【勝田班月報・7601】
《勝田報告》
§合成培地の新しい処方:
当研究室の合成培地はこれまでアミノ酸組成が19種で、アスパラギンが含まれていない。そこでアスパラギンの要求性をしらべてみた。ここに示すのは2種の細胞株である。
a)無蛋白完全合成培地内継代株JTC-25・P3(ラッテ肝)の増殖に対する影響(表を呈示):この場合は図のようにアスパラギンの有無は増殖に影響がなかった。Aspの要求もない。
b)結成培地継代株RLC-10(2)(ラッテ肝細胞)の増殖に対するアスパリギンの影響:
この細胞は図のように(図を呈示)、アスパラギン酸を要求しているが、そこにさらにアスパラギンを添加すると、明らかに増殖率が高くなった。培地は継代培地で1日間培養した後、実験培地にきりかえた。
DM-160の処方はDM-153にアスパラギンを25mg/lに加えたもので、割に万能的と思われるので、当研究室では今後当分DM-160をroutine
workに使って行きたいと思っている。なおこの培地は近い内に極東製薬から市販される予定になっている。
《難波報告》
24:ラット肝細胞(RLC-18)のコロニーの解析
月報7512にRLC-18のクローニング及び、そのクローン化した細胞について述べた。その中でこのRLC-18中には少なくとも2種類の細胞即ち、(1)小型の円形ないし正方形の細胞で、核/細胞質比は小さくギムザによく染り旺盛な増殖を示し、細胞のぎっしりしまった辺縁のシャープなコンパクトなコロニーを形成し、肝小葉状のパターンを示すようになるもの、1型(仮称)。(2)大型の細胞で一見上皮様である。核/細胞質比は大きく豊かな細胞質はギムザで淡く染まり、増殖はあまりよくなく、肝小葉状のパターン形成を示さぬもの−網内系の細胞か? 2型(仮称)(写真を呈示)。の2種類の細胞が混在する可能性があると記した。今回はRLC-18のmother
cultureの中でどの様な割合で(1)(2)が含まれるか、クローニングしていないRLC-18をシャーレにまいて11日間培養後、ギムザ染色し、生じたコロニーを全部顕微鏡下で調べて以下のデータを得た(表を呈示)。
表に示すように、RLC-18中にはほとんど(1)型の細胞よりなるコロニーが含まれるが、しかし、2型の細胞も5%程度含まれている。繊維芽細胞よりなるコロニーは全くみられなかった。(1)型の細胞と(2)型の細胞とが(1)→←(2)型のゆに相互に変換するのか、あるいは全く別々の細胞がRLC-18の中に存在するのか今後検討したい。
◇本年の希望
(1)今年こそはヒトの細胞の確実な培養内発癌系を確立したいと思っています。
(2)それに、非常な困難が予想されますけれども、ヒトの正常な上皮系の細胞株の樹立も努力したいと思います。
(3)また、ヒト細胞での癌化が現在の培養条件で何故困難なのか、ヒト細胞のAgingの現象を考えながら、その原因を追求したいと思っています。この原因の解明は裏をかえせば、ヒト細胞の発癌機構の解明にアプローチできるのではないかと考えています。
《堀川報告》
さて、まず最初に先月号で報告出来なかった一部の実験結果について報告します。
私共は、UV照射により細胞内DNA中に誘起されたTTの少なくとも50%までは除去修復可能なヒト由来HeLaS3細胞の同調細胞集団を用いて、細胞周期を通じてのX線、UVおよび4NQO(4-HAQO)によるDNA損傷の修復能の違いとか、さらにはこれら各種物理化学的要因の処理により誘発される(8-azaguanine抵抗性の獲得でみた)突然変異率の違いを調べてきたが、これらのことをTTの除去修復能が極度に低下しているマウスL細胞について調べることにした。こうした実験は細胞の有するDNA損傷修復能の違いが、前述の各種物理化学的要因で処理した際にみられる周期的感受性曲線の違い、されには同期的突然変異誘発率曲線の違いとして現れるかどうかを検討するためのものである。
同調細胞集団はHeLaS3の場合と同様に0.025μg/ml
Colcemidで6時間L細胞を処理したのち、M期の細胞を採集法で集めるという方法を用いた。このようにして得られた細胞集団が何らの障害なくcell
progressionすることは図1のHeLaS3細胞と比較した細胞動態の解析結果(DNA合成、細胞数、Mitotic
index等の同期的変化)からもよくわかる。ただHeLaS3細胞に比べてL細胞の場合はColcemidによるM期でのblockが弱いようで、Colcemidを除き、正常培地に移したM期の細胞は直ちにG1期に移行してしまう。そのため図1でわかるようにL細胞においては採集直後の0時において、Mitotic
indexが非常に低く、細胞数の増加もみかけ上見られない。この点を確認するためColcemidを含んだ培地のままで採集法により細胞集団を集め、Mitotic
indexを求めた結果が図1の挿入図であるが、これよりL細胞の場合もHeLaS3細胞の場合と同様、Colcemid-採集法によって得られる細胞集団のMitotic
indexはほぼ90%もあることがわかる。
さて、この同調法によって得られた細胞集団を使って、X線、UV、4-HAQOに対する周期的感受性曲線を調べた結果が図2である。図3のHeLaS3細胞でも結果と比べて傾向的にはよく類似しているが細部において異るようである。特にL細胞の場合、M期においてUVと4-HAQOに対して抵抗性を示すのが特徴的である。現在、こうした周期的感受性曲線を生じさせるL細胞内の要因の解析、細胞周期を通じての突然変異誘発率の違い等の解析を進めている。
[今年の抱負]
細胞のもつ損傷修復能と突然変異誘発ひいては細胞癌化の関連性を把握することが従来のわれわれの大きな目的であった。幸い、上述のようにヒト由来HeLaS3細胞とマウス由来L細胞を用いて細胞周期を通じての解析も着実に進んでいるので、今年こそは損傷修復能と細胞癌化の関連性を追究する方向に仕事を進めたい。梅田班員より細胞も譲渡されるようになっており、現在その受け入れ準備中である。(図を呈示)
《高木報告》
昨年一年をふり返ってみますと、膵の培養ではいささかの進展はあったものの未だしの感深く反省しております。今年は辰年でもあり頑張らねばならないと考えています。
この5月には丁度10年ぶりに博多で組織培養研究会が開催されることとなりましたが、よろしく御願いいたします。
本年度の研究プロジェクトも昨年と変るところはありませんが、次の様に考えています。 1.膵ラ氏島細胞の培養とその“がん"化の試み
1)ラ氏島細胞の分裂促進物質について
高濃度ブドウ糖がB細胞の分裂促進作用があると云う1、2の報告はある。一般に内分泌腺細胞では、そのホルモンの分泌促進物質が細胞の分裂を促進することも想定されるが、詳細は判っていない。radioautographyを応用し、発癌剤を含めた諸物質の分裂促進作用を検討する。さらに培養条件と併せて株細胞の樹立につとめる。
2)ラ氏島細胞の培養形態について
用いる動物の年齢、細胞の分散法および培養条件などの違いにより、ラ氏島細胞はsheetを形成したり細胞集塊を形成したりする。この培養細胞の形態と機能との間には関連がある。形態に影響する因子につき追究したい。
3)ラ氏島細胞に対する発“がん"剤について
DMAE-4HAQOにつき再度in vivoの実験を行ない、生じた腫瘍をATS処理動物、またはヌードマウスに移植し、それの再培養を試みて正常ラ氏島培養細胞と比較検討したい。
StreptozotocinとNicotinamideとの組合せについても考えてみたい。
2.培養細胞の可移植性と免疫抗原性の解析
発癌過程の細胞を移植した際の、宿主の免疫動態の変化をcheckしうるin
vitroの実験系を見出すべく努力する。まず株細胞を用いた地道な基礎実験から行ってみたい。
《梅田報告》
昨年度を振り返り、本年度の仕事の方向を概観してみますと、先ず定量的発癌実験の試みではデータの出るのに時間がかかることもあり、昨年度は細胞の選択の問題で、また正常細胞の株化のむずかしさなどで大きな発展をみませんでした。暮になって、DDDマウス胎児細胞より樹立した株細胞の1クローンが接触阻害を良く示すことがわかったので、本年度はこの細胞株のクローンを使っての仕事の発展を期待しています。
突然変異の仕事は発癌実験よりデータが早く出ることもあり、昨年度は数多くの物質でテストしてきました。また物質の代謝活性化を実験系に持ち込むことが出来たのは成功でした。ここでえられる諸々の結果が培養内発癌実験の基礎知識となることを目標にして今後もデータの蓄積に心がけるつもりです。
肝細胞培養の方は発癌実験に使うためには今迄取っ掛かりが少なかったのですが、DL1と名付けた細胞がaflatoxinB1に高い感受性を示したことは、今後の一つの研究手段になることを示し、面白い展開が望めると思っています。直接発癌実験とは関係ないのですが、上皮細胞が本当に繊維を作るかどうか、これは皆様の御協力を得て証明していきたいと考えています。
《山田報告》
学会その他で大忙しの1975年でしたが。班研究そのものについては、昨年中それ程に前進出来ずに終ったことを反省して居ます。加えて初めて病理学の講義、実習を担当しましたので、その準備もあり、その点でも研究の時間が少くなってしまいました。
今年は、教育の方もだいたい軌道が敷かれましたので、細胞電気泳動法を主として用い、癌細胞表面の検索を続けたいと思って居ります。特に今年のテーマは、Muntjakの細胞の染色体変化と、その細胞表面の変化との相関をしらべてみたいと思っています。
《乾報告》
私は、一昨年、昨年は研究生活を送るのに極めて不利な立場に心ならずもおかされました。新年を迎えて今年こそは研究が本命である場を得たいと心から思っております。
それと共に年頭に当たり一つの決心を致しましたので、皆様にお聞き頂き、又多くの先生方の御助力をおねがい致します。私、1974、1975年の年号のついた論文がありません、(Dataはあるのですが)。
今年は研究所内で、どの様な問題がおこりましても英文の論文を書き発表致すつもりですので、皆様の御協力を切におねがい致します。
今年の年頭にあたっての実験の計画ですが、やっと純系のハムスターの繁殖が順調になりましたので、1)DMN、2FAA、BP、MNNG、MNUr等を使用して、Transplacental
ApplycationのSystemで、a)移植出来るTransformationの系を作る。b)動物での標的臓器と培養内での標的との関係の開明。c)又同系におけるCarcinogenesis、Mutagenesis、Teratogenesisの関係を研究したいと思っております。
当所にいる以上、検定の間にどれだけ仕事が出来るかが心配です。
《野瀬報告》
昨年暮には英国行きのfellowshipの面接などが何度もあり、落着かない状態でしたが、British
CouncilのScholarshipが内定したので今年はJ.Paulの研究室に行けそうです。今までの仕事を整理し、更に発展できるよう頑張りたいと思っております。仕事はこれまでの続きで、(1)培養肝細胞の生化学的形質。(2)肝細胞の増殖の調節。の2つを主体にする、つもりです。
培養肝細胞は、Collagenase-潅流、Dispase-潅流で得た初代培養、および株化した細胞を用いて各種の機能を見ています。I125-アルブミンを使ったradioimmunoassayで、Colla-genase-潅流でとった初代肝細胞は、細胞タンパク当り1mg当り4〜6μg/24hrのアルブミンを培地に分泌し、bilirubinの抱合、Tyrosine
aminotransferase(TAT)誘導などの機能を持っています。Dispase潅流法でも、収率は比較的低いのですが、形態的、TAT誘導性などの点でCollagenaseで得た細胞と良く似ています。この細胞は、長期間dexamethason存在下で培養すると再現性よく上皮様細胞の状態で増殖し、Collagenaseの場合と違うので、増殖する細胞で機能を見たいと思います。株化した肝細胞と初代の“parenchymal
cell"との相関も大きな問題です。
上皮様細胞のgrowth regulationは、センイ芽細胞と比較して似ている点と異なっている点がありそうなので、もう少しはっきりさせたいと思います。各種の株化した肝細胞の間でも、confluentになって培地交換した後のuridine、thymidineのとりこみに違いがあるので、腫瘍性との相関についても検討したいと思います。また、いわゆるconfluentという状態がセンイ芽細胞と上皮様細胞とでは、いくつか異なる点があるようなので、上皮様細胞での基礎実験が大切と思われ、細胞周期のどの時期で止まるのか、また培地交換後の細胞の高分子合成能の変化などを調べてゆく予定です。
《久米川報告》
ラット肝由来細胞(clone BC)の電顕的観察
梅田先生が分離、約50代継代されたラット肝由来細胞(clone
BC)の電顕的観察結果について報告します。この細胞については前回の班会議でふれたが、さらに約10代継代培養されたものである。上皮細胞群を網目状に紡錘形の細胞および銀染色で染る繊維が存在する。これらの繊維がcollagen
fiberであるかどうか、さらに繊維と細胞の関係を明らかにするため、細胞をpetri
dishに植えた状態で固定、脱水後はくりし、ペレット状にして包埋、重合した。前回と同様細胞にはtight
junctionがあり、上皮細胞と思われるが、肝細胞の特性はみられなかった。しかし、細胞の結合部近くには、ほぼ全細胞に陥凹部がみられ、homogeneousまたは繊維状の物質がみとめられた。特に今回は、陥凹部ばかりでなく細胞の表面にもfibrousな物質が認められ、cross
bandをもった明瞭なcollagen fiberが観察された。電顕写真の用意ができなかったため、2月の班会議で詳しくは報告したい。
《永井報告》
不況のためか、新しい年の気分も市井ではいまひとつぱっとしませんが、研究の方はやはり今年一年期するところをもって出発したいと考えております。これまでの御友誼に感謝いたしますと共に、今年も皆様より御教示を賜りたいと念じております。
勝田先生より依頼されております、癌細胞の毒性代謝物質の単離と構造決定の仕事は、仲々思うようには進んでおらず、これを今年こそは“もの"にしたいものと思います。勝田先生の医科研での活動もあと残すところ2年程ですので、時間一杯というところ。
toxohormoneの仕事が難破してしまっていることを思うと、こうした問題に内在する容易ならぬものの姿を感ずる時もありますが、ここは是非突破してゆきたいと、また意気五味を新たにしている次第です。
《佐藤報告》
昨年に引き続き、今年も又DAB癌化実験を進める予定ですが、特に考慮したい点について、1、2略記して見ました。
1)DABそれ自体で、単一の細胞系(クローン)を癌化させることができるかどうか?
DABの標的細胞が判明していない現在、クローン系を適当に決めてしまう事の是非はあるが、当面はDABを代謝する能力を指標に細胞種を選択し、又代謝能力の欠如に対し、DABのactivemetaboliteを少し検討し、それらの適用を考えて見たいと思います。
2)in vitroでのDAB癌化は、Diploid cellでは非常に難しく(効率が悪い)、むしろAneu-ploid
cellないしは自然発癌せんとする細胞でなければならないのかどうか?
DABの癌化は長期培養株についての報告が多いが、この場合にはどうしても、DABの効果が細胞のMutationなのか、自然発癌しつつある(した)細胞のSelectionなのか問題が残る。本年は、悪性度増強の問題で以前に使用した事のあるdRLa-74細胞(DAB-feeding
rat liver由来、動物への可移植性、生存日数などに関し、培養過程での変化が比較的小さい)を再登場させ、主にDAB耐性の問題と癌化について考える。次に、Diploid
cellの癌化は困難であるという点に関し、染色体変異などを指標とする限り、やはり有用と思われるので、特に、初期変化に的をしぼり、昨年に引き続き実験を進めて行きたいと考えております。