【勝田班月報・7607】
《勝田報告》
§ヒトリンパ系細胞の組織培養
月報7408号にヒト・リンパ系細胞の培養について報告した。
その後、クロマイ、PHA、AF2、昇汞などを添加してみたが、細胞分裂は撮影できなかった。PHA添加ではH3-TdRのとり込みもあり、塗抹標本での分裂像はみられる。亜鉛添加でもH3-TdRのとり込みはみられる。しかし細胞が凝集してしまって、映画ではそのなかの分裂像がとらえられないのである。
何も添加していない正常ヒト由来のリンパ系細胞(Ficoll-Conray分劃)を本人の血清(10%)又はfetal
calf serum(10%)と、90%DM-153 or DM-160の培地で培養して映画をとってみると、細胞の形態に(模式図を呈示)図のような2型があり、前者は撮影中にどんどん流れて行き、数も減って行く。後者はしだいに大型化し、1〜2wで数倍の大きさになるが、分裂しない。1〜3ケ月では多核細胞になる。
この間約90本(9000フィート)撮影したが、はっきりした分裂は一つも見られなかった。 そこで、材料のえらび方を変えた。2個人のリンパ系細胞を混合し、[10%FCS+DM-160]の培地で培養しながら、顕微鏡映画を連続的にとった。これまでの成果では、17本のフィルムの内分裂が3コ認められた。これらは3コとも、混合してから培養10日以上経過していた。
3コ目に分裂して2コになった細胞は、その後も撮影を続けているが、1回目の分裂から約2日後に2回目の分裂をおこなって4コになった。これはその後も撮影を続けているが、次の分裂も見られている。いずれ、このフィルムは編集してお目にかけます。秋の癌学会にも出します。
とにかくこの2個人のリンパ系細胞を混合するという方法は細胞の凝集も起らず、映画撮影には最適の方法と思われます。やっぱり100本位撮らないとモノにならないのですね。
《高木報告》
B細胞の培養において私共のこれまでの目的は、in
vitroにおける細胞機能の保持であった。成熟ラットより単離され培養にうつされたB細胞は、数ケ月間インスリン分泌能を維持したが増殖はみられなかった。種々培養条件を検討したが細胞増殖は誘起されなかった。
材料とする動物のageや造腫瘍性物質の使用等を考慮し、新たな気持でB細胞の培養を試みたい。
胎児及び新生児期では、インスリン分泌が胎児型であるため今までは成熟ラットを用いていた。しかし、成熟ラットでのラ氏島のmassとしての増加はごくわずかである。一方胎生18日から22日までの間には4〜5倍に増加するという報告もある。この間の増加が分化したB細胞の分裂によるものか、導管や外分泌腺よりの変換、またはprecursorよりの分化であるのかは、まだ不明であるが、この時期のラットを用いることを考える。
次に造腫瘍性物質であるが、6DMAE・4HAQOを成熟ラットに投与すると64%に腺腫の発生がある(林ら)。又、monocrotaline投与後1年以上生存ラット4例中3例に、さらにPrednisolone併用monocrotaline投与群には、16例中11例にInsulomaの発生が観察されている。これらの他にも、Streptozotocin-Nicotinamide、2,7-FAA、1,2-DMH等でin
vivo投与後腺腫形成の報告があるため、この使用を予定している。しかしいずれの場合も、発生したものは良性腫瘍である点で不安がある。
《山田報告》
培養ラット肝癌細胞の超微形態に対するInsulin、Glucagonの影響;
No.7605、7606に報告した実験と同時に行った細胞の電顕的観察結果の続きを報告します。今回はラット肝癌細胞JTC-16についてのみの成績です。対象の細胞像をみますと次の様な特徴がみられました。
(1)正常ラット肝由来細胞に比較して、細胞相互間に形態の差が著しく、その結合は疎で、結合装置は単純。核小体の大型化と、その数の増加等、核の異型性が著明。
(2)細胞質内グリコーゲン顆粒の分布密度も細胞相互間でかなり異るが、その密度の高い細胞ではラット正常肝由来細胞のそれより、むしろグリコーゲンが多くみられた。また一般に細胞質内でのグリコーゲン分布に濃縮がより著しいと思われた。
(このグリコーゲン顆粒と思われる顆粒はライボゾームではないかという疑問が提出されたが、次図にみる様に、小胞体を初めとする膜系に附着している同様の顆粒はたしかにライボゾームであるが、これとは別に無関係に分布しているもののみを、グリコーゲン顆粒とみなした。)(写真を呈示)このグリコーゲン顆粒は、星状凝集を形成しないが、明らかに数ケづつ集簇する傾向がみられた。図2の対象細胞には、この傾向が著明にみられる。これに対し、インシュリン(10μg/ml)(24hr)を加えた細胞のグリコーゲン顆粒をみると、図3のごとく、その分布密度については大きな差はないが、グリコーゲンの集簇が殆んどなく細顆粒状になったのが着目された。
グルカゴン(60μg/ml)(24hr)を加えた細胞ではグリコーゲンの量については、なんとも云えないが、一般に分布密度に濃淡がある細胞が増加しているのが目立った。
このJTC-16の細胞は同一条件で培養中の正常ラット肝由来細胞にくらべてメヂウム中のグルコース消費量は著しく多く、これらのグルコース消費量についてラベルしたグルコースを用いて検討したいと思い計画中。
《乾報告》
Methylnitrosocyanamidによるハムスター胎児繊維芽細胞の
Morphological transformation:
Methylnitrosocyanamid(MNC)はメチルグアニジンのニトロソ化体で、細菌に対する強力な変異原性、ラット前胃に対して強力な発癌性、さらに細胞細胞のDNA、染色体切断能が知られている。先月報で、ハムスター胎児細胞にMNCを投与し、6-チオグアニン耐性突然変異の出現を報告した。今回は同様ハムスター胎児細胞にMNCを投与し、コロニー水準での細胞のMorphological
transformationを観察したので報告する。
材料及び方法;材料には、妊娠12、13日目の全胎児より得た繊維芽様細胞の培養2代及び3代目を使用した。培養液はEagle's
MEM+10%FCSを使用した。細胞を50万個/mlでTD-40培養瓶に播種後24時間目に、培養液で直接稀釋したMNCを2x10-6乗、5x10-6乗、1x10-5乗M
37℃で3時間作用した。作用後ハンクス液で充分に洗い、通常培地内で、生存細胞を48時間培養した。培養2日後、細胞をトリプシンではがし、60mm
Falconシャーレ一枚当り1000ケの細胞を再播種し、通常培地で10日間培養し、シャーレを固定、染色後、出現した全コロニー数、変異コロニー数を算定した。対照としては、0.2%
DMSO、2x10-6乗、5x10-6乗M、MNNGを同様の方法で作用した細胞を使用した。
結果;変異コロニーの出現率を表に示した(表を呈示)。MNC、MNNG作用群では、作用後2日目の生存細胞を1000ケ/シャーレ播種した場合でも、投与量に略々依存してPlating
Effi-ciencyが低下した。
Morphological Transformationの出現率は、MNNG、MNC投与群共、投与量に依存して増加し、MNNG
2x10-6乗Mで約10倍、MNC 2x10-6乗M投与で約6.4倍、MNNG
5x10-6乗M投与群で15.9倍、MNC同濃度作用群で13.4倍であり、生存コロニーに対するMNNG、MNCのTransformation
colonyのinduce率はほぼ同様であった。現在同物質作用直後の染色体異常出現率、8AG、6TG-resistant
mutation rate、Long termの発癌実験を行なっている。
《梅田報告》
月報7512でドンリュウラット肝由来のDL1細胞がaflatoxinB感受性が高く、また14NQO処理した場合であるがalbumin産生を示すことを報告した。さらに、先日の班会議でこの細胞はC14-BP投与実験により、水溶性物質への代謝能の高いことを報告した。この細胞はクローニングを行っておらず、mixed
populationでの培養を行ってきたので、colonial
cloneではあるが、2回続けてcloningを行って分離した各クローンについての検索を進めることにした。
先ず得られた各クローンについて、C14-BP投与による代謝能測定実験を行った。(表を呈示)各クローンにより代謝能は著しく異なる。この中でクローン(2)、(5)、(17)が低値を示しているが、之等は典型的な石垣状配列を示す上皮様細胞であった。クローン(1)、(6)、(7)は3000〜4000台の代謝を示したが、之等は細胞を培養瓶に接種した直後は類上皮様であるが、monolayerを形成し更に培養を続けると繊維芽細胞様に形態が変るクローンである。その他はおしなべて類上皮様を示しているが、monolayerを作った後も一部に盛り上がりのある細胞層を作るが、類上皮様を示していた。之等の中で、クローン(20)が特に高い代謝能を示している。この値は今迄に我々が調べた細胞の中で一番高い値であった。
現在これらのうちの一部についてBPとAflatoxinB1の感受性を形態的に追求している。
《難波報告》
32:培養ラット胎児肝細胞(RLC-18)のグリコーゲン
医科研で樹立されたRLC-18細胞をPAS染色してグリコーゲンの出現の有無を検討した。
培地はMEMグルコース1g(l)+10%FCS+10mM Hepesを基礎培地として(1)基礎培地
(2)基礎培地+1mM CAMP (3)基礎培地+10mM CAMP
(4)基礎培地+4.2x10-6乗Mデキサメサゾン(メルク)
(5)基礎培地+1U/mlインシュリン(ノボ) (6)基礎培地+4.2x10-6乗Mデキサメサゾン+1u/mlインシュリンなどの培地でグリコーゲン出現の条件を検討した。
その結果、(5)の場合が最も著明なグリコーゲンの出現がみとめられ、その他は(6)>(4)=(1)>(2)>(3)の順でグリコーゲンの出現が減少する。現在グリコーゲンの出現する条件を詳しく検討中である。(PAS染色の顕微鏡写真を呈示)
《榊原報告》
培養肝細胞のムコ多糖産生
ラット肝由来上皮様細胞株BCがin vitroでcollagenを産生すること、collagen繊維の量に比例してd-galactosamineの増減があるらしいことは、四月の月報で触れた。
d-galactosamineは酸性ムロ多糖(AMPS)の1つ、chondroitin
sulfate(AからHまで8つの異性体がある)のmain
sugar componentである。このうち、chondroitin
sulfateBはderm-atan sulfateとも呼ばれ、ラット及びヒトの肝硬変症の際、繊維化の進行とともに増加することが知られており、collagen
fiber formationに不可欠の物質と推定されている。したがって、BC
cellが培養内でcollagen蛋白の他に、chondroitin
sulfateBの如きAMPSの産生を行っている可能性は十分考えられた。そこで佐々木研、長瀬すみ先生、斎藤重野嬢の御指導を得て、BC
cell及びそのsister clone、BB cellのムロ多糖分析を行った。
極く最近まで、ムコ多糖の分析には多量の出発材料を要し、培養細胞に就いてこれを行うことは実際上、不可能であったらしい。然るにセルローズ・アセテート膜電気泳動法の応用により、極めて微量のものまで分析可能となった由である。にも拘らず、細胞培養での経験は佐々木研の先生方にもなく、文献も見当らずどの位細胞数を準備すればよいか検討がつかなかった。全くあてずっぽうにBC
cellをTD40 14本、BB cellは8本用意し、con-fluentになってから1週間放置し、trypsinizeすることなしにHanksで洗ったのちかき集めて、図に示す如きprocudureを経てelectrophoresisにもって行った(表を呈示)。ちなみにBC
cellの脱脂乾燥重量は25mg、BB cellのそれは14mg、したがってTD401本分が、約1.8mgに相当する。凍結乾燥の末得られたAMPSは、試験管の底にかすかなくもりを生ずる程度、これをマイクロピペットで5μlの精製水に溶かし、2回の電気泳動に全部使い果した。結果は図3、4に示す通りである(図を呈示)。即ち、0.1M
barium acetate buffer、1.0mA/cm、2hの泳動条件下、BC
cellは明らかに2本のbandを形成し、そのうち易動度の速いものはcondroi-tin
sulfateBないしはhyaluronic acid(HA)であり、易動度の遅いものはheparan
sulfate(HS)ないしheparin(Hep)であることが分る。そこで0.1M
coppee acetate、1.0mA/cm 45minで泳動を行ってみると易動度の速いものがhyaluronic
acidではなく、遅いものがheparinではないこと、つまり前者はchondroitin
sulfateB(dermatan sulfate)、後者はheparan
sulfateであると同定された。
定性的な予備実験ではあるが、予想した物質の存在を確認することが出来、又出発材料をどの位集めればよいか見当がついたわけである。今後はhydroxyprolineの定量と同時に、AMPSの量的変化を追う一方、形態との係り合いを掴む方向に仕事を進めたいと考えている。 P.S.図では明らかでないが、BBcellも又chondroitin
sulfateBの位置にかすかなbandを生じている。BBcellはBCcellのsister
cloneであり、同じくalbumin、α-foetoproteinの産生がありながら、collagen
fiber formationのない細胞株として対照に選んだつもりであったが、驚いたことに最近、collagen
fiberを作るようになった。同時に核の多形性が目立ち、piling
up growthをするようになっている。興味ある現象と思われる。
《佐藤報告》
◇将来、発癌実験に使用する目的で、2、3の細胞株から単一細胞性クローンの分離を試みた。原株としては、ラット肝由来のRAL-5(5月令)、RAL-7(3月令)、RLN-B2(7日令)、J-5-2(7日令)で、いずれも上皮様細胞で、2n=42に染色体数分布のモードを有する。クローニングの方法は、顕微鏡下で、キャピラーレにより単一細胞を釣りあげ、マイクロプレート2の各ウェルに植え込み、細胞の接着、分裂状態を見ながら少量ずつ培養液(MEM+20%BS)を添加する。この場合の培養液を、conditioned
medium(大量培養で2日目の培養上清)とすると著しく細胞の接着は阻害され、一方培養液にDexamethason(10-6乗M)を加えた場合では、加えない場合に比し、一般に細胞接着は良好であった。得られたクローンは全部で18であるが、それらについて染色体数(核型)、α・フェトプロテイン、G-6-Paseなどを調べた結果、いくつかの興味あるクローンが分離された事が判明した。(詳細は班会議にて御報告させていただきます)。