【勝田班月報・7604】
《勝田報告》
§いんどほえじかの組織培養
学名はIndian Muntjac、Muntiacus muntjak
voginalis、♂。1976-3-3午後、乾、許、安本、角屋と医科研の研究動物施設からの6人で10人がかりで、おさえつけ、やっと血液5ml(ヘパリン加)、耳タブ3cm角位、内股の皮下組織1.5cm角位を採取した。培養には血液(全血)1容に対し、[10%FCS+90%DM-160]4容とPHAを加え培養4日後に染色体分析に使用、染色体が7本であることを確認した(♀は6本)。内股皮膚はそのまま細切し、トリプシン消化。耳は皮膚と皮下組織、軟骨とに分けて細切し、トリプシン消化。初代はFalcon
plastic dishと、TD40(ステンレスキャップ)を用い、[10%FCS+90%DM-160]及び[10%FCS+90%F12]を入れ、炭酸ガスフランキで培養した。
培養経過は、1日に壁に附着した細胞集団一コを発見、その後どの容器からも生え出したが、生え出しはおそく7日目位からだった。15日に第1回subculture、16日に加藤班員に分譲、25日に乾班員に分譲。細胞はfibroblasticのが主体で、上皮様細胞も若干混っている。増殖度はかなり良いので、御希望があれば、班員、班友に限り分譲します。
なお当研究室で継代中の系はMm/1と命名しました。(染色体の写真を呈示)
《高木報告》
膵ラ氏島細胞の分裂促進物質について
前報においてラ氏島B細胞のinsulin分泌を促進する数種の物質の、培養ラ氏島のDNA合成細胞数におよぼす影響をみたが、さらにブドウ糖300mg/dlとCerulein(合成されたPancreo-zymin-chole-cystochinin様物質)につき観察した。
結果はブドウ糖100mg/dlの時のH3-TdRのとり込み細胞数を100%とすると、ブドウ糖300mg/dl、Cerulein
10-7乗Mでそれぞれ62.6%および68.0%でやはり抑制が認められた。しかし、H3-TdRとり込み細胞の実数は500コあたり10数コといった少数であるので、このようなdataの処理をいかにすべきかが問題である。
次にH3-TdRとり込み細胞の同定に関して、前回はRadioautography後にAldehyde-Fuchsinによる染色を行ったが、染色性が悪く同定不能であった。そこで先に染色してRadioauto-graphyを行ってみたが、後染色にくらべて染色性は良かった。しかし、これら物質はすべてinsulin分泌促進物質であるためB細胞に脱顆粒がみられ、当然ながらA
& Fによる染色性は低下し同定は困難であった。また先の実験ではgrainの数が多すぎたので、これを減らすように条件を工夫しなければならない。電顕のRadioautographyは、乳剤の入手まちであるが、これに先立ちブドウ糖100mg/dl下に形成された“Pseudoislet"について、その構成細胞を電顕的に観察中である。B細胞が主であるが、A、D細胞もあり、内皮細胞、繊維芽細胞の有無についてはさらに数多く観察せねばならない。
またヒト膵より株細胞をうる目的で材料入手次第培養を試みているが、今回5ケ月のヒト胎児膵を1000単位Dispaseで処理して植込み、24時間後にdecantして3xEagle's
mediumで、Falconのplastic dishに植込んだ。植込み2〜3日後より上皮様細胞の増殖がはじまり、現在21日目であるが変性像はほとんどみとめられない。形態的に以前にヒト摘出膵を培養した時みられた上皮様細胞と類似している。繊維芽細胞もみられるが、あまり活発な増殖はみられない。
《難波報告》
27:ヒト細胞とマウス・ハムスター細胞との4NQOのとり込まれ方と
とり込まれた4NQOの運命の差違の検討
現在、4NQOがヒト細胞の培養内発癌剤として非常に有効であることを、しばしば述べてきた。しかし、この4NQOをもってしてもヒト細胞の発癌はマウス・ハムスターのそれに較べ非常に困難である。その理由の解明は裏を返えせば発癌機構の解明に近ずけるのではないかと考えられる。月報7602で4NQOのヒト及びマウス細胞の増殖抑制効果、及びDNA合成抑制には差がみられぬことを報告した。
今回は4NQOのとり込み能にヒト、マウス及びハムスター細胞との間に差違があるか否か検討した。
実験方法
4NQO-H3(Sp.Act.27mci/mM)を10-3乗Mになるようアルコールに溶き、培地で終濃度3x10-6乗Mに稀釋して1hr.37℃細胞処理後、ただちにPBSで3回細胞を洗い、5%冷TCAで2回洗い、TCA不溶性分劃にくるcpmを測定した。24hr.後のカウントは、4NQO-H3で1hr.処理したものを、4NQOを含まぬ培地にして、24hr.培養して上記のごとくTCA不溶性分劃のcpmも測定した。使用したヒト、マウス、ハムスター細胞は全部diploid
cell strainsである。
結果:表に示したように
1.とり込まれる4NQOの量は、同じヒト細胞でも、細胞の種類、4NQO処理時の細胞数によってかなり変動している。細胞数によってとり込まれる4NQOの量が変ることは次回に報告するが、細胞数が少ないほど、1コの細胞にとり込まれる4NQOの量は増加する。
2.同じ動物由来の細胞でも、4NQO-H3投与時の細胞数が違えば、とり込まれる4NQO量が異なるので、ヒト、マウス、ハムスターのどの細胞によく4NQOがとり込まれるか比較できなかった。
3.しかし4NQO-H3 1hr処理後と、その後24hr目に細胞内に残る4NQO量との割合は、ヒト、マウス、ハムスターでほぼ等しく、ヒトの細胞にとり込まれた4NQOが特別早くなくなるとか、長く存続するとかはしないようである。(表を呈示)
28:ヒト細胞による4NQOによる培養内発癌実験
−Focus AssayでTransformed fociが出現するか否かの検討
1/13/76に約10W目の全胎児をトリプシン処理して培養を開始した細胞を使用し
実験1;1/14〜2/4に亙って2x10-6乗M 4NQOで1回の細胞処理時間1hrで計7回処理した細胞を10万個/60mmシャーレに計5枚まき、週2回培地更新、25日目にギムザ染色した。その結果Transformed
fociはなかった。
実験2;1/14〜2/25に亙って実験1と同じ条件で4NQOを計12回処理。10万個/60mmシャーレ、計7枚まき、22日培養後、Transformed
fociは見い出されなかった。
(実験1、2の結果をまとめた図を呈示)
《乾報告》
メチル・ニトロソシアナミド(MNC)のハムスター胎児細胞に対する変異原性及び癌原性・ 第1報:バクテリアに対して強い変異原性を示し、マウス前胃に癌原性を持ち、人間の胃癌の形成要因の一つと考えられているMNCの培養細胞に対する変異原性を調べた。
妊娠12日目の胎児由来の繊維芽細胞(MEM+10%FCSで培養)の培養4代目のものを実験に使用した。細胞を50万個/mlで培養瓶に播種後24時間目に5、10、50x10-7乗MのMNCで3時間処理し、処理後ハンクス液でよく洗い、正常培養液へもどし、72時圏培養した。(図を呈示)図の如く72時間に6-チオグアニン(6TG)5μg、10μg/mlを含む培地へ細胞を再播種(10万個/dish)し、始めの3日間は毎日、以後、3日ごとに6-TGを含む培養液でmedium
changeをした。培養20日後固定染色し、6-TG耐性コロニーを算定した。
6-TG耐性コロニーの出現は(表を呈示)表の如く、MNC投与で明らかに出現し、6TG
5μg/mlで、Selectionした場合、5x10-7乗Mで約2倍、1x10-6乗Mで4倍、5x10-6乗で5.3倍であった。この値は、(MNNG)よりやや低い値を示した。
現在、同物質投与直後のハムスター胎児細胞の染色体変異、ハムスター胎児細胞での変異コロニーの出現率、Focus形成率、及び同物質投与による長期培養内発癌実験を継続中である。染色体変異はまだデータの整理はしていないが、MNNGに比しておこりにくく、長期発癌実験も本日で42日目になるが、4系統共、形態変異はおこっていない。
純系アルビノハムスターを使用した経胎盤発癌実験のデータモDMN、Bp投与群で、標的臓器との関係が、少しづつまとまりつつある。来月か班会議には中間報告をしたい。
《梅田報告》
(1)Filter cultureで各種細胞のfilter上での増殖具合、コロニー形成率を調べている。Monolayer
cultureと書いた方は200万個細胞数をfilter上にのせて培養し、2日後と4日後に固定、ヘマトキシリン染色して観察した。増殖具合を程度に応じて+で表した。コロニー形成の方は100或は1,000コの細胞をfilter上にのせて培養を始め、1x/3〜4日に、agar
plateをtransferして計12日後に固定染色して観察した。
(表を呈示)結果は表に示すごとくで、HeLa、L、L-5178Y、FM3A、YSでは細胞は密集して増生可能であった。但しコロニー形成でみるとHeLa細胞ではコロニー形成は認められるものの非常に小さなコロニーから成っており、Lcellでは一つもコロニー状細胞は認められなかった。Lcellのmonolayerの方でも細胞はばらばらに散って増生していた。L5178Y、FM3A、YSでは本実験のテクニカルな問題もあり、plating
efficiencyは必ずしも満足できるものではないが、コロニーとしては大きな立派なものが出来ていた。
ここでCHO細胞だけがmonolayerでも増生が悪く、コロニー形成は0であった。悪性化している筈なので、増生の悪い理由がわからない。本細胞はMEM+5%FCSにnon-essentialアミノ酸を加えて培養しているが、現在FCSの濃度を上げた培地での実験を行っている。
一応正常であろうと考えているラット肝由来のBB、BC、DL1の3株では20万個cells/filter播いているにも拘らず、monolayerに細胞は殆ど生えない。しかし、4日目のfilterを固定染色してみると、まばらに細胞が残っていることがある。コロニーは全く形成しない。DDDマウスの胎児細胞を3T3継代して樹立したD49細胞はmonolayer状にはならないが、細胞が散在して残っていた。C3Hマウス胎児細胞培養2代目の細胞も殆ど細胞増生は認められなかった。 (2)8AG、6TG耐性細胞の出現が、用いる血清によって異なってくることがあるのでチェックした(表を呈示)。FCS
lot AとBでは耐性コロニーが出現するが、lot
Cでは出現しない。又dialyseしたものは1つもコロニー形成しなかった。
《堀川報告》
私共の確立した4系の突然変異検出系のうち栄養非要求株Prototrophsを用いた最も鋭敏な検出系を用いれば低線量放射線によって誘発される突然変異を検出することが出来るかどうかを知るため、100R以下のX線、および50ergs/平方mm以下の紫外線を照射した際に誘発される突然変異率を調べた。(図を呈示)第1図は前回にも報告した、100R以下のX線を照射した際の結果であって、この線量内では生存率も殆ど低下しないかわりに、突然変異の誘発も認められない。一方、第2図は50ergs/平方mmのUVを照射した際の突然変異の誘発を調べた結果である。X線の場合にみられたように、細胞の生存率が殆ど低下しない20ergs/平方mm迄は殆ど突然変異の誘発は認められないが、30ergs/平方mm以上の線量で生存率が低下するようになると、突然変異の誘発が認められる。こうした結果は、突然変異はある程度の細胞損傷が起きるような線量でなければ誘発されないことを示すものであり、換言すれば細胞の回復能と突然変異誘発の間にはある密接な関連性のあることを示していると思われる。 つづいて、この栄養非要求株Prototrophsを用いた突然変異検出系が、何故他の3系に比べて突然変異の検出に鋭敏であるかを検討した。このPrototrophsは、既にこれ迄何度となく報告してきたように、Ala+、Asp+、Asn+、Pro+、Glu+、Hyp+という性質をもっているが、この細胞が突然変異として検出されるためには、これらのマーカーのうちのどれか1つのものが−(マイナス)に変異すればよい訳である。さて、これらの6個のマーカーがlinkしたものであるか、あるいは1個1個独立したものであるかを確かめるため、800RのX線あるいは150ergs/平方mmのUVを照射した際に誘発される種々の突然変異の割合を調べた結果が第3図および第4図である。これらの図からわかるように、6個のマーカーのうちどれか1つが変化しても突然変異として検出される場合(6substance)に比べて、Ala+、Asp+、Asn+、Pro+、Glu+、Hyp+のうちどれか1つが変異する割合はマーカーによって大きく違うことがわかる。つまり、Hyp+という性質は、X線またはUV照射によってHyp-に変り易いが、Ala+の性質は容易にAla-には変異しないということである。こうした結果は6個のマーカーは、完全にlinkedのものではなく、まったく独立したものであることを示唆しているとも思われる。
☆☆以上、これが私の最后の月報原稿となりました。どうも長い間お世話様になりました。皆さんの研究発展を祈って止みません。
《山田報告》
培養ラット正常肝細胞の電顕的形態について数回報告しましたが、そのうちで特に重要な所見は、培養された肝細胞の細胞質内にグリコーゲンの顆粒の星状凝集像が殆ど消失し、散在性にグリコーゲンが存在することである事を報告した。
今回はこの電顕的所見における分散したグリコーゲンと思われる粒子が、本当にグリコーゲンであるか否かを確かめるために一つの実験をした。即ち培養メヂウム内にグルカゴンを添加したら、このグリコーゲンと思われる顆粒が減少しないかと思い実験したわけです。電顕写真が間に合いませんが、透視下でみると、グルカゴン添加された肝細胞(RLC-16)の細胞質内顆粒は減少している様です(詳細は次号に報告します。)
この実験と同時に、培養メヂウム内のグルコースを測定した所、(図を呈示)図に示す様に、グルカゴン添加した細胞メヂウムにグルコースの減少がより少なく(増殖率には差がない)またその細胞表面の荷電の状態にも変化が出て来ました。これも次回に報告します。
《久米川報告》
1.マウス胎児肝臓の培養
Roseの還流培養法でマウス胎児肝臓を培養した場合、糖新生系の酵素G-6-Paseの活性は高くならなかった。しかし現在用いているチャンバー法では、チャンバーをroller
tubeに入れ、air(95%)+炭酸ガス(50%)下で回転培養することによりG-6-Pase酵素活性が高くなることがわかった。なお培養液はDM153である。血清を加えない場合でも2倍位の酵素活性があった。血清(10%)を加えた場合は2日目より無血清群より高くなり、培養6日目では培養前の約4倍の活性値が得られた。Prednisolone(5.0mg/100ml)、glucagon(1.3mg/100ml)を添加した場合は培養2日目にその影響がみられ、培養4〜5日目では血清添加群の約2倍の活性値がみられた。一方、insulinを添加した場合は酵素活性はやや抑制された。
ヒト胎児を手に入れることができるようになったので、肝臓由来細胞の培養を試みたい。9w〜12w胎児肝臓はまだ組織構築が完成していないので、消化酵素を用いないで細胞がバラバラになる。多角形で原形質に顆粒(ミトコンドリア?)の多い細胞(肝実質細胞?)が得られる。この細胞は数個単位の集塊を形成し、浮遊している。くわしくは次号に報告します。
《榊原報告》
今年度は勝田班で勉強させて頂けることになりました。復元の問題を突っ込んでやれとの班長の御命令ですが、御期待に応えられるかどうか。目下実験計画を練っている段階です。班員、班友の諸先生方の御指導、御鞭撻をお願い申し上げます。
培養細胞のコラーゲン産生:
コラーゲン繊維は専ら間葉系細胞によって作られると信じられているが、角膜上皮細胞、平滑筋細胞、更にはHeLa細胞やKB細胞も微量ながらhydroxyprolineを含む蛋白を合成することが、既に報告されている。肝臓に関しては、成熟ラット肝を単離し、実質細胞分劃と間葉系細胞分劃とに分けて、各々のprolyl
hydroxylase活性を測定したところ、前者の方が、後者の100倍に当る高い活性を有していたとの報告がある。
横浜市大で樹立されたラット肝由来上皮様細胞株BCが、in
vitroでコラーゲン繊維を形成することは、形態学的には既に班会議で報告済みと思われるので、ここではhydroxypr-olineの定量結果をお示しする。
BCとそのsubcloneであるBC・S1、BC・S2、BC・S3、ラット全胎児の初代培養、Embryo、BALB3T3、HeLaS3、約100万個cells/tube、TD40に播いたのち、21日間(但しHeLaS3は10日間)subcultureせずに維持する。培養液を捨て、Hank's
sol.で2回培養を洗い、rubber cleanerで細胞をかき落し、screw
cap付き培養びんに集め、6N,HClを加え110℃、24h加水分解する。
Cell countはreplicate cultureで行なう。その後ProckopとUdenfriendの方法でHy-Proの定量をするのだが、要はChrolamineTを加えた上、toluen層に溶出する物質をあらかじめ除去しておき、次いで加熱してHy-Proを酸化、Pyrroleとし、これを再びtoluenで抽出、Ehrlich試薬で発色させ、560mμの吸収を読む。
(表を呈示)結果は表の通りであって、BCとそのsubclone間にばらつきはあるが3T3の5倍以上の量のHy-Proが検出された。興味あることは微量だがHeLaS3もHy-Pro
positiveであったことである。
さらに医科研化学研究部にお願いして、上記と同じ条件下で培養した細胞のアミノ酸分析を行なった。但しここではBB、BC、DL-1の3株についてのみしらべ、BCについては特に培養3日、10日、14日、21日と経時的に細胞を集め分析に供した。その結果、Hy-Proにかんしては他の細胞蛋白に由来するアミノ酸との量的較差が大きすぎる為、clearなデータは得られなかったが、BCとDL-1に関してのみ、LysineとArginineとの間に特異なpeakがみとめられ、しかも培養日数の増加とともに増す傾向のあることが分った。DL-1は梅田先生が樹立されたラット肝由来上皮様細胞株で、まだclone化はされていないが、現在Albumin産生があり、しかも特定の条件下でcollagen
fiber formationがあるらしいと云われているものである。このpeakに相当する物質については、D-galactosamineであろうと推定されている。
従来、collagen産生細胞は同時にムコ多糖を分泌するらしいと云われ、又soluble
col-lagenが分子架橋によってinsolubleな、所謂native
collagenとなる為にはこうした多糖類の存在が必要であると考えられている。Clone
BCが肝実質細胞かどうかといった議論はさておき、この細胞がコラーゲン研究の貴重なtoolとなるであろうことは間違いないようだ。