【勝田班月報・7610】
《勝田報告》
 Tapping Culture:
 新しい浮游培養法“Tapping culture method"を用いて色々な細胞の浮游培養を試みた。その一部を紹介する。
 結果は、1)静置培養で硝子壁への附着性の少ない細胞はTapping culture内での増殖率が高い。2)腹水肝癌系の細胞はいずれも、従来のmagnetic stirrer法よりもtapping法の方が増殖率が高い。3)合成培地内継代株は多くの株が浮游せずに、硝子面に附着して増殖する。血清を添加して培養すると浮游する。硝子壁をsiliconでcoatすると、細胞は浮游するが、増殖しない。4)吉田肉腫細胞は初代培養でもtapping culture内でどんどん増殖する。
 Tapping culture法では細胞障害も少なく(エリスロシン法)、液も泡立ちがすくないので、従来の方法よりも遥かにすぐれている。(増殖曲線図を呈示)
我々はこの方法に“Snoopy Culture"というnick nameを与えた。

《難波報告》
 35:ハムスター肝由来の上皮性細胞の増殖に対するDexamethasoneとInsulinとの効果
 ハムスターの肝細胞の培養株を作るために、12/16/75に生後2日目の♂のハムスターの肝臓をとり、トリプシンで処理して培養を開始した。培地はMEM+10%FCSに4.2x10-6乗Mデキサメサゾン(Dex)を含むものを使用。培養はラット肝細胞の場合と異なり、(写真を呈示)写真に示すように増殖した繊維芽細胞の中に島状に上皮性の細胞が増殖してくる。培養27日、4代目の細胞(繊維芽細胞と上皮細胞との混じたもの)の増殖に対するDex.の効果をみると、4.2x10-5〜4.2x10-7乗Mの濃度で細胞の増殖阻害はみられなかった。培養126日、5代目の細胞をシャーレにまき、継代2日後に上皮性のコロニーを1枚のシャーレあたり8〜10コマークして写真をとり、1枚のシャーレには4.2x10-6乗M Dex.、別のシャーレには4.2x10-6乗M Dex+1u/ml Insulinを加え、週2回同じ培地で液更新を行ない、15日目にマークした。同じコロニーを写真にとり、上皮性コロニーの増大率を検討した。その結果図に示すようにDex.を加えないMEM+10%FCSのみでは、上皮性のコロニーは増殖が非常に悪いことが判った。その後、上皮性のコロニー部分のみを8コ クローンして繊維芽細胞を分離しようと試みた。現在までの成績では上皮細胞のみを分けると、上皮細胞の増殖が非常に悪く、ある程度増殖した後、増殖しなくなり、やがて徐々に死亡してゆく。ハムスターの上皮性細胞の増殖は繊維芽細胞との共存で維持されているように思える。目下上皮性細胞のみの分離と、その増殖可能条件とを検討中である。(写真、図を呈示)

《山田報告》
 RLC系、培養株のtumorgenicity;従来電顕及び細胞電気泳動法及び染色体について調べて来たRLC系培養ラット肝細胞Tumorigenicityについて、しらべて来ました。今回そのうちRLC-18がHost rat JAR-2にI.P.移植後56〜66日目にI.P.に腫瘤を作りました。腹腔内及び腹膜、横隔膜、前腔壁に著明な浸潤性発育を示す癌腫を6/8例に形成しました。他の四系は、現在の所全く腫瘤形成の傾向はみられません(図表を呈示)。
各系の移植後のJAR-2の生存日数と、その使用頭数は図2に示します。腹腔内で増殖した細胞(RLC-18)の電気泳動度を検索したのが図1ですが、その細胞のばらつきの程度はあまり変りませんが表1に示すごとくその平均泳動度はかなり高くなりノイラミニダーゼ感受性はかなり増加しました。腹壁の筋肉内に浸潤した腫瘤をみるとあまり特有な構造を示さない部分もありますが、この写真にみるごとく、多少索状に配列する部分があり、heptocarci-nomaと思います。少なくとも肉腫ではない様です。このRLC-18は樹立後893日(去年の12月頃)の時点で、その染色体がhyperdiploidからhypotriploidへ移動した様ですが、その時点ではmarker chromosomeは出現していません。

《梅田報告》
 ラット肝・腎の初代培養に臓器毒性を示すマイコトキシンを投与した実験の結果を示す。 (1)AflatoxinB1(AFB1)、(-)luteoskyrin(LUT)、sterigmatocystin(STC)は肝発癌性が、証明されている。(AFB1、LUTについては大部前に報告している。) OchratoxinAは肝臓毒であるが発癌性は証明されていない。又腎臓毒でもある。ChaetoglobosinA(CGA)はcytochala-sinsの一種でMicrofilamentの障害が考えられている。Citrinin(CTT)は腎臓毒である。生後4〜5日のラット肝或は腎を0.05〜0.025% collagenase処理して得た細胞を培養した。
 (2)肝培養では増生してくる細胞は肝実質細胞(LPC)、内皮様細胞(ELC)、中間細胞(IMC、これはkupffer細胞と思われる)である。表1に夫々のマイコトキシン投与した際の各細胞の障害度を示した。Dは殆んど障害のないもの、4は細胞が完全に変性剥離したもの、1から3は順次障害の強くなったものを示してある。(以下、夫々表を呈示)
 AFB1、LUT、STCではLPCの障害がELC、IMCのそれよりも強かった。CGA、OTAでは、障害性の差は認められなかった。CITでは内皮様細胞がより強く冒された。
 ここで興味あることは、AFB1、STC投与の際、ELC、IMCの細胞もHeLaとか、次に述べる腎細胞より強く冒されていることである。すなわち、HeLa細胞には3.2μg/ml以上で増殖阻害が認められるようになるのに、肝培養のELCは0.32μg/mlで強い障害を受けている。
(3)腎培養を行なうと各種の上皮細胞が増生してくる。同定は困難であるが、一応形態的に見分けのつく細胞群を3つにわけて観察した。すなわち、上皮性のsheetを作って増生してくる中等大細胞をEpi(1)、このEpi(1)のsheetの中に塊を作って増生してくる小型細胞をEpi(2)、より小さい細胞より成り、中心部は塊を作って盛り上るように増生する細胞群をEpi(3)とした。
 又腎培養では正常の塩類濃度の2倍濃い培地で培養しても残存する細胞があるが、これは形態的にはEpi(1)が主で、一部Epi(2)が生き残るように観察された。
 表2に示すように、AFB1、STCでは細胞間の障害差は無く、しかもこれらマイコトキシンでは肝培養で障害を与えた濃度の10倍以上の3.2μg/mlでも障害を与えていなかった。
 CGAではhypertonic mediumにした時著しく障害性を増していることが興味あった。このことは細胞が外部の高張性に対し当然起る水分の脱失をmicrofilamentの作用で抗していることを示唆している。
 CITでは肝に投与した時にも見られたように、上皮性細胞が(特にEpi(1)が)より障害を受け難いことがわかった。またhypertonic mediumで生き残るEpi(1)(2)と、isotonic mediumでのEpi(1)(2)の障害性を比較すると、hypertonic mediumの方がより障害を受けていた。
 OTAでは上皮細胞が繊維芽細胞よりより強く障害を受けていたが、差は小さく、この程度の差で腎臓毒性が説明されるかどうか疑問であった。

《高木報告》
 培養細胞に対するEMSの効果
 先の月報でものべたEMSを作用っせたSRT細胞(suckling rat胸腺由来)と無処理の対照細胞につき、無処理110日目に100ケの細胞についての染色体数を算定すると図の如くなった(図を呈示)。
 無処理の対照細胞では2倍体の細胞が62%を占め、残りの38%はすべて76〜84本の間の、hypotetraploidであるのに対し、EMS処理細胞では2倍体は35%で、100本以上のpolyploidが30%あり残りの35%は74〜82本の間のhypotetraploidであった。すなわち、処理細胞を対照細胞と比較すると、形態には著明な変化は認められなかったが、増殖率が良く、染色体数のバラツキが大きいことが分った。移植成績についてはATS処理ハムスターcheek pouchに200万個の細胞を接種して観察中である。
 新たにsuckling ratの胸腺よりとった細胞に、EMSを同様に処理して観察をくり返すとともに、cloningした細胞に対する効果をみるべくRFL細胞株(ラット肺由来)と上記の対照のSRT細胞のcloningを試みているが、RFL細胞については数種のcloneがとれた。これは単一細胞より出発したcloneである。染色体数、可移植性を確かめた上で実験に供したい。

《乾報告》
 妊娠ハムスターにAF2経口投与による胎児細胞の突然変異:
 昨年、妊娠ハムスターの腹腔にAF-2を注射し、胎児細胞に染色体異常、8-Azaguanine耐性突然変異、Transformationが起ることを報告しました。
 癌原性化学物質が、人体に作用する経路は、主として経口、或は経呼吸器であるので、AF-2を2〜100mg/kg経口投与し、胎児細胞の突然変異を見ました。
方法は、妊娠11日目に胃ゾンデを使用して、AF-2を投与する他は、前回迄とまったく同様です。
 (以下夫々に表を呈示)表1、2にAF-2投与後、胎児細胞に現われた、8AG、6TG-耐性突然変異を示しました。表で明らかな様に、変異コロニーは、投与量に依存して出現しました。2mg/kgで変異誘導がみられることは、日本人が過去10年間、1mg/day/Man平均AF-2を摂取していたことと考え合わせると、約1日量の1/51回で胎児細胞に異常がおきております。
 表3に、絶食後のハムスターに同様AF-2を経口投与した後に出現した変異コロニー数を示しました。表で明らかの様に突然変異コロニーの出現は絶食により急激に減じます。
 この結果は、胃中のpHの変化でAF-2が活性を失なうのか、又低pHで活性化酵素の活性が落ちるか、又は胃中バクテリヤの活動に関係しているか、今の所わかりませんが、日本人が長期AF-2を使用していただけに、今後AF-2に関する代謝の研究は必要と思われます。
同時に異常染色体の出現もみていますが、まだDataがまとまっておりません。しかし10mg/kg投与で染色体異常は出現しない様です。
 こと事からTransplacental in vivo-in vitro conbination chemical mutagenesis or carcinogenesisは、Bioassayとしてもかなり感度の高い系と考えられます。
 同系を使った標的臓器の解析と、Back transplantationの仕事の方も、ようやく一すじの明光がみえて来ました。In vivo-transplacental carcinogenesisと、この系の標的臓器は略々一致するようです。次の班会議ではその報告が出来ると思います。

《榊原報告》
 §RLC-18 cell tumorの病理組織像:
 医科研癌細胞研究部で樹立された正常ラット肝由来上皮様細胞株のうち、in vitroでの膠原繊維形成が最も著明なRLC-18cellを、同系ラットの皮下に移植して生じたtumorの組織像について報告する。RLC-18は成熟JAR-2ラットの腹腔に移植すると200日前後で宿主を殺すことが既に分っているが、今回の材料は皮下移植後、同部に生じたtumorとして高岡先生より組織学的検索を依頼されたものである。tumorの大きさは2.5x2.0x1.5cm大、非常に硬く、ヒトの子宮筋腫に似た感触である。割面は白色均質、中心部に出血を伴わないnecroticなareaがある。被膜はないが、周辺組織とはsharpに境されていた模様である。組織学的には間質に多量の膠原繊維を有する低分化型の肝癌と考えられ、写真1はそのH.E.染色像、写真2は鍍銀染色像である(写真を呈示)。
 一般にラット肝由来の低分化癌は写真の如く立派な索状配列を示すcarcinomatous ele-mentと、一見sarcomatousなelementが混在し、carcinosarcomaかと迷うものが多い。だがRLC-18cell tumorはこの細胞がcollagen産生能を有することが明らかである故に、こうした迷いの対象にならない。sarcomatousに見えてもそれは上皮性性格をもち、而も腫瘍間質の形成に関与していることが推定できるからである。


編集後記


 Click [X] after reading.