【勝田班月報・7508】
《勝田報告》
 ラッテ肝細胞の培養内DEN処理:
1974-10-20、F31のJAR-2ラッテ(生后14日♀)の肝を培養し、RLC-23系と命名した。約1月後、1974-11-15にDENを50μg、100μgの2種に添加し、1週間放置した。この培養細胞の染色体数を1975-3-17(培養開始から5ケ月、処理から4ケ月)にしらべた結果が次の図である(図を呈示)。
 100μgDENの群ではモードが40本にずれている。この様子ではもっと早い時期に、変化をcheckし発見できるかも知れないことを示唆している。無処理と50μgの群では、ほぼ正2倍体であったのに対し、100μgの群は小さなmetacentricの減少の傾向が見られた。

《梅田報告》
(1)前回の班会議(月報7507)では、3T3様継代により得られた株細胞についての定量的発癌実験の試みを報告したが、株細胞にならなくても培養数代目のマウス、或はハムスター細胞を用いた定量的試験管内発癌実験の試みは、月報7410、7502ですでに報告した。すなわち、培養数代目の胎児細胞を6cm径のシャーレに播き(1〜5万個cells/dish)、1日後発癌剤処理を行い、以後1週に2回培地交新を行って、4〜6週間培養し、生ずる悪性形態細胞増殖巣(Re-znikoffの分類でType2或はType3)を調べる方法である。
 (2)これまでの結果ではマウス・ハムスター胎児躯幹由来細胞培養により数代目の細胞で、DMBA、4NQO処理により径1cmに及ぶ大きな悪性形態細胞増殖巣(Type2及び3)の出現が認められたが、率は低かった。
 そこで月報7502に記してあるように、新生児肺の培養細胞を用いて実験を行った。結果は悪性形態細胞増殖巣の出現は認められたが、その発生頻度は胎児躯幹由来細胞の時より増加していなかった。しかも、コントロールに赤染するnet work(肺細胞の分泌する何か、matrix様のもの)が生じ判定に煩雑さを伴っていた。
 (3)今回は肺細胞を用いてみたと同じ目的の悪性化し易い単一な細胞群が得られればとの思惑で、腎細胞を用いてみた。用いた腎はDDDマウス9週齢のものと、シリアンハムスター新生児の腎である。特に皮質髄質とは分けずにtrypsin処理により細胞培養を始めた。 (表を呈示)表のExp.1(DDDマウス 2代目)では4NQO処理で悪性形態増殖巣が得られている。コントロールのものは、type1にとっても良さそうなものであった。DMBA処理はExp.1及びExp.2(DDDマウス3代目)共に障害が強く、生き残った細胞がcolonialに増殖している程度であった。Exp.2での4NQO処理は障害が弱すぎたようであった。Exp.3(DDDマウス5代)でDMBA処理ではっきりとしたtype2、3の細胞増殖巣が認められたが、シャーレあたりにするとやはり、1〜2ケ程度であった。すなわち特に腎培養細胞で悪性転換率が高いわけではなかった。4NQO処理ではこの実験でもtype2の細胞増殖巣は出現していたが、はっきりとしたtype3は出現しておらず、この腎培養細胞は継代中に抵抗性を獲得した或は4NQOに対する感受性の低下を来たしたような印象を与えた。
 ハムスターで行った実験はコントロールを含めて細胞増生が悪く、DMBA、4NQO処理によっても悪性形態細胞増殖巣は見出されなかった。

《乾報告》
 2-アセチルフローレン経胎盤投与による染色体変異
前回の班会議で妊娠ハムスターに経胎盤的に2FAA 20mg/kgを投与し、胎児を摘出培養を行ない胎児繊維芽細胞で、培養後、2、4、6代目に変異コロニーが出現する事、培養開始後48時間目の細胞で8-アザグアニン、6-チオグアニン耐性コロニーが出現することを報告した。
前回迄の報告で経胎盤In vivo-in vitro Chemical Carcinogenesisの手法が芳香族炭化水素、ニトロソ化合物、芳香族アミン等、広範な癌原性物質の試験管内癌化に応用できることがわかり、癌原性物質の第一次スクリーニングは完了したと考える。
 本号の報告では、2FAA投与24時間目に培養した細胞の第一回目の分裂の染色体観察を行なったので報告したい。
 (図を呈示)図に示した如く、染色体数の変異に極めて少なく、正常の核型を示す細胞のモードは79%であった。この結果先に報告した、4NQO、MNU投与の場合と明らかな相違を示した。観察に供した全細胞における異常染色体をもつ細胞の出現頻度、異常染色体の出現を表に示した(表を呈示)。
 表で明らかな如く、2FAA投与により、著明な変異コロニーの出現、1/100万個レベルの耐性突然変異コロニーが観察されたにもかかはらず、異常染色体の出現は極めて低く、対照のHanks投与の2〜3倍であった。加えて2FAA直接投与においては、細胞の染色体異常は観察されない。以上の結果より、癌原性炭化水素、ニトロソ化合物の如く、肝ミクロゾーム分劃(S-9フラクション)で活性化される物質と、DAB、アセチルアミノフローレンの如く、主としてβ-guluconidaseが活性化に関与している物質の間に癌化の機序に相違があることが考えられる。
今後しばらく時間をいただいて、Transplacental in vivo-in vitro chemical carcino-genesisno手法を使用し、癌化の機序の解析的仕事に、はいって行きたいと思います。

《野瀬報告》
 初代ラッテ肝細胞のDNA合成能
 前回の班会議で、collagenase潅流法によるラッテ肝細胞の分離について述べたが、今回は文理した肝細胞のDNA合成について検討した。肝実質細胞はin vivoでもほとんど細胞分裂をせず、collagenaseで分離してin vitroで培養してもDNA合成速度は非常に低いと言われている。しかし、再生肝での急激な細胞分裂の開始や、Dispase処理で肝細胞を培養して増殖する上皮細胞がとれるという事実から考えて、何らかの処理で分離した肝細胞が分裂できるようになるのではないかと思われる。そこで、collagenase潅流によって得た肝機能のある実質細胞のDNA合成について検討した。
 in vivoの肝では、部分肝切除をしなくても、cyclic AMP、glucagon、triiodothyronineを静注するとDNA合成が開始すると言われているので、これらの薬物のin vitroでの作用を見たのが図1である(図を呈示)。collagenaseで分散した3-month-oldラッテ肝細胞をDM-153+20%FCSで2日間培養し、シャーレに細胞が付着してからH3-thymidineの取込み実験を開始した。各種薬物は、培養0日から加えた。dibutyryl cAMP+triiodothyronine、およびdibu-tyryl cGMPは試みた濃度ではいずれも培養肝細胞にtoxicで、H3-thymidineの取り込みも阻害した。未処理の細胞は若干DNA合成能を持っているようであるが、この合成能は株細胞とくらべると1/10以下である。
 次に部分肝切除の効果を見たのが図2である。肝臓の約1/4を切除し2日後にcollagenaseで肝の潅流を行ない肝細胞を培養し、2日後にH3-TdRを加えDNA合成を比較した。正常肝とくらべ特にDNA合成が上昇してはいない。しかし、切除した肝が少なすぎたようで、また切除後の時間も2日というのは遅すぎたのかも知れない。今後は更に薬剤の濃度、肝切除の方法などを検討し、機能の変化と共にDNA合成能を調べてみたい。

《高木報告》
 DMAE-4HAQO注射ラットに生じた腫瘍
 2年前DMAE-4HAQOを注射して生残った最後の一頭のSDラットにつき、前進状況が悪く腹水貯溜の感があったので剖検した。腹水約5mlが認められ、また膵体部に暗赤色の球状の、あるいは索状の腫瘤があった。肝には著変はなかったが、両肺下葉に大きな腫瘤を認めた。膵の腫瘍の組織学的所見は写真に示す(写真を呈示)通りで、細胞の異型性がきわめてつよく、癌と考えられた。膵の腫瘍以外の部分の組織像では繊維化がつよく認められた。なおこのラットは屠殺時血糖値は特に低値を示さなかった。DMAE-4HAQOの注射では腺腫を生ずるが癌を生ずる報告はなく、これが薬剤によるものとすれば興味深い。
 なお、腹水はあつめて遠沈し、これをDM-153と1640培地で、60mm Petri dishに培養したが、はじめは球形の浮遊細胞が目立ったが、現在(1ケ月を経た)では繊維芽細胞とその上に乗ったような星芒状の顆粒を多く有する細胞、それと先述の浮遊細胞の3種類が混在しており、増殖は差程よくない。浮遊した細胞だけを培養しても増殖せず、4〜5日で死滅してしまう。腫瘍そのものの培養を行ったが、増殖は不良である。これが薬剤により生じた癌とすれば、in vitroでの実験も可能性がある訳であり、さらに追試の予定である。組織学的にさらに検索中である。

《山田報告》
 JTC-16(AH7974)株の超微形態をしらべましたが、今回は固定が悪くて細胞変性のため充分観察出来ませんでした。しかし40〜50枚焼付けした写真のうちから、その特徴を求めた所、この株は表面の構造が複雑で入りこみが不規則であること、及びRibosomal RNAの増加したE.R.がかなりあり、ミトコンドリアが少いのが特徴でした。次回はこれまでの所見をまとめます。(写真を呈示)グリコーゲン顆粒は小さく凝集は殆んどみられない。細胞表面の凹凸は著しく、不規則。核小体は大きく、ミトコンドリアは必ずしも多くない。多数のE.R.が見え、その周囲にdenseなribosomeがみえる。この様にはっきりとしたribosomeは他のラット肝細胞株に見られない。

《難波報告》
 17:ヒト細胞の化学発癌剤による発癌実験に対する基礎的事項の検討−
   BP処理後におけるDNA修復合成の検討について−
 正常ヒト細胞の癌化に有効な化学発癌剤を選び出すために、(1)細胞障害性(2)クロモゾームの変化(3)DNAの修復合成など検討の結果、4NQOが最も有効であることをしばしば報告して来た。
 DNA-修復合成の程度をみる実験で、4NQOの場合は、4NQO 1/2hr処理→H3-TdR 1/2hrで十分であったが、BPの場合これと同じ条件でDNA-修復合成がみられるとは限らないので、BP処理とH3-TdR処理との条件を決定する必要がある。そのためには、BPで確実に発癌すると思われる細胞を使用してDNA-修復合成の見い出される実験条件を設定しなければならない。その目的で、C3H/10T1/2細胞とBPとの組み合せでDNA修復合成を検討した。
 Exp.1 従来の4NQOと同じ実験条件で行なった。すなわち、Cells seeded Hydroxyurea-medium(200μg/ml)1/2hr→BP 1/2hr→H3TdR 1/2hr→countでは、BPの短時間処理でDNA修復合成はみられなかった。(以下夫々表を呈示)。
 Exp.2 Exp.1では細胞をトリプシンでバラバラにしてすぐ実験を開始したので、細胞膜の障害であるかも知れない。そこで次のように実験をした。Cells seeded 24hr→HU-medium 1/2hr→BP 1/2hr→H3Tdr 1/2hr。結果は10-7乗Mのとき、ややDNAの修復合成がおこっているようであるが、4NQOの場合に比べそれほど著明でない。
 Exp.3 BP前処理によるDNA修復合成の誘導
Cells seeded in 10-6乗M BP medium 2days→HU-medium 1/2hr→BP1/2hr→H3-TdR 1/2hr。この場合2日後の細胞数は、対照群:16.5万個Cells/tubes 100%、10-6乗MBP:11.9万個Cells/tube 72%。BP処理のものが約70%低下しており、同時にcpmも70%ほど低下していて、有意なDNA合成はおこっていない。10-6乗M BP 2日では細胞障害が強いのかも知れない。
 Exp.4 BP前処理によるDNA修復合成の誘導
Cells seeded in 10-7乗M BP medium 2daysで同様の実験の細胞数は、コントロール群は34.4万個/tube、10-7乗M BP群は33.7万個/tubeであった。
 以上の結果から、10-7乗M 2日処理でDNA修復合成の誘導がおこっているのかも知れない。RepairがBPの場合はゆっくり進行している可能性があるので、今后H3-TdRの処理時間を長くして検討したい。DNA-Repairと発癌との関係は現在まだはっきりしないが、10T1/2とBPとでDNA-Repairのおこっていることを確認する実験条件が分れば、その方法でヒトの細胞を検討したいと考えている。
 18:BPのC3H10T1/2細胞に及ぼす細胞障害性及びクロモゾームの変化
 ヒトの細胞にはBPは細胞障害やクロモゾームの変化を示さぬことを月報7412に報告した。C3H101/2では細胞障害は(図を呈示)図のごとく著しく、染色体の変化も、3.3x10-6乗M BP2日処理で観察した細胞の30〜40%に、異常な染色体(Breaks、Gaps、Translocations、etc)を持つ細胞が認められた。
 以上の事実はヒト細胞とマウス細胞とでは、BPに対する反応性が相当異なることを示している。

《堀川報告》
 7月は五島列島の荒川で放射線晩発性障害研究会が開催されたり、また、琵琶湖、堅田で放射線生物若手研究会の世話をしたりで、殆ど教室に居る時間がなく、データを整理することが出来なかった。それ故詳細は次号で報告するとして、今回はこれまでの結果を予報的に報告するにとどめる。
 さて、私共のmutation assayの4つのsystemのうち、最も鋭敏な検出系である栄養非要求株Prototroph(Ala+、Asp+、Pro+、Asn+、Hyp+)を使って食品添加剤として従来使用されてきたAF-2;(2-(2-furyl)-3-(5-nitro-2-furyl)acrylic acid amideの、mutagenicityをtestした結果、以前にも報告したようにUVやX線に比べて変異誘発能は弱いという結果を得ていた。これはAF-2をDMSOに溶かした後、15lbs(120℃)、20分間オートクレーブで滅菌したものをmediumに加え、細胞を2時間処理した場合の結果であった。今回はDMSOに溶かしたAF-2を、オートクレーブ滅菌なしで直接mediumに加えて細胞を同様に2時間処理した際のmutageni-cityを調べた。すると、従来の結果に比べて出るわ出るわ、はるかに強力なmutagenicityをもつことがわかった。これは従来熱に比較的安定とみなされていたAF-2も、熱によってまったく異ったproductをつくることを意味するものと思われる。
 さて、もう一つの問題として、mutation assay法として鋭敏なこのsystemを使うと、低線量放射線照射による誘発突然変異を検出出来るかという我々の研究分野の課題を満足してくれるかどうかを調べるため、100R以下のX線照射をした場合の突然変異の誘発を、このsystemで調べた。
 結果はnegativeで、いかに鋭敏なmutationの検出系とはいえ、100R以下のX線を照射した際の誘発突然変異を検出することは出来なかった。

編集後記


 Click [X] after reading.