【勝田班月報・7705】
《勝田報告》
Tapping Cultureによる長期浮游培養
ラッテ腹水癌数種について検討した。
1)吉田肉腫はテストした細胞系の内では増殖率がもっとも高く、3日間で30〜50倍の増殖率を維持した。細胞密度の上限も最も高く、200万個/mlにまで達した。
2)AH-109Aは、しらべた腹水肝癌のなかでは安定した増殖率を保つ系の一つであり、細胞密度上限も70万個/mlである。
3)AH-66は増殖率も浮游状態も良好であるが、細胞密度の上限はやや低く50万個/ml。
4)AH-130は、細胞がガラス壁に附着する傾向があり、浮游細胞の細胞密度は低く、20万個〜30万個/ml。
5)AH-7974も硝子壁に附着する傾向が強く、浮游細胞も島を作っている。
これらの細胞系はラッテ腹腔内から採取した細胞を初代からTapping
Cultureで継代、現在5〜7ケ月間になるがほとんど増殖率の低下することなく増殖しつづけている。
写真は浮游培養装置で30、100、500ml容の最新式の水車型である(写真を呈示)。
《難波報告》
43:正常ヒト細胞の培養内癌化の指標
我々の環境中の多くの物質が、ヒトに対して発癌性をしめすかどうかを決定するための一方法として、培養された正常ヒト細胞の発癌実験が考えられる。
正常ヒト細胞の癌化の指標としてHayflickは細胞の、1)Indifinite
proliferation。
2)Abnormal karyology。3)Tumorigenesis in
immunosuppressed animals。の3条件を充たせば十分と考えた。しかし私はこれ以外の指標もあればヒト細胞の培養内発癌実験をさらに能率よく行うことが出来ると考えて種々の指標を検討した。
使用した細胞は正常ヒト胎児由来の細胞(繊維芽細胞と思われる)の4NQOで癌化したものである。対照としては、全胎児由来または、成人皮膚由来の繊維芽細胞で、出来るだけ増殖のよい細胞を用いた。
[結果]
1.形態変化:繊維芽様→上皮様細胞に変化。
2.増殖・分裂頻度・Doubling time:やや増加。
3.Suturation density:正常細胞は10万個cells/平方cm、癌化細胞は20万個cells/平方cm。
4.増殖に対する血清要求性:1%含血清培地で増加。5.Aging:なし。 6.クロモゾーム:Heteroploid。 7.寒天内コロニー形成性:あり。
8.CAMP:10mMでも増殖阻害なし。9.移植性:目下検討中
実際のデータについては5月の班会議で報告する予定。
《梅田報告》
Filter培養法でくだらない問題が生じ、もたついていた実情を報告する。
(1)その後実験を続けているうちに、どうもコントロールの細胞もコントロール寒天培地上のフィルターにコロニーを作らなくなったことに気付いた。すなわち8-azaguanine(AG)培地の選択がどの程度必要か調べる目的で(以下表1、2、3を呈示)表1の実験を行った。group1から4まではMNNG処理細胞を100万個フィルター上にoverlayした。このgroup1〜4のコロニー形成の結果は問題の多いものと思われるが、次のgroup5、6での結果がさらに問題が多い。
すなわちgroup5、6はMNNG処理した細胞を500ケまいた。この数は今迄の経験では、数10ケのコロニーを形成する筈の数である。結果でみるようにgroup5で数ケのコロニーしか、形成しなかった。
(2)上のようなデータが続くのでいろいろと吟味した所、フィルターのlotが変っていることに気付いた。以前から東洋ロシの製品は駄目で、Whatmanが良いとのデータは得ていた。そこで当然Whatmanのロシを使っていたのであるが、Whatmanの別々のロットのフィルターを証してみた。
すなわち表2に示す(a)から(g)の各lotの異なるWhatmanのglass
filterを0.5x1cm角に切り、FM3A細胞を入れた培地中に浮遊させて、培養し、2日後に細胞数を算定した。コントロールの培養の細胞数を100%として実験群の%growthをとると表2のように、lotにより増殖抑制を示すfilterのあることがわかった。Exp.1とExp.2でlot(e)は多少ばらつきはあるが、大よその結論は、lot(b)、(c)、(d)が特に悪いと思われる。因に表1の実験はlot(d)を用いて実験していた。
(3)その後は表2のlot(g)を用いて実験を行っている。やっとデータが又出始めたが、例えば、表3では8AG耐性と思われるクローンを拾ってinoculumを変えてfilter上にコロニーを作らせた結果である。Dose
responseのあるきれいなdataと云える。
《山田報告》
培養条件における肝細胞の増殖に伴う表面荷電の変化を細かく追求しました所、予期以上に、きっちりとした成績を得ました。ラット肝癌培養細胞(JTC-16)及び、肝由来細胞で長期培養状態で自然に悪性化したRLC-18、そして現在の所Tumorigenicityが認められないRLC-21について増殖率、細胞電気泳動度、そしてconcanavalineAに対する反応性を経時的に検索した結果を図1、2、3に示します(図を呈示)。
その結果を整理すると以下の様になります。
1)植込み直後から1日目では、細胞調製に伴う恐らく細胞表面の変化(損傷)の影響が出現し、一過性に荷電密度が高まる。これは、その細胞系の性質と表面損傷の程度に応じてかなり異る。(この状態は薄いトリプシン処理後にDNA合成が高まると云う従来の知見と一致する)。
2)悪性化細胞株ではfull sheetになった後もなほConAに対する反応が著しく起るが、非癌細胞ではfull
sheetになると、直ちにConAの反応性が低下し、荷電密度も低下する。このことは恐らく良性細胞のcontact
inhibitionの現象が、その表面荷電の面でも表現されると云うことでないかと考えられます。
《乾報告》
Sanders(1968)以来、非癌原性物質である2、3級アミンと、亜硝酸がpH2〜3の条件でニトロサミンを生成することが知られ、又この反応は生体内(胃内)でも進行されることが報告されている。しかし、現在ではそれらニトロサミンを含む、反応生成物の癌原性の有無を生体でテストするためには、2年余の動物実験が必要である。従来我々がおこなっており再三報告して来た経胎盤試験管内化学発癌の系はN-ニトロソ化合物によく反応する。
今回2種以上の非癌原性物質の早期テストの一方法として、経胎盤法が使用できるか否かを確めるための予備実験を行なった。
第1段階テストとして、ハムスター胃内でアミンとNaNO3でニトロソ化合物の生成をみた。成熟ハムスター雄を使用し、エーテル麻酔下で開腹胃幽門部(12指腸の胃接続部)を軽く結紮し、胃ゾンデを使用してNaNO3
150mg、モルホリン150mg混合生食水を胃内に注入、直ちに食道基部を結紮し、一応開腹部をとじた後、30分、1時間後に屠殺、直ちに大湾に沿って胃を開き、胃内容物を5mlの生理的食塩水で洗い出し、-20℃で凍結した。一部については内容物摘出後の反応を完全に停止するため、300mg/5mlのスルホン酸を含んだ生食水で内容物を洗い出した。対照としてNaNO3
150mg、モルホリン150mg投与後、無処理胃内容物を使用した。
ニトロサミンの生成は国立衛試谷村研と共同で行ない、高速液体クロマト、及び薄層クロマトグラフィーで定性、定量した。
表にハムスターに投与後30分の胃内に存在したニトロソモルホリンの量を示した。
以上の結果、明らかな、N-ニトロソモルホリン生成が認められたので、経胎盤試験管内実験を開始した。
《高木報告》
ラット細胞(RFLC-5/2)の変異に関する研究
先報にのべたように、薬物による細胞のKilling作用を抑えてmutationの相対的頻度を上げるべく、scheduled
DNA replicationを抑え充分なrepairの時間を与えてsurvivorを増加することを計画し、まず血清濃度を下げてみた。すなわち細胞を径3cmのPetri
dishに100コまいて3〜4時間後定着してから実験群は1%牛血清加MEMで交換し、EMSを1〜3x10-3乗M
2時間作用させた後、再び同上培地で交換して8日間培養をつづけてColony
countを行った。対照は10%牛血清加MEMで培養し、実験群と同様に処理した。
両者のsurvival fractionを比較した(図を呈示)ところ、各濃度とも1%牛血清培地の方が低かった。無処理対照の1%牛血清加培地でも10%牛血清加培地に比較してPEが約半分程度であり、血清濃度の低下によるcolony形成の遅延が8日後のcolony
countに大きく影響していると考えられるため、これがそのままsurviving
fractionを反映しているかどうか、可成り疑問がある。さらにarginine(-)の培地を使って検討中であるが現在までのところ、増殖に関しては可成りstationaryな状態にあるようである。
培養細胞に対するEMSの効果:
先の月報で、EMS処理ラット細胞のATS処理ハムスターcheek
pouchへの移植成績を報告したが、組織切片も作製しおわった。班会議の時供覧して御意見を頂きたいと思う。
《榊原報告》
§Human embryonal carcinoma cell lineの異種移植:
昨年第9回班会議で当研究所外科の関口先生が27才男子のtestisに生じたcarcinomaの細胞株を樹立されたことを報告された。この細胞をhamster
cheek pouchに移植したところ、3週間後に腫瘍形成が認められたのでその病理組織像について述べさせていただく。
浮遊状態で培養されているhuman embryonal
carcinoma cell line・ITO- を1,000万個cells/cheek
pouchの割合でadult golden hamster 3匹の左右のcheek
pouchに移植し、かたの如くATS処置を行った。3週間後に移植部位を検べると最大径1.5cmに及ぶtumorが、100%(6/6)形成されていた。
病理組織像は写真に示す如く(写真を呈示)、乳頭状腺管腺癌で、embryonal
carcinomaとして矛盾のない特徴的なpatternを示し、一部に所謂、embryoid
body様の構造もみられる(写真2)。この細胞は培地中にα-fetoprotein及びalkaline
phosphataseを分泌しているとのことであり、腫瘍組織の大部分は今後の検索にそなえて、-180℃に凍結保存してある。我国で最初の胎児性癌の株と考えられる。