【勝田班月報:6806:4NQOのphotodynamic action】
これまでの実験で、どうもその都度、都度で4NQOの細胞に対する影響にむらがあるように思われたので、RLC-10株(正常ラッテ肝細胞)を使って増殖のいろいろな時期に4NQOを添加し、その増殖に対する影響をcell countingでしらべた。 結果は(増殖曲線の図を呈示)、増殖のstageによって細胞のresponseがかなり違うことが判った。しかしこれは、他の実験からも判ったことであるが、細胞のstageというより、むしろ細胞数/tubeの影響が大きいのではないかと推測される。
前月号の月報に記したが、癌センターの永田氏が4NQOのphotodynamic actionについて報告している。我々も顕微鏡映画で観察していて、どうもそれに一致するようなデータを色々と得たので、果してそれが本当かどうか、cell countingで定量的にしらべてみた。細胞はRLC-10株(正常ラッテ肝)で、4NQOで37℃、3.3x10-6乗M(その他の濃度もみたが)、30分間処理後すぐに365mμのマナスル・ランプで、室温で2時間照射し、増殖に対する影響をしらべた。No.6709の月報に報告したように、4NQOの特異吸収は366mμと252mμにあるので、この波長は正しいと思う。 (結果の図を呈示)おどろいたことに、正にphotodynamic actionを4NQOの持っていることが確認された。 光だけを各種時間に照射したcontrolsははっきりとした増殖抑制は認められない。ところが4NQOで30分間処理した直後に光をあてると、照射時間の長さに比例してはっきりと細胞の破壊が起った。 同様の実験を、種々の濃度の4NQOについておこなった結果、やはり4NQOの濃度の高いほど細胞障害は強く現われた。 このようなphotodynamic actionがどんな意味をもっているか、ということであるが、永田氏はphotonによって4NQOにfree radicalができて、それが細胞のDNAに破壊的に働く、と考えているようである。しかしそのようなDNA levelでの障害が直接発癌に結びつくかどうか、私は疑問に思っている。photodynamic actionは発癌作用とは関係のない、副次的な現象であるかも知れないし、あるいはきわめて重要な役割をしているのかも知れない。これは今後解明すべき問題である。 H3・4NQOを培地に入れると、4NQOは細胞内の色々な成分と結合するが、とくに蛋白との結合量は大きい。Biochemistsはすぐに核酸の方を考えたがるが、この場合、蛋白、とくにlysosomal enzymesとの関連などについてしらべることは大変面白いのではないかと、私は思っている。そして4NQOの解毒をする酵素の誘導も大いにしらべてみたいと思っている。
《安藤報告》H3-4NQOの細胞内への取込みのKineticsについて:
:質疑応答:[堀川]4NQO処理後のwashはどの程度やりましたか。[安藤]等張液でさっと一回洗うだけです。 [高木]4NQOの濃度はどの位ですか。 [安藤]L・P3は10-5乗M、RLC-10は3.3x10-6乗Mが終濃度です。 [堀川]細胞当りの取込み量は、L・P3とRLC-10でちがいますか。 [安藤]ほぼ同じ位です。 [堀川]私の実験でも酸可溶性分劃のcountが短時間で最高値に達し、それからすぐにすっと下がってしまうのは何故でしょうか。 [黒木]10-5乗Mで5時間も添加していると、細胞が死んでしまいませんか。 [勝田]L・P3は4NQOに対してすごく強い細胞系で、5時間位では平気です。それにRLC-10にしても映画での観察によれば、死に始めるのは5時間よりずっとたってからですね。むしろ、そういうことより細胞側の解毒作用というか、4NQO分解酵素の活性がinduceされて、その結果として酸可溶性分劃のcountが急激におちるとは考えられませんか。 [梅田]若しそうだとすると、5時間後に又4NQOを添加してももう受付ないという現象が起るはずですね。 [安藤]それは面白い考えだと思います。早速やってみましょう。 [勝田]私もその考えは面白いと思いますね。しかし、培地中に4NQOが一杯あるというのにその取り込みにピークがあり、急激な減少があるというのは又面白いことですね。 それから、うすい濃度でL・P3の増殖を促進するのですが、その時4NQOが細胞のどの分劃に取り込まれているかということにも興味があります。安藤君は核酸を追いたいというだろうが、私はむしろ蛋白の方に問題があると思い、蛋白を追え!と言っています。 [堀川]始の報告のphotodynamic actionについてですが、その機構はまだよくわかっていないのですね。 [勝田]癌センターの永田氏の話では、4NQOの誘導体の殆どが、発癌性とphotodynamic actionが平行していますが、4HAQOだけが例外で、発癌性は高いのにphotodynamic actionはないということです。 [佐藤]しかし動物の体内での発癌を考える時、photodynamic actionなんで考えられないと思いますが。 [勝田]そうですね。そう考えると培養での4NQO発癌実験も光を与えてどうなるかより、真暗な中で培養するべきだということになりますね。実際に、暗くして映画を撮ってみますと、細胞のこわれ方もずっと少ないし、何か細胞の状態が明るいままで映画を撮った時とちがうようです。 [堀川]photodynamic actionは治療に利用出来そうな気もします。 [高木]最後の図は4NQOの細胞周期に対する影響というよりも細胞数に対する影響をみていることにはなりませんか。 [勝田]そうです。 [黒木]生きている細胞でなくても、レントゲン照射した細胞をフィーダーにおいても4NQOの毒性は弱まります。 [勝田]そういうことは何を意味しているのでしょうか。培地にはありあまる程4NQOがあるわけですから、細胞数が多くなっても細胞1コあたりの4NQO量がうすまるわけではありませんし。
[堀川]私の実験からは、取り込んだ4NQOを4HAQOに変える能力の違いが細胞の4NQOに対する抵抗性の違いとなって現れてくるというようなデータになりつつあるようです。 [勝田]これからしらべてみます。私達はこれからL・P3をモデル実験に使いたいと思っています。L・P3は現在の所C3Hには腫瘍を作りません。L・P3は合成培地に増殖している細胞で、血清培地で飼われている細胞とは膜の構造が全然ちがうわけです。にもかかわらず4NQOの作用(今の所取り込み)が同じだということは4NQOの作用が膜構造には左右されないといえると思います。
《佐藤報告》◇4NQO発癌実験の現況
:質疑応答:[黒木]今、呈示された表で、濃度を同じに換算して時間の統計として比較するというのは、理論的に意味ないと思われますが、どうでしょう。薬剤の濃度と処理時間というのは異質のものだと思います。[安藤]ある濃度以下の処理では何時間処理しても効果がなく、それ以上だと10分でも効果があるといった、oll or noneの場合もあるから、時間の総計で比較するために濃度を同じに換算するのは少し変ですね。 [佐藤]逆にそういうことを証明するのに、こういう計算をしてみた積りです。つまりうすい濃度では濃い濃度での集計時間に達する程の長い時間処理しても悪性化はおこらないのだ、ということが数字で現せると思います。 [勝田]復元例で、同系の細胞なのにtakeされたり、されなかったりするのは何故でしょうか。 [佐藤]培養だけでつづけている系と、一度復元してtakeされ再培養した系では染色体の核型が多少ちがっています。そういう点から考えられることはRatの肝細胞の場合、全部が悪性化しているわけでなく、しかもそのpopulationが培養の時期によって変わるので、takeされたりされなかったりするということです。 [梅田]基本的なことですが、LD培地とYLE培地とはイーストエキストラクトのあるないの他に、pHもちがうわけですから、要素を二つ変えて比較するのはよくないと思います。LDとYLDにするべきですね。 [黒木]コロニーを作らせることは出来るのですか。系の一部が悪性化しているのなら、悪性細胞のコロニーを拾えば、動物への復元の問題は解決されると思われます。 [吉田]動物への復元実験の対照群の匹数が実験群に比べて少なすぎるようです。このデータですと対照群の中に変異細胞がいないとは断言出来ませんね。 [佐藤]それは私も痛感しています。これ以後の実験では対照群を増しています。 [勝田]何時も云うことですが、反復実験は同じ系の培養でなく、新しい系で追試した方がよいですね。 [堀川]耐性をしらべたgrowth curveの所で、耐性についてですが、takeされるようになった時までに添加された4NQOの濃度はどの位ですか。 [佐藤]濃度は一定でなく、かなり長く処理しています。この場合耐性は悪性と平行するものではなく、4NQOを添加していた期間に平行するものと考えられます。 [三宅]復元して出来たtumorの組織像は上皮性な感じがしますね。エオジンをよくとっているのは、ケラチン様物質があるのではないでしょうか。 [吉田]染色体の核型分析についてですが、1例でははっきりしませんが、本当なら面白いですね。私自身のデータからも染色体の変化と悪性化とが関係づけられる、ある染色体のパターンがあるようだとは考えています。 [勝田]ただ、1例では何とも言えませんね。 [安村]再培養した系の場合、43本でないものでも、この5本のグループを持っていますか。 [佐藤]たいてい持っているようですが、まだ正確にはしらべてありません。 [安村]再培養した細胞系を又復元するとtakeする率がよくなりますか。又復元前の細胞の染色体の中にtakeされた細胞の染色体と同じものがありますか。 [佐藤]50コ位しらべてみた所では見つかっていません。しかし、もっと沢山エネルギッシュにしらべてみたら見つかるのではないかと考えています。又培地や培養法をかえれば、悪性細胞をセレクト出来るのではないかと思います。 [安村]動物への接種細胞数はどの位ですか。 [佐藤]だいたい100万個位です。 [安村]矢張り何コ中に1コの悪性細胞がいるのかということを調べておく必要がありますね。それから、この5本のグループの染色体が確かに悪性と関係があるのだと言いたければ、ハイブリッドを作らせて、この染色体のはいったのが悪性だということまでチェックすればよいでしょう。 [吉田]実際にはなかなか難しいことです。この染色体があるから悪性化しているのか、或は他の染色体が無くなったこととの組合わせに於いて悪性化と関係があるのか判りませんね。それから4NQOが染色体変異を起こすことは確かです。このデータもその変異の一つでしょう。しかし4NQOによる悪性化が、こういう染色体変化に集約されるとは断言出来ません。 [佐藤]変異だけでなく、次に悪性化することを考えれば、変異したものが一定の方向に集約されることも考えられると思います。 [勝田]染色体の標本をみる場合、数えられないもの、しらべられないものが沢山あり、そういうものの中に問題がある場合も考えられます。 [安村]復元前の培養細胞の中に、この5本のグループがあるのか無いのか先ずしらべてみなくてはいけませんね。その上で5本のグループの中の2本の染色体がクサイという事実があれば、それがハイブリダイゼーションという手法で確かめられるのではありませんか。 [堀川]酵素活性と関係のある染色体の場合とは違って、腫瘍性と関係のある染色体というのは、すごく複雑でむつかしいと思います。 [安村]いや、私も腫瘍性を染色体でチェック出来るなんて事は否定の方に90%位ですが、若しできるとすれば大変面白いと思います。 [勝田]何にしても1例だけでエキサイトしなさんな。 [佐藤]私も1例だけで何とか言おうとは決して思っていませんが、ただこの例は理論的に考えやすかったので出してみたまでです。私として言いたいことは、この系の培養のpopulationの中に悪性化した細胞は少ないのではないかということ、又4NQOの作用したという証拠は残っているのではないかということです。 [勝田]佐藤班員の研究室でRatそのものの自然発癌率はどうですか。 [佐藤]非常に少ないようです。 [勝田]それも一応データとしてとっておいた方がよいですね。 [佐藤]復元実験のやり方を考えてみる必要を感じています。復元して長くおけばtakeされることがわかっているわけだから、もっと短期間で対照との比率に於いて悪性度をみることにしたいと思っています。
[安村]発癌剤によって悪性化する率が低いということは、Ratは発癌実験に不適当だということではないでしょうか。 [勝田]コロニー法ではpureなクローンはとれませんね。肝細胞を映画に撮っていて経験しましたが、分裂した娘細胞同志が一緒に居ずに離れてしまい、他の所から別の細胞が動いてきてくっついて、あたかも娘細胞同志のような顔をしていたりするのです。 [安村]クローンについては確かにそうですが、目的によっては定量的に扱えるということでコロニー法の利点もあります。 [藤井]腫瘍細胞には同種の抗体に抵抗性があるかも知れないということから、同種の抗体で悪性化した細胞をセレクト出来ないでしょうか。
《堀川報告》培養哺乳動物細胞における放射線ならびに化学発癌剤障害回復の分子機構の研究(5)これまでの報告で培養細胞のもつ紫外線障害回復機構と4NQO処理による障害回復機構の間には何ら関連性のないことを示してきた。 つまり紫外線に対して最も感受性株のブタPS細胞が4NQO処理に対しては最も抵抗性を示し、4NQO処理による障害回復の機構は紫外線照射によって生じるThymine dimerの除去機構では説明出来ないことがわかって来た。 第2の段階として、4-HAQOに対するマウスL細胞、Ehrlich細胞、PS細胞の感受性を比較する問題が生じてきた。黒木さんより得た4-HAQO(国立がんセンター川添豊氏合成品)を使用した範囲では(図を呈示)、三者の細胞株間には感受性の差異は認められない。(これらはいづれも4-HAQOを含んだMedium内で約2週間培養期間中、それぞれの細胞を培養した際のcolony forming abilityからdetermineしたもので障害回復能よりもむしろ4-HAQOに対する耐性度をみたものであることに注意されたい!!) 勿論現在の段階では4-HAQOの濃度分割が大きすぎるので正確な耐性度を比較することは不可能であるとは言え、本報No.6802に示した4NQO濃度−生存率曲線と比較して大きな違いのあることがわかる。また4-HAQOのtoxicityは生存率曲線でみた範囲では4NQOの10〜100分の1であることもわかる。 従ってこれまでの結果を総合して考えると培養細胞間の4NQOに対する感受性の差異は、細胞間の4NQO透過性の差異で説明するよりも、4NQOを4-HAQOにreduceするreduction enzymeのactivityの差異で説明する方がよさそうである。 このことは言葉をかえると、取り込んだ4NQOを4-HAQOにreductionする能力の高い細胞(つまりPS細胞のごときもの)では生存率で見るかぎりその毒性から受ける障害の度合が4NQOから受けるそれよりも少ないであろう。しかし発癌と云う立場からみると、このように4-HAQOにreductionする能力の高い細胞では発癌の可能性が高いと考えてもいい訳である。このような観点からみると、私が当初予想した考えがうまく説明出来そうで発癌のさいにtarget cellの存在を考えるのも面白い。
:質疑応答:[勝田]可視光線の光量をergで書いてありますが、具体的にどういう装置で照射したのですか。[堀川](装置図を呈示)スターラーの上にのせたビーカーに水をいれて、その中にtubeを並べます。60cm離れた所から東芝500w引き伸ばし用電球で照射しました。 [勝田]可視光線で2時間照射すると、コロニーを作る能力が減少したというわけですね。RLC-10の増殖に対しては影響がありませんでした。奥村君から貰ったハムスターの細胞は悪性化しているものですか。 [堀川]それについては、はっきり知りません。 [勝田]Chick brainにP.R.activityがあることになっていますが、どういうことでしょうか。何か他の酵素のside effectではありませんか。 [堀川]サイトクロムCなどがそうではないかと言われていたこともありますが、現在では否定されて、P.R.activityは独特のものだと言われています。放射線による断裂のrecoveryが、若し腫瘍を材料にした場合、腫瘍性を失うとか、はじめに持っていた酵素活性を失うとか、misrepairingで説明できないでしょうか。 [吉田]胎生の早い時期とadultでは、そういう修復機能がちがわないでしょうか。 [堀川・勝田]ちがうでしょうね。 [勝田]細胞の全cell cycleを通じてP.R.enzymeがあるとすれば、stageによってrepairのちがうのは? [安藤]定性的にはいつもあってもstageによって活性の違うことも考えられますね。
《高木報告》
:質疑応答:[堀川]4NQOでラベルしたDNAを抗原にすると、抗体ができるよりさきに腫瘍ができるのではありませんか。[勝田]今朝安藤班員から、4NQO*を細胞にとりこませた場合、acid soluble fractionに結合する4NQO量の消長度が大きいと報告されましたが、発癌性はinsoluble fractionの方にあるのでしょう。 [高木]抗原としてはinsoluble fractionの方を使います。DNAについた4NQOは37℃加温で簡単にとれてしまうそうです。 [黒木]できたtumorの間で共通な抗原がありますか。 [高木]それも大きな問題だと思います。 [勝田]抗血清を作っても、どういう方法で抗体をcheckするかが問題ですね。蛍光抗体法はnon specificの抗体がどうしても混ってきてしまうし・・・。ごく最近、山本正氏からきいたところでは、ヒトのγ-globulinとマウスのそれとが交叉するものがあるそうで、immuno electrophoresisも問題をもっていることになります。 [梅田]h2proteinsとさっきのinsoluble fractionとの関係はどうでしょうね。 [勝田]まだ判っていません。H3-4NQOで処理して、初期は細胞のどこに4NQOがあるか判っていても、その後、細胞が増殖をはじめれば放射能はうすまって、追跡が困難になりますね。 [梅田]DABとかDMBAはh2proteinsの塩基性蛋白の部分につき、4NQOはSH基につくと云われていますね。
《黒木報告》I.BHK-21/4HAQOについてBHK-HA-1〜HA-7までの成績を表で示す。これらは(?)→マニラ(?)の予研分室→予研→山根研からのwild BHK、wild BHK-21より当研究室にて2回連続ひろったクローンC22、C22のクローンを3回連続のクローンC222を用いた。7例のうち配列は余り乱れず、しかし細胞はpile up、剥れやすく、このためコロニーの中心部はもり上り、まだらとなり、daughterコロニーが多くできるものが6例、その内2例は配列が乱れてcriss-cross様となるものが混じっている。あと1例はpolygonalなcellとなり、コロニーの形は丸い。又、5/7はBacto-peptoneなし寒天内の増殖能が獲得された。寒天内のコロニー形成率は20〜30%である。寒天内で増殖できるようになるまでの日数は、HA-4の21日、HA-5の63日までかなりのバラツキがある(HA-1の77日は、そのときはじめてagar cultureをしたので、いつから寒天内で増殖できるようになったかは明らかではない)。興味あるのは、この日数が、ハムスター胎児/4NQOのときのtransformationの日数と非常に似ていることである。 ☆コロニーの形態と寒天内増殖能の間には一定の関係がみられない。またコロニーの形態も培養によって異る。HA-7にのみみられたpolygonalなコロニーは肉眼的にもはっきりと区別できる特徴的なコロニーである。HA-4#3は、寒天内のコロニーをひろったcloneであるが、寒天内で高率にコロニーを作るにも拘わらず、コロニーの形態は“normal”と区別しがたい。これをみるに至って、コロニーの形態からのtransformationの判定をあきらめ、agar中のgrowthのみにtransformationの基準を求めた。全体的に云えることは、寒天内で増殖するようになると、細胞が剥れやすくなり、daughter colonyを作りやすいことである。寒天内増殖と剥れやすさの間に何らかの関係がありそうである。 ☆4NQO、4HAQOに対する抵抗性
以前と同じように、plating(200ケ/dish)後24hrsに4NQO、4HAQOを加える方法をとった。結果を表で示すが、抵抗性は生じなかった。 ☆BHK-21 clone13について BHK-21はBaby Hamster Kidneyの培養65日に突然増殖率が上昇し、establishされたが、それから19日目(total 65+19=84days)に分離したクローンの一つがC13である。C13は24cell generation増殖しharvestが10の8乗になったところで、大量にfrozen stockされている。StokerのLab.でtransformationの実験に用いられているのは、この凍結アンプレからもどして間もない細胞である*。このことは、彼らのpaperの中でくり返して強調されている。このC13はwildのBHK-21に比してmalignancyの低いということもStokerらによって報告されている。当研究室にきたのは、StokerのLab.で凍結もどしてから10日(60 cell generation)経たものをMoskowitzのLab.で5日間隔で67passageしたものである。*Nature 203,1964,p1355に詳しい。 ☆先ずこの細胞及びそのpolyoma virus.RSU transformantsのBacto-peptone dependencyをみた。(結果表を呈示)
全く予想しなかったことに、C13はBacto-peptoneがあってもコロニーを形成せず、またそのpolyoma RSV transformantsはB.P.dependencyを有しているということである。すると今まで一生懸命やってきたBHK-21細胞は、全く“variant”ということになり、すべての実験をやり直す必要となった。この他にもC13とwildはかなりの差があり(表を呈示)、例えば移植性はwildからC22は100ケでも100%takeする(C13は目下experiment進行中であるが、10万個接種3週間でtumorを触れない)、4HAQO、4NQOに対する感受性もC13とC22には差があり、C13の方が感受性で10-5.0乗M4HAQOではすべての細胞が死メツし、5x10-6.0乗Mがよさそうである。このような発癌剤に対する感受性の差はSachsらも報告している(Nature,200,1182,1963)。 II.同調培養によるtransformatione(予報) 2代目のハムスター胎児細胞をexcess TdR(7.5mM)によって(部分的に)同調させ、それぞれのphaseに4HAQO 10-4.5乗M1h.作用させることにより、発癌剤とcell cycleの関係をみようとするものです。(図と表を呈示) DNA合成は40%近くまで同調し、発癌剤処置はHA-50〜HA-58の9つの群をおき、それぞれの時間のときに処置した。
transformationの成否はまだ定かでないが、現在focusらしいものがみられているのは、HA-50、HA-52、HA-53、HA-54の四つである。さらに経過をみて(あと2〜3wks.)いくつもりである。 III.4NQO及びその誘導体の細胞生活環に及ぼす効果 前に1)4NQOはRNA、DNA、protein合成を抑制するが、2)4HAQOはDNA合成のみ強くeffectiveなこと、3)またnon-carcinogenic Derivatives 4AQO、3-methyle 4NQOはいずれにも働かないことを示した。それらの作用機序をさらに分析する意味で、これらの物質の細胞生活環に及すeffectをみた。
:質疑応答:[安藤]labeled mitosisで、delayがあっても100%になるのに、G2 blockがあるといえるのですか。[吉田]吉田肉腫に4NQO処理してもG2 blockがあります。染色体breakageという意味で。他の期にはありません。 [勝田]最後のデータで考えたのですが、4NQOが4HAQOになって働くのなら、両者のカーブは同じでよい筈ですが、ちがうのは4NQOの毒性のためでしょうかね。それからシンクロは40%位で良いのですか。 [黒木]primaryは仲々むずかしくて、これでもうまくなった方です。4NQOと4HAQOのカーブがちがうのは4NQOの毒性のためと思います。 [勝田]映画で見ると、どうもmitosisとは関係なく、細胞が死ぬように思われます。4NQO処理の場合ですが。 [堀川]mitotic deathといってもその辺を中心にして起る死、という程度の意味です。
《三宅報告》ヒト胎児皮膚を継代して来たfibroblast様構造のものについて、0.30、1.00、1.30、2.00、2.30、3.00、4.00・・・時間4NQOを作用せしめた。その上で、各濃度の相違のある、各群に、経時的にH3-TdRをとりこませて、L.I.をプロットした。すると10-5乗Mのような高い濃度のものでは急激にL.I.は減少するが、10-6乗M、10-6乗x5では1時間後までは対照と変らない。この10-6乗Mについて詳しく時間経過を追ってみると、4時間目まで漸減して来て、それから以後はL.I.は再び上昇してゆく。 10-6乗x5Mについては、前に月報に述べたように、3時間目に0となり、立上ることはない。 次にH3-TdRと4NQOを同時に入れてみると、10-6乗Mでは実験群のL.I.開始後数時間で少し落ちるが、爾後そのカーブは対照とかわることはない。5x10-6乗Mとなると、前に述べた様なカーブになって3時間で実験群は0となる。 これと同じことをL株細胞を用いて行った。このLのtg=21hr.、ts=8hr.、tG2=7、tG1+tM=6hr.であった。 その結果はControlにしたL細胞でも10-6乗x5Mで3時間以内にL.I.が減少したことから、4NQOはG1-blockの他にG2-block、又S-blockをきたすと考えられ、いずれとも断言しえないことになった。
目下この2つの細胞について、同調培養を行って、それを決定したいと考えている。
:質疑応答:[勝田]L細胞の実験で、labeling indexが最初に下るのはG2 blockを意味しているのではないでしょうか。そして、以後にcontrolよりも反って高い値を示しているのは、S期の延長を示しているのでしょうかね。[難波]4NQOは培地に入れつづけでしょうか。 [三宅]そうです。4NQOとH3-TdRとを入れつづけたものと、4NQOは入れつづけH3-TdRは45分のflush labelingしたものがあります。
《梅田報告》ラット肝のprimary monolayer cultureを勝田先生の方式にしたがい、又多少条件を変えて培養を試みた。即ち(I)ラット肝細切後モチダトリプシン・スプラーゼ処理後、細胞を塩類溶液中に浮遊静置、上清を捨てて、沈殿物に塩類溶液を加え再浮遊、静置、これを繰り返して上清が綺麗になったら沈殿物をLD+20%CSに浮遊させて培養する。(II)Iの方法に殆んど同じであるがトリプシン・スプラーゼ処理後、培地を加え、ガーゼ或はメッシュ濾過後遠心し、沈渣に培地を加えて浮遊させ培養する。材料として特殊例を除き、生後3〜5日のラット肝を用いた。
:質疑応答:[高木]継代するとどうなりますか。[梅田]中間型のような細胞とendothelばかりになってしまいます。医科研の斎藤先生の仰言るには、肝のshaltstuckの細胞ではないか、というのですが・・・。 [佐藤]小型で核の丸い三角のような細胞がshaltstuckだと思います。とにかくいろんなものが出てきますね。私はcolonyにして同定しようかと思っています。 [勝田]箒星のような細胞で、細胞質に平行したセンイ状構造のみられるのは、他のorganをcultureしても出てくるので、血管の内被細胞ではないかと思っていますが・・・。映画でみるとこの細胞は動きません。 [安村]箒星というのはどんな臓器でも出てきますね。 [勝田]小さくてよく動きまわる、おそらくKupferと思われるのも見られます。 [佐藤]平たく拡がった細胞では判らないから、塊にして切ってみようか、と思っています。 [勝田]explant cultureして、反射光源で顕微鏡映画をとると、どんなところからどんな細胞が出てくるか判ると思います。 [藤井]班長のところの肝臓のcell lineは実質細胞ですか。 [勝田]株になったのはほとんど実質細胞だと思います。 [藤井]Rat肝を抗原にして作った抗体でcheckしても、培養系の肝細胞では沈降線が出ないので、どういうことなのかと思っています。 [勝田]培養で増殖系になった肝細胞を抗原にして抗血清を作ると、その結果は変るかもしれませんよ。
《吉田報告》(Abstractの提出がなかったので概略を記す)黒木班員のところで4HAQO、4NQOでtransformさせたハムスター胎児細胞の諸系の内、今回はmodeが4n近辺の系を主にしらべた。4nの系に通じて云えることは、全系とも染色体の数と形に異常のあることで、つまり正常の2nの2倍ではないことである。系によって異なってはいても、非常に安定した染色体と、動き易いものとが見られた。また上に記した異常というのは一定の傾向をもったものではなく、系によって異なっていた。
:質疑応答:[難波]染色体の収縮はX以外にもありますか。[吉田]他にもありますが、特にXに強いのです。
《安村報告》☆1.Plating efficiencyとcolony Sizeの培養液の種類による影響:先月の月報の2-6にふれておきました問題について、予備的にあたってみました。アルビノハムスター腎細胞の2代目の培養をふたたびPlatingしてコロニー形成をみました。細胞数は1,000、2,000、4,000、8,000個。MediumはE:DM-140培地のうち塩類溶液の組成のみEarleの液+コウシ血清10%、199:199液+コウシ血清10%、D:DM-140+コウシ血清10%。(結果の表を呈示) 1-1.コロニー形成数からは有意義の差がありません。またコロニー1こ1この大きさにも差がみとめられません。ただPlating efficiencyが初代培養の10倍近くなっているのが誤算のひとつでした。初代と同じくコロニーの大きさが小さく、たかだか20~50/コロニーというところで、やはりクローン化できません。 1-2.mediumの種類によってP.E.に差がでなかった理由は一つには、細胞が最初の2週間D液で培養され、ついでちがっmediumにかえられ(3週後に判定、つごう5週間培養)たため、P.E.は最初のD液によって決められてしまったのかもしれません。こんごこの問題をしらべる必要があります。 1-3.Plating efficiencyの上昇はひとつには、まかれた細胞のViabilityによるものと考えられます。初代では総細胞数の50〜60%がviableで、2代めのものはほとんど100%に近くviableでしたから。
:質疑応答:[黒木]Feederを使ったらsizeが全然大きくなると思います。[佐藤]single cellの比率はどの位ですか。 [安村]はじめは50%位ですが、2代目になるとほとんど100%です。 [佐藤]2代目にplating efficiencyがそう上るというdataはあまり聞きません。
[安村]もう一度やってみようとは思いますが、トリプシンのかけ方などに影響されるのではないですかね。
《山田報告》細胞表面構造を研究するために、細胞電気泳動装置を製作し、この装置で物理化学的条件並びに被検細胞の生物学的条件を種々検討して来ました。その一環の仕事として、細胞免疫に関する実験も開始しましたので書いてみます。即ち細胞表面における抗原抗体反応を細胞電気泳動法により量的に測定するためのfirst stepの実験です。今回は最も単純な方法としてアルブミンに対する脾細胞抗体産生の程度を調べてみました。具体的には、抗原性の異なる卵白アルブミンと牛血清アルブミン(各3mg)をFreundのadjuvantと共に週二回、それぞれラットの皮下に注入し、合計四回感作後、一週間をおき、ラットの脾臓を摘出。鋏で細切し、looseなホモゲナイザーでかるくこすり、脾細胞浮遊液を製作。この感作細胞に各々抗原であるアルブミンを37℃30分接触させた後に生食にて洗浄し、1/10Mヴェロナール緩衝液(pH7.0)をメヂウムとして細胞電気泳動度を測定した。 3回の実験結果(表を呈示)、それぞれの抗原であるアルブミンと接触した場合に選択的に感作脾細胞の泳動度は低下し、両アルブミンで感作された脾細胞は両アルブミンの接触により共に泳動度が低下しています。 しかし、この抗原アルブミンによる電気泳動度の低下は必ずしも大きくはない。従来の報告によると、脾における抗体産生細胞は数%であるとされて居ますので、実際の抗体産生細胞表面に抗原のアルブミンが結合し、その表面の荷電をマスクし、泳動度を低下させる程度は更に大きいと考えます。 従って今後、抗体産生細胞のみをえらび出して、その抗原の表面結合による荷電の低下を測定すべく工夫している所です。 今回の成績により細胞表面における抗原抗体反応を直接細胞電気泳動法により測定できるという確信を得ましたので、次に悪性化に伴う細胞表面の変化や、宿主の抗体産生細胞の認識に、この免疫細胞電気泳動法を用いようと計画中です。 |