【勝田班月報・7701】
《勝田報告》
 あっと云う間に1年が経ちましたね。その間にどれだけの仕事ができたか、省みると誠に恥しい次第です。
 急がなくても良いけれど、今年こそ何とか良い成果をあげたいものです。
 今年は5月19、20日と川崎医大で、木本・難波組により組織培養学会が開かれます。盛会であることを望むと共に、我々の発表の準備も着々とやっておかなくてはならない時期です。 6月には当研究所で当研究部担当の談話会があります。9月26日は小生が担当で組織培養学会を開き、翌27日に国際シンポジウム“Nutritional Requirement of Mammalian Cells in Tissue Culture"というのを開きます。アメリカから4人を招待する予定ですが、そのうち、NCIのDr.K.K.Sanford、アルバート、アインシュタインのDr.H.Eagleから出席する旨返事がありました。あとはDr.WaymouthとDr.Hamの返事を待っているところですが、こちらは目下金を集めるのに悪戦苦闘です。

《山田報告》
 今年は学会関係其の他の事柄で大変多彩な年になりさうな感じがして居ます。なんとか努力によって乗り切りたいと思って居ります。
 新しい大学に赴任し、教室を作り始めてからもう四年目になりました。もう仕事が思う様に進まないとは云えません。漸く細胞培養も調子よく行く様になりました。
今年の計画は
 1)ラット肝細胞のin vitroにおける染色体の変動と細胞電気泳動的性格の関係の仕事をしあげたい。
 2)CytochalasinBの作用機序、特にConAの作用との比較、多核細胞出現に伴う膜の変化を解析したい。
 3)Muntjac細胞の染色体をなんとか採取し、その電気泳動的性格を調べたい。
これらの検索をしながら、細胞変異、特に悪性変化に伴う変異の本質を考えて行きたいと思って居ます。
 また、今年こそは一昨年から訳していたBorst著“腫瘍の病理学"(1902年刊)を出版したいと思って居ます。この獨逸語の著書は現代の腫瘍病理学の最も基本となったもので、癌とは何か?と云う現代でも未解決の問題を最も基本的に解析したもので、むしろ哲学的な著書です。

《高木報告》
 昨年一年一応仕事はつづけたつもりでしたが、結果らしい結果はえられず、反省の材料ばかりです。今年こそは“カケ声”だけに終らぬように頑張りたいと考えております。
 今年は2つのprojectをかかげてみたいと思います。
 1.ヒト胎児細胞の変異に関する研究
昨年度からヒト胎児の培養細胞を用いて、これにEMS、MNNG、4NQOを作用させ、細胞の変化を観察してきたが、今年度もこの仕事をつづけてみたい。まず繊維芽細胞を培養し、これに上記諸薬剤を作用させて、
1)無制限の増殖性を有する細胞。
 2)クローニング効果のよい細胞。
 3)低血清培地で増殖する細胞。
 4)soft agarで増殖する細胞。などをとることにつとめる。
そしてsingle stepのmutationで、これらの内の少なくとも1つの性質をもった細胞がとれるかどうか、とれるとすればその頻度はどうか調べてみたい。さらにこれらの性質をもった細胞をmutationで順にselectすれば癌の性質をもった細胞がとれるかどうか検討したい。さしあたり、No.7612で書いた2)の性質をもったcloning efficiencyのよいと思われる細胞が増殖しはじめたので、これにつき検討して行きたいと考えている。
 2.膵ラ氏島細胞の長期培養の試み
 昨年度はラ氏島細胞“がん化"の試みの一端として、ラ氏島細胞の分裂促進物質について検討したが、現在までの処、実りある結果はえられていない。兎も角細胞株がえられねば仕事は進展しない。本年度はまず、正常ラ氏島、insulinomaを問わずfunctioning B cellsの長期間の培養に努力したいと考えています。

《梅田報告》
 さて本年の抱負を考えてみますと、やることの多い割に身の動きがますます制限されそうな感じもあり、重点的に仕事をしなければと思っています。
 まず第一の課題としては定量的培養内発癌実験の系のルーチン化です。長くこの問題に足をつっこんできたのですが、データの出るのが遅いこと、他の実験の忙しさにまぎれて今迄遅々とした歩みであったと反省しています。本年は少なくとも使用する細胞、血清の問題で何か結論を得たいと考えています。
 第二は広い意味での細胞の体質といったものです。以前から突然変異を起し易い細胞があるのではないか、そのような細胞は8AG耐性の場合はHXのとりこみが始めから低い細胞でないかと主張してきましたが、この考えからtransformし易い細胞があっても良いと考えています。これを何とか証明したいと思っています。一方でC14-BPの代謝の問題で人の肺癌になり易い体質をリンパ球培養を使って検索を進めていけたらと計画しています。
 第三はラット肝上皮細胞培養ですが、この方は何かの刺戟で肝らしさを発揮してくれることを期待して実験を進めたいと考えています。他面肝の機能の一部でもその機能を持ったcloneを取り出して有効に使うことを企てています。
 その他mutationの実験、初代培養細胞を使っての各種化学物質の毒性checkなど続けていくつもりです。

《乾報告》
 年月の経つのは早いもので、私48年4月にタバコ屋へ移りましてからこの3月で満4年になります。就任早々より今年こそは、今年こそは、仕事をしても叱られない所へ移りたいと願いながら4回目の正月を迎えてしまいました。今度こそは今年こそはが本当になることを祈る気持です。
 仕事の方は、梅田先生にヒントを頂き勝田先生の御指導で手掛けたTransplacental in vivo-in vitro combination chemical carcinogenesisの仕事が3年目を迎えてしまいました。昨年は定量的のあつかいが楽なMutationに力をそそいてしまいましたが・・・。本年は、この系がどれだけの化学物質に適用出来るか?。動物実験での標的臓器とこの系の反応の関連は?。又この系のtransformed colonyの造腫瘍性は?。等の問題に終止符を打つべき努力致します。
 昨暮もつまりましてから、母体にPCB、Phenobalvitalを前処理することにより、同系の感度が1オーダーは少なくても上ることがわかりました。近いうちに御批判を得たいと思っております。

《榊原報告》
 “復元接種試験法の検討”という大きなテーマを頂きながら、昨年は肝細胞の繊維形成の問題にかかり切って何もできませんでした。今年は本来のテーマに戻っていささかなりとも成果をあげなくてはならないと思っています。だが考えてみると、in vitroに於ける癌化の同定手段が可移植性テストをおいて他にないという現状こそ、癌研究の行き詰りを物語るものではないでしょうか。可移植性とは癌である為の十分条件であり、確立された実験系として要求される性質ではあっても必要条件であるという保証はなく、そのテスト方法、成績判定基準も一定でないように思われます。いかに精密、定量的に行われた試験管内発癌実験も、大詰めに来てこうした未知の要素が複雑にからみ合うbioassayに持ち込まねば物が云えないことは、誠に歯がゆいことではないでしょうか。十分条件が充たされることによって、少くとも癌でないものを癌とするおそれはなくなるわけですが、一方癌を見逃す危険のあることを意識したいと思います。
ともあれ、癌細胞同定法としての可移植性テストが不用になる時は、恐らく癌の問題は解決している筈だと思えば、それ迄は何とかしてこれを改良し、精度の高いものとする努力が必要かと考えています。

《難波報告》
 38:ラット肝細胞(RLC-18)の培地更新後のグリコーゲン出現の経時的変化
 5万個cells/60mm plate 5ml MEM+10%FCSの培地でまき、6日後(400万個cells/plate)この使用した培地2mlを捨て、新しい培地2ml追加(全体の培地中のグルコース濃度を1mg/mlになるよう調節)以後経時的にグリコーゲンを定量したのが次のグラフである(図を呈示)。細胞内へのグリコーゲンは急速に蓄積し、以後減少する。シャーレ当りのグリコーゲン量は12時間目から72時間んでほぼ一定の値を示した。その間細胞数は24時間目850万個/plt.、48、72時間目では1,000万個/plt.であった。
12時間から72時間に亙って、シャーレ当りのグリコーゲン量が一定なのは、1)グリコーゲンの新生と解糖のバランスがとれているのか。2)グリコーゲンの解糖が止まっているのか、検討を要する。
 39:静置および回転培養したラット肝(RLC-18)の電顕像:
培地更新後では静置培養に比べリボゾーム顆粒が急速に増加する。
 月報7612にRLC-18細胞のグリコーゲン顆粒の出現は細胞密度に依存し、密度が低い方が高いときに比べグリコーゲンの出現はよいことを報告した。
 そこでグリコーゲンの出現するような機能を細胞が示すことのできるような培養条件、培地更新を行なうという条件の下で細胞を静置培養と回転培養し、培地更新後、経時的(0、2、6、12、24時間目)に電顕で観察した。細胞はプラスチックのカバースリップの上に生やし、そのまま包埋し、切った。結果は(写真と表を呈示)、ラット肝細胞(RLC-18)培地更新後2時間目、リボゾーム顆粒が著しく増加している。時間を追ってみると、回転培養ではリボゾームは2時間目に顆粒の増加が著明、6時間目には増加したリボゾームは減少し、その後は変わらず。グリコーゲンは0時間にはほとんどないが、6時間目にはよく出現していて、以後はそのまま陽性。静置培養ではリボゾームは著変なし。グリコーゲンは、0時間にはほとんどないが、2時間目には出現し始め、その後は陽性。
 ミトコンドリアはそれほどの変化を示さなかった。()

編集後記


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