【勝田班月報・7504】
《勝田報告》
ラッテ肝細胞(RLC-10(2)株)に対するスペルミンの影響
[10%Fetal calf serum+Lactalbumin hydrolysate(0.4%)+SalineD]の培地でRLC-10(2)は継代されているが、継代後1日間この培地で培養した後、血清を含まぬ合成培地[80%DM-145+20%PBS]にきりかえる。このときPBSの中にスペルミンを加えておくと、1.95μg/ml、3.9μg/mlのスペルミンで、培養1日以内に強い致死的な細胞障害が起る。このとき、培養前にスペルミンを前処理し、その毒性を弱めることを試みた。
スペルミン1.95μg/mlに各種物質を添加し、37℃、24時間加温した後、上記の培養法で用いてみた結果は次の通りである。(表を呈示)。数値はスペルミン無添加群の1日間の増殖率に対する実験群の増殖率の%である。(但し各対照群には添加物質は同濃度に加えた。)
これらの内でスペルミン毒性に対する緩和効果を最高に示したのは、Bovine
albumin、FractionVであった。Chondroitin sulfateもやや効果があったので、濃度を2mg/mlに上げてみたところ、沈澱が生じて計数できず失敗。Tween80も試みたが、Tween80のみの添加群が全滅し、これも失敗した。
《高木報告》
CytochalasinBの培養細胞に対する効果
CCBによる培養細胞の多核形成がDNA合成を伴ったものであるか否かをみるため、先の月報では増殖能がつよく可移植性もあり、また2核以上の多核を形成するRFL-5細胞について検討した。今回は同じくラット肺由来であるが、増殖能が悪くCCBにより2核形成に止まるRFL-6細胞につき観察した。この細胞の増殖能は3日間で約5.3倍であり、CCBで処理した場合1.4倍を示した。用いた濃度は2.5μg/mlである。結果を表示すると、次の通りになる(表を呈示)。
無処理対照細胞、CCB処理細胞ともに培養につれて細胞あたりのDNA量は減少の傾向を示したが、全体として両者を比較するとCCB処理細胞の方が対照細胞より細胞あたりのDNA含量は多く、このことは2核細胞の形成がDNA合成を伴っていることを示した。
ラットリンパ球培養の基礎的条件の検討
ラットの脾よりあつめたリンパ球につき無蛋白培地および1640+10%FCS培地でFCSのlotの違いによるPHAに対する反応性の相違をみている。
《乾報告》
4月号の月報を提出すると云うことは、向う三年間“組織培養による発癌機構の研究”と云う班で、勝田先生を中心として、諸先生方と御一緒に、仕事をして行く事が出来ると云う解釈を致し大変うれしく存じております。
2月末より3月一杯、期限付の毒性検定が15検体程まいりまして、基礎の仕事は細胞を維持するのがやっとで、又々業務研究所の悲しさをいやと云う程、味あわされました。その様な理由で本月は御報告するデータがありませんが、現在公社で開発中の紙パルプを素材とした未来の“たばこ"の原料の主物毒性についてふれてみます。
現在、製品として使用されている“たばこ"の原料としては、ヴァージニア黄色種(BY)、バーレー種を中心に、たばこの葉脈、細蓋等を粉細して、シート工法で再生したシートタバコ(Sh)等ですが、これを対照として、ハムスター細胞に対する合成タバコ原料を検定しますと表の如くです(表を呈示)。
同時に行なったSalmonellaのTA1538株を使用した遺伝毒性を0.5mg/dish投与でBYに対し人工原料は3倍のMutantを出現させます。
《山田報告》
RLC-19株細胞のEM像
Adult rat liverより培養したRLC-19株を電顕的に検査しました。他の株と比較すると、やはりadult
rat liver由来のRLC-16に似ていますが、よりSmooth
contactが多く、非凝集性のグリコーゲン顆粒が若干多い様です。しかしembryo又はnew-born由来の肝細胞よりは少いと思われます。この株では、暗調のlysosomeが稀に発見され、mitochondriaのCristaeがはっきりして居ます。またGolgi
bodyが、他の検索したすべての細胞系より、よく発達して居ました。
正常肝由来細胞の検索はこの位にして、4NQOによる癌化株及び、腹水肝癌培養株を検索して比較したいと思って居ます。
《堀川報告》
前報では、紫外線照射されたマウスL細胞において作られる小新生DNAの伸長がCaffeineによってblockされることを報告した。このようにみると、Caffeineはどのような機作で新生されたDNAの伸長を阻害するかということが問題になってくる。可能性としては、(1)親DNA鎖中に誘起されたTTにCaffeineは結合することによりgap
fillingを阻害する。(2)新しく作られたDNAの伸長部位にCaffeineは結合して伸長を阻害する。(3)修復DNA-polymeraseを始めとした修復に関するenzymesの活性をCaffeineは阻害する、等々が考えられよう。これらのうち、まず(1)の可能性を検討するため、各種線量のUVを照射されたL細胞を5μCi
H3-Caffeine/mlを含む培養液中で培養し、その都度Marmur(1961)法でDNAを抽出し、affeineの結合量を調べた。結果は(夫々図を呈示)図1に示すごとく、予想に反して高線量照射された細胞のDNAほどCaffeineの結合は少く、semi-conservativeにDNA複製を行っている未照射細胞内DNAと積極的に結合することがわかる。これでは、TTの誘起されたDNAとCaffeineの結合を正確に把握することが出来ないため、あらかじめ3x10-3M
hydroxyrureaで150分間前処理することにより、semiconservative
DNA合成を完全に止めた状態のL細胞に各種線量のUVを照射し、その後、hydroxyurea存在下で5μgCi
H3-Caffeine/mlを含む培養液中で各種時間培養した際のマウスL細胞内DNAと結合するCaffeine量を調べた。結果は、図2に示すごとくCaffeineはTTの誘起されたDNAとは勿論のこと、semi-conservative
DNA合成を止められた未照射細胞DNAとも結合しないで、UV照射後5時間目に培養液からhydroxyureaを除去すると未照射細胞のDNAと再度活発に結合することがわかる。
図3は、hydroxyureaで150分間前処理したL細胞を、更に高線量のUVで照射し、それらをhydroxyurea存在下で、50μgCi
H3-Caffeine/mlを含む培養液中で、それぞれ3時間培養した際のDNAと結合するCaffeine量を調べた結果である。この場合にも、照射線量に依存したCaffeineの結合量の有意な増加は認められない。以上の結果はCaffeineはsemi-conserva-tiveに合成されているDNAとは積極的に結合するか、あるいはその中に取り込まれるようであるが、TTの誘起されたDNA鎖とは活発に結合しないことを物語っているようである。しかし、DNA抽出法としてのMarmur法では結合が切れるような弱い結合である可能性もあるであろうし、確かなことは更に今後の研究に待たなければならない。例えば、平衡透析法によってDomonら(1970)はUV照射されたDNAにCaffeineは結合する可能性のあることを示唆する結果を得ているので、この点は将来更に慎重に検討する必要があるようである。
《梅田報告》
各種物質についてその後出た突然変異性の実験結果を報告する。今迄と同じようにFM3A細胞の8AG耐性獲得の突然変異を指標とした。
(1)4NQO、4HAQOについては非常に高い突然変異性が認められる。有機水銀剤のmethylmercuric
chloride(MMC)は突然変異を惹起しないと結論して良さそうである。
(2)大気汚染物質であるSO2、NOの塩NaSO3、NaNO2、更にAcroleinについて調べた。Na2-SO3はSO3イオンのラジカル反応が知られ、DNAと結合するとされている。我々のデータでは突然変異は起さないと結論される。NaNO2はバクテリアの突然変異の系では、有名な突然変異原であるが発癌性の証明されていない物質である。我々の今回の哺乳動物細胞を用いた系でも突然変異性が認められた。Acroleinは光化学公害の原因の一つと考えられているが、生体では中間代謝産物として肝で生成されているもののようである。バクテリアの系では突然変異原として報告されている。本実験のデータでは突然変異性が殆んど認められないと結論出来る。さらにrepeatして確かめる予定である。
(3)3,4 benzpyreneについてのデータは濃度しか調べてないが突然変異性があるようである。FM3A細胞が悪性細胞であるのにAHHを持っているとすると興味があるので、さらに確かめたいと思っている。(表を呈示)。
《難波報告》
12:ヒト細胞の癌化に伴う形態的変化:繊維芽細胞→上皮性細胞への変化
ヒト細胞を確実に培養内で癌化させることが出来るものは、SV40のみであり、SV40での癌化の報告は、いずれもSV40処理前の細胞は繊維芽細胞様の形態を示すが、癌化すると上皮様の形態を示す細胞に変化している。この事実より、ヒト細胞の癌化の指標の一つとして、繊維芽様細胞から→上皮性細胞への変化が重要なことと考えられている。
ヒト以外の動物の繊維芽細胞を使っての発癌実験では癌化に伴う細胞の形態的変化で上皮性細胞への変化はあまりない。私が以前使用したラット肺、胎児由来の繊維芽細胞は癌化後も繊維芽様形態を持っていたので、ヒト由来の繊維芽細胞の癌化を試み始めたとき、癌化後も繊維芽細胞様の形態を維持するだろうと予想していた。Dr.Hayflickは、細胞が上皮性に変化すれば癌化だとよく話していたので、繊維芽細胞が上皮性に変わるのは細胞(しばしばHeLa)のコンタミではと私は考えていた。
ヒト肝由来の繊維芽様形態を示す細胞を4NQOで処理いて癌化した細胞の形態的変化を考えると、1)繊維芽様細胞:実験開始時及び対照細胞。2)繊維芽様細胞と上皮性細胞の中間的性格:癌化を確認した時点癌化の確認は、(1)Agingそ示さない、(2)クロモゾームの異数性、(3)動物への可移植性。3)より上皮性細胞に近ずく(HeLaに似る):癌化してから培養を続けると(100代以後)。3段階の変化を示している。このことは発癌の段階で細胞はやや上皮性のものに近ずくが、その後培養を続けると徐々に上皮性の方向に変化してゆくことを示している。そして癌化した時点でのEMでは、グリコーゲン顆粒など認められなかったのに(写真を呈示)、現在では胞体内に多数のグリコーゲン顆粒を認める。細胞は癌化によって分化したのであろうか?
とにかく繊維芽様細胞→上皮性細胞への変化はヒト細胞の癌化の指標に重要であるのみならず、細胞の分化機能の発現の上でも重大な変化がおこっているようなので、癌化の初期の細胞を凍結からもどし、クローニングとグリコーゲン合成能やその他の分化機能の検索も行なってこの変化をより詳しく解析しようと考えている。
13:発癌実験の続き
現在、次の4系を4NQOで処理して発癌実験を試みているが、しかしまだ癌化に成功していない。1)ヒト胎児由来肝よりの細胞:形態は繊維芽、培養日数215日。2)ヒト成人肝よりの細胞:形態は繊維芽細胞と上皮細胞との中間、培養日数76日。3)ヒト成人腎よりの細胞:形態は繊維芽細胞と上皮細胞との中間、培養日数34日。
4)ヒト胎児脳よりの細胞:形態は繊維芽細胞、培養日数215日。
《野瀬報告》
Rat Serum Albuminの精製
培養細胞の生化学的マーカーとして、これまでもっぱらアルカリフォスファターゼを調べてきたが、一つだけではあまり発展性がないので、これ以外にアルブミンを取り上げてみた。勝田班においては多くの肝由来培養株が樹立されているので、アルブミン産生能を肝細胞の特異機能としてそれぞれの株で比較するのは意義あることであろう。また、特異蛋白質がin
vitroの細胞でどのように生合成されるかという問題は生化学的にも非常に興味のある問題で、今迄の酵素誘導、酵素活性変異などの仕事の延長としても、適当と思われる。この仕事が直接癌の問題と結びつくとは考えられないが、発癌過程の分子機構を考える上に、何らかのヒントになれば幸いと考えています。
アルブミンは酵素活性などを持たないので、その定量はどうしても免疫学的手段を用いなければならない。そこでまず、純粋なアルブミンを調製することを試みた。市販のRat
Serum albuminのFraction VはSDS-ポリアクリルアミドゲルの電気泳動で見ると図1のNo.1のように少なくとも4種類の蛋白質が混在し、かなり不純である。(以下図表を呈示)。このFraction
Vを出発材料として、以下の方法で純粋なアルブミンを調製した。(Taylor
& Schimke 1973)。Franction Vのアルブミンを10mg/mlになるように0.15M
NaClに溶かし、硫安50%飽和にする。できた沈澱は、主にグロブリンで、捨て、上清に酢酸を加えてpH
5.0にするとアルブミンが沈澱してくる。この沈澱を、0.01M
Tris、pH 7.4;0.15M NaClにとかしてSephadex
G-100のカラムにかけてゲル濾過を行なうと、2つのピークに分れる。低分子のピークがアルブミンで、このピークを集め、3%TCAにしてから4M
NaClを加えてアルブミンを沈澱させる。できた沈澱は、5M
ureaに溶かし、一度変性させてから、0.03M Tris
pH 7.4に対して透析し、DEAE-celluloseのカラムにかけて塩濃度をかえて溶出し、アルブミンのピークを集める。これを濃縮してSDS-ゲル電気泳動で調べると図1のNo.4のようになった。かなり不純物が除かれているが、まだ不純物が存在する。更にもう1回、G-100でゲル濾過したものが図1のNo.5で、ほぼ純粋なアルブミンになっていることがわかる。300mgのFraction
Vを用いて最終的に75mgのアルブミンが得られた。
Radioimmunoassayには、標識したアルブミンが必要なので、H3-ラベルしたアルブミンを次に調製した。約200gのラッテの尾静脈にH3-ロイシン2.0mCiを注入し3時間後に全採血し血清を作る。これを50%飽和の硫安にして上清から先の方法でアルブミンを調製した。図2はG-100の抽出パターンで、(a)が1回目、(b)が3回目である。(b)のピーク標品は、SDSゲルで単一蛋白であった。この方法で、4.0x10の4乗cpm/mg
proteinの標識されたアルブミンが得られた。
《久米川報告》
Morris hepatoma 7316Aの分化度:Pyruvate
Kinase Isozymeを中心にして
肝臓の分化した機能を示すL-type pyruvate
kinase(PK)isozymeを、肝臓の分化度を示す指標として、Morris
hepatoma 7316Aがどの程度の分化レベルに位置づけられるかを、吉田腹水肝ガンの一種であるAH66やRhodamine
sarcomaなどのisozyme patternを比較し検討した。またこの7316Aを単層培養条件下に移した場合、PKに如何なる変化が起きるか調べた。
(各々表、写真を呈示)。解糖系の酵素は表1に示すように、いずれもガン細胞の増殖度の速いほど高い活性を示す。他方、一般にガン化によって肝臓のhexokinase(HK)とglucoki-nase(GK)に起こる変化は、“GKの低下ないし消失とHKの増加”と要約されている。Morris
hepatoma中最も増殖の遅いhighly-differentiatedな7794AにはGK活性が認められる。しかしMorris
hepatoma中で中程度の増殖速度を持つ7316AにはもはやGK活性が認められない。しかし、7794Aおよび7316Aの電顕像はいずれも著しく正常肝細胞に類似している。
Morris hepatoma 7316AのPK isozyme patternは、表2に示すように。正常ラット肝臓のpatternと類似している。このうちPI
7.4のM-type PKの比率が高くなっているが、これは筋肉中に移植されるため、摘出したガン組織中に含まれるわずかの筋肉に基づく活性である(位相差顕微鏡により確認)。この点を考慮すると7316Aのisozyme
patternは正常ラット肝臓とほぼ同様であると考えられる。したがってPK
isozyme patternから推察する限り、Morris hepatoma
7316Aは正常肝臓に近い分化レベルにある。他方、吉田腹水肝ガンの一種であるAH66はPI
7.8のK-type PKをmainに含んでおり、分化型のL-type
PKを全く含んでおらず大変低い分化レベルにある。
7316Aを2週間単層培養すると、2種類の形態的に異なる細胞集団が得られた。1つは繊維芽細胞のみからなるシャーレと、もう1つは繊維芽細胞中に島状に上皮細胞(肝ガン実質細胞)が混合した状態のシャーレである。表2で示すように、前者は、すべてK-type
PKからなり、後者は、もとの7316Aと同様L-type
PKをmainとするisozyme patternを持っている。繊維芽細胞のみからなる前者の結果は、7316A中の結合組織由来の繊維芽細胞のみが単層培養下でSelectionされたためであると考えられる。後者はin
vivoに比べ繊維芽細胞の割合が単層培養下で約2倍程度に増し、その結果、K-type
PKの割合も12%から23%に増加している。しかし全体として肝ガン実質細胞に基づくと考えられるL-type
PKがmainであり、もとの7316Aとほぼ同様なpatternを示す。したがって、7316Aのガン実質細胞は初代単層培養によって短期間は脱分化せずもとのPK
isozyme patternを維持していると考えられる。
2.Roseの培養法による肝由来細胞の培養
Roseの還流培養法は生体内特性を維持したまま胎児組織を長期間培養できる。また、この系においては株細胞はその増殖が抑制され、しかもdramaticな形態的変化を示す。したがって今後、肝由来細胞をこの系に移し、単層培養下の細胞と形態的(電子顕微鏡)、機能的(酵素活性、Albumin合成能)に比較検討してみたい。