【勝田班月報・7602】
《勝田報告》
 新浮游培養法の考案
 これまで試用した浮游培養法の共通した欠陥は、撹拌によって培養液に泡立ちが起り、細胞の均等な浮游化が得られないということであった。この点を改良するため各種の培養瓶、撹拌法などを検討し、光研社と共同で図のような装置を作った(図を呈示)。これは撹拌子の尖端が上下に揺れて液を撹拌する機構であり、血清培地でも泡が立たず、細胞も均等に撹拌できる。この方法で各種の細胞の浮游培養を試みているが、JTC-1株(ラッテ腹水肝癌AH-130)細胞を用いての結果を表に示す(表を呈示)。これは、一定液量内の細胞を算定し、培養開始時の細胞数に対する、培養4、3日后の細胞数をしらべ、増加倍率で示した。またエリスロシンを用いて全細胞数中の死亡細胞%もしらべた。培地は10%FCS+90%合成培地DM-153。振盪は撹拌子の尖端が250〜300回/分でtappingする。そこでTapping SuspensionCultureと命名したが、愛称はSnoopy Cultureである。
 表に示したように、旧来のmagnetic stirrer法よりも、新法の方がはるかに細胞の増殖率も高く、死亡率も低いことが認められた。これは泡立ちを防止したことと、細胞に機械的障害を与える程度が減ったためと思われる。

《難波報告》
 25:ヒト及びマウス細胞の4NQO処理に対する反応に差違があるかどうかの検討
−細胞増殖及びDNA合成に関して−
 化学発癌剤によって、ヒトの細胞は培養条件で発癌し難く、マウスの細胞は発癌し易い。
 何故ヒトの細胞の癌化がマウスの細胞の癌化に比べて困難なのか? その原因がもし分れば発癌機構の一部が分るかも知れないと考え、化学発癌剤として4NQOを用い、ヒト細胞と、マウス細胞との反応性の差違の有無を検討してみることにした。
 今回は4NQO処理後の、(1)細胞の増殖率、(2)経時的DNA合成能を調べた。
 ◇細胞の増殖率(夫々に図を呈示)
 図1にヒト細胞(WI-38、29代のもの)、図2にマウス細胞(C3H由来、diploid 3代)、4NQO処理後の増殖率を示した。4NQOによる増殖阻害は両者でほぼ等しい。
 ◇4NQO処理後のDNA合成
3.3x10-6乗M 4NQO 1hr 37℃処理後、6、24、48hr後のDNA合成を調べた。ヒト細胞の結果は図(3)、マウスの場合を図(4)に示した。4NQO処理後のヒト細胞のDNA合成阻害は、マウスのそれに比較して著しい。
 Agingしてゆくヒト細胞はPDL(Population Doubling Level)が進むにつれて、DNA合成能が低下して行くことが知られているので、使用した29th PDLのWI-38の4NQO未処理の対照細胞のDNA合成能自体がマウス細胞のそれに比べ低いので4NQO処理はヒト細胞のDNA合成はより強く阻害するのかも知れない。
 4NQO処理後も図4に示したマウス細胞の場合のように高いDNA合成を示すものは、培養内で癌化し易いのかも知れない。
 また増殖カーブとDNA合成をみると、マウスの細胞は4NQO処理後に多くの細胞が死滅し、生存している細胞が急速に増殖しているのではなかるまいか。

《梅田報告》
(1)発癌性物質の代謝活性化による突然変異誘起を報告してきた。本月報では、DMNの代謝活性化について1年前(月報7502)に報告した。その後は本月報では報告しなかったが、昨年春の培養学会でDMBAでもFM3A細胞の8AG耐性獲得の突然変異を起す事を示した。しかしAAFでは同じように代謝活性化の諸要素を加えても突然変異は起らなかった(表1を呈示)。 AAFの場合、薬物代謝酵素により水酸化を受けN-OH-AAFとなりこのproximate carcinogenが、さらにsulfotransferaseのような酵素によりesterificationを受けてultimate formになると云われている。この時ATP、sulfateなどが関与している。この説が正しければN-OH-AAFとATP、sulfate、肝1,500g遠心上清(Sulfotransferase)を加えれば、N-OH-AAF単独より突然変異が上昇することを考えた。
 何回も実験を繰り返したが今の所positiveなdataを得ていない。AAFのようなprecarci-nogenでも代謝活性化させることにより突然変異、さらには試験管内発癌実験でpositiveなdataになるよう執念めいて実験系の開発に頭を痛めている。
 (2)上はnegative dataの経過報告であるが、代謝活性化反応を組み合わせることにより、DMNの染色体異常も惹起されている事実を見出したので報告する。
代謝活性化をうけた発癌性物質で、突然変異を起しているとすると、細胞は同時に諸々のDNA障害を受けている筈で、当然染色体異常も起していると考えられた。DMN、肝ミクロゾーム、NADPH、MgCl2、O2をFM3A細胞と30分反応させた後、良くあらって正常培地で1、2日間培養し、染色体標本を作製した。表2に結果を示すが、ややdose-responsibilityに難があるので、目下再実験がすみ、標本の検索中である。(表2を呈示)

《山田報告》
 正常ラット肝細胞由来の培養株の経時的変化を追求し、Spontaneous transformationの解析を試みていますが、その一環の仕事としてchromosomeの変化をしらべて来ました。今回は先きに報告した経時的なchromosomeの変化をBanding methodにより解析してみました。0.025%トリプシン処理後染色したものです。
 RLC-20(New bornラット由来株); 染色体modeはdiploid→hypertriploidy→hypotetra-ploidyに変化して来た。今回は3回目の検索ですが、特に42本の染色体が一時減少後再び増加して来たことが特筆される。そのBandの形態は図1に示すごとくで、マーカー染色体はいままで認められない。
 RLC-16(Adultラット由来株);前回マーカー染色体(Metacentric)が認められたが、今回は消失した。しかし41本の染色体をもつ細胞が44%も出現した。
 RLC-21(Embryoラット由来株);前回大型なマーカー染色体が認められたので、その染色体構成を特に重点的に検索した。大型なV型のマーカー染色体はBandingをみてもやはり1番目の染色体の長腕部がお互に融合したものと思われる。そして、その短腕部は8番目と13番目のtelocentric染色体に転位(translocation)している。次に大型なマーカー染色体は3番目と5番目のtelocentric染色体の融合と思われる。
 RLC-18(Embryoラット由来株);42本染色体をもつ細胞が52→36→14→0%と変化し、今回は全くみられなかった。同時にhyperdiploidの細胞が増加し、現在染色体モードは51本で、その数は幅広く分布している。この株はマーカー染色体がみられない。
 RLC-19(Adultラット由来株);前回までは略々正常パターンを示していたが、57本にモードを持ち、hypotriploidyに変化して来た。

《翠川報告》
 容易に可移植性の変異をみる脂肪細胞の試験管内自然発癌
 前回に報告したごとく、私たちはA/J系マウスに継代移植されている腫瘍(睾丸間細胞腫)の間質に浸潤している組織球の長期培養細胞株(Ma cell line)の樹立に成功したが、この細胞は増殖が非常に緩慢で細胞のdoubling timeも7日以上であった。そして10年以上にわたる培養でも自然発癌はおこらなかった。
 組織球の悪性化によってどの様な腫瘍が招来されるかを調べる目的で、この組織球の試験管内自然発癌実験をくりかえし、いろいろの腫瘍間質に存在するマウス組織球の長期培養を行っている。この実験の中で当初組織球とも繊維芽細胞とも判定がつきにくい培養細胞株がえられたが、この細胞は培養1311日目に試験管内自然発癌をみた(HT cell line)
 HTの特長は、in vivoに継代移植をされている腫瘍の組織像をみても、in vitroで培養されている細胞を観察しても非常に像が多彩で異型性に富み、巨細胞の出現が顕著にみられる。同時に長期間継代培養を続けている過程で容易に可移植性に変異がみられることも特長的である。はじめに可移植性の変異に関する条件の検討を試みた。
 (1)同系A/J系マウスに継代移植を行ってみると本腫瘍は移植部位に腫瘤を形成するまでの期間が比較的長く(5〜7週)、一旦腫瘤が触れられるようになると急激に腫瘤の増殖は旺盛となり、移植後おおむね8〜9週で宿主を腫瘍死させる。この腫瘍を継代移植し続けている限り、腫瘍細胞の性質には余り変異はみられないし、可移植性はかわらない。
 (2)HT cell lineはin vitroでの継代培養にあたってcloningを行ったり、細胞密度の低い培養を続けていると可移植性の急激な消失をみる場合が多い。このような細胞はかなり多量100万個〜1,000万個を移植しても同系成熟マウスにはもちろん、新生児マウスにも腫瘤形成がみられない。可移植性の消失をみた細胞は一般に大型なものが多く、類上皮様配列をとり、かなり巨細胞の出現も多くみられる(写真を呈示)。
 (3)このように可移植性の消失した細胞も細胞密度を高くして、dense cultureを続けていると約半年ないしは1年の間に再び可移植性が回復する場合が多い。
 (4)培養にさいしてdense cultureのみをくりかえしていると比較的可移植性は保持されている。可移植性を保持している細胞は全般的に小型であり、紡錘形を呈し、繊維芽細胞様の形態を示している(写真を呈示)。
 (5)大型類上皮様細胞と小型繊維芽細胞様細胞との間には、その中間とみなされる細胞群があり、とくに可移植性消失細胞のdense cultureを行っている過程でしばしばみられる。
(6)HT cell lineは現在までのところ無血清培地では6ケ月以上培養することはできないが、その間形態に多彩の変化がみられる。
 HT cellはSudan可染性脂肪顆粒を原形質に多量充満しており、組織化学ならびに電顕所見を綜合して、lipoblast由来と考えられた。[これは12月6日の班会議の時の報告です]

《乾報告》 
 経胎盤培養内発癌実験は、今春に入ってから、やっと純系アルビノハムスターが実験に使える様になりました。3,4ベンツピレン、ジメチルニトロサミンを、使用して、In vivo transplacental carcinogenesisの標的臓器と、In vivo-in vitro carcinogenesisの標的臓器の関係、造腫瘍性のあるTransformed Colonyの選択の仕事に入りましたが、次回の班会議には、解析的な研究の第一報を御報告出来ると思いますが、早速問題点が出て来ました。まず問題点を上げますので、2月16日に皆様の御教示を頂ければ幸いです。
 1)上記2物質共、In vivoでの標的臓器が、肺、肝、腎とかなりはっきりしております。妊娠12日目の胎児から、上記臓器より、上皮と繊維芽細胞と別けて、培養初代(開始後、24時間で)少なくても1,000万個の細胞をとりたいのですが、これが難かしいのです。
 2)培養24時間で、染色体観察をするのですが、上皮、繊維芽細胞の混在中で分裂している細胞がどれかわかりません。Primary Culture前に上皮、非上皮細胞を純粋に分けて、培養することは、無理でしょうか。
 以上の2点です。この問題は、来月お教え頂くとして、今月は2つの報告を致します。
 (1)経胎盤投与胎児起原繊維芽細胞長期培養による細胞癌化:
 昨年5月28日、AF-2 20mg/kg投与胎児よりDMEM+10%FCSで、培養を開始し、週1回、1:4のSplitで培養を継続した。10月初旬、培養開始後130日前後で主たる形態変化なしに、増殖率が上昇し、次いで約20日後、明らかな形態変化がおこったが、造腫瘍性はなかった。Criss Cross、Piling up、Ramdom Orientationと定形的であった。その後、造腫瘍はなかったが、1月8日、1,000万個の細胞をハムスターに戻し移植した所明らかな造腫瘍性が認められた。
 しかし、経胎盤法の最大の欠点である、同一細胞の対照をとれないことから、発癌剤投与による発癌か、Spontaneous Transformationかのきめ手はない。又、初期の経胎盤細胞の長期培養故、染色体の経時的観察も行なっていないが、現時点でも近2倍体細胞で特別なマーカー染色体も存在しない。詳細な染色体観察分析結果は、後程報告したい。
 一般的な印象からすると、経胎盤的に発癌剤を投与した細胞は、自然に切れる事が少なく、長期培養が極めて容易のようである。
 (2)コロニー形成率、等、培養実験の定量的解析に対する統計手法導入の試み:
 現在我々が行なっている、たばこの毒性検定、経胎盤in vivo-in vitro chemical-carci-nogenesis、-mutagenesis等ほとんどすべてを、コロニー形成率及び、Transformed Colonyの出現率に指標を求めている。以下に、実例で有意差計算を行ない、数字的、有意差と、生物学的有意差の問題を考えてみたい。
 実験方法:実験には、極めて性質の類似した10種のタールを作用した。検定細胞として、HeLa-S3、CHOK-1をもちい、それぞれの細胞をシャーレ(6dm)に100〜200ケ播種した。同時にNo.1〜No.10のタールを50〜10μg/ml添加して、培養液を交換することなく10日間培養を継続後、シャーレを洗滌、固定、染色後コロニー数の算定を行なった。
 コロニー出現率の一部を表1、2及び図1、2に示す(図表を呈示)。
 以上、各群5枚のシャーレを使用し、HeLa細胞を使用して、もう一度、計3回、CHOK-1細胞を使用して3回の実験を行なって表1、2と同様な、表を合計6表えた。この表よりコロニー形成率を図示したのが図1、2である。表1、2、図1、2より
 1)HeLa細胞、CHOK-1のコロニー形成率は、タール濃度に比例する。
 2)細胞間でタール感受性に違いは見られない。
 3)グラフ上で10種タール相互間に有意な差が明らかでない。
 4)実験により同一濃度でタール間にコロニー形成率に差が見られる。
以上の結果より上記データ(付記しないものを含む)を用いて、統計解析を行なった。
 統計解析はまず実験中、細菌感染等で実測値を得られない所、シャーレ枚数の異なる所を、ハートレ法をもちいて推測値で補充した。
 次に得られた実数すべてについて、1)タール濃度(5)、2)細胞数(2)、3)うり返し実験数(各3回)、4)タール数(10)を変量として、“多変量4元配置分散分析"を横河ヒューレットパッカードMode 20コンピューターを用いて行なった。結果を図3、4に示した。図3、4より、無処理を1.00とおいた時X印が相対平均で、矢印の範囲が95%信頼限界である。上限、下限の矢印が1/3以上オーバーラップするものについては有意差はない。以上の解析結果
 1)No.5は、他のタールに対して有意差をもち毒性度がよわい。
 2)No.10、No.7も同様有意差をもち毒性が弱い。
3)No.3、No.9は毒性度が強いという結果を得た。
すなわち実験を繰しの変量模型として解析した場合
 No.5≦No.7、No.10 <No.1、2、No.4、No.6、No.8 <No.3、No.9と云うように、タールの細胞毒性度に関する順序付けが出来た。
 しかし、コンピューターを使用して、多くの数字を処理し、一応数学的解析をしてみて、とにかく数学的有意差を求めるに少なくもコロニーレベルの解析には、多変量多元配置の解析法が使用出来ることがわかった。
 しかし、今思うに、我々生物医学者としては、データを解析する前に、解析して、こねまわさなくてもよい、“実験系"を使って実験する方がより大切であると考える。

《野瀬報告》
 ラッテ肝細胞によるビリルビンの代謝
 ビリルビンは赤色素のヘムが肝のKupffer cellで分解されてでき、parenchymal cell内で抱合をうけて胆汁中に分泌される。肝細胞の特異機能の一つとして、このビリルビン抱合を見てみた。方法はprimaryのラッテ肝細胞又は株化した肝細胞の培地に、33〜67μg/mlのビリルビンを加え、炭酸ガスフランキ中で20〜48時間培養する。培地および細胞内のビリルビン、抱合型のビリルビンをそれぞれ定量した(Weber & Schalm 1962)。
 Collagenase又はDispaseで潅流して分離した肝細胞では、初代培養後2日目にビリルビンを加えると、図のように抱合型が検出された(図を呈示)。Collagenaseで分離した肝細胞の方がDispaseで得た細胞より抱合能が高いようである。
 一方、株細胞ではRLC-10、RLC-19、RLC-23、JTC-16、CulbTCを用いて同様の実験を行ったが、どの株もビリルビン抱合の活性を全く持っていなかった。初代培養では、ビリルビンの細胞毒性は認められなかったのに、株細胞ではかなり毒性が認められた。これは、恐らく代謝能の違いによるのであろう。株化された肝細胞は、やはり肝機能を失っているようである。
《高木報告》
 膵ラ氏島細胞の分散法の検討
 膵ラ氏島細胞の培養にあたり、ラ氏島を構成するA、B、D細胞を、別々に分離して純粋に培養したいと考えている。そのためには、まずラ氏島細胞を生存したまま機能をできるだめ損うことなく完全にsingle cellに分散することが必要である。種々検討したが、以下の方法が現時点ではもっともよいようである。
 Collagenase処理により単離したラ氏島を集め(通常100〜200ケ)、これに0.04%EDTA in CMFを約5分間作用させ、1000rpmで2〜3分遠沈後、CMFで1回洗う。ついでmagnetic stirrerで軽く撹拌しながらDispase 1000pu/mlで15分ずつ2ないし3回処理する。これで、ラ氏島細胞はほとんど完全に分散する。この際のsingle-cell rateは84.6±1.3%で、viabilityは96.2±0.7%であった。Dispaseのかわりに0.25%trypsinを用いても、single cellはえられるが、この時viabilityを良好に保つと、single-cell rateは可成りおちる。すなわち、viability 94.8±1.5%の時のsingle-cell rateは67.9±2.1%であった。細胞の分散後これを一定数植込み、1時間毎に5時間目まで培地中に分泌されたinsulinを定量すると図の通りであった(図を呈示)。ブドウ糖100mg/dlで1時間目にinsulin量が多いのは、おそらく処理された細胞からのinsulinのleakage、あるいは、incubateした際の培地の急激な変化(CMF→Mod.EM+20%FCS)によるものであろう。2時間目以後は分泌は安定し、ブドウ糖300mg/dlに比し有意の差がみられた。EDTA-trypsin処理では3時間目以後安定した。細胞の生存率、分散度、機能などの面からEDTA-Dispase処理の方がすぐれている。

編集後記


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