【勝田班月報・7704】
《勝田報告》
 Muntiacus muntjak(ほえじか)
これはインドホエジカとも呼ばれるが、染色体数が♂7本、♀6本という、細胞学者にとってはこたえられない動物である。
 第1回の培養は、1976-3-3:♂より血液細胞、耳、内股皮下組織であった。
 第2回は1976-8-15:死産した胎児を動物室で凍結してしまった。8-21にそれをとかして培養したが、やはり増殖はおきなかった。
 第3回は1977-4-4 am11:40出産。4-5 pm2:30新生児をネムブタールで眠らせて開腹;心、肺、胸腺、膵、胃、膀胱、脾、胸骨、皮下の諸組織をとって培養に移した。恐らく、♂と推定される。材料の分配は班員に限った:梅田、榊原、乾、加藤、永井、山田、勝田であった。同日夕方、親の♀は死亡した。親♂は返還するように手配した。腎は上皮様の細胞が活溌に増殖している。これはすぐにも実験に使える。胃はbacterial contaminationを起してしまった。脾は形質細胞様の形態を示す細胞がふえている。胸腺は細網細胞様の細胞が増殖している。肝は残念ながら大変のぞみ薄である。
 §合成培地DM-160に最近駲化した細胞株について:
 1)JTC-27・P3株:
 これはラッテ腹水肝癌AH-601由来のJTC-27株が原株である。1972-5-12に、血清を含まないDM-160に移した。血清を除いてから初期2年間はほとんど増殖がみられず、第1回の継代は1973-5-19、第2回は1974-7-24。その後徐々に増殖率が上昇し、現在30代で、形態的には原株と似て、上皮様のcell sheetを作る。Piling upも見られる。
 2)M・P3株:
 ラッテ肝由来で[なぎさ+DAB]変異株Mが原株である。原株はDABを高度に代謝消費する。1973-11-19に血清を除いて現在21代。形態は、よく揃った上皮様の細胞で、密集したCell sheetを作っている。
 3)RLC-10(2)・P3:
 原株はラッテ肝由来のRLC-10(2)で、現在まで約1年半継代。継代10代でまだDM-160に充分駲化したとは云えないが、確実に増殖し、継代も順調に進んでいる。
 4)CulbTC・P3:
 原株はCulbTC(ラッテ肝−4NQOで悪性化)で、RLC-10(2)と同日に無血清培地にきりかえたが、RLC-10(2)より駲化は難しく、現在までに6代しか継代していない。継代直後に死ぬ細胞が多い。
 この4種の株に共通して云えることは、血清培地内継代の原株との間に形態的変化がほとんど無いことと、増殖率が原株より低いことである。

《乾報告》
 Zupaia細胞の2、3の性質について;
 昨年12月11日に、培養を開始したZupaia新生児由来細胞(肺、心、腎、皮フ)が現在約100日(12〜15代)培養されている。
 培養はHamF12培地+10%FCS、Dulbeccos MEM+10%FCSで開始したが、前培地では培養開始後90日前後(10〜11代目)で増殖がおとろえ核/細胞質比が減少し、累代培養が不可能になった。同培地条件ではAgingがあるものと考え現在4代目の細胞をもどし再実験を開始した。これに反し、Dulbeccos MEM培地で培養細胞は、今日も順調に増殖している。この細胞の肺由来細胞(Zp/Lu M1211)9代目について、人間、ハムスター、マウス細胞との種々の性質の類似性、相似性を検索中であるが、本報告では、8-アザグアニン(8AG)ウアバイン耐性、MNNGによるウワバイン(Oav)耐性突然変異誘導の一部のData(整理済のみ)を報告する。
8AG耐性は当研究室の常法にしたがい、50万個cells/dish播種後初めの3日間は毎日、以後3日間隔で8AG含有培地で培地交換を行ない20日培養した。(表1、2、3を呈示)
表1に示すように、Zupaia細胞は8AG感受性について、ケッ歯類細胞と大幅に異なっていた。
 一方同様細胞をシャーレに播種後1週1回の培地交換を行ない、1ケ月間培養後固定、細胞観察を行なった結果を表2に示した。Zupaia cellは、ウワバイン(Oavaine)に対して非常に感受性が強い(人間は1x10-6M)。
次にZp/LuM-10 Zp/He M-10(心由来細胞)を使用、MNNG投与後のOavaine耐性突然変異を観察した(Expression time 72h)。表3から明らかな様にZupaia細胞は、MNNG投与により誘発突然変異率は究めて少ない(同濃度MNNG投与によるHamster細胞のそれは10〜40倍であった)。又心起原細胞ではMNNGによる突然変異はみられなかった。現在難波氏より分与された人間の細胞も使用し、各種発癌剤に対する反応等を検索しているが、ある種の化学薬品については人間に近い反応を示し、又ある発癌剤にはケッシ類に近い値を示している。Data整理の上報告するつもりであるがケッ歯細胞より人間のモデルになりうる細胞系でああることを期待している。

《難波報告》
 42:培養ラット肝細胞(RLC-18)のグリコーゲン合成
 月報7611、7701、7703にRLC-18のグリコーゲン合成を報告した。現在までに得られた結論はRLC-18のグリコーゲン合成は、細胞密度に依存し、細胞密度の低い方が高い場合に比べ、細胞当りのグリコーゲン合成能が高かった。
 そこでRLC-18細胞を細胞密度を低くして培養し、培地を更新し、細胞にグリコーゲンのよく出現するまで(約5時間)のRLC-18細胞のDNA、RNA合成、培地の中のグルコース消失を、培地を更新しない培養(この場合はグリコーゲンは出現しない)と比較した。また細胞密度の低い場合と高い場合とでは、それらの培地更新によってDNA、RNA合成、グルコース消失が、どのようになるかを検討した。(蛋白合成は検討中) その結果は図1、2、3に示すように
1.培地更新後のRLC-18細胞では、更新しないものに比べRNA合成の点で、著明な差がみられ、更新後のものでは、1時間よりRNA合成は高まった。培地を更新しなければRNA合成は高まらなかった。このRNA合成の上昇とグリコーゲン合成とは一致する(図2)。
2. DNA合成は、更新後5時間以内では、培地の更新に無関係であった。すなわち、DNA合成とグリコーゲン合成とは関係なかった(図1)。
 3. 細胞当りのDNA、RNA合成、グルコース消費は、細胞密度の低い場合の方が高い場合に比べ圧倒的に高かった(図3)。
4. 細胞密度が高まると物質の細胞内へのとり込みが低下するようである。
 図1:培地更新後、1、2.5、5時間後、H3-チミジン(0.5μCi/ml)で30分ラベルして、その細胞内へのとり込みを液シンで測定。
図2:培地更新後、0、1、2.5、5時間後のH3-ウリジン(0.5μCi/ml)で30分ラベルしてその細胞内へのとり込みを液シンで測定。
図3:培地更新後、1、2.5、5時間目のグルコース消失を測定し、細胞当りに利用されたグルコース量を求めた。

《高木報告》
 ラット細胞(RFLC-5/2)の変異に関する研究
 前報につづきEMS 10-2乗M、MNNG 6.8x10-6乗Mを作用させた実験でEMS 10-2乗Mでは6TG耐性細胞はえられなかったが、MNNGについては60万個cellsにつきやっと1コの耐性colonyをえた。4NQOについてはこの細胞を100コまいた際のKilling Kineticsを調べ、1図のような成績をえた。(図を呈示)。これを参考にして耐性細胞の出現頻度を調べているが、いずれにしてもこの細胞では6TG耐性の出現頻度は可成り低いことがわかった。
 そこで薬物のKilling作用を抑えて、Mutationの相対的頻度を上げることはできないかと考えている。scheduled DNA replicationを抑え充分なrepairの時間を与えれば、survivorを増加する可能性があり、そのため血清濃度を下げた状態で薬物を作用させることも検討している。図2は血清濃度を1%に下げた場合のscheduled replicationの量を比較したものである。
 培養細胞に対するEMSの効果:
 昨年の月報に報告して来たように、培養70日目(E1)および266日(E3)のWKAラット胸腺由来繊維芽細胞に、EMS 10-3乗M1回、4日間作用させ、以後継代をつづけて来たが、これら細胞の可移植性につき生後3ケ月前後のATS処理hamsterのcheek pouchに移植を試みたので報告する。平均直径は、腫瘤の縦、横、高さ(mm)の平均である。実験1、2、3の3回いずれもEMS処理細胞の方が無処理細胞に比して大きい腫瘤を形成した。すなわち、形態、染色体数などでは差異は認められなかったが、可移植性はやや違うようである。これが有意か否か、さらに検討の予定である。(図を呈示)

《梅田報告》
 現在のわれわれの培養条件では、feeder cellの役割りは大きく無視出来ないものとなっている。しかしX-rayをかけることの煩雑さからなるべくfeeder cellを使わない実験が試みられているといっても過言でなかろう。すなわち、どうしてもfeeder cellを使いたい時も、使用する数日前から細胞を用意し、前日にX-rayをかけてから播種し、当日やっと培養したい目的の細胞をまくといった具合であるから、ルーチンにfeecer cellを使う所ならばいざ知らず、ちょっとためし培養の時などは用意の方が大変ということになる。
 そこでX-rayを照射した細胞を凍結しておいて、それを融解して使用した時も、feeder cellの役割を果すかどうか調べた。
 (1)先ずシリアンハムスター胎児細胞にX-rayをかけて、直ちに一定のinoculumでラブテックチャンバースライドにまいて4日間培養後、固定染色した。一方で同じ細胞をX-ray照射後常法によって凍結し、4日後そのアンプルをとり出して細胞を調整後ラブテックチャンバースライドにまいて、同じように培養後固定染色した。両者のスライドを観察した結果が表1である。顕微鏡観察するとfeeder cellは4日間培養で非常に大きくなるが、別の実験で増生させたハムスター細胞と比較すると、表の如く3倍、5倍の大きさになる。しかし凍結後使用したものは、凍結しなかったものに較べ明らかに小さい。細胞数は10x10の顕微鏡視野内の細胞数を20視野数えて平均したものである。1万個/mlまいた群でみるように凍結したものの方が却って細胞数が多く、X-ray照射後も細胞は凍結処理に対しOKであることがうかがえる。
 (2)同じようにシリアンハムスター細胞を使ってコロニーを形成させる実験を行った。X-ray照射後の細胞と、照射後凍結しておいた細胞を6,000ケあて6cmのシャーレにまき、さらに一日間培養後ハムスター細胞(未照射)を500ケまいて7日間培養した。培地はD-MEM+20%FCSを用いた。メタノール固定ギムザ染色後、コロニー数を算定した。コロニー数は表2に示す通りで、やや照射直後すぐに使用したfeeder cellを用いた方のコロニー数の方が多いが、使用したシャーレ数のこともあり、凍結がコロニー形成に悪い影響は与えていないように考える。実際にコロニーの大きさは両者差はなく、凍結した細胞もfeederとしての役割りに充分使用に耐えるものと考えられる。(表を呈示)

《榊原報告》
 §BC cloneによる可溶性collagen産生:
 BC clone 100代目のcell layerに於るHy-Pro及びムコ多糖の経時的変動については、度々報告してきた。この実験の際、spent culture fluidをpoolして保存しておいたが、このうち200mlから、アミノ酸自動分析機を用いて、directにHy-Proを定量することを試みた。
medium 200mlに、10%の割合でTCAを加え、90℃、60min加温したのち、遠心して沈澱を除去する。上清を透析tubeにつめてruning waterに対してTCAを除いたのち、rotary evoporatorを用いて乾固、6N HClを加え、110℃、24hrs加水分解し、再び乾固したものを、日本電子液体クロマト研究室に送ってアミノ酸分析を行って貰った。帰ってきたチャートから、WH法で全アミノ酸のmole数と1000残基中の比率を計算した。Hy-Proは、1646μmole、1000残基中約11.3の割合で含まれている。mediumは3日間cultureされ、500mlの培養びんを4本分であるから、細胞数は10の8乗見当である。cell layerに不溶性collagenとして沈着するものに比べて、かなり多くの量が可溶性蛋白の形でmedium中に分泌されていることが分った。ムコ多糖の量も検量線を作製し、そのものの値として算出できたので、この研究の最後のまとめに当るグラフを示す(図表を呈示)

編集後記


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