【勝田班月報・7609】
《勝田報告》
 §ラッテ肝細胞のAldolase活性:
 ラッテ肝培養の同定の一法としてAldolaseその他の酵素の活性の測定が重視されている。 目安として、F-1-6-Dep/F-1-P:の数値は生体では、肝は1〜10、Fibroblastsは50以上。培養細胞では、肝上皮培養1年以内は1〜10、以后は次第にその数値が大きくなる。肝由来でもFibroblastsは培養1ケ月でもこの数値は大きい。
 TAT活性(Tyrosine Aminotransferase):成体肝をCollagenase又はDispaseで潅流して採取できる初代細胞はTAT活性を持っているが増殖しない。株は成、乳、胎、何れの由来のものでもTAT活性は認められない(表を呈示)。

《難波報告》
 34:ヒト、マウス、ハムスター、ラット由来の細胞の4NQO処理後のDNA修復能と染色体の変化との関係
 ヒト細胞が培養内で発癌し難く、またAgingを来たして細胞の株化がおこり難いのに反して、動物の細胞は一般に癌化し易く、株化しやすい。従って、ヒトの細胞と動物の細胞との4NQOの作用の違いの解明が、細胞の癌化の機構を知る手掛りを与えるのかも知れない。
 今回は、人及び種々の動物の細胞を4NQOで処理した後、DNA修復能とクロモゾームの変化とを検討し、修復能の良いヒト細胞は、クロモゾームの変化が最も少ないと云う結論を得たので報告する。
 実験方法
 実験に使用した細胞はすべて全胎児由来の繊維芽細胞の形態を示す細胞である。動物はマウスはC3H、ラットはSD、ハムスターはSyrian系のものである。培養は、トリプシン分散で開始した。培地はMEM+10%FCS+10mM Hepas使用。そしてDiploid cell strainsのみ使用した。DNA合成能は10mM hydroxyurea(HU)で1時間細胞を処理後(正常のDNA合成を止め)HU存在下で10-5乗M 4NQO、1時間、4NQOを捨て、H3-TdR 1μCi/mlで4時間処理し、DNAの修復部分に入ったH3-TdRを液シン測定した。クロモゾームは対数増殖期にある細胞を3x10-6乗M 4NQOで1時間処理後、4NQOを捨て24時間後標本を作製した。
 結果
 4NQO処理後にみられる細胞のDNA修復能は図1にみられるように(夫々図表を呈示)、ヒト、ラット、ハムスターでは4NQO処理群の方に、H3-TdRが多くとり込まれている。4NQO未処理のものに比べ4NQO処理群にとり込まれる割合はヒトの場合が最も高かった。マウスでは4NQO処理後の除去修復はみられない。理由は不明であるが、10mMのHUで動物細胞の対照群への細胞の酸不溶性分劃へのH3-TdRのとり込みは完全に抑えられていない。動物由来の細胞が2n株であるものを実験に使用したかったので、ヒト細胞に比べ比較的培養日数の若いもの(1ケ月以内)を使用したためか、または動物細胞に存在する腫瘍性ウィルスの存在のためかも知れない。
 クロモゾームの変化(構造上の変化でBreaks、Gaps、dicentric etc)は、ヒト細胞で最も少なく、動物細胞の変化はいずれもっヒトの約2倍以上であった。

《高木報告》
 培養細胞に対するEMSの効果
 先の班会議でラット胸腺由来の繊維芽様細胞にEMSを作用させた場合、対照の細胞に対し形態的には著明な変化はみられなかったが、増殖率、Plating efficiencyともに上昇したことをのべた。染色体数については対照細胞の増殖がきわめておそいため分裂細胞が少なく正確な比較はできていないが、作用群の方がhypotetraploid、100以上の多数のものが多いようである。
 cloningした細胞を用いてこの実験を反復すべく努力しているが、ヒト由来の細胞はほとんど繊維芽細胞でcloningが難しい。先に膵癌の患者の腹水をModified Eagle's mediumで培養したところ、3ケ月を経て少なくとも形態的に2種類の細胞が継代されている。flatな細胞は癌細胞とは考えにくいが、これらの細胞のATS注射ハムスターに対する可移植性をたしかめた上で、非腫瘍性であると判ればEMSをはじめ他の発癌剤を作用させてみたいと考えている。その際にもcloningした細胞をできるだけ用いてみたい。
 ラット膵ラ氏島細胞の悪性化の試み
 5月の班会議でも話したように、膵ラ氏島に特に親和性の強い6DMAE-4HAQOを胎児に経胎盤に投与することを考えて、妊娠ラットの尾静脈から2mg/0.2mlを注射し、これを出産まで繰返した。8疋の妊娠ラットに注射したが、注射回数は2〜5回であった。注射が終了して現在まで約1ケ月を経過したが、2回以上注射したラットは体重の増加が悪く、毛並もよくない。5回注射したラットを剖見したが、肉眼的には、膵やその他の臓器に著変は認められなかった。
 また注射を2回したラットの仔について、生後3日目と7日目の膵の培養を試みた。即ち、膵を細切後、0.02%EDTAと持田のTrypsilin 200HUMを連続的に作用させ、magnetic stirrerを用いて処理して植込んだ。24時間後に浮遊細胞をdecantして培養をつづけた。培地は今回はDM153+20%FCSを用いた。生後3日目のラット膵では、decant後2〜3日より上皮性細胞からsheetを形成したがその数は少なく、繊維芽細胞の増殖が盛んにおこり、これを除く目的でcystine-free MEM+20%FCSを12時間および24時間作用させた。繊維芽細胞は変性をおこしたが、上皮性細胞の増殖も悪くなり、やがて再び繊維芽細胞の増殖が盛んになったので2週後に培養を中止した。7日目のラット膵では、decantして1日後に上記培地を作用させた。繊維芽細胞は変性したがホーキ星状の細胞は変性をおこさず残った。上皮性細胞はその形態からラ氏島細胞と思われるが、2週後の現在sheetはわずかにひろがりつつある。(膵癌患者の腹水の培養からえられたflatな細胞と、小型で短紡錘形の細胞とflatな細胞の混合集団、どちらも培養63日目の顕微鏡写真を呈示)。

《梅田報告》
 われわれの培養している肝由来の細胞が、いくらかでも起源である肝組織の機能を保持していることが望ましいので、培地中のα-feto-protein(AFP)とalbumin(ALB)産生を北大塚田先生に測定していただいてきた。今回は血清の違い、いろいろの処理によるこれら蛋白の産生について報告する。細胞は今迄度々報告してきたJAR2由来のBB、BC株、呑竜ラット由来のDL1株である。培地はF12に10%の割で血清を加えたものである。
 (1)先ずわれわれは各種血清を用いるので、その違いによる産生状況について調べる。200万個cells/5cm dishの接種数で細胞をまいた後、1週2回培地交新を行ない、6週間培養した時の各used mediumのAFP、ALBを測定した。(表を呈示)表に示すように仔牛血清2 lot、胎児牛血清1lotで調べた所、BBはAFPを産生しやすく、BCはALBを産生することがあり、DL1はALB産生のあることがわかった。しかし、全体に血清により産生が異なり、一定の傾向は認められなかった。
 (2)次に200万個cells/5cm dishの接種数で、CS(医科研7424)を20%にして産生を調べた。この条件では、3細胞共にこれら蛋白の産生は認められなかった。この20%で培養した後にSerumlessにした時のAFP、ALB産生を調べたのが表2である(表を呈示)。この時F12は正常のものとarginineの入っていないF12を用いて実験した。各細胞夫々2回の培地交新時のserumless培地中のAFP、ALB産生量を示した。表から明らかなようにAFPはserumlessにすると明らかに産生が認められるようになる。おしなべてarg-培地の方が産生が高かった。
 (3)以前からAFP、ALBの産生が、4NQO処理時に認められることを報告してきた。発癌剤も含め何らかの刺戟で之等蛋白の産生が誘導されると想定して以下の条件で実験を行った。4NQO処理、AFB1処理、Phenobarbital処理、benzo(a)anthracene処理、cAMP 5mM +thephyllin 0.1mM処理である。これら処理後培養を続け、培地は3回の交新時のもの迄測定した。
 結果はBC細胞で4NQO 10-6乗M処理した時にAFP 23ng/mlの産生が、DL1細胞aflatoxinB1 0.32μg/ml処理した時にAFP 21ng/mlの産生が認められた。その他の処理ではすべてAFP、ALBの産生は認められなかった。発癌剤がこれら蛋白に何らか関与しているらしいこと、普通のenzyme inducer処理では本蛋白はinduceされないことが判った。今後更に別の条件でのAFP、ALB産生を測定する計画である。

《乾報告》
 MMNGを使用したハムスター繊維芽細胞のFocus Assayの試み:
 コロニーレベルでのTransformationには、Colonyの判定の問題、播種細胞数に比して、Transformation Rateの異常に高いこと等の問題がある。3T3、或いは10T1/2等、Contact inhibitionの非常によくかかる細胞を使用して、Focus形成を指標に、細胞の悪性化に関する研究がなされているが、これらの細胞はいづれも正常細胞でなく、又細胞系の維持も困難である。
今回Transformaed細胞の血清要求性を選択の指標に、Hamster Fibroblastを使用して、Focus Assay Systemを検討したので報告したい。
 実験方法と材料;
 実験材料として、培養3代目のHamster Cellを使用し、1万個/mlの割合でTD-40に播種後、24時間、5〜50x10-7乗MのMNNGをMEM+10%中で3時間作用した。3時間後MNNGをHanks液で洗滌、正常培地で培養を3日間続けた。培養3日目、それぞれの細胞を、血清1.2、2.5、5、10、20%添加したMEMに浮遊し、5,000コ/6cm dishシャーレに播種、同培地で、週2回Medium Changeを行ない、5週間培養を継続、固定、染色後、形成したFocusを算出した。
 結果;
 MNNGを投与した細胞の5週間培養後形成されたFocusを次表に示した(表を呈示)。血清濃度1.2%ではFocusは形成されなかった。2.5%血清添加では、1x10-6乗M、5x10-6乗M MNNG投与群で、Focus形成がみとめられたが、形成率は非常に低かった。10、20%血清添加群ではFocus形成は著明に増加するが、対照群にもFocusが形成された。
 5%血清添加群では、対照群ではFocusは形成されず、MNNG投与群で0.40、0.33、0.33ケのコロニーが形成された。以上の結果より血清濃度5〜10%で適当にSelectionすれば、HamsterCellによるFocus Assayが可能であるかも知れない。

《榊原報告》
 §培養肝細胞の細網繊維形成:
 7月の班会議で、正常ラット肝由来上皮様細胞株11のうち、唯一の例外を除いてすべての細胞株が鍍銀(又は細網)繊維を形成することを報告した。その例外はRLC-10(2)であるが、この細胞株は可移植性があり、“正常"とは云えないにせよ、微細形態学的に肝実質細胞の特徴をよく備えているとのことであり、しかもクローン化されている。今回は結果の再現性をRLC-10(2)について検討すべく、Giemsa染色標本からの戻し鍍銀染色ではなく、タンザク上に培養された細胞を経時的にメタノール固定し、直ちに鍍銀染色をほどこした。其の結果は案に相違して、培養32日目の標本で明らかに細網繊維が染め出された(写真を呈示)。繊維の形成は他の場合と同じく、局部的に始り、次第に培養全体へと拡がってゆき、結節を取り囲むようなパターンをとる。
 一方、cloneBCのsister cloneBBが、最近になって膠原繊維形成陽性となったことも報告したが、培養初期に果して繊維形成がなかったと云えるかどうか、改めて疑問に思い、梅田先生にお願いして、凍結されていた培養18代目のBBcellをいただき、タンザクに播いて44日間培養後、鍍銀染色を行った。その結果、非常に限局された部分のみではあるが、細網繊維は矢張り形成されていた(写真を呈示)。但し最近のBBcellと異って繊維の所謂、膠原化は認められなかった。
 又、7月の班会議では結果を示すことのできなかった、横浜市大で樹立された肝細胞クローンDL1-20についても、細網繊維形成は明瞭に示されたことを附記しておく。
 前回及び今回のデータから、少くとも細網繊維形成能に関する限り、肝由来培養上皮様細胞株は凡てこれを有していると想像される。そして検索した株の一部は、細網繊維のみか膠原繊維をも形成する。細網繊維は正常の肝組織Disse腔に常在するが、何らかの機転でこれが、膠原繊維にまで発育、増加を続けるようになった状態が、肝繊維症であり、構造の改築をきたす迄に進展した状態が肝硬変症である。肝細胞によるコラーゲン蛋白産生の調節機構が、In vitroの系で解明されるなら、肝硬変症のpathogenesisも明らかになるであろうし、ひいては治療法の開発にもつながりはしないかと、想像は飛躍せざるを得ない。

《山田報告》
 細胞表面の性質と染色体との関係を解析するために、正常ラッテ肝由来のうち、Marker chromosomeの出現したRLC-21株のcolonial cloning株を多数作り検索中です。いまだ途中ですのでデータのみを報告します(図を呈示)。


編集後記


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