【勝田班月報:6712:MSPC-1細胞の蛋白合成におよぼす染色体倍化の影響】《勝田報告》今回はある程度でき上った仕事というより、むしろ進行中の仕事が多いので、それと且計画中の仕事についてお話することにする。
:質疑応答:[黒木]銀染色をしようとするときは、培地交換だけはやりながら、長くsubcultureしないでおくわけですね。
[勝田]そうです。少なくとも2週間以上、ときには数カ月おきます。
《永井報告》この前の第8回班会議の席上で4NQOno製品にばらつきがあり、効力のないものもあるということで、これが果して薬物側に原因があるのか、それともTest系の側、つまり生物側に原因があるのかということが問題になり、それで4NQOの純度検定をやろうということで、私がその役目を引受けたわけです。しらべた4NQOは勝田研究室のもの3種。即ち
:質疑応答:[堀川]4NQOのどこにH3がラベルされるのか、それが問題と思います。薄層クロマトで核酸はどこに出ますか。[永井]原点です。 [吉田]私の所の、効かないという4NQOをしらべて頂くことになりましたが、私のところでは、効く、効かないは染色体の断裂を起すか否かで見ています。 [永井]化学的な意義と生物学的な意義の関連性について判っていないのですから、このデータはまあ御参考までに、のつもりです。 [吉田]Ratの交雑系を作るのに、JARに褐色ネズミの純系をかけ合わせると良いかも知れませんね。F1は色で一目で判りますし・・・。 [堀川]DNA-Transformationの仕事は面白いと思いますが、Transformantsを釣るのにマーカーが問題でしょう。 [勝田]変異株がとれれば申分ないですが、当分はそこまで行く前の、初期変化でDNAの組込みがあるか否かを見たいと狙っている訳です。 [安藤]堀川さんの云われるSelectionに、何か良い方法がありますか。 [堀川]Sybolskyのように、培地条件でselectするという方法がありますが、これはまあ、初期段階で見てから、次の段階のことですね。 [森脇]抗血清を作るとき、細胞をつぶさないで接種するのでは、細胞表面の抗原に対する抗血清だけ作ることになるでしょう。 [堀川]つぶした方が良いですね。私の処ではX線をぶっかけてこわしています。 [梅田]Sonicatorが良いですよ。 [堀川]低張処理も良いです。 [高木]抗血清の吸収はやっていますか。 [高岡]現段階ではやっていませんが、考えています。例えば染められる細胞の方を前処理しておくとか・・・。 [堀川]4NQOの良く効くものはどこから入手できますか。 [吉田]4NQOは第一化学が市販していますが、これは染色体の断裂を起こしませんね。 [勝田]昭和医大の森和雄先生が“自分が実験に使いはじめたころは、光にあてないとか、瓶中の気相をNでおきかえておけ、とか落合さんに云われたものでしたが、この頃は皆さん無頓着で、あれで良いんでしょうかね。”と先日云っておられました。
《佐藤報告》4NQO関係の復元動物表(動物No.69~101まで)と、RE-5系の4NQO投与実験図を呈示。4NQOは10-6乗Mを4~6時間、または5x10-7乗Mを日数単位で与えた。動物へ復元したものの中、動物番号47でtumorを形成、また75、76では小さなtumorが肉眼的にみられる。目下観察中である。 発癌した培養細胞には10-6乗M(EtOHにとかしたもの)4NQOで1回の処理時間が4~6時間で19回処理され、総処理時間は大体100時間、培養日数は135日3代のもので、500万個細胞を脳内に接種した。接種より発見に至るまでの日数は47日で大豆大であった。悪性化した細胞株の染色体数は培養日数211日でモード42本が32%であった(分布図を呈示)。 出来たTumorは肉腫の様に思われる。5匹の動物継代はいづれも陽性であった。現在の増殖率は、悪性株は1週間で4.4倍、Controlは1.2倍であった。
再培養では余り増殖率がよくない。
:質疑応答:[高木]4NQO添加の実験で悪性化したと思われる系についてですが、4NQO培地から除いて何日後に復元されましたか。[佐藤]第1回の復元は4、5日後、第2回はそれ以上あとです。 [黒木]19回も添加すると、その系は4NQOに対する耐性を獲得しましたか。 [佐藤]耐性は出来ていないようです。 [吉田]悪性化した細胞は形態的に変化していますか。 [佐藤]形態的に変化しています。いわゆる病理学的にみて、悪性像のものは動物に復元するとtakeされることが多いようです。pile upするような所見はあまり見られません。ウィルスの検索はしていません。 [堀川]高木班員の質問のつづきですが、4NQOを除いてから動物へ復元するまでの日数が短かすぎませんか。培地中の4NQOがそのままの形で動物に作用するという心配があると思います。それから4NQOを添加する、除く、又添加するというその間隔が短かすぎるので、pile upする程細胞が増殖するひまがないのではないでしょうか。 [佐藤]そうかも知れません。 [黒木]悪性化への条件の一つに、何回か細胞が分裂せねばならないということがあると思うのですが、佐藤班員のやり方のように、細胞が充分増殖する時間を与えずに次々と4NQOを添加するより、1回に添加する量をもっと多くして、その代り添加回数を減らすようにして、添加から添加までの期間に細胞がどんどん増殖する時間を与えてやった方が、早く悪性化するのではないかと考えます。 [佐藤]そういうことも今後検討してみます。 [藤井]全胎児を使うと、もともといろんな細胞がいるのだから、変異をみるのに材料として不適当ではないでしょうか。 [佐藤]不適当だと思っています。今日はお話しませんでしたが、ratの肝からの系で1例悪性化したのがありますので、今後その方も力を入れるつもりです。 [梅田]Dr.Leightonの仕事で細胞の悪性化を早くつかまえるのに孵化鶏卵の静脈に細胞を接種すると悪性度の強いものは肝臓にtumorを作るということを言っていますが、利用すると面白いと思います。
《黒木報告》§4NQO及びその誘導体のDNA、RNA、蛋白合成に及ぼす影響について4NQO及びそのproximate carcinogenの4HAQOは、核酸、蛋白のいづれとも反応することが知られている。これらのexp.はCalf thymusDNAとか、腹水腫瘍(AH-130)を材料として用いている。完全に発癌することの分っている細胞と発癌剤の組合せで、これらの問題にせまるのも有意義と思われる。そこで、ハムスター胎児細胞に4NQO、4HAQOなどを与えたとき細胞の高分子合成はどういう影響を受けるかを調べた。 実験方法:ハムスター胎児2~4代の細胞
結果:
とりこみexp.からも分るように、4HAQOに比すと4NQOははるかに強い細胞毒を有する。 両者の差をハムスター胎児のコロニー法により定量的に比較した。第二代のハムスター胎児細胞を1,000~5,000個feederの上にまき、24hrs.後に4NQO、4HAQOを添加、13日間培養後、コロニーをcountした。4NQOは10-6.0乗Mでは、コロニーは全くみられない。無添加群とほぼ同じP.E.を示すのは、4NQOでは10-8乗M、4HAQOでは10-6乗Mであった。transformed colonyは4HAQO 10-5.0乗Mにのみみられた。feeder layerは4,000r照射マウス胎児細胞。
月報6710、6711にBHK-21細胞が4HAQOによってheritableな変化をすること、BHK-21細胞はBacto-peptoneの存在のときに、softagar中でコロニーを形成することを報告しました。その後、BHK-21のtransformed細胞を、softagar中で培養したところ、Bacto-peptoneが存在せずとも、コロニーを作ることが明らかになりました。すなわち、4HAQOによって生じたコロニー形態のheritableの変化は、寒天中のBact-peptone依存性からの脱出と形質をも同時に伴っていた訳です。 ☆寒天培養はbase Layer 0.5%、Seed Layer 0.33%(Noble-Agar) ☆培地は20%C.S.を含むMEM(Ser.Pyruvate) ☆Bact-peptone(Difco)は0.1、0.03、0.01、0.003のhalf log dilution(seed layerの濃度) ☆10,000/60mm dishにまき、12日間前後培養、6xの実体顕微鏡でcount(クリスタル紫で染色)
conc.Bacto-peptone BHK-21 cells(clone#22) Transformed(clone#4) 0.1% 22.6 27.0 0.03 25.8 23.8 0.01 15.0 22.4 0.003 3.74 22.9 0 0 21.4 両者の差は明瞭である。今後、Bact-peptoneを含まない寒天培地により、transf.のassayができそうである。(コロニーの写真を呈示)
:質疑応答:[堀川]細胞のかたまりはプロナーゼで簡単にばらばらになりますか。[黒木]ばらばらになりにくいです。 [安村]ばらばらになりにくいか、なりやすいかは、寒天の濃度に関係がありますか。 [黒木]寒天の濃度は0.33%しかやっていないので、わかりません。 [安村]細胞浮遊液と寒天は混ぜてから、シャーレに流すのですか。或はそれぞれシャーレに流してから混ぜるのですか。 [黒木]混ぜてから流します。 [奥村]ハムスター胎児の変異細胞とBacto-peptonの関係はどうですか。 [黒木]変異前の細胞はBacto-peptonなしではコロニーを作りませんが、変異細胞はなくてもコロニーを作るようです。 [勝田]4NQOを10-6乗M以上添加すれば細胞はこわれてしまうのですから、UR、TdR等の取り込みがおさえられるのは、当然ではありませんか。 [堀川]4NQO処理で各合成系がもう立ち直れない程やられてしまうわけですね。 [永井]立ち直れる細胞と立ち直れない細胞のみわけはどうやってつけますか。 [堀川]集団としてのcountをみるだけでなく、パルスラベルをしてオートグラフィの方法を組合わせて動態をみなくてはいけませんね。 [吉田]吉田肉腫を使って堀川班員の言われたような実験はなされています。それによると、S期、G1期は変らず、G2期がのばされています。 [梅田]発癌剤添加後の時間を追って、H3UR、H3TdRを添加して、取り込みをみてみるべきでしょうね。技術的に、H3UR、H3TdRは長時間添加しておくと、こわれてしまいますから、パルスラベルにしか出来ませんね。 [永井]Countの数値は細胞当たりですか。 [黒木]カバーグラス当りの数値でそれも問題です。今は処理時間を少しづつ減らしてみています。4NQOで変異を起こさせることの出来る濃度と、又DNAをやっつける濃度との関係を知りたいと思っています。 [梅田]4NQO投与後1時間位の所で、映画を撮ってみると、運動性はどうなっていますか。ATPがなくなれば動かなくなると思いますが。 [勝田]動きがにぶくなるようですね。 [堀川]これからは矢張りアイソトープをラベルした4NQOを使ってあまり濃い濃度でなく添加して、その行方を追うべきでしょうね。 [勝田]しかし、濃い濃度で処理すると細胞が死んでこわれてしまうので行方が追えなくなり、又濃度を薄くすると変異を起こす濃度からはなれてしまうので、何をみているのかわからなくなるという問題が残ります。
《高木報告》
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