【勝田班月報・7702】
《勝田報告》
 §当研究室で保管している培養細胞株及び亜株:
 それらのInitial day of culture、Origin、Medium、Tumorigenicityについての一覧表を呈示する。無蛋白無脂質完全合成培地継代株20株、血清添加培地継代株42株、合計62株である。

《難波報告》
 40:各種化学発癌剤の及ぼす正常ヒトリンパ球のクロモゾームの変化
 培養内で容易に癌化するマウスの細胞と、癌化しがたいヒト細胞との両者に対する4NQOの反応性の差違を検討した結果、1)細胞増殖阻害度、2)DNA、RNA、蛋白合成阻害度、3)細胞内への4NQOのとり込みと、4NQOの細胞内残存率などの点においては、両細胞間に差がなかった。しかし、4)4NQOの処理後のDNA修復合成能、5)クロモゾームの変化の2点において、両細胞間に著しい差がみられた。すなわち、ヒト細胞はDNA修復合成が良く、クロモゾームの変化が少いのに、マウスの細胞では修復合成が悪く、クロモゾームの変化が多かった。
 いま化学発癌剤による細胞の癌化の機構を考えるとき、上記の1)、2)、3)の条件の上に、さらに4)、5)の要因も加わらなければ細胞の癌化がおこらないと考えると、ヒト細胞の化学発癌剤による発癌実験を成功させる要因としてつぎの点を考えることが必要となってくる。 a)ヒトのクロモゾームの変化を高率におこす発癌剤
 b)クロモゾームの変化のおこりやすい細胞
 c)クロモゾームの変化をよくおこす培養条件
 今回は各種の化学発癌剤の、正常なヒト由来の末梢血リンパ球のクロモゾームに及ぼす変化を調べた。4NQO、MMS、MNNG、DMBA、BPについては、以前の月報で報告した。リンパ球の培養法は月報7505に記した。
 この報告の結果は、現在までに調べた薬剤の内で、4NQOより強くクロモソームの変化をおこす薬はなかった(表を呈示)。参考までに、4NQOは観察したmetaphasesの10%程度のmeta-phasesにGap、Break、Dic.などの変化を生じた。

《高木報告》
 ヒト胎児細胞の変異に関する研究
ヒト胎児細胞にEMS、MNNG、4NQOなどを作用させて変異を研究するにあたり、モデル実験としてRFLC-5/2(ラット胎児肺由来繊維芽細胞のclone)を用いて仕事をすすめている。
この細胞のplating efficiencyは100コの細胞を60mmのFalcon Petri dishにまいた時に約60%である。100/dishのcell densityで植込み、これに各種濃度のMNNG、EMS、4NQOを2時間作用させた後、Hanks液で充分に洗い、Killing Kineticsを求めている。これらの濃度におけるKillingの効果を調べた上で、TD40に植込んだ細胞に各薬剤を作用させて6日間のreco-veryとexpression timeをおいた後、さらに10〜100万個cellsをplatingして6TG耐性細胞の出現を観察する予定である。
また先の月報7612に書いたように、ラット由来のSRT細胞を培養259日目にMES 10-3乗Mで4日間処理し、さらに284日目に同様に2回目の処理をしてその50日後にCCB 2μg/mlを作用させ、無処理の対照細胞との間の多核形成能の相違を観察した。結果は(図を呈示)図の如く、多核形成能は対照細胞と殆んど変りなく、2核の細胞がもっとも多く、3、4核細胞もみとめられた。さらに培養を継続中であるが、復元成績についても培養385日目の現在検討中である。 次にこれから発癌実験を行なうにあたり、処理したヒトの細胞をATS処理ハムスターに接種して造腫瘍性をみるため、ハムスターのthymocyteでモルモットを免疫して抗血清を作った。方法は榊原氏法によった。免疫後にえられた抗血清の、ハムスターthymocyteに対する抗体値をCr51-release testで行なった。方法は次の通りである。
 1) 800万個/mlのハムスターthymocyte浮遊液3mlに100μCiのCr51を加えて、37℃で90分incubateする。この際の培地としてはMEM+10%FCSを用いた。
 2)終って5分間氷水中で冷却する。
 3)PBSで3回洗滌し1000rpmで5分間遠沈する。
 4)RPMI1640で再浮遊し、4℃で30分間放置する。
 5)ハムスターthymocyte 40万個/mlに調整し、この浮遊液0.5ml(20万個cellsを含む)と2倍段階稀釋したATS 0.5mlを混じ、さらにそれにモルモット血清(補体)0.5mlを加える。
 6)各試験管を60分間37℃でincubateする。
 7)これを遠沈し上清を1ml採取してその放射活性をwell typeのscintillation counterで測定する。かくしてえられたCr51-releaseと稀釋抗血清との関係は図の曲線の如くであった。50% Cr51-releaseは512倍稀釋で抗体価としては充分と思われたので採血して凍結保存している(図を呈示)。

《山田報告》
 CytochalasinBの細胞表面に与える影響について、JTC-16を用いて検討しました。Cyto-chalasinB(CB)0.5〜1.0μg/mlを培養メヂウムに入れて、その増殖能を細胞数の増加により検索すると、明らかに増殖抑制がみられました(以下、夫々図を呈示)。しかも、7〜8日目にはむしろその数の減少が若干みられ、それは1.0μg/ml CBにより、より著明でした。このCBによる多核化をみると、細胞の大きさが4日目より増加し、5〜7日には対照とくらべて二倍以上の細胞が50〜60%も出現しました。(これは二核、多核化に伴う細胞容積の増加と考えられますが、現在のaliquotの細胞を染色して検討中です)。
この細胞の大型化(多核化)に伴う細胞のE.P.M.の変化をみたのが、図2ですが、CB処理群では明らかにE.P.M.の減少がみられました。
しかしCBの溶媒であるDMSOでは著しい影響はない。このCBによる変化は、その増殖抑制による二次的な結果であるのか、あるいは多核化の進行に伴う変化であるのか次に検討したいと思いますが、この成績のみでは、この点がはっきりしません。
次にCBを培養メヂウムに入れて培養した後、経時的に採取した細胞に二次的に、ConA及びNeuraminidase処理した後のE.P.M.の変化をみました(図3・対照、図4、図5)。
現在まだその成績の整理が充分出来て居ませんが、0.5μg/mlのCB処理細胞をみると、CB処理後大型化の経過中の膜はConAに対する感受性が昂進して居る様な感があります。
Neuraminidaseに対する作用は、はっきりしません。さらにこの膜の変化を解析する実験が必要と考えています。次回に続けて検討してみたいと思います。 

《梅田報告》
 Filter cultureについてその後のデータと考えていることを報告する。
今迄FM3A細胞が8AG耐性を獲得する実験のためにfilter法を開発したつもりであるが、すべて3.5cm径dishを使用していた。すなわち、8AG耐性コロニーをみる実験にも3.5cm径dish中の8AG agarose plate上にfilterを置き、100万個cells overlayしていたことになる。この時どうも数日培養で培地が非常に黄色くなっている、すなわちpHが下っていること、が気になっていた。そこで6cm径のdishを用いて実験を繰り返してみることにした。
 そこで(表を呈示)表のようにMNNG 10-5.5乗M 2日間処理した細胞と処理しないcotrol細胞とをtransfer scheduleを変えて、12日目にfilterを固定染色してfilter上のコロニーを数えた。MNNG処理したものでは(A)、(B)、(C)群の差は無いようにみえるが、control細胞の方では頻回にtransferした(C)群が一番colony数が多いことがわかった。
 これは今迄考えていたのと逆の結果である。すなわち今迄はtransferの回数が少ないと8AGの活性が徐々に落ちるので、耐性でない細胞がうまく生き延びてcolonyを作る可能性があり、大小様々のcolonyを沢山作るのであろうと考えていた。今回の結果から考えられることは、そうではなくて8AG agarose plate上に100万個の細胞も播くので2〜3日液交換を行わないと、まだ殺されていなかった細胞が代謝をまで行っていて、全体として栄養不足になり細胞が殺される。逆に(C)群のように始めか頻回に液交換を行なっていくと、細胞はだんだん死んでいくので栄養不足になることなく、耐性の細胞はそのまま生き残るという可能性である。MNNG treated cellsはviabilityが始めから低いわけであるから、100万個の細胞をまいても1.2万個cellsしか生きた細胞を播かなかったことになる。因に、controlの方はPEが24故、24万個の生きた細胞をfilter上にまいていることになる。
 以上のことはmetabolic cooperationという考え方にも疑問をなげかけるようなので、さらに実験を繰り返し行ってみる計画である。

《乾報告》
 1)放射線によるin vivo-in vitro combination carcinogenesis(予報)
 放射線によるin vitro carcinogenesisは、Barek一派のみが、Hamster embryonic cellsとCBH 10T1/2mouse細胞で報告しているが、他の研究室での追試が成功していない。ここ二三年、化学物質で広くMorphological transformtioninが起った我々の系でvivo-in vitro combinationで、放射線によるTransformationを化学物質によるtransformationの解析と共に試みているので、第一段階を報告したい。
 妊娠11日目のハムスターに、全身照射でCO60を250r、500r、1000r、照射し、24時間目全胎児を摘出培養、24時間目に染色体標本製作、培養開始後48時間、72時間目の細胞を8-アザグアニン含有培地に再播種、72時間〜12時間目の細胞をシャーレ1ケ当り、5000個で播種trans-formed colony出現迄培養した。
 化学物質の場合に反して培養24時間以内では染色体はほとんど観察されなかった。現在培養時間の延長を行なっている。8AG-耐性突然変異は、(表を呈示)表の如く著明に出現した。突然変異コロニーは250rで出現し、500rでAF-2 40mg/hamster投与の場合とほとんど同様に出現するが1000r照射ではかえって出現が減少した。
実験に使用したHamsterの例数も少なく、又投与Doseも、3段階で充分とは云えないが、放射線大量全身照射で8AG耐性突然変異は誘発された、(1000r照射で変異細胞の出現率が低下するのは細胞の生存率の低下によるものと考えている。)
 Morphological transformationは、一部のシャーレを培養後10日目固定したが、わずかに変異コロニーが観察された。現在大部分のシャーレの培養は継続中であるので、次回の班会議では御報告出来ると思う。
 2)Tupaia belangeriの培養
 昨暮、勝田先生、山本正先生のお骨折りで、西独のBattele研究所よりPrimateで一番下等で、しかもビールス感受性、Isoemzyme Pattern等が同綱の中で一番人間に近い、体長20cm位の猿を一匹輸入していただいた。同猿は妊娠後期のもので、日本到着後10日目の12月8日に出産したが、出産仔は、9日、11日に残念ながら死亡した。
人間の細胞は御承知の様にTransfomationをしにくいので、そのモデルとして、これらの仔より肺、腎、肝、皮フ、心、脾臓の培養を開始した。出生仔死亡後、親が仔を大部分食べているので、こまかい染色体分析をしていない現在では♂♀は、わからないが、染色体数62でA〜G群に分類出来そうである(C群が少なくD群が多いと思われるが人間並に並べられそう)。現在培養後50日、F12+FCS 10%で培養したものが7代目に達し、どうやら培養出来相なことがわかったので、若い細胞をもどして、そろそろTransformationの実験にかかろうと思っている。
次回の班会議では、同細胞の今迄得たDataを御紹介する予定でいるが、Life Spaneは、in vitroである臓器とない臓器由来細胞があるようである。

《永井報告》
 今年は勝田先生が医科研で過される最後の年に当りますが、先生の御研究のまとめの成就と、これを一里塚として、今後益々御研究の上で新境地に進まれますよう期待する次第です。
 私はこれまで、勝田先生の御仕事のうち、毒性代謝物質の化学の方を担当してきましたので、この方向の仕事を今年中に或る段階にまではもってきたいものと念じています。精製単離については数種類の物質の混合から或る分劃まで追いつめて来ていますが、最後の単離のところで、奇妙な現象が起って、腰くだけになってしまっているのが現状です。これを何とかして乗り越えたいというのが願いです。物質の同定の仕事は、一歩一歩進まなければならぬことから成っているのが、泣きどころです。

《榊原報告》
 これ迄、30系統を越える肝臓由来の上皮様細胞株につき、in vitroでのcollagen形成の有無をしらべ、その結果がpositiveであることを報告したが、これらの細胞は、 (1)所謂established cell lineであること、(2)少くとも現時点では肝特異的分化機能を失っていること、などから、その結果を以て正常肝実質細胞の機能とすることは早計かとも考えられた。そこで今回は、培養開始後3ケ月ならびに4ケ月目の上皮様培養肝細胞について、鍍銀繊維形成をしらべ、また現にrat albuminを産生しつつある3つの肝細胞クローンにつき、これを60日間confluent cultureしたのち、鍍銀、Mallory-Azan、弾力繊維の各染色を行い、かつ電顕敵観察を行った結果を報告する。
 1976年9月19日及び1976年10月15日に、それぞれ乳呑みラット肝からdispase消化法で培養が開始された細胞は、各々RLn-2、RLn-3と名付けられている(癌細胞学研究部・新田さんより分与された)。細胞は定型的な上皮様形態を示し、島状に増生する。これらを1977年1月6日よりタンザク上に播き、21日間培養の末、型の如く鍍銀染色を行った。(写真と表を呈示)写真1は培養3ケ月目のRLn-2であり、明らかに繊維の形成がある。4ケ月目のRLn-2にも同様の所見が認められた。
次にBCの35代目、BBの20代目、そしてDL1-5の3つのCloneにつき、3日間培養したのちの培地を北大生化学教室の塚田助教授に送り、Albumin、α-fetoproteinの有無をしらべていただいた。表1がその結果である。AFPはどのcloneもnegative、AlbuminはBB、BC、DL1-5のみが陽性とのことである。なお、培地の濃縮は行なわれていないそうである。これらを60日間、subcultureなしで培養下のち、光顕、電顕的にcollagenの有無をしらべたが、やはり陽性であった。弾力繊維は認められなかった。
さてこうした結果に対し、特に培地成分が影響を及ぼしているとの証拠はもたない。写真2に示す通り完全無血清培地(DM160のみ)で培養されているM・P3はかくの如く旺盛に繊維形成を行なう。皮下の繊維芽細胞の作る繊維とは、比較にならない程量的に多いようである(写真3はRSC-5の鍍銀染色像)。培養のoriginであるratのageも、胎児からadultまであって、とくにcollagen産生と関聯づけられるものはない。

編集後記


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