【勝田班月報:7707:AFB・AAFによる発癌実験】
《勝田報告》
培養細胞におけるポリアミン代謝
スペルミンを組織培養の培地に添加したとき、細胞の種類によってその増殖に対する影響にはかなりの差異が認められる事はすでに報告した。
それに続く実験として、ポリアミンに対する抵抗性の最も強い系としてJTC-16、弱い系の代表としてRLC-10(2)を使ってポリアミンの細胞内での代謝をしらべた。
(図を呈示)H3-プトレッシンを培地中に添加し、30分後に除去して後、経時的に細胞を集めて、細胞内の放射能を追った。
ポリアミンの定量、分劃法は、大島法、レジンはCK-10Sを用いた。先ずJTC-16をみると30分間に細胞内に取り込まれたH3-プトレッシンは18,000cpm/mg蛋白とかなり高い値を示して居る。スペルミジンへの移行も少量みられるが、スペルミン分劃にカウントは無かった。24時間後になるとプトレッシン分劃のカウントは著しく低下し、スペルミジンが上昇、スペルミンも少量ではあるが検出された。48時間以降はスペルミジンは徐々に減り、代わってスペルミンが上昇している。RLC-10(2)については、蛋白量あたりのcpmがJTC-16に較べてずっと低い。代謝の傾向としてはJTC-16とほぼ同様であるが、96時間までにはスペルミン代謝のカウントの上昇がみられなかった。
H3-スペルミンを1時間添加した後、同様に時間を追って各分劃のカウントを記録してみるとJTC-16では、添加1時間で細胞内スペルミン分劃に高い取り込み値がみられ、スペルミジンへの移行も著明であった。時間と共にスペルミン、スペルミジンは減少するが、プトレッシンに相当する位置にカウントは無く、アルギニンかと思われる分劃に高いカウントがみられた。RLC-10(2)は傾向としてはJTC-16と同じであるが、各分劃への取り込みは半分以下であった。
これらの結果は定量的にはかなり辻褄の合わない所もあり、未同定の分劃もあって、まだ検討を要する。
:質疑応答:
[遠藤]この実験では、調べた細胞の中からスペルミンに耐性のある細胞系と感受性のある細胞系を選んで、その代謝を比較しているのですね。それより感受性株の中から耐性のクローンを拾って調べてみると、耐性、感受性といった性質と代謝の問題との関連がよりはっきりするでしょう。
[高岡]この実験は正常肝細胞と肝癌細胞の相互作用についての流れで、正常細胞は感受性、肝癌は耐性という傾向だったので、それぞれの代謝について調べました。つまりポリアミンの代謝の違いと腫瘍性との関連性をみたいと思っています。
《高木報告》
Mammalian cellsにおいて突然変異あるいは発癌をmisrepair
modelにより研究しようとするとき、同一細胞でrepair
activityの異ったrepair欠損株をとる必要がある。ヒトの細胞ではXP細胞がexcision
repair欠損株と考えられているが、ヒト正常細胞とXP細胞とを使用してmutationの発現頻度とrepairとの関係を調べた報告は多い。われわれは細胞のrepair
activityとmutation(carcinogenesis)との関係をみるために、同一の細胞につき培養条件をかえてrepair
activityに差をつくり、これに対するUV、mutagen(carcinogen)の影響をみたいと考えている。同一細胞でrepairの差をつくり出すために、まず細胞をarginine-depleted
MEM(ADM)で培養してDNA複製を止めた状態におき、これにmutagenを作用させ、その後も一定時間この状態に細胞を保持し、これとMEM培地で同様にmutagenを作用させた細胞とのmutation
rateを比較する計画をしている。
その第一歩として今回はRFLC-5/2およびV79細胞をMEMおよびADMで培養してこれに種々濃度のmutagenを作用させ、Dose
survival curveよりpotentially lethal damege
repairを検討した。(実験scheduleの表を呈示)
細胞をtrypsin処理し、ADM+10%FCSで2回洗って35mmのFalcon
Petri dishにまいた。細胞数は形成されるcolony数が100コ程度になるようにRFLC-5/2細胞ではMEMで150コADMでは300コ、またV79細胞ではいずれも100−200コまき込んだ。
培養はmutagen作用後7日目に固定し、染色し、colony
countを行って各mutagen濃度に対するsurvival(%)を出してsurvival
curveをえがいた。RLFC-5/2細胞につきMNNG、UV(GL10、slit
1cm、距離30cm)作用させた場合、ADMの方がMEMよりsurvivalの上昇をみた。UVの場合のDose-Survival
curveを示す。
またV79細胞ではRFLC-5/2細胞とことなり、exponential
growthを示す細胞をまき込み、直後からDNA合成をH3-TdRのとり込みを示標としてみた場合、ADMでもわずかながらDNAの合成が認められた。そこでconfluentになった細胞をまき込んで同様に観察したところ、(図を呈示)ADMでは大体一定のDNA合成のrestingな状態がみられた。従ってこの条件下で実験をすすめているが、UVの影響をみるとやはりADMにおいてsurvivalの上昇がみとめられた。さらに両細胞についてさらにEMS、4NQO、aflatoxin、Nitrosamineなどの影響を観察中である。また細胞のDNA合成をrestingな状態におく条件としてconditioned
mediumについても検討したい。DNA合成のrestingな状態ではexcision
repairのみがはたらいていると考えられる(他にも何らかのrepair
systemが働いている可能性はあるが・・・)。従ってequicytotoxic
doseを作用させた上でADMとMEMにおける細胞のmutation
rateを比較すればexcision repairのerrorがmutationに関係しているか否かを検討することで出来る。mutationの実験は6TG耐性株の出現で観察しているが、RFLC-5/2では頻度がきわめて低いためV79を用いる予定で現在準備をすすめている。
:質疑応答:
[難波]アルギニンの無い培地の方が修復が良いということですね。
[梅田]本当に修復が良いのでしょうか。アルギニンの欠除で細胞が増殖出来ないために修復をする時間が充分あるということではありませんか。
[高木]私もそう思っています。分裂をしないでいる時間を延長させる事によって修復ができるので、見かけ上修復が良いという結果になっているのでしょう。
[梅田]H3-TdRの実験の時confluentになった細胞を使わないとDNA合成がrestingにならないという事ですか。
[高木]そうです。増殖期の細胞を使うとDNA合成がゼロにはなりませんでした。
[勝田]日本の培養屋はconfluentという語をよく使いますが、どういう状態を意味しているかを、明確に意識して使わないといけませんね。
[遠藤]このシステムでは変異率は落ちるでしょうね。
[高木]同様なことを細菌で実験すると変異率は落ちるそうです。
[遠藤]そうでしょう。
[高木]私達の細胞については、これから検討するところです。
[難波]Excision repair以外に何かよいrepairは無いものでしょうか。
[勝田]培養屋が癌の研究をすすめる時に、mutationは何の意味をもつのかよく考えないといけませんね。Mutationを起こした細胞は試験管の中では拾う事ができますが、生体内で同じ現象が起こった場合、変異細胞はどんどん増えて癌になることが考えられるでしょうか。むしろ生体内の機構の中では排除されてしまうのではないでしょうか。培養細胞を使うことの利点と欠点を培養屋は充分意識するべきですね。
《梅田報告》
必ずしも良い結果とは言えないが、2つの目論みの現在進行中の仕事を紹介し、御批判を仰ぎたい。
(I)DL1細胞がaflatoxinB(AFB1)に反応性があり、benzo(a)pyrene(BP)代謝能が高いことからこの細胞をクローニングして性質を調べてきた。その中でclone2は典型的上皮細胞で、AFB1には反応するが、BPには反応せず、BP代謝能も低かった。それに反し、clone20は類上皮性細胞で、AFB1、BPに強い反応性を示し、BP代謝能は非常に高かった。この事実からclone20は薬物代謝酵素活性が特に高い可能性が考えられた。
以前から2-acetylaminofluorene(AAF)はHeLa細胞などに高濃度で毒性は示すが、その惹起する形態像はsmall
cellを形成し、proximate、ultimate formであるN-OH-AAF、N-acetoxy-AAFを投与した時の大型で明るい細胞出現と異なることを報告してきた。
以上のことからDL1 clone20の薬物代謝能を生物学的に調べる指標としてAAFを投与して、そのproximate、ultimate
formで惹き起されると同じような反応をcone20が示すかどうか調べてみた。cone2を対照として使用した。
(II)先ずclone2とclone20細胞にAAF、N-OH-AAFを投与してみた。ラブテックチャンバーに各細胞をまき、3日間各発癌剤に接触させてから固定染色して、毒性と形態を調べた。
(表を呈示)毒性はAAFではclone20がcone2よりやや強く障害を受けている結果であった。形態的にはclon2では細胞はそれ程大きくならないが、clone20では大型細胞の出現、多核細胞の出現が認められた。この大型化はN-OH-AAF投与でclone2もclone20も共に認められた。N-OH-AAF投与ではcone2の方がcone20よりより強い障害を受けていた。
同時にDAB、4NQOを投与する実験も行った。DABではやはりclone20で大型細胞が出現し、大小不整が著明であった。両clone共に散在性に巣状細胞壊死部が認められた。4NQO処理では核は大きくなり核質は微細になっていた。
(III)上の毒性実験でclone20にAAFを投与した時、細胞の大型化が認められたので、このcloneはAAFをactivecarcinogenに代謝する酵素を持ち合わせている可能性もあると考え、その証明のため、AAF投与後染色体標本を作製し惹起される異常を観察した。
結果は(表を呈示)、clone20はcontrolにも主にgapではあるが7%の分裂異常像があった。10-3.5乗MAAF投与で24、48時間処理で17、16%の異常があった。Clone2の方も10-3.5乗MAAF投与で24、48時間処理後、9、12%の異常があった。10-3乗M投与では分裂像が少なく結論は出せない。さらにいろいろの濃度でテストする必要性を感じている。
(IV)Syrian hamsterの上皮細胞コロニー形成を前回の班会議で報告した。この上皮形態の細胞を利用しようと思い、penicillin
cupによるcolonial cloningを試みた。
増生してきた細胞をすぐラブテックチャンバーにまき(クローニングしてから2代目の細胞)、20-methylcholanthrene(MCA)、4NQO、MNNGで処理した(表を呈示)。Clone4は典型的な上皮細胞でclone7は対照としてクローニングした典型的な線維芽細胞である。この実験の期待の一つは特にMCAに感受性の高い細胞を選ぶことでもあった。
予期に反し、両細胞ともにMCAに反応せず、4NQOにわずかに反応したのみであった。しかしこれらの両細胞共に大型細胞となり、分裂増殖能は極端に落ちていることを想定させた。すなわち所謂agingを起したような細胞でこの時期には既にMCAを代謝する酵素のAHHは消失している可能性を示している。
:質疑応答:
[勝田]この場合、細胞が大きいとか小さいとかは、どういう基準ですか。
[梅田]形態的にみて決めています。
[高岡]細胞あたりの蛋白量とか核酸量とかの増減もありますか。
[梅田]定量はしていないのですが、蛋白合成とか核酸合成の阻害と、細胞の大小とは相関があります。
[勝田]細胞の形態変化で薬剤の効果を断ずる場合は、その与えた薬剤が細胞の増殖に対してどの位影響するかを明確にしておく必要があるでしょう。
[梅田]今のやり方では、これらの物質の急性毒性をみているにすぎません。
[勝田]培養屋として形態で物を云う場合、おもてに出ないデータ、たとえば変化の起こったポジティブな所の他にネガティブな所がどうなっているかが大切な問題ですね。
[松村]これらの形態変化は細胞分裂を介して起こるのでしょうか。
[梅田]細胞分裂との関係はみていませんが細胞は分裂を続けている状態での観察です。
[乾 ]そしてクローンは感受性が落ちているという事ですね。
[梅田]クローニングした細胞の方が早くエイジングを起こす為かも知れません。
[勝田]エイジングについてどんな意見をもっていますか。
[梅田]私の実験の場合、細胞が大きくなっていることなどから、蛋白合成は続けられているが、分裂装置がおかしくなっているのではないかと考えています。
[勝田]エイジングとは何か。培地を進歩させれば今みているエイジング現象など無くなるのではないか、とも考えられます。昔、なぎさ変異を調べていた時、多核細胞でDNA合成が同調できないまま分裂を始めた細胞が死に至る現象をみました。一つの細胞の中で合成のバランスが崩れると死に至ることは当然だと思います。
[吉田]今みているエイジング現象は、ある限られた培養条件下のものと思われますね。しかし、クローンを拾う過程でエイジングがは早まるというのは何故ですか。
[梅田]この系の場合はクローンの方が世代時間が短いせいかと考えています。
[乾 ]エイジングを起こした細胞の薬剤感受性はどうですか。
[嶋田]エイジングを起こしたというのではありませんが、老齢のヒトから採った細胞でのMNNG処理では、この濃度で何の変化もありませんでした。
《榊原報告》
§ムコ多糖の培養内局在について:
培養肝細胞はin vitroでコラーゲンが線維を形成すると共にムコ多糖を産生することは、特にcloneBC細胞について詳しく報告したが、今回はムコ多糖の培養内局在を組織化学的方法により明らかにすることを試みた。BC、M、RLC-18(3)及びRLG(1)の各株細胞をタンザク上に播き、3週間後に酢酸カルシウム2%含有10%ホルマリンで固定、3%酢酸溶液に10分浸してから1%alcian
blue(pH2.5)で30分、ムコ多糖染色を行ない、脱水、封入、検鏡した。一部はalcian
blue染色後PAS染色を施し、或いはトルイジンブルー染色をも試みた。(写真を呈示)alcian
blue陽性物質はコラーゲンと同じpatternをとってみられ、PASによる重染色により、コラーゲン線維上、又は周辺に無構造の物質として沈着している事が明らかになった。鍍銀線維形成陰性であるRLG(1)株では、alcian
blue陽性物質は細胞膜に接してかすかに見られるのみで、細胞間隔に沈着する像は全く認められなかった。古くからコラーゲン、ムコ多糖間には何らかの相互作用があると考えられている。肝細胞によって産生されるコラーゲン、ムコ多糖間にも同様の想定がなされてよいように思われる。
:質疑応答:
[嶋田]メタクロマジーはどうですか。
[榊原]陽性です。
[松村]コラーゲン線維とムコ多糖の関係はどうなっていますか。
[榊原]電顕でみるとコラーゲン線維の周りにアモルファスな物がみられます。それがムコ多糖のようです。
[松村]各種のムコ多糖を同定できますか。
[榊原]出来ます。
[松村]今のスライドで染まっていたのは何ですか。
[榊原]あの染色では皆染まっています。
[桧垣]コラーゲンの型はどうですか。
[榊原]これから調べる予定です。
[佐藤]線維芽細胞や血管内皮細胞はコラーゲンを作りますか。
[榊原]不思議なことに、線維芽細胞株はコラーゲンを作り難く、L株も作りません。
[佐藤]L株は血管内皮由来かも知れないそうですね。
《乾報告》
亜硝酸(NaNO2)、モルホリン(Mo)同時投与によるハムスター胎児細胞のTransformation、Mutation:
経胎盤in vitro-in vivo chemical carcinogenesis(Mutagenesis)の仕事を数年来やって来て、既知の発癌剤のほとんどの物質が、この系によって検知出来ることがわかって来ました。今回はSandersらが発表したアミンとNaNO2の食い合せで、胎児細胞が変化を起すかどうかを試みましたので報告致します。
実験方法;妊娠11、12日目のハムスターにNaNO2
500mg/kg、Mo 500mg/kgを水で稀釋して、胃ゾンデで強制投与後、24時間目に胎児を摘出、従来の方法で、8アザグアニン耐性突然変異、Morphological
transformationの出現を検索しました。
一方前月報でも報告した如く、投与ハムスターの胃内にN-nitrosomorpholine(N-Mo)が生産されている事を直接証明するため体重150〜180gのハムスターをエーテル麻酔下で開腹、12指腸最上部を軽く結紮、直視下で胃ゾンデでNaNO2、Moを各500mg/kg投与、直ちに食道下部を結紮し、投与物質の逆流をふせぎ、一端閉腹後、30分、1時間後に動物を屠殺、胃内容物より、薄層クロマトグラフィーでニトロソ化合物の定量を行なった。
(表を呈示)結果は明らかに、耐性突然変異はMo単独投与では、ほとんど出現しなかった。NaNO2投与群では約7.5倍の変異コロニーが出現したのに反して、NaNO2、Mo同時投与群では、その出現は対照に比して、18.9倍(8AG
10μg/ml)、29.2倍(8AG 20μg/ml)であった。N-Mo単独投与での変異コロニーは、約5倍であった。胃内のN-Moの成生は2.32〜3.18mg/Head(30)分1.85mg/Headであった。NaNO2単独投与のニトロサミンは0.44mg/Head、対照の胃内物質、Mo投与群および餌(日本クレアCA-2)ではニトロサミンは検出出来なかった。以上の結果より、1)NaNO2自身にtransplacental
Actionがある。2)NaNO2+Mo同時投与により、N-Moが成生され同物質が胎児細胞に強い変異原性をもち、反応残物のNaNO2と同時に作用し高い突然変異を示すこと。3)N-Mo
100mg/kg投与は、ハムスター一頭当り、15mgに相当し、NaNO2+Mo
500mg/kg投与における、24時間の反応成生物より少ないことが推察される。
(表を呈示)投与後のMorphological Transformationの出現率は、突然変異の出現と同様、Mo単独投与ではTransformed
Colonyはほとんど出現せず、NaNO2では5倍、NaNO2+Mo同時投与群では9.2倍のTransformed
Colonyが出現した。現在同コロニーをクローニングし、復元移植をこころみている。
:質疑応答:
[吉田]NaNO2+Moと比べるとN-Moを直接やった群の変異がかなり低いのは何故ですか。
[乾 ]NaNO2とMoを混ぜた投与の方が胃の中で長時間、より多量の処理をしたということになると思います。つまり量的な違いが変異率にひびいたと考えています。
[山田]時間と共に胃の中の薬物の量が減っているのは、吸収されるのでしょうか。或いは壊れるのでしょうか。
[乾 ]吸収されると考えています。
[山田]亜硝酸とアミン類が結合する条件は、既にin
vitroで決定されていますか。
[乾 ]In vitroではかなり早い時期から結合し始めて、すぐプラトーに達し、プラトーの状態が長く続くことが判っています。
[山田]始めに吸収されるのが胃であることが必要なのでしょうか。又は胃の中の条件たとえばpHが低いという事が必要なのでしょうか。
《難波報告》
45:培養ラット肝細胞(RLC-18)のグリコーゲン合成に及ぼす種々の薬剤の影響
RLC-18のグリコーゲン合成は、1)細胞密度と、2)培地更新との、2原因に依ることを従来の月報に報告してきた。すなわち細胞密度を下げて細胞をまき込み(約5万個/60mmシャーレ)、5〜7日培養後、培地更新を行うと、4〜6時間後に、コロニー状に増殖している細胞集団の辺縁部分の細胞が著明なグリコーゲン蓄積を示し、コロニーの中心部の密に増殖している細胞は、グリコーゲンの蓄積を示さない。
何故、細胞密度の低い場合にグリコーゲン合成が盛んなのかの理由を知るために、細胞密度の低い培養と高い培養とを用意し両者の細胞当りのDNA、RNA、蛋白合成をみると、細胞密度の低い方がこれらの高分子物質の合成が盛んであることが判った。さらに、細胞密度の低い場合、培地更新後からグリコーゲン出現までの5時間までに培地更新によってRNA、蛋白合成が高まることが判った。
これらの事実は、細胞のグリコーゲン合成には新しい蛋白の合成が必要なことを示している。この事をさらに確かめるために、DNA、RNA、蛋白阻害剤を用いて実験を行なった。
実験方法は60mmシャーレに5万個細胞をまき込み、5日後培地(MEM+10%FCS)を更新し、同時に上記の阻害剤を添加し、5時間後にグリコーゲンを定量した。結果はRNA、蛋白の合成阻害は、グリコーゲンの蓄積阻害を示している。(表を呈示)
インシュリン、高濃度のグルコース、プレドニゾロンは、RLC-18のグリコーゲン合成に影響がなく、一方、CAMPはグリコーゲン量は低下させるように有効に働いていることを示している。
細胞密度が高い場合、何故DNA、RNA、蛋白合成が低下するかの理由として、1)細胞が小さくなるので、細胞当たりのRNA量、蛋白量は低下すると予想されるので当然、培地更新後、RNA蛋白合成は低いであろう。2)細胞が密になり接触することによって培地中のものの取り込みが出来なくなる。3)グリコーゲン合成に必要な培地中あるいは(血清中)の微量物質が、細胞が増加するにつれて、細胞当りで減少する。などの理由が考えられる。
:質疑応答:
[榊原]ヒト細胞の変異の場合、復元実験はしてありますか。
[難波]まだです。
[山田]RLC-18でグリコーゲンのアグリゲイトが電顕的に見えるのは、パス染色が陽性になるのと同じ時期ですか。
[難波]そうです。
[山田]インシュリンを添加するとどうですか。
[難波]インシュリンは全く効果がありません。cAMPでグリコーゲン量は減ります。
[高木]ホルモンの影響はありませんか。
[難波]ホルモンについても幾つか実験しましたが、結論が出ていません。
[高木]血清濃度は・・・。
[難波]今の所20%までです。
[乾 ]細胞が一杯になった時、血清濃度を上げたらどうなりますか。
[難波]RLC-18でなく別の細胞でのデータですが、細胞が一杯になってから、血清濃度を50%にしてみて全く効果がありませんでした。
[榊原]パス染色陽性というだけではクリコーゲンとは言えませんね。
[難波]アミラーゼ消化で消えますから、グリコーゲンと言っても良いと思います。
《山田報告》
NO.7705およびNO.7706の報告において培養ラット肝細胞及び肝癌細胞の増殖に伴う表面荷電の変化を報告しましたが、そのなかで、platingしてから1〜2日目にいづれの細胞株の表面荷電密度も一過性に一度増加することを見出しました。この現象は恐らく細胞調整の際に細胞表面が損傷するために、修復のためか、あるいは従来トリプシン処理の場合にみられた様な僅かな細胞表面物質を取除くと、反応性に増殖機構に刺激が加えられて、その結果表面荷電にも変化が起るのかいづれかであらうと考へて、この現象を解析してみました。
方法としては、細胞をplatingする際に、あらまじめ通常の方法により細胞を採取した後に2、10、30回それぞれpipettingし、細胞表面に変化(損傷)を与えました。
そして、それぞれのCell sampleをplatingし、その後の細胞電気泳動度の変化を2日目まで検索し、さらにそれぞれの状態におけるConA(1、2、50μg、37℃、30分)に対する反応をも調べてみました。(図を呈示)
その結果、RLC-18では、そのpipettingの回数に応じてその電気泳動度は低下し、とくに30回pipettingした細胞では0.001%トリプシン処理(pH7.0、37℃、30分)後と同じ程度(-7%)に低下しました。これらの処理細胞をplattingしました所、2日目にこれらの細胞は15〜20%に電気泳動度は増加し、各細胞群間にその電気泳動度の差がなくなりました。すなわち2日間でpipetting処理による表面の損傷が回復したにすぎないと云う結果を得ました。
ところがJTC-16の場合は結果が異り、pipetting処理により表面の損傷を適当に起こさせると、反応性に電気泳動度が増加し、単なる表面損傷の修復以上の変化が現れて来ました。pipettingを行った所、10回処理群の細胞が最もその電気泳動度が低下し(2回処理に比べて-8.2%)、しかもこれがplating後2日間でその電気泳動度が25%も増加してきました(これに対し2回処理群では10%の増加)。
これは明らかに反応性に泳動度が増加したと云う結果と思います。同時に行った0.001%のトリプシン処理でもこれに近い成績を得ました。
ConAの反応性はJTC-16の10回処理細胞群のみ僅かに出現し他の細胞群にはConAの反応性が全く出現しませんでした。
:質疑応答:
[勝田]細胞膜を問題にする実験の場合は、浮遊培養方を使うとよいと思いますが。
[山田]やってみたいと思っています。
[難波]物質の取り込みと膜のチャージには、どんな関係がありますか。
[山田]細胞膜の透過性との関係となりますと、チャージのある物質なら殆ど何らかの影響があるはずです。
[乾 ]細胞の分裂周期による違いはどうですか。
[山田]前に話しましたが、HeLaでM期に40%も上昇するというデータがあります。
☆☆☆吉田班友から、実験動物として開発中のMusplatythricsについてお話しがありました。この動物はインドマウスとでも名付けようかというもので、染色体数は2n=26で、どんどん繁殖するし、感染にも強くて丈夫だし、培養細胞にしても扱いやすいという事です。純系化も進行中で今8代目だそうです。
その他にも信州に居て年の半分は完全冬眠ですごすヤマネを飼育して実験に使いたいことや、ラッテと違って染色体レベルでも血清学的にも不安定なクマネズミの純系化を試みているなど、興味深い訓話の数々でした。