→1uCi/ml
H3-TdR 1/2hrでH3-TdRの取り込みをみると、表1のごとく、4NQOでH3-TdRのとり込みが一番高い。(HUは発癌剤及びH3-TdR処理中も常に投与している。)
実験2.は実験1と同じ細胞を使用。2.6mM HU
12hr→10-5乗M Chemicals 1/2hr→1uCi/ml H3-TdR1hrで行った。結果は表2の通りで、この実験でも4NQO処理の細胞が一番高い修復を示している。
《梅田報告》
月報7411に次いでFM3A細胞を用いて8AG耐性出現率でみるfowerd
mutationの系を使ったその後のデータを報告する。
(1)各種物質について試みているが、Mycotoxinのデータを表に示す。OchratoxinAは肝障害を起す事が知られているが発癌性は証明されていない。Penicillic
acid、patulinは共にalkylationの作用があると云われ、皮下投与での肉腫形成が報告されている。Myco-phenolic
acidは、IMPからCMPの合成を阻害する物質でguanine投与でrecoverする。一時、antiviral
agent或はantitumor agentとしての可能性が考えられ研究されたが、結局は実用にいたらなかったようである。(表を呈示)
(2)表でみるごとく、OchratoxinAでは増殖阻害を起す濃度で調べて突然変異率は上昇しなかった。Penicillic
acid、Patulinは、共に軽い上昇が認められるようである。Myco-phenolic
acidに関しては、非常に強い突然変異が誘導されたことになる。この結果からするとmycophenolic
acidに関しては、単なるIMP→GMP阻害としての代謝阻害以上の作用が細胞に働いていることを示唆していると思われる。
突然変異が誘導されたものも、されなかったものも、更にin
vitro metablic activationを使っての突然変異率を検討する予定である。
(3)以上のような実験にしろ、更にin vitro
metabolic activationの実験にしろ、バクテリアの系では良く報告されている事柄である。そして、突然変異のassayとしてはバクテリアの方がより手早く、経済的である。すなわち、多数の物質について突然変異性を調べるような場合、その有用性は覆うべくもない。勿論、バクテリアと哺乳動物細胞では細胞構築、代謝が異るからバクテリアで証明されたことを哺乳動物細胞の系で証明しても、それだけでも意義はあるが、このような実験に携わる者として、哺乳動物細胞を使った故に判明するような、もっと大きな利点があればと思っている。これからはそのような方向も模索しながら実験を進めていきたいと思っている。
《黒木報告》
10T1/2細胞の各クローンについてMCA代謝能を調べた(表を呈示)。
この結果から次の二つがかわった。 (1)10T1/2は株化fibroblastであるにも拘わらずMCA代謝能が非常に高い。(2)clone間に代謝能の差がない。従ってclone間のtransformabilityの差を代謝の差で説明することは出来ない。
《野瀬報告》
Alkaline phosphatase(ALP)誘導のまとめ
これまで、ラッテ肝由来細胞JTC-25・P5のALP活性をcAMPによって誘導する現象をいろいろな面から解析してきたが、活性上昇が酵素蛋白の新生によるのか、又は不活性酵素の活性化によるのかは不明であった。この点を明らかにするため、ALPに対する抗血清を用いて検討した。
But2cAMP処理してALP活性の上昇したJTC-25・P5細胞を大量培養により約12g集め、この細胞からn-ブタノール抽出、Sephadex
G-200によってALPを部分精製した。これを抗体として、Freund's
complete adjuvantと共に、ウサギに6回注射して抗血清を得た。得られた抗血清は、ラッテ各臓器のALPのうち、liver、kidney、boneのALP活性を中和するが、intestineのALPは全く中和しなかった。従ってJTC-25・P5細胞の発現するALPは、intestineの酵素とは抗原性が異なり、liverなどに存在するALPと、類似のものであると結論できる。この結論は月報No.7411に報告したALPの阻害剤に対する感受性の差と一致する。
次に、誘導をかけていないJTC-25・P5細胞中に、ALP活性の中和を阻害する物質があるかどうか検討した。もしALP-活性のないJTC-25・P5細胞が、ALP抗体と交差する物質を持たなければ、誘導によっれALP活性の増加するのは、de
nvo酵素合成により、逆に交差する物質があれば、この物質がALP酵素蛋白の前駆体であると推定できる。
実際の実験では、JTC-25・P5のクローンのうち、誘導性のCl-1と、非誘導性のCl-2とを用いた。各細胞から、n-ブタノール抽出液を作り、これを、誘導して出てきたALPと混合して、抗ALP抗体と反応させ、遠心して沈降物を除いた後、上清のALP活性を測定した。
(図を呈示)結果は図1に示すように、誘導していないCl-1細胞内には抗ALP血清と交差する物質があり、Cl-2細胞にはなかった。このことから、cAMPは細胞内にすでに存在する不活性のALP蛋白を活性化することによってALP誘導をおこすと結論できる。細胞の機能の発現機構として、このような現象は非常に興味ありALP以外の機能の発現にも同様な機構が働いていると思われる。図2はラッテ腎のALPに対する抗血清の効果であるが、やはりintestineのALPは抗原性が異なっていることがわかる。
ALP-活性に関する変異株を分離し、そのALPの酵素的性質は、小腸のALPとは異なっていて、肝、腎、骨のALPと類似していた。誘導されたALPにも、このような臓器特異性が見られることは、ALPの誘導という現象が、分化機能発現の一つと考えられると思われる。その発現機構として、予め不活性型として存在する酵素の前駆体が活性化すること、および、新たな蛋白合成によらないとうことは興味ある現象である。
以上3年間にわたって、培養細胞の酵素(特にALP)の調節機構を研究してきたが、癌と直接結びつかなかったことを申し訳けなく思っています。酵素の発現機構の解析が、いつか、細胞の癌化過程の解析にも示唆を与えるようになることを期待しています。