【勝田班月報・7505】
《勝田報告》
ラッテ肝細胞(RLC-10(2)株)に対するスペルミンの影響(続):
前月号にスペルミンの細胞毒性を弱めるのに、Bovine
fraction Vの有効性について書いたが、今月はその続きである。
1)スペルミン3.9μg/mlにfraction Vを添加して、37℃で何時間加温すると毒性を弱める効果が出てくるか(表を呈示)。
数値は先月号と同様、スペルミン無添加の増殖率に対する実験群の増殖率の%を示す。即ち、8hrでは未だ毒性をごく僅かしか弱めないが、24hrではかなり効果があった。今后、8hrと24hrとの間をしらべる予定である。
2)Fraction Vを前処理してから、スペルミン3.9μg/mlと混合した場合(表を呈示)。
(処理したfraction Vとスペルミンとの混合後の加温時間は24hr)
アルブミンのスペルミン毒性を弱める効果は、60℃、30分加温では全く失われず、100℃2分(ほとんど固型状に変性)でも完全には失活しない。トリプシン消化では、過熱変性化の場合より失活、37℃2hr加温したトリプシンは単独で培地に添加しても増殖に影響しない。37℃、2hr加温したトリプシンをスペルミン3.9μg/mlと混合し、37℃、24hr加温するとスペルミンの毒性は弱められた。
《高木報告》
今回は発癌とは直接関係ないが、免疫学的アプローチに習熟する意味から、ピリン過敏症の患者の皮膚生検材料からえられたfibroblastの培養を応用したin
vitroの抗原検出法につきpilot experimentを報告したい。
患者皮膚よりえたfibroblastはMEM+10%FCSで約3ケ月培養したものを用いた。3万個/tubeを植込み同時にMMC
10μg/ml加えて24時間作用させた。24時間後培地を交換するとともにlymphoprepにより分離したlymphocyteを120万個/tube植込み、同時に薬剤を加えて培養をつづけた。4日後にH3-TdR
0.5μCi/mlを加えて48時間labelし、5%TCAを加えて遠心法で3回洗い、その沈渣をscintillation
vialに移してcountした。なお培地は1640+20%FCSとし、培養tubeとしては平底短試験管を用いた。
ピリン過敏症患者についてえた結果は次の通りであった。
アミノピリン+患者Fibroblst+患者lymphocyte(表を呈示)
表で、Aminopyrin(-)でもlymphocyteおよびfibroblast+lymphocyteで、可成りのcountがみられたが、後でこの患者はICGtest(無機・Iodを含む)の時、過敏反応を示すことが判り、lymphoprep中のIodに対する反応とも考えられる。従って、Aminopyrinを加えた場合の反応はIodに対する反応が加算されているとも考えられるが、いずれの場合もFibroblastを培養した系に高いcountがみられることは、この患者については細胞性免疫が一役かっていることを示唆すると思われる。
《梅田報告》
4年も前に培養を開始したラット肝由来上皮性細胞のクローンについて、株化したと思われてから一時Aflatoxin
B、DAB処理などを行って変化を観察していたが、はっきりとした変化を生じなかったので報告もせず、ただコントロールの細胞のみ継代を続けていた。ところがこの細胞が形態的に変化を起しているのに気付き、改めて凍結してあった細胞を培養して4NQO処理を行ってみた。はっきりとした悪性転換は認められなかったが、興味ある形態像が出現していた。今回はこの細胞の継代過程を報告し、次回の班会議の折にその実験を報告する。
(1)JAR-2 ♂sucklingの肝をトリプシン・スプラーゼ処理して培養を開始した(1971-4-19)。培地はLE+10%CS。増殖は遅かったが、週に2回培地交新を続け、上皮性の細胞増生が認められるようになった。6ケ月後(1971-11-1)にトリプシン処理して6cm
Falconシャーレに、1,000、300、100、30ケの細胞を夫々接種した。1,000ケ播いたシャーレに、colonial
growthが認められ、(1971-12-13)に3つのcloneを拾い、BA、BB、BCと名付けた。そのうちBAは増生せず、BB、BCが現在残っている細胞である。(以下、夫々図表を呈示)
(2)途中で切れ、凍結保存のものから再培養した所もあるが、約1,000日の間の累積増殖カーブは図の如くなった。5代目毎にプロットしてある。BBの13代目、BCの15代目迄は、LE+10〜20%CSで培養していた。この頃の増殖は非常に悪く、0.5〜2ケ月に1回継代する状態が続いた。丁度400日前後で、培地をF12+10%CSに切り替えた所、増殖はずっと良くなり、更に200日を過ぎた頃よりは両クローン共ずっと旺盛に細胞が増生するようになった。
(3)この2コのクローンをタンザク培養してHE染色を行った。BBの4代目のものは大小不整の細胞から成っており、上皮性を示す。細胞質はエオジンに淡染しているものが多いが好エオジン色をとる細胞、顆粒状エオジン好性物質を入れる細胞が散在している。核も大小不整、類円〜楕円形で、核小体は円形1〜数ケある。BB
16代の細胞では核小体がより不整形となり、また、培養日数を経たもので細胞変性像の出現していることが特徴的であった。すなわち細胞が密に増生している部の一部の細胞がはがれ、残った細胞はpyknoticの像を呈している。BB
84代目のものは、核クロマチン凝集がより明らかとなり、核小体は不整形で大き目、細胞質は好エオジン色をとる。培養日数を経ると細胞密集増生像がはっきりとなり、さらにそのような部より細胞がはがれ去ってcell
sheetに穴があいたようになる。そのような部に残っている細胞は核膜が明瞭になり、pyknotic
cellの状態になっている。一部細胞同志が凝集している所もある。
(4)BCの20代目の細胞形態は、BBより大き目の細胞で、上皮様配列をとり、密生した細胞は互いに接着して石垣状になる。核もBBより大き目で、大小不整であり、類楕円形を呈し、核質はクロマチン小凝塊が多数認められ、核小体は小さ目で、クロマチン凝塊と区別し難い位のものが数ケある。
BC 87代目のものでは核小体はやや大きくなり、核クロマチン凝集はより著明になった感じを与える。培養日数を長くしたものは細胞が重なり合う所が増しているが、BBの様に変性し、はがれ去るようなことはない。
(5)BB 17代目の時およびBC 21代目の時の増殖カーブは図に示す如くである。BBではlagが著明で、log
phaseの時のdoubling timeは約24時間である。BCの増殖カーブはよりスムーズに増生し、doubling
timeは約31時間と計算される。
(6)plating efficiencyは表に示す如くで、BBの39、35%よりBCの55%とBCの方が高い。BBはコロニーは小さく11日培養で1mm径位であるが、BCは大き目のコロニー(1〜2mm径)を形成する。両者共にコロニー中心部のpiling
up等の変化は認められなかった。
特にBBについては培養80代頃に悪性転換を起している可能性を考えagar
plate cultureを行ってコロニー形成をみたが、コロニーは一つも形成されなかった。
《乾報告》
先月の月報で梅田先生が亜硝酸ナトリュウムによる培養細胞での非常にみごとな突然変異誘導を書いておられましたので、我々も数年来やって一部は発表済ですが、亜硝酸ソーダによる、ハムスター細胞のTransformationの仕事を小括しておきたいと思います。
“亜硝酸ソーダによるハムスター繊維芽細胞のTransformation";
亜硝酸は御承知の様1930年代からバクテリアに対して強い変異性を示す突然変異剤であり、広く自然界に存在すると共に、各種食品に含まれている物質である。高等生物に対する癌原性、突然変異誘導性は早くから予想されていたにもかかはらず現在迄、我々のDataを除いては、その癌原性は明らかでない。本号では報告は亜硝酸ソーダ(NaNO2)を培養ハムスター細胞に作用し、細胞のMalignant
Transformationをみたので、それを報告し二三の問題点についてふれたい。
実験には、生後24〜48時間のゴールデンハムスター新生児の肺、背部皮下組織由来の繊維芽細胞をMacCoys
5A培地に20%FCS(v/v)で培養し、培養2〜3代のものを使用した。
NaNO2は細胞1〜10万個のFlaskに50mM、100mM、24時間作用し、Hanks液で洗滌後、正常培地で培養を継続した。対照は未処理細胞を実験区と同一条件で培養を継続した。
その結果表に示すごとく(表を呈示)、NaNO2処理群では、一例をのぞき処理後20〜60日でMorphological
Transformationを示し、そのうち2例で更に培養を継続した細胞(200万個/Hamster)を、成熟ハムスターチークポウチに移植すると、腫瘍形成が認められた。一方未処理対照群では、培養後30日以上で増殖速度の低下がみられ多くの群で100日前後で死滅する(図を呈示)。対照群中2例では、細胞が生き残ってSpontaneous
Transformationがみられたが、いずれもNaNO2処理群のTransformationに比して、約10週以上以後であった。
(表を呈示)表2に、Transformeした細胞のコロニー形成率を示した。変異細胞を200ケ播種した時のコロニー形成は1.5%であったが、対照細胞は1000ケ播種してもコロニー形成は認められなかった。現在軟寒天中でのコロニー形成能について、同様な細胞を使用して検索中である。6月の培養学会には何らかの知見を発表出来ると思っている。
以上NaNO2をハムスター細胞に作用して細胞のMalignant
Transfomationを観察した。多量のNaNO2とメデュウム中のアミンと反応して、ニトロサミン形成の問題の定量分析の結果0.1μg/ml以上のDMN、DENが存在しないことをたしかめた。
《野瀬報告》
JTC-16クローンの腫瘍性とAlkaline Phosphatase活性
以前にCHO-K1由来のAlkaline Phosphatase(ALP)活性変異株(高ALP活性)が、原株CHO-K1と比較して腫瘍性の低下していることを報告した(月報7410)。ALP-活性の上昇と腫瘍性の低下との間にどんな相関があるかわからないが、他の株細胞でも同じような関係が見られるかどうか検討した。
AH-7974由来のJTC-16からALP-1活性の異なるクローンをいくつか分離した。(図表を呈示)表1に示すようにClones1、13は活性が高く、Clones
8、9は低い。これらの各クローンの細胞をそれぞれ12万個ずつ、new
born rats(JAR-2、9-day-old)の腹腔内に接種した。その後のratの運命を観察した結果が図1である。ALP-活性の高いClones1、13を接種したラッテの各1匹が15、21日目に死んでいるのは、腫瘍以外の原因で死んだと思われる。接種後80日目までの観察では、むしろALP-活性の高いクローンの方が腫瘍性が高いように見える。しかし、その差はCHO-K1とその亜株で見られた程明確でなく、上の相関とは特種な例と考えられる。
《久米川報告》
ラット肝細胞(RLC株)の酵素活性
勝田研で樹立された多数の肝由来の細胞株の内から5種類のRLC細胞を選び、その酵素活性を測定、肝の生体内特性を維持しているかどうかを検討した。結果を表示すると次の通りである(表を呈示)。
pyruvate kinase、G-6-Pdehydrogenaseは若い動物由来の細胞ほど高い活性を示し、生後のものは非常に低い値を示した。一般にPK、G-6-PDHは増殖が盛んな組織において高い活性を示すことが知られている。肝臓においても胎児期には成体肝の2〜3倍の値を示す。したがって胎児期ラット由来細胞は盛んに増殖しているものと考えられる。しかし、成体肝のmarker酵素であるglucokinase活性は非常に低く(成体の1/8〜1/20)、またcatalase活性も成体肝の1/10程度である。したがってこれらの結果からはRLC細胞は、すべて肝の特性を維持していないものと考えられる。
《加藤報告》
発ガンの問題は発生生物学を考究する者にとって極めて基本的な重要な問題を提起する。我々の研究室では、(1)胚発生における細胞:組織間の相互作用の解析、(2)胚発生及び関連領域における細胞周期の統御の解析、及び(3)in
vitro及びin vivoにおける分化形質の発現、保持、消失の機構の生化学的解析を主要なテーマにしている。このうち、本研究班においては、上記テーマに関連して細胞培養系を用いて胚細胞の正常分化、化生及び発ガンの問題を発生生物学的観点から進めたい。出発点の材料として、培養系に於けるニワトリ胚軟骨細胞の正常発生をとりたい。
[研究テーマ]
軟骨細胞の細胞培養系を用いて正常及び異状の分化を解析する。
1.ニワトリ胚の軟骨細胞の浮遊培養系の確立
軟骨細胞の分化過程を生化学的見地から解析するためには、軟骨細胞(ニワトリ胚胸骨)を浮遊培養系が適当と思われるので、この培養系確立を第一の目的としたい。現在までに当研究室の安本茂・山形達也両君により、かなりの程度の成功を収めている。尚、其の他の細胞培養の系も合せて試みている。
2.細胞培養下の軟骨細胞のstability及びinstabilityの解析
細胞の分化形質の恒常性の問題、特にその原因の解明はガン化の問題に深く係り合っていると思われる。我々は、軟骨の生化学的、細胞学的なマーカーを用いてこの問題を考えてみたい。
3.Chinese Hamster胚の軟骨細胞を用いての染色体の解析
国立遺伝研の吉田俊秀氏の御厚意により分けて頂いたチャイニーズ・ハムスターのコロニーの樹立を一応終えたので、染色体解析の容易なこの種の軟骨細胞の培養系の樹立を前提とし、その上で染色体の変化(banding等)を化生(例えばビタミンAによる)ガン化の過程で調べてみたい。
以上は軟骨細胞の培養系についてであるが、其の他2〜3の発生系を用いての実験を考慮中である。